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狂ったリクツの絶対正義  作者: 狂える
二章 狂人は新しい夢を見た
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第四十三話

シノトが森に姿を消してしばらくした後、その場で待機していたリザルトとブルータルに一組の男と少女―――――――テクノバーンとチクキーが合流した。走ってきたらしき二人は結構な距離を走ってきたにも関わらず少しも息を乱していなかったが、退屈そうに座るリザルトを見てチクキーの方は顔をしかめる。


「あの、先輩。敵がいるって聞いてきたんですけど。」


「おう嬢ちゃんに隊長。わるい、逃がしちまった。」


悪びれもなくあっさりとそう言い放ったリザルトに、チクキーは声を出すことはせずただ魚のように口を開閉させる。何か言うものと思ったのかリザルトはついそれに身構えたが、チクキーの方はやがてなにか悟ったのかついぞ何を言うことはなかった。一方で、ここまで一緒に来たテクノバーンの方は素早く辺りを見渡すと、確認するように二人に視線を送る。


「確かに奴でしたか?全身を金鎚で潰されて、トドメに僕の剣を突き立てられて、普通なら半年は満足に動くこともできないはずですが?」


「少なくとも顔は変わってませんでした。リザルトさんのこと覚えてましたし、別人とは考えにくいですね。」


そう言ってブルータルがリザルトに視線を移すと、リザルトもそれに頷いてみせた。


「まあ前の街で立てた、新しい勇者の出現ていう線が完全に消えたわけじゃないが、やっぱり一人じゃないみたいだ。まあだからといって、あの怪我からどうやって回復したのかはわからないがな。あともう一つ言うことがあるとすれば・・・・・・」


そこまで話したところで、リザルトは急に言葉を濁す。テクノバーンはなんの話なのかリザルトが言い出すのを待とうと考えたが、その時リザルトが抜き身にして手に持っている紫色の剣が目に入った。周りの地面にそれらしい跡がないこと、そしてリザルトの剣が血に濡れていないように見えたテクノバーンは、呆れ半分ため息をついた。


「やっぱり手袋は必要ですか?」


テクノバーンがそう言うと、見る間にリザルトはばつが悪そうに顔をしかめる。それは前にそうなることをリザルトが報告したことがあり、テクノバーンがそう解決策を教えたことをリザルトが思い出したからだった。


――――――――紫色の剣は、確かにこの世で数少ない、勇者の体を切り裂くことができるものだ。だがそれは別に切れ味が鋭いというわけではなく、勇者の体を弱体化して斬るから刃が通るというだけのものだった。もちろんその効果はシノトと同じ勇者の体を得たリザルト達にもおよび、巻かれた革越しでも手首を覆うその効果は、特殊な手袋をつける以外に防ぐ手立てがない。


しかしテクノバーン達のように誰かに教えられたわけではなく、リザルトは生きるためがむしゃらに剣を振って鍛えてきた。ゆえに手袋をすることに慣れておらず、そのため今の今までそんなことをするくらいなら素手でいいかと考えていたくらいだ。


「この体に慣れたおかげで前よりかは上手く相手出来たんだが、やっぱり手首から先が遅くなるな。二人がかりなら当たるかもしれないが、今からでも練習する必要があるのか。」


「・・・・・・まあ、鋼の剣ならその縛りもなくなるし、出てきたら対処しつつ援軍を呼んで処理すればいいとは思いますよ。」


リザルトのぼやきにテクノバーンは苦笑を漏らし、ふとそこまで言ってから何かの羽ばたく音を耳にしたテクノバーンは素早く空を見上げた。その視界の中では青い空を背景に、ワイバーンが大空を大きく羽ばたいている。ただ、それだけなら何も珍しいことではなく、リザルトも上を見上げてワイバーンを見るも、動じる様子を見せなかった。


「ワイバーンか。森の中で見るのは珍しいな・・・・・・」


リザルトはのんきなもんだったが、ワイバーンを見たテクノバーンの反応はそれと実に対照的だった。空を飛ぶワイバーンを睨みつけると、次に手近にあった一本の木に手をかける。ぐっと力を溜めたように一瞬固まると、次の瞬間にはその木を根ごと、人間離れした怪力で垂直に引き抜いた。


ほか三人が驚く中、テクノバーンはひと呼吸置く間もなくその木を天に向かって思いっきり投げつける。空を飛ぶ木は途中までワイバーンに吸い込まれるように空を突き進んでいたが、生い茂った葉をつけたままの木がまっすぐ飛ぶはずもなく途中で軌道を変え、ワイバーンがなぜか急に高度を下げたこともあってワイバーンの上を超えて、根についた土を撒き散らかしながらそのまま落ちていった。


テクノバーンが舌打ちをしたことで、そこで一部始終を見ていたリザルトが愉快そうに笑う。テクノバーンが何も言わなくても、その奇行がワイバーンを狙ったものだということは傍から見れば一目瞭然だった。


「ワイバーンがそんなに憎いか?野生なんだから手を出してこないうちは放っておけばいいものを。」


「・・・・・・あれは我が国のワイバーンですよ、野生種にしては少し大きい。おそらく報告書にあった勇者に懐いたワイバーンですね、これは逃げられましたか。」


そう言われ、リザルト達がハッとなってワイバーンの方をまた振り向いたがその背はとうに遥か向こうにあった。いくら脚力までも強化されたテクノバーン達でも、空を飛ぶ生き物相手では追いつくことがかなわない以上、追跡を諦めるほか選択肢がなかった。


「そうか、本当に生きていたのか・・・・・・次会う時が楽しみですね。」


だが四人の中、逃げおおせたであろうシノトを見てテクノバーンだけは唯一ほくそ笑んだ。それが期待によるものか純粋な喜びに基づくものなのかは、本人しか知ることのないものだった。











シノトは頭上を何かが横切るのを感じて、その出処を見てそこに見知った顔があることに気づいた。遠い向こうだが、馬二匹と人影四つを見てそれが何もしてこないのを確認すると、再び前を向く。不安そうに嘶くワイバーンの頭を撫でて落ち着かせると、先ほどのことを思い出していた。






「お前はこの子達を国に連れ帰ると言っていたが、この子達を本当に思うのなら連れ帰らないほうがいい。」


通された部屋で、その場にいたカレジ達子供達にもまとめて、サムはそう言った。一見選択肢を与えているようでその実、有無を言わせない口調からサムの意思を感じ取ったシノトは、眉をひそめて疑問を口にする。


「しかし、子供にとって親元以上に落ち着く場所というのはないでしょう?」


「この子達を奴隷になるところから助けたのはお前だろ?なら分かるはずだ、もはやそんな場所はこの世にはない。」


サムの言葉にシノトは驚いてカレジ達を見たが、その表情が彼らに何も言わせずともシノトに真実を伝えていた。・・・・・・よくよく考えれば分かりそうなことだったが、今まで話されなかったのはもしかしたらシノトが信用されていない証だったのかもしれない。シノトは悲しそうな表情をしたが、それで今いる状況を忘れるようなことはしなかった。


「・・・・・・わかりました。もともと俺はガルバレイに行くつもりでしたし、一緒に連れていきます。」


シノトはそれで妥協したつもりだった。だが、シノトのその言葉にも首を振るサムは、巌とした態度で続けていう。


「ここは安全だ。」


それが何を言わんとしたことか、最初シノトも気づくことはなかった。だが首を振った意味、そして安全を強調した言葉、そこまで考えを巡らせたとき――――――シノトは自分でも意図せぬうちに目を細めていた。


「自分達が誰だか忘れたんですか?あなたたちは確かに悪い人じゃないかもしれません、でも盗賊団でありそれを名乗っていることにも変わりはないでしょう?」


「君こそ忘れているだろ、その手に何人の仲間の血を吸わせた?よもやその人相、そしてワイバーンがいるとは言え子供を連れて、それで逃げ切れるだけの武力。本当に存在したとはな、会えて光栄だよ全く。」


最後は吐き捨てるようなその言葉に、シノトは思わず押し黙っていた。恨み半分、そして怒り半分の視線はシノトを見事に射抜いている。・・・・・・もちろんその言葉が意味通りに発せられたわけではないことは、シノトにも分かっていた。


「何があったかは知らないが、お前のような奴に子守などできる、いやする資格があると思うのか?大人しく出て行け、殺人鬼。」


すごい剣幕自体には、シノトがたじろぐ事はなかった。だが言っていることに納得したのか、はたまたこの言い合いに飽きてしまったのか、それとも最後に言われた言葉がトドメとなったのか。事の真相は分からないが、シノトはサムと子供達に背を向ける。


「お兄さん!」


その反応が思ったものと違っていたのか、カレジが思わずといった感じに声をあげた。だが振り向いたシノトの顔を見て、カレジは顔を引きつらせるとともに何も言う気が起きなくなったのか再び口をつぐむ。


「シーラさん達が別れた時に俺の方に来てくれたことは、本当の事を言うと嬉しかった。いや、だけどやっぱり正論を言われるとこっちは辛いね。」


シノトはそう言うと、さっさと扉に向かっていった。歩みに迷いはなく、その一歩一歩からは淡々とした足音が部屋に響く。カレジと同じく意外に思っていたのかサムもシノトの挙動をじっと眺めていたが、扉の前まで行くと一度だけシノトも振り向いた。


「しばらくは外に出ないようにね。」


シノトはそう言い残すと、もう振り返ることなくそのまま扉の向こうに消えていった。











眼下には森が、上には青空が広がるその景色は、何度見ても世界がいかに広いのかと、シノトにため息を付かせる。昔は空を見上げる暇もなかったシノトだったが、この世界に来て確かに見上げることが増えていた。――――――――だからと言って、それが何を意味するということもないのだが。


「重荷は取れたよ、ワイバーン。さあ行こうか、ガルバレイ国へ。」


シノトの言葉に、ワイバーンは低く鳴くとその翼を羽ばたかせた。ソーン国の向こうにある国まで、青空の点だった一人と一匹はさらに小さくなっていき、やがて誰にも見えない場所まで消えていった。

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