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狂ったリクツの絶対正義  作者: 狂える
二章 狂人は新しい夢を見た
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第四十二話

父上には、ボードゲームなどやるだけ時間の無駄だと言われていた。だが何にでも手を出していた当時の俺は、そんな言葉を無視した。


母上には、将来選手になるわけでもないのになぜスポーツなどするのかと言われていた。そんな遠まわしに言わず直接もっと勉強しろといえばいいのにと、子供ながらに思った。


自分がやるのは自分の勝手だ。誰に指図されるものでもないし、当然それが正しいと信じていた俺はそう思うままに行動し続けていた。


・・・・・・だが、振り返ってみれば結果はこうだ。俺は自分の夢を未だに探すことができず、今ではもう一度父上達と会話ができるかどうかも怪しい。


「てめえが誰かの人生を、てめえの物差しで図るなんて論外だぜ。」確かにそうだ。それは正しいのかもしれないし、もしかしたら俺は間違っているのかもしれない。


だが、もし父上達の言うとおりに生きていたら。先駆者達の話にもっと耳を傾けてさえいれば。


これまで過ごしてきた霧のような夢の道は、もしかしたら通る必要がなかったのかもしれないと。十年以上さまよい続けることが、夢に患い続けることがなかったのかもしれないと考えると。


それが過るたびに、無性に悔しくなるのだ。なぜかは知らないが、無性に腹が立つのだ。割れない水風船の中で、ひたすら外に出ようともがく気分になって仕方がないのだ。


これがいい気分でないということは俺が一番よく知っている。しかし所詮はたらればの話、考えるだけ無駄なことだろうというのもわかる。


だが子供達には、これからを生きる子供にはこんな思いをして欲しくないと思っている。同じ目にはあって欲しくないのだ。


子供もいないのに馬鹿なことを、とは自分でも思っている。だが俺がそう思う以上、俺はそう思い続けながら行動するしかないのだ。


抵抗はないはずだ。迷いもないはずだ。だってこれは、正しいはずなのだから。











上段から振り下ろされる剣に意識を向けていたシノトは、踏みつけるようなリザルトの蹴りに気づくことができずそれを腹にモロに受けてしまった。


しかし不安定な体勢での蹴りは傍目から見ても力の入れやすそうなものではなく、せいぜいがシノトの体制を少し崩すだけ、それぐらいの効果しか見込めないもののはずだった。―――――――――だがその蹴りを放ったリザルトの膂力は、とうに人の域を超えている。


シノトはわけのわからぬといった感じの顔をしたまま、魔法のように軽々と吹き飛ばされた。地面を二点、三点と弾みながらシノトは土を巻き上げて転がり続けたが、途中で踏みとどまろうと地面に腕を突き立てる。肘口まで腕が地面に突き刺さり、そのまま土を巻き上げ続け盛大に地面を捲り返しながら、地面に長い傷跡を残してやっとその動きを止めた。


普通ならしばらくは身動きの取れなくなるであろう衝撃を受けたにもかかわらず、シノトは平気な顔をして直ぐに立ち上がった。体についた汚れを叩きながらシノトが立ち上がるのを見て、リザルトはため息混じりに呟く。


「やっぱりこれ以外は全くみたいだな。打撃が効かねえってのはやっぱふざけてんな、攻め手が少なくて困るぜ。」


リザルトがこれといったのは、その手に持つ紫色の長剣だった。鋼とはまた違う光を放つ剣は特殊かつ形成の仕方が不明となっている鉱物で出来ており、一年ほど前まではとある国の倉庫で埃をかぶっていた一品である。もちろん数も片手で数えるほどしかなく、同じ素材で出来た武器でも両手で数える程しか数がない。


「ブルータル坊、どれくらい時間経った?」


「まだまだですよ、応援が来るならあと三倍は粘らないと。」


「あー・・・・・・引き続き援護よろしく。」


リザルトは思わず振り返ろうとして、寸前で思いとどまりそのまま前を向いて剣を構えた。リザルトが前を見据えたところで、一瞬の隙を付いたシノトが飛び出す。今まで受身の行動が主だったシノトのそれは、リザルトに反応を遅らせる。


咄嗟にリザルトは剣を突き出すが、紙一重でそれをかわしたシノトは突き出された手を紙一重でよけ、絡めるようにその腕に自分の腕を這わせる。その勢いのままリザルトの背後に回ると、リザルトの肩に手をかけ、そのまま関節を固定した。


「げえ!」


「リザルトさん!」


突然のことだったが、二人ともそれがなんとなく危険な気がしていた。ブルータルの声も自然と鋭くなっている。リザルトは慌てて振りほどこうと全身に力を込めるが、シノトは意に返すことなく腕にさらに力を込めていく。一向に取れそうにない。


「はなせこの!男に引っ付かれてもうれしかねえんだよ!」


リザルトは怒りに任せてやたらめったらに暴れようとするが、それに反して二人はほとんど動くことはなかった。シノトはただ黙々と、両腕に力を込めていたがあるところで不意にその顔に影がよぎる。


「リザルトさん、大丈夫?」


「まあ・・・・・・この体だしな。普通なら痛がるか、最悪部位欠損してもおかしくはないんだろうが。この体だとそうなることのほうが難しいしな。シュールな状態かもしれねえが、至って平気だ。」


そんな会話を続けながらも、リザルトはシノトから抜け出そうともがくことをやめる気配がない。しかしその割には一切痛がる気配が見えず、シノトはそのことに気づいて奥歯を噛み締めた。


不意に、シノトが突然リザルトの腕から離れた。解放されたリザルトの腕の振りにそのまま軽く飛ばされていくシノトだったが、空中で上手く体制を整えて地面を滑りながらもリザルトと合い対する体制で止まる。


「・・・・・・時間は、もういいですかね。」


シノトは二人から目を離さずそう言うと、背後にある森の中に逃げ込んだ。シノトの気配は直ぐに森の中に溶け込み、影も形も見えなくなっていた。


「逃げちゃいましたね。追わなくていいんですか?」


ブルータルがそうつぶやく。シノトがリザルトから離れたことで口調もゆったりしたものに戻っていた。リザルトは森の中に目を凝らしてシノトが戻って来るか様子を見ていたが、しばらくしてそれがありえぬことだと思うと剣を鞘に戻してブルータルの方に振り返る。


「俺は嫌だがね。長くて四日だが、それだけの時間滞在していた可能性だってあるんだ。どんな罠が張られているかわかったもんじゃねえな、隊長達をここで待ったほうがいいだろう。」


「はあ・・・・・・また進軍が滞りますね。」


ブルータルのつぶやきには、ため息が混じっていた。











「おお兄ちゃん、無事だったか。」


サム達盗賊団の住処に戻ると、横穴の入口ではロクカクがシノトの帰りを待ち構えていた。その口ぶりからエリザとロマンが無事先に帰ってきていることを察したシノトは、少し切羽詰った様子でまくし立てる。


「ここを発ちます。子供達を呼んできてください。」


「なんだ、急ぎの用でもできたのか?」


「すぐに追っ手が来ます、それもかなりやり手の。早く逃げないと。」


緊張感が伝わらず、もどかしそうにするシノトと対照的に、ロクカクはシノトを落ち着けようとしたのかその両手に肩をおいて顔を覗き込んだ。


「まあ一旦落ち着け、な?武装した奴らが数名だろ?俺らなら相手するのはそう難しいことじゃない。」


笑いながらそういうロクカクだったが、次の瞬間シノトの目を見て自然とその表情を引き締めていた。真剣すぎて見たものをぞっとさせるようなその表情は、目に怪しい光を湛えながら事の重要性を相手に確かに伝えている。


「・・・・・・死にますよ。少なくとも俺の予想が正しければ。ワイバーンを隠すことが困難な以上、俺達はすぐに行かなくてはあなた方にも迷惑がかかります。」


「だがいいのか?さっきノアちゃんから聞いたんだが、お前達あの国から逃げてきたんだろ?逃げ続けてもたどり着く前に力尽きたら終わりだぞ?」


「少し早いかもしれませんが、ワイバーンに飛んでもらえば問題ではありません。」


シノトにそう言われ、ロクカクは一旦黙り込んだ。彷徨う視線はなにか迷うように落ち着き無く動き続け、シノトはそれを見て顔をしかめたがあえて何を言う気もないのか口を閉ざしたままだった。


「・・・・・・まあとりあえず中に入るか。外で話すのもなんだしな。」


ロクカクがそう言うと、横穴の天井が降って降りてきた。ロクカクに続きシノトも上がって行き、間もなくして横穴は再び元に戻った。

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