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狂ったリクツの絶対正義  作者: 狂える
二章 狂人は新しい夢を見た
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第四十六話

夜の帳もとっくに降り、街をまばらに照らしていた明かりがひとつふたつと消えてくる頃。ガルバレイ王国の象徴の一つとも呼ばれるマビロニアにある王城、ロココ城にはまだ煌々と明かりの灯る部屋があった。船を導く灯台のようにひときわ輝くその部屋では、まだ終わらぬ仕事のために人が働いている。


「―――――――以上で報告を終わります。」


激務による眠気により必死に瞼を閉じまいとしている男は、そう言うと自分の仕えている人間の方を盗み見た。頭を下げた男の前で、なおも手を休めることなくいそいそと何かを書き綴っている老人は、男の声を聞いてはたと突然手を休めると男の方を見る。この国の人間特有の緑色の髪の毛は綺麗に整えられ、特に目を引く蓄えられた髭が特徴的な老人はなんとこの国の王だった。王は少し考えるように男を眺め見たあと、その髭を僅かに動かす。


「ご苦労、下がっていいぞ。今日はご苦労だった。」


王の言葉に、男は頭を上げるとそそくさと部屋を出ていった。傍から見て急いでいることがよくわかるその行動に王はしばらく閉じた扉を眺めていたが、そうまもなくまた忙しく手を動かす作業に戻る。


狭いとも広いとも取れない部屋の中、ペンが走る音と撮紙がめくられる音だけが響く。しかし、その中に部屋の扉を叩く音が混じった時部屋は再び静かになった。


「・・・・・・おかしいな、ルイが起きるにはまだ早すぎるし、オーリオが報告忘れに気づいて戻ってきたか?」


手を止めて王は扉の方を見たが、夜にも関わらず部屋を訪ねるものの心当たりは少なくないようだった。そんな王の考えを急かすようにまた扉が叩かれると、王は慌てて声を上げる。


「おおすまない、入って――――――。」


王の言葉が終わらぬうちに、扉が開いた。果たして、扉の向こうから覗いた薄暗い廊下、そこから滑り込むように入ってきた黒い影は、王の予想していた来客であったのだろうか。その答えは、王がその姿を見て絶句しているのを見れば自ずと分かることだろう。


「ガルバレイ国王様、であってますかね?夜分に済みません、よければお時間をいただけませんか?」


黒い影に見えたのは、それが夜空のように真っ黒な外套に身を包んでいたからだった。声は若かったが、状況に似使わない冷静な声色は王に怪訝な顔をさせる。ただ、こちらの正体を知った上で話を聞こうとするところから敵意はないと判断したのか。王はとりあえず落ち着くために深く息を吐くと、表情に僅かな微笑を浮かべてその侵入者に話しかけた。


「君の国の人間は相変わらず優秀だな。いや済まない、その可能性を失念していた。」


王が努めて出した明るい声に、侵入者は身じろぎ一つしない。王はてっきりさっさと要求を話し始めるものかと思っていたが、侵入者はそれが目的ではないようでしばらく老人と侵入者のにらみ合いは続いた。―――――――結局先に沈黙を破ったのはその侵入者の方だった。


「昼間の門前は素晴らしかったですね。ガルバレイ国の勇姿を拝めるなんて、私も運がいいというかなんというか。」


「なんだ、もしかして疑ってるのか?まあそれもそうだな、事前に話をしていなかったのかこの通り謝る、だがあれの目的がソーン国のためということは本当だ、どうか信じて欲しい。」


王はそう言って、座りながらではあるが机に額を近づけて侵入者に詫びた。だが侵入者はそれに首を振る。


「疑ってはいませんが、なぜ今なのですか?あなた方が私達の国を助けようと思うのであれば、もっと早く出来たと思うのですが。」


その言葉は、侵入者からすればごく自然なものだった。だが王にとっては別の意味があったようで、王は見開いた目で侵入者を見つめる。その身にまとう闇のような外套、そして未だに顔を表そうとしないその姿に、王の思考はやがてひとつの可能性にたどり着く。


「・・・・・・まさか、シノトリクツか?」


それはその言葉を口にした本人にも、そして侵入者にとっても予想外のことだった。もう必要ないとばかりにフードを取り、その素顔を王の前に晒したとき王はわずかにだが全身に緊張を走らせた。心なしか目つきもさらに鋭くなる。


「いつものが来なくなって相当数が少なくなっているとは思っていたが、やっと来たと思ったらお前か。正直に言う、私の気分はあまりよくない。」


「改めてはじめまして、シノトと言います。お目にかかり光栄です、ガルバレイ国王様。本来なら私の名前を知っていただけていることを、誇りに思うべきなのでしょうね。」


不機嫌そうに眉間にシワを寄せる王に、招待を晒したシノトがきちんとした礼を取ったことで、さらに髭の奥にある王の顎にもシワが寄る。これは何か言われるなとシノトは予感したのか、これからの話を円滑にするためにそれを聞いてからこちらも話を聞いてもらおうと考えようだが、王の言葉はシノトにとって予想外のものだった。


「握られている弱みはなんだったんだ?親か、兄弟か、恋人か?」


その問はシノトにとって理解しがたいものだった。異世界より突然ここに来たシノトには当然この世に王が例に挙げたようなものはいなく、まして弱みを握るとしてそれは誰が握っていると思っているのだろうか?シノトがそれについてしばし考察していると、その沈黙をどうとったのか諦めたように王はため息をついた。


「まあ言いたくないならいい。だがお前は本当に信用できるのか、いやそうじゃない。・・・・・・同族殺しをしたお前が、なぜまだ生きている?」


これも、シノトにとってよくわからない質問だった。からかわれているのか、そう感じたのかシノトは表情に余裕を持ってとりあえずの答えを述べる。


「なぜと言われましても、殺されなかったからとしか言えませんね。死ぬような目にはあったと思いますが。」


「答えになってないな。お前はそれに納得しているのか?」


王の目には疑わしきものに真実を吐かせようとしている、まるで刑事ドラマみたいな意思が移り見えるようだった。シノトが冗談ではないのかと戸惑い次の言葉を探していると、王は視線を他にずらしてまた溜息をつく。


「お前のような奴でも、いや今だからこそか。まあいい。それで、私への用は何だ?お前とて暇ではあるまい。」


王がそう視線を投げると、シノトはやっと安心したように表情を緩めた。


「お話を聞いていただきありがとうございます。この世界を平和にするために、仲間がいります。一応ここに来てから自分なりに探しはしたのですが、やはり慣れない土地だと難しくて。あなたか、もしくは私の仲間になってくれそうな方をご存知ありませんか?」


シノトはなるべく印象を良くしようと、慎重に言葉を選んだ。しかしシノトの正体を知っている身としてはそれも難しいのか、王は険しい顔をまるで崩さない。いやそれどころかシノトのそんな言葉を聞いた王はむしろ、その表情にはどこか憤りのようなものまで現れ始めていた。


「お前・・・・・・平和の意味を分かって言っているのか?それにどうしてお前が仲間を求める、お前はソーン国の最終兵器だっただろうが。」


「そうですね、そうでした。国王様、つかぬことを聞きますが、平和とはなんですか?」


「なんだ、問答のつもりか?」


シノトの言葉が意外だったのか、王の視線が少し柔らかくなった。シノトと手元の書類を交互に眺め、まるで過去を懐かしむ時のように重い息を吐き、そして最後には思い出したようにシノトを睨みつける。


「そんなもの、はっきりとなんてわからん。だが確かなことは、昔確かに平和だった時間があったことと、今は――――――ソーン国が勝てば、平和はなくなる。それだけは確かだ。」


「なるほど、それだけ具体的ならわかりやすくていいですね。ご質問に答えていただきありがとうございます。」


「感謝する気があるのなら、仲間を求める理由も答えてもらおうか。話に聞く限りならお前にその必要はないはずだが、お前がソーン国を未だ滅ぼしていない理由と何か関係があるのか?」


そう振られ、シノトは一瞬迷いこそしたが知っている事を話すことにした。もちろん国を滅ぼそうなどという気はシノトにはないのだが、それらをいちいち否定していては話が進み気がしないのであろう。


「あそこには、今私と同じ体を持つ人間が少なくとも三人かそれ以上います。私はまあ彼らに一度負けていますので、彼らに勝つための解決策として仲間を探しているんだと思います。」


「体だと?お前の強さは魔法じゃないのか?」


「残念ながら私は魔法が使えませんので違うかと。私の体は剣や刃物を通しませんし、力も不自然なくらいにあるので、まあそんなものです。」


シノトの言葉に、王は今一度シノトの全身を眺め回した。とはいえその瞳に映るシノトはどこにでもいそうな金の足りない旅行客にしか見えず、王はしばらく視線を往復させる。


「刃物が通らないのに、どうやってお前は負けた?まさか殴り合いに負けたと?」


「それに関しては、僕からの要件に答えてくれればお答えできます。」


シノトの言葉に、王は押し殺すように低く唸った。まだ迷う王の背を押すため、シノトは更に言葉を重ねる。


「国王様は、私が彼らを打倒することに関して力を貸してくれそうな方だとお見受けしました。僕をあなたの仲間にして頂ければ、お話できることも多くなるでしょう。」


王は、完全に沈黙した。唸り声も、独り言も、ただ瞬きの音さえ立てることなくシノトを食い入るように見つめている。品定めするような視線にシノトは少し身じろぎしたが、それを見た王はやがてシノトから視線を外し背もたれに深く背中をあずけた。長く吐き出された溜息の後、うっとおしげに再び開かれた王の目がシノトのそれと合わさった時、王は自然と口元に弧の字を描いている。


「私が仲間になるだけで満足か?思ったよりも控えめなやつなんだな。」


挑発するような王の言葉にシノトは思わず何か言いかけたが、王の言葉の意味の方が知りたかったのか結局何もいいはしなかった。王はそんなシノトに、手元から適当な紙を選びそれになにか書き綴ったあと、机越しにそれをシノトの方へよこす。


「私に感謝するんだな。気まぐれだが―――――――ソーン国が神と崇めている者達に合わせてやろう。」


王の言葉は突拍子なものではあったが、シノトにはとても嘘をついているようには聞こえなかった。

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