第五十話
「なるほど、戦争の手伝いをですか。」
シノトがここに来た目的、そしてこれからしようとしていること。それらの全てを聞いた竜は溜息とともにそんなことをつぶやいた。耳障りのいい言葉ではなかったのかシノトは顔を曇らせたが、まるでそのことに気づかないように竜は変わらず淡々とした口調で続ける。
「残念ながら、我々はその申し出を受けることはできません。なにせ直接人に干渉しないために我々はここにいるのですから。」
竜のその言葉を、シノトは押し曲げる気はなかった。しかし最初はなぜとも思ったが、シノトにも考えればその理由は幾つか見当がつく。まず竜たちに何のメリットもない。人に干渉しないと本人はいったが、おそらくはその逆も防ぐためなのだろう。それよりもなによりも、竜の頑とした眼差しを前にシノトは何も言うことはできなかった。しかしじっと黙ったままのシノトを見ていた竜は、やがて少し眼差しを緩める。
「ですが、あなたを助けるのは私の古い盟約より確かに保証したことです。あの方との約束により、私達に出来る範囲であなたを助けましょう。」
「・・・・・・やっぱりばれてました?」
とりあえず少しでも手助けしてもらえると言って貰えて内心嬉しいはずだったが、別の人間と勘違いされてここに来たということが実は後ろめたくあったのか、竜の間接的な言い回しにシノトはあっさりと白状していた。
「バレないと思ったのですか?たしかに私達には人の顔の識別ができません、せいぜい判別できるのはその髪の色と瞳の色ぐらいです。あなた方が髪の色を偽れないのは魔力の流れ方もありますが、そういう要因もあるのですよ。」
半分ため息にも似た呟きに、シノトはなにも返さなかった。竜は続ける。
「まあ、あなたが私の待ち人でないとわかった理由はいくつかありますが、それはこの際置いておきましょう。先程も申したことですが、要するに私は私達一族が人に直接関わらない範囲でなら貴方を助けることができます。もちろん私達に出来ることならですが。しかし神に勇者として体を作り直されたあなたが、私達に助けを請う必要があるのですかね?」
竜の言葉にシノトはどこか難しそうな顔をした。しかし竜は、その表情が図星を突かれたというわけではないことを違和感から感じ取る。
「どうしましたか?」
「いえ、前にも一目でそんなことを見破られたことがあったような気がするんですが・・・・・・いけませんね、なんだかここ最近物忘れが多いような気がします。」
考え込むシノトの視線は幾度となく宙を彷徨うが、シノトの引っかかりは一向に取れる気配はない。すっかりほかのことに気を取られている目の前のシノトに、とりあえず竜は話を戻すことにした。
「聞く所によれば、あなたの手に余る相手はその勇者もどきだけのようですね。それも武器さえあれば制圧もできないことはないと。」
「まあそうですね。でもそれについては国王様に用意してもらえると思うのでこれといって必要ではないんですよね。」
「ふむ――――――。」
竜は黙り込むと、先程から脇に下がったところで我関せずというふうにそっぽを向いていたクロノゴを見た。竜の気配に気づいたのかクロノゴと竜の視線が交差すると、竜はここに来て初めて少しその口元を歪ませる。
「インタースを持ってきておくれ、あれならちょうどいいだろう。用意も頼むよ。」
誰に言ったのかはわかったらしく、クロノゴは何も言わずその場から立ち去った。ここでシノトはそういえばと言って再び石を取り出す。手のひらにちょうど収まるくらいの石は相変わらずぼんやりとした明かりを放っていた。
「俺がここに来れたのはこの石が光ったからだそうですが、これって魔法なんですか?」
「魔法と言われれば魔法ですし、そうでないと言われればそうではないものです。持ち主曰く、それは万能石というものだそうで――――――あなたのように強い夢を持っている方が触れば反応してくれるものらしいです。」
「強い、夢?」
「お待たせいたしました、ではよろしくお願いします。」
シノトが首をかしげたとき、ちょうどその目の前に抜き身の剣が突き立つ。何度かまたたきを繰り返すシノトはまだ状況を理解しきれていない。
「え、これって――――――。」
「あなたの夢がどれだけ固く強いものなのか、それがこの石を反応させるだけのものなのか。見せていただきましょうか、シノト殿。」
竜の言葉は穏やかに、シノトの背後に迫るクロノゴは鬼気迫る勢いで、その剣を振り抜いた。




