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狂ったリクツの絶対正義  作者: 狂える
二章 狂人は新しい夢を見た
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第四十九話

 昔、こんなことがあった。


「選べ、二つに一つ。この珠につながるものが最後の一つとなれば、それは死に犯されることになる。一応言っておくがどちらも同じだけの命の重さだ、迷うこともなかろう。」


そう述べるのは、人、いや生き物、そうではない別の何か。圧倒的な違和感とともにそこに漂うそれを形容するにふさわしい言葉はなく、ただそう、かろうじて何かに例えられるとするならば、それは二枚の剣だった。世にも不思議な物体の、世にも不思議なその言葉に、巨大な体を最大限縮めながらもなんとか覆そうと、相対するものは声を張り上げる。


「ま、待ってください!我らが神よ、一族の半分を殺させるなんてあんまりではありませんか!しかもそれを私に選べなど!」


「訴えは聞かぬ。・・・・・・まあそうだ、時間が経って二つとも殺すも良いぞ。さて、私は忙しいのでな、それでは。」


待てというまもなく、偉大だったはずの神はその場から立ち消える。既にいなくなった者に返すはずの言葉もなく、残された巨大な竜は己の迂闊さと崇め敬うはずの存在への、どうしようもない怒りに頭を抱えた。






もはや竜に時間は残されていなかった。刻々と近づく別れの時に、竜は誰と話すこともできず、ただ延々となにかできないかと思考を巡らせる。いや、そんなことをしてはいても実は既に答えにたどり着いていた。だがそれに耐えられず、受け止められず、故に無意味にまた思考の深遠に自らの身を投じているのだ。無論本人もそれに気づいて、ただそれでもかけらすらも姿を見せない奇跡にすがるために、また同じように竜は考え込む。時間が進むたびに、竜の悲壮ばかりが蓄積していった。


――――――――そして、竜がいよいよ決断を迫られたその時。祈りが通じたのか、一つの奇跡がその場に舞い降りた。


「神様も泣くのですね。いや、正確には人よりの神様だから泣けるのでしょうが、僕神様が泣くのをはじめてみましたよ。」


新しくその場に現れた姿は、竜の巨躯と比べてあまりに小さかった。竜が息を吹けば飛びそうなその存在は、もちろんあのときの二枚の剣のように圧倒的な存在感を放っていたわけでもなく、形の似たようなものに紛れればもはや誰にもどれが本物かなどわからなくなりそうなものだ。だがそうであるにも関わらず、それは竜の目を引く。何がそうさせたのかは、一目瞭然だった。


「はじめまして、神様。初対面でさぞ驚きでは有りましょうが、どうか僕の話を聞いてくださいませんか?」


この世に居るはずのなかった黒髪黒目の少年は、そう言うと屈託のない笑顔を向け、遥か見上げる竜に笑いかけてきた。






「・・・・・・お目覚めですか?」


目覚めのきっかけには静かすぎる声だったが、その竜が目を覚ますには十分だったようで、竜は身じろぎせず静かにまぶたを持ち上げた。その目に映るのは相変わらずいつもと変わらぬ景色のはずだったが、まだ焼き付く残滓に目を細めた竜はゆっくりと口を開く。


「ああ、とても気分がいい。今日はいい日になりそうだ。」


「浜辺に人が現れたそうで、いまクロノゴが行っています。もうじき帰ってくるでしょう。」


「そうか、ありがとう。」


知らせを届けてくれた小さな竜にお礼を言い、そうするとその竜はすぐにどこかへ行ってしまった。残ったその竜は視線をずらすことなく、やがて消えていく景色を最後まで眺めると名残惜しそうに再び瞼を閉じる。


「私はもうすぐ死にます。だが、だからこそ夢見るまでに、もう一度あなたに会いたいのです―――――――。」











「話に聞くよりも随分と感じがいいもんですね。最初緊張したのが嘘みたいです。どうぞ楽しんでいってくれです。」


「すみません本当に、体と服を洗わせてもらった上に乾燥までしてくれて。それだけじゃなく待ち時間には遊びまで教えてくれて、ありがとうございました。またぜひ遊びましょうね。」


見上げるほどの竜の体を人のみに変えて、丁寧に別れを告げる男達。長老のところまで歩く途中だったシノト達と出会った彼らは、今しがた初対面だったシノトとボードゲームをしたばかりだった。まだ名残惜しそうにする姿に、シノトも丁寧にお礼を言って別れる。


「あの、クロノゴさん。」


「少し時間を使いました、先を急ぎましょう。」


「あ、はい。」


シノトは急かされて、急ぎ足で少し離れるクロノゴの側に寄る。その時脇の方、つまりこの泡の中の世界の景色を見たのだが、先程と変わらずなだらかな丘に転々と森が点在しているという、別段地上と何ら変わらない景色だった。少しここに入った時の感情から肩透かしを食らったような気分だったシノトだったが、そんなことは表に出さずクロノゴに追いつく。――――――そういえばと切り出したのはシノトだった。


「俺のことってみんな知ってるんですか?みんな前から知っているみたいな事を言っていますけど、もしかして神様だから俺がここに来ることがわかってたとか?」


クロノゴは急いでいるのか、それとも単に必要がないと思ったからか、シノトの方を振り向きもしなかった。短い間の中で既に出会った幾人かの竜の中で一番そっけない対応をするクロノゴに、シノトはもしかして既に気に障るようなことをしたのかとこれまでの行動を振り返り始めた。もちろんクロノゴは基本的に誰に対してもこのような態度なのだが、それをシノトが知ることはない。


「・・・・・・まああなたには突飛な話かもしれませんけど、今よりずっと昔の話で、そのころ一人の人間に長老が助けられたそうなんですよね。かなりの恩を受けたらしくて、皆が知っているのは今でもよくその話をするからですかね。」


「ずっと前って、それ俺ではないですよね?もしかしてお待ちしてたのって俺じゃなくてその人のことなんでは?」


クロノゴの説明にシノトは素直に困惑した。彼らの中では筋は通っているのだろうか、そのことをシノトは咄嗟に聞こうとしたが、その前にクロノゴが切り出す。


「まあ一つ言っておきますが、私があなたを連れてきたのは、あなたがその石を光らせることができたからです。私もそれができるものを連れて来いと言われていましたし。でも長老も本当はあなたとは別の人を連れてきて欲しかったんでしょうね。」


「え、それでいいんですか?」


シノトの言葉はもっともなものだったが、ただクロノゴは肩をすくめるだけだった。


「さあ、ただ黙ってればバレることはありませんよ。あなたはその話の方と同じ黒髪と黒い瞳をお持ちですし。」


「でも長老さんは直接会ってらっしゃるんですよね?」


「まあそうですけど、我々に人の顔の区別なんて付きませんよ?色ぐらいはわかりますが、あなた方ほとんど似たようなものですし。」


クロノゴはそう言ったが、しかしここでふとシノトは一つ疑問を抱いた。彼らは竜の姿をとるが、その多くが目の前で人に姿を変えることもしていた。人の顔を認識できないということは、彼らが人の姿をとった時お互いの区別がつかないということだ。だが、少なくとも出会ってからここまでずっと人の姿のままであるクロノゴには、人の姿を普段しないような不器用さはシノトには見えなかった。


「あなた方はさっきみた大きな姿が本当の姿なんですか?それとも人が・・・・・・」


「どうなんでしょうね。人の姿の時間が長い日もあれば、神の姿が長い日もあります。神といっても所詮は分神ですけど。でも人の姿をとっても人と違うところはありますね。」


何が違うのかは、クロノゴがあえて言わずともシノトにも分かった。というかクロノゴは目の前で実践してみせたのだ。シノトが最初気にもとめていなかったクロノゴの黒い髪は、またたく間に真っ白に染められていた。そういえばここで人の姿をとった神様は皆髪の色が違ったとシノトが思い出したとき、クロノゴが髪の色を戻しながら肩をすくめてみせる。


「まあでもこれが何なんだって話ですけどね。長老に聞けばわかるんじゃないですか?」


クロノゴがそう言って指した指の先、そこにはひときわ高くそびえる煙がたなびいていた。


「ほら、姿が見えましたよ。あれが私達の長老です。」






雲の麓に来ると、クロノゴが一歩後ろに下がりシノトを雲のところまで近づくように目配せした。シノトがその指示に従い雲に近づくと、雲から突然シノトの身の丈よりも大きな竜の顔が飛び出す。シノトが思わず驚く中、竜はシノトを静かに見つめるとやがて地響きのような声を響かせた。


「失礼ですが、あの石を見せてくれませんか?」


シノトは一瞬なんのことだと考えたが、それがここに来る前にぶつけられた石だとすぐに思い当たると、しまっていた場所から取り出し手のひらの上に乗せてその言葉に応えた。あの石は相変わらず淡く輝き、竜はその光に目を細める。


「確かにお見受けしました。しかしもう一つだけ質問をお答え願います。」


「ええ、いいですよ。」


シノトがまだ目の前の竜にどう接すればいいかわかりかねていないとき、竜の二つ目の言葉もまたまるで地響きのようだった。


「では、あなたの願いごとをお聞かせください。」

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