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狂ったリクツの絶対正義  作者: 狂える
二章 狂人は新しい夢を見た
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第三十六話

朝の日差しが差したことで、それと同時にカレジは夢から目を覚ました。平穏な朝の時間、いつもならぼんやりと夢を思い出しつつ顔を洗ってゆっくり目を覚ますのだが、カレジは頭を振ってまだぼやけた思考を急ぎ活性化させようとする。なぜそんなことをしたのか、カレジ自身もなぜかなど初めは分からなかったが、記憶が明確になってくるに連れてその理由も少しずつ思い出していった。


「たしか僕は・・・・・・ここは一体、いやそんなことよりも、まさかジンジャーさんが・・・・・・・。」


「あら、おはようカレジ君。体調はどう?」


背後からかけられた声に、カレジは一瞬身を固くした。なぜかはわからなかったが、自然とそうなっていた。だがなぜそんな反応をするのか、その理由はすぐに思い出す。


「そんなに警戒しなくてもいいじゃない。」


「突然殴られたのにそんなことを言われても・・・・・・。」


カレジが唖然とした感じでそんなことを言ったが、ジンジャーは実に涼しげだ。だが少なくともカレジの記憶はそれが真実だと訴えかけていた。カレジが急いで状況を把握しようと周りを見渡すと、そこで初めてシーラやノスタルジア、ほかの面々が同じように倒れていることに気づいた。しかしここでカレジが違和感を感じる、カレジ自身も含めこのような状況にも関わらず、縛られているものが一人もいなかったのである。


「ごめんね、あなた達あれによく懐いているんだもの。寝ている間にでもしようと思ったんだけど、あれって本当に寝ないでしょ?どうにも機会が作れなくてね、だからあれが分かれて行動しようなんて言った時は――――――」


「あれって、それお兄さんのことを言っているんですか?」


怖々と暗闇を覗くように自らを見つめるカレジに、ジンジャーは面白いことでもあったのか声を立てて笑う。後になって気づいたことだったが、この時の彼女の表情はカレジが彼女に出会ってからこれまでの表情すべてが、どこか強ばっていたものだとわかるくらい自然な笑いだった。


「助けてもらったからってあまり信用しないことよ?特にあれは何を考えてるのかわからないから。」


ジンジャーがそう言う間に、横たわっていたカレジ以外の子供達もジンジャーの声に反応してか徐々に目を覚ましつつあった。それに気づいてかジンジャーはカレジに目配せをして、一緒に起こすのを手伝うように促す。


「それよりも実のある話をしましょうか。他の皆も起こして、話したいことがあるの。」


その言葉に、仕方なく頷くカレジ。複雑そうな表情だったが、それが最善だと分かっているらしく異議を唱えることはなかった。






「やはり大人の方はお強いですね。私なんて最後だったのに、見ていることしかできませんでした。しかしあのワイバーンもお一人で?」


改めてジンジャーの話を聞くため、皆で円になったところでシーラはすました顔でそう言う。落ち着いたその態度は彼女の育ちの良さをそのまま表しているようで、虚弱な体に似合わぬ隙のなさはそのままジンジャーへの警戒心を表しているようだった。


「あれは近くの木に縛り付けてるわよ。抵抗しなかったところとか主人同様薄気味悪かったけど、まあそんなことはこの際どうでもいいわ。これからあなたたちに話すのはね、前の戦争の話よ。東砦のことは知っているわよね?」


聞き覚えのある、だがカレジはその詳しい内容を知っていなかった。片田舎の農民の息子であるカレジにとって、祖国の勝敗は生活に関係が有るにしても内容については知る由がない。それはその妹の同じようで、カレジとノスタルジアは隣り合って顔を見合わせた。だが一人だけ、子供の中でその言葉を聞いて顔色を一変させた少女がいる。


「あそこは位置的にも、そこにいた兵力的にも、当時の金人なんかじゃ絶対に突破できない砦だった。だけどよく知られているように、あそこは知らないうちに攻略されていて、あそこを起点にしていた私達は一気に不利な戦局になった。当時は大混乱だったのよ?量で勝っても質で劣る金人が、なんでこんなことができたのかって。」


「もしかしてわかったんですか?あんなことが起こった理由が。」


シーラの表情に、もはや先ほどのような余裕はなくなっていた。今にも掴みかかりそうな勢いで身を乗り出すも、ジンジャーは落ち着くようにシーラに促したあと話を続ける。


「わかったもなにも、私達が降伏宣言した後に一枚の紙が送られてきたのよ。あの忌々しいことが、誰の手によって起こされたのか書かれていたわ。それに書いてあったのよ―――――――あいつと同じ顔をした奴が、あいつと同じ名前を名乗ってね。」











その頃よりしばらく経った頃、シノトが逃げ回った街ではなぜかまた警戒態勢が敷かれていた。街の正門、つまり一番大きな門の周りの住人は既に避難しており、代わりに多くの兵士達がせわしなく動いている。その中でも背中の大剣がよく目立つひときわ大きな男は、門を前に眉間にシワを寄せていた。


「しかし何故逃げ出したと思えば戻ってきたのだ?しかも今度は堂々と、すっかり舐められたもんだ。」


「ほほほ、全くその通りですな。ですが我々から逃げおおせた奴が何もなく戻ってくるとは私とても思えませんでな、推測の域を出ないのですがおそらく、何らかの交渉を願ったためにあのように目立っているのではないでしょうか?」


男の声に応えたのは、まるで彼の影から現れたかのように音もなくそばに立つ老人だった。老人の言葉通り、ここは今ここに歩いて迫る敵の迎撃のために慌ただしくなっており、男と老人がここに来たのもそのためであった。基本的なことは指示したらしく、ただ敵を待つばかりの二人はお互いの考えをぶつけ合っている。


「どうだか、奴らの考えはまるで理解できないからな。前回同様日の出ているうちにしかやってこないというのは、舐められているのは最初っからだったのか?」


「そこにも理由があれば我らにも有利に働くのですが・・・・・・調べるのは困難でしょうな。」


首を振る老人に男が低く唸ると、その時ちょうど二人のもとへ駆けつける兵士の姿があった。他の兵同様ただ通り過ぎていくものかと思っていた男は見向きもしなかったが、その兵士が自分達の前で立ち止まり敬礼をした時には少しばかり目を大きく開く。


「報告します!第一、第三部隊、指示された通り使用した矢の量が在庫の五分の一を超えたため撃ち方をやめました。」


兵士の身に覚えのない報告に空を仰ぎ見た男は、次に隣に立った老人を見下ろした。二人とも何も言わないせいかうろたえ始めた兵士の前で、男はその低い声を静かに響かせる。


「私は何も聞いていないぞ。」


「言っておりませんからな、ほっほっほ。それで、結果はどうでしたか?」


男の言葉にも動じない老人はその兵士に話の続きを催促した。兵士は老人と男を何度か交互に見比べて迷った様子だったが、老人が顎で催促したのが効いたのか、はたまた二人の前にいることに耐えられなくなったのか、おぼつかない口取りで報告する。


「的を狙わないように、射は合図でいっせいに、指示は守ったのですが・・・・・・。」


「お疲れ様です、予定通り兵舎で休ませてあげてください。」


報告を終えた兵士を下げると、老人は一旦自分を落ち着かせるように大きく息を吐いた。考えをまとめるための沈黙を数秒、そのあとは男にまとまった相手の情報を言って聞かせる。


「敵はどうやら矢を受けても怪我をしない体をお持ちのようですな。単身ここに乗り込むなど自殺行為にしか見えませんでしたが、なるほどそれだけのことをする理由があったわけです。矢すら弾く頑強な肉体、あの大鐘を街の外まで蹴り出す筋力。まさに一騎当千というわけです、ほっほっほ。」


「楽しそうですな。」


男が片眉を上げてそう言うと、それに同意するように老人は肩を上下させた。意外と男はそんな老人を見ても気を悪くすることはないのか、黙って老人のしたいようにさせている。


「この歳になっても真新しいものは心を躍らせてくれますからな。それにしても聞く限り、敵の体には神が宿っていても不思議ではないくらいですね。戦争に参加すれば間違いなく英雄と呼ばれたでしょうに。」


なおも笑い続ける老人。男は何かを待つかのように老人をしばらく見たが、やがて諦めたのか深い溜息を付いた。


「のんきなものだ。そんな事を考えるよりも、あなたにはやつの倒し方を考えてもらいたいのだが。なにせこれから対峙するはずの相手ですぞ。」


「まあ心配せずとも争いごとを起こす気はないで―――――――」


老人が結論づけようとしたとき、二人が聞いたことのないような音が門の方から響いた。男が慌てて目を向けると、跳ね上げ式のはずの門が両開き門のように真ん中のところから裂けている。裂け目のむこうから見える手を見たとき、男はまた大きなため息をついていた。


「・・・・・・あなたの言うことはたまにあてになりませんな。」


「ほっほっほ、まったくです。」


老人の言葉に、男は裂け目の向こうに見える手を睨みつけていた。






「いやすみません、思ったよりも緊張しているみたいですね。」


途中で門の開け方をやっと理解し、重厚な門を軽々と持ち上げたシノトの最初の一言がこれだった。男は呆れよりも苛立ちが先だったのか、こめかみに青筋を立たせ怒鳴るような大声を上げる。


「要件はなんだ、言え!」


「要件もなにも・・・・・・」


シノトは男の声にも曖昧な返事をし、何かを探すように周りに目を配っていた。彷徨うシノトの視線に何を感じたのか、男は歯ぎしりすると背中にあった大剣を引き抜いた。長い刃渡りが太陽に照らされてギラリと光る。


「なるほどいいだろう、その誘いに乗ってやる!」


その声で気合が入ったのか、男は大剣を振りかざしてシノトに迫っていった。迎えるシノトもその勢いに思わず身構えたものだったが、次に男が発した言葉に耳を疑った。


「一の太刀、横薙ぎ!」


男がそう叫ぶと、手に持った大剣をそのままシノトめがけて横薙ぎに振るった。シノトはてっきり言葉を囮にして別の攻撃が来ると踏んだので警戒を強めたのだが、なぜかそれはなく自分の次の行動を教えてくれた男の言葉に首をかしげる。


「よくかわしたな!だがこれはどうだ、二の太刀、大斬撃!」


「わおかっこいい。」


次に男が大上段に剣を掲げたとき、シノトはすっかり男の言葉の正体に気づいていた。悲しいかな、何かに生きるためだけに人生をかけてきたシノトには、男がするその行動がひどく寒々しいものに感じるのだ。白々しい目を向けられているにも関わらずそれに気づかない男は、その手・・・・・・もとい口をせわしなく動かし続ける。


「四の太刀、二重の――――――――」


「まあ疑ってるわけじゃないけど、ちょうどいいか。」


男が次に口を開くと同時に、シノトもその懐に深く踏み込んでいた。男の大剣を振る腕を付け根あたりで止めると、下がっていた足を蹴っ飛ばして片膝を付かせる。


「ここに黒い髪の子供達はいませんか?探しているんです。」


囁くようにつぶやくシノトの言葉に答えず、男はもう片方の手でシノトを突き飛ばそうとした。だがその腕ももう片方の腕に付け根から抑えられ、シノトが体を引きながら残された足も蹴り飛ばしたことで男は膝立ちとなる。もはや男とシノトの目線はそう変わらぬ高さとなっていた。


「ぐお、は・はな・・」


「本当に知りませんか?できれば教えてもらいたいのですが。」


膝の痛みに顔をしかめながらも男はシノトの腕ごと力ずくで押しつぶそうと力を込めるが、シノトはびくともせず逆に男を押さえ込んでいた。男はしばらく顔を熟れたトマトのように真っ赤に染めていたが、どうにもならないことに途中から気づいたのかとたんに力を抜く。シノトはそこでやっと男が諦めたと思ったのか、そこで少し力を抜いたその時、僅かに男の口元が歪んだのを見た。


「死ね。」


シノトの後ろからしたその声は、首の冷たい感触とともにやってきた。






「おいおいマジかよ・・・・・・皮の下に鉄を敷き詰めてんのか?」


目の前で起きた不可解な出来事にその兵士は後ろに大きく跳ぶと、空から飛んできた自分の槍の先を掴んで呆れたような苦笑いを浮かべた。一方で首の後ろに槍を突き立てられたはずのシノトは、依然目の前の男を見続けていたがなにか気が済んだのか、掴んでいた腕を離すと体を反転させる。そのまま門の外へと歩みを進めた。


「・・・・・・長居しました。失礼します。」


シノトが出ていこうとしているのに気づいたのか兵士の何人かがシノトに近づこうとしたが、その前に嗄れた老人の声が飛んだ。


「手を出すのはなしです、このまま帰しましょう。」


老人の言葉に、武器を手にシノトに飛び掛ろうとしていたもの達の足が止まった。シノトは門の前までそのままただ歩いたが、重厚な門をきしませながら持ち上げるその瞬間、老人はシノトと目があった気がした。シノトの姿が門の向こうに消えたとき、場の空気がやっと緩やかになる。シノトと直接戦っていた大男は既に治療のために運ばれており、老人は先ほどシノトに飛びかかろうとした兵士のうち隣にいた一人に声をかけた。


「あなたですか。本軍はあれの対処法を知っているのですか?」


「おそらくは・・・・・・いえ、わかりません。分かっていなくてこれから捕まえてその方法を割り出すのか、もしくは知っていても伝達が難しい、もしくは実行が難しいという理由から知らされていないのか。力になれなくてすみません。」


「いえいえ、国王様のことですから訳があるのでしょう。貴方の考えの他に、例えばそれを世に広めたとして、あれを退治する以上に不利なことが起こり得るとか。要は割に合わないというものも考えられませんか?」


老人の言葉にその兵士は顎に手を当てて考え込んだが、明確な結論は出なかったようだ。それは老人にも伝わったのか、フードの下に見える顔はせせら笑っているように見える。


「いずれ分かることでしょう。しかし、あれは一体何をしに来たんでしょうね?」


「どうやらあの表情を見た限り、入ってきた時は既に思惑とは違う方向にことが流れていたようですがね。敵対的であることは矢を射ってますし向こうも理解できているとは思うのですが・・・・おそらく向こうにとっても予期しなかったことが起こったんでしょうねえ。」


老人はシノトの行き着く先のことを思いながら、門に縦に入ってしまった亀裂をどうやって塞ぐか考えていた。

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