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狂ったリクツの絶対正義  作者: 狂える
二章 狂人は新しい夢を見た
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第二十八話

時は既に、シノトが地下に閉じ込められて半日が経っていた。崩れた地下への道の前には、大勢の鎧を着た兵士が緊張した面持ちで剣を抜いて待機している。その後方には補給班らしき別の人だかりと、休憩中なのか鎧を半分に脱いだ男達が群れをなしてまるで祭りの騒ぎのようだ。さらにその後ろ、その全体を見渡せるような場所にある建物の上には、他の兵より幾分か豪華に見える鎧を着た男とタニシールの姿がある。二人は全体を見渡しながら、かれこれずっとその場を見下ろしながら談笑にふけっていた。


「しかし上手く閉じ込めたものですな。聞けば相手は、王城に一人で侵入するような野蛮極まりない黒人ということですが、新進気鋭の調師は相手を罠にはめるのもお得意なようで。」


「黒人は頭が働かない種族ですからね。その代わりに馬鹿力がありますが・・・とにかく、通気口を塞ぎました。直に中の空気もなくなり、奴らがそれに気づいたときには既に体が動かなくなった後でしょう。もし奴らがそれよりも早く壁を破って出てきたら・・・・・・。」


そこでタニシールは隣の男を盗み見る。タニシールの隣にいる男は、今でこそ恰幅のいい中年男としか取れない外見をしていたが、昔は先陣切って敵陣に切り込む猛者として有名だった。今でこそ指揮官職についているが、実際に戦えば並の兵士では歯が立たないだろう。タニシールは本当にあの男を捉えられるのか、男のその自信の程を探りたかったのだが、男はそれを察したのか豪快に笑うと、鎧を鳴らして胸を張った。


「その時は任せてくれ、外の見張りを減らしてまでここに兵士を集めたんだ、きっと成功するさ。それに近いうちにこの近くを国軍が通るからな、男の首を差し出せば少ない額の報奨がもらえる、士気も万全ってわけだ。」


「それもそうですね、怪物とは言えさすがにこの人数相手に勝てるわけないですか。・・・・・・しかし大人しく私に付いてくるしかなかったとは言え、のこのことついて行って地下に閉じ込められるなんて馬鹿の極みですね。どうせ力では誰にも負けないとか考えていたんでしょう、脳味噌まで筋肉で出来ている奴らにはいい気味です。」


「まあそう言ってやるな、奴らも生きるので精一杯なんだ。ほかの余計な場所に頭を回す余裕がないんだろうよ。しかし脳みそが筋肉とは、なかなかうまい事を言うじゃないか。奴らのような種族にはピッタリの言葉だな。」


そこで二人はおかしくなったのか、同時に笑い出した。ひとしきり笑っているところで二人のもとに誰かがやってくる。鎧を着ている所を見ると兵士の一人のようだ。二人は彼が何をしに来たのかわかっていたらしく、大人しくその兵士の言葉に耳を傾ける。


「第四、五、六班は小休憩に入り、七、八、九班に持ち場を変わりました。一、二、三班は警戒態勢を継続しています。」


「報告ご苦労、下がって休憩に入れ。・・・・・・ところで、あの地下にはまだ仕上がっていない商品があるのではないのですか?結託されればもしかしたら厄介になるかもしれませんが、それよりも損害額などは・・・・・・。」


「そうですね、壊れたのが一人とあとはまだそこまで作業に入っていないのが三人なんですが、もし死んでしまっても原価さえいただければ何も問題はありません。思う存分にやってください。」


「それを聞いて安心しました、これで心置きなくやれますよ。なんせ仕上がった先から次々と売れると有名ですからね。」


心置きなくの部分が嘘であっても、男がそのあとの部分が言いたいがためにそんなことを言ったのはタニシールにも分かった。だがタニシールはあえて気づいたようには見せず、すまし顔でその言葉に首をすくめる。


「それもいいことばかりではないんですけどね。実際ここ最近は仕入れも不十分で、仕上がってもすぐにいなくなるから、在庫もありませんでしたし結構困ってたんです。国軍が進軍してるって話ですから、もうすぐ一気に仕入れができると思うんですけど。」


「まあもうしばらく待ちましょう。――――――もうすぐで出入り口が埋まってから半日ですから、出てくるとしたらそろそろです。休憩場はこちらで用意してありますから、言ってくれればいつでもご案内します。」


話している途中で時間の経過に気づいたのか、男はタニシールに休むように勧める。しかし当初男は、そこがタニシールの仕事場ということを考慮してタニシールが自ら言い出すまでは案内はしないと決めていた。だが彼の不安を解消しようと話しているうちに、時はもう半日も過ぎている。もしかして言い出しにくかったのではと内心思いながら、この若者が思ったことを口にできないようなものではないと思っていた男は、次の瞬間自分の考えを後悔することになった。


「お気遣い感謝します。でも、私も自分の仕事場で起きたことですので最後まで見届けたいです。それに・・・・・・」


「それに?」


「あの黒人には少々腹が立ってましてね。首だけになったあいつを気が済むまで殴って、たっぷりとヘドロで塗り固めてやらないと気がすまなそうなんですよ。」


男は震えた、もちろんそれは彼の目の前の、男の半分もいかない歳のタニシールが既に立派な正義感を持っていたためだった。そしてすぐさま男は恥じた、先程まで対話していた相手の本質を見抜けなかったことを。若いとて、タニシールは立派な一人の人間だった。男はそれまで以上に敬意のこもった目でタニシールを見る。


「もちろん構いませんよ、なんせあなたは被害者ですから。でも人相が判断できないようになってしまったら困るので、ほどほどにしてくださいね。」


タニシールがその言葉に頷くことで、二人の会話はまた始まる。それは夜の内から全て数えて、兵士の交代ももう少しで四十を超えるという頃だった。











そんな会話から時を遡ること数刻前、壁の外。闇に紛れて土の一部が盛り上がったかと思ったら、そこからシノトが顔を出した。あたりを確認し、ついで壁の方向を見て様子を伺うと音もなく穴から這い出し、続いて次々と後続も姿を現していく。夜は静かそのもの、誰の目にもシノト達がここにいることが金人達にバレていないことは明白だった。


「驚きました、本当に一人で掘り終わりましたね。」


最後に出た少女は、まだ驚いているのか自分の出た穴を見て、そしてその向こうに見える街の壁との距離を見てさらに驚いていた。それになぜか壁の上に見える光は数が少なく、それのおかげでまだ壁から距離があるとは言えない所であっても、一行は見つかることなく闇に紛れこむことができる。


「さあさあ、まだ暗いうちに遠くまで逃げましょう。気づかれないとは思いますけど、追いかけられたら面倒ですからね。」


シノトを先導として、移動が始まった。細かく位置を修正しながら、意識を失っていた少女を背負うシノトの後ろには、キューとその親友らしき少女が手をつないで歩き、一番後ろに女性が歩いている。しばらくの間は緊張のせいか誰も喋らなかったが、もうすぐそこに隠れるのに都合が良さそうな森が見つかると心にも余裕が生まれてくるのか、シノトのすぐ後ろを歩く少女はシノトに声をかけていた。


「それにしてもすごい力ですね、もしかして戦士出身の方なんですか?」


「戦士って・・・・・・まあそうだよ。それにしてもよくわかったね、やっぱり雰囲気とか出てるのかな?自分では分かんないんだけど、ねえどうしてわかったの?」


シノトは一瞬言葉に詰まったが、闇の中ですぐに笑顔を作ると振り向き、少女を安心させるように微笑んだ。その言葉に戸惑ったのか、それとも闇に浮かぶその笑顔に違和感でも感じたのか、少女は一瞬困った表情を浮かべた。


「どうしてって・・・・・・それは、あんな事目の前でされれば誰だってわかりますよ。成人した立派な大人だって、土を固めながらあんな長い道を掘ることは普通できませんもん。なら自然と答えは一つしかないでしょ?」


自然と答えを促すようなその言葉に、シノトの逡巡する隙はなかった。何よりも先に肯定してしまったのだから、今更否定はできないと考えたのだろうか、シノトはなるべくその内容に触れないように言葉を選んで会話する。


「まあ君の言うとおり、俺は戦士だよ。国へ帰るところなんだけどね、この街に捉えられている人達が居るって聞いたから、君たちを助け出そうとこうやって侵入したわけ。」


シノトの賭けの結果は、少女が吐いた感嘆のため息が示していた。シノトはもう大丈夫かと思い、少女に背を向けてまた歩き出そうとする。だが、その時その振り向きを邪魔する声があった。


「ところで、戦士さんに質問なんだけど戦士ってどんな役職でした?いや、私もこの子達ほど若くないし記憶が曖昧でね、それにもともと知ろうとしたことがなかったから詳しくは知らないのよ。ぜひ本人から聞いて――――――」


その時、暗い闇の中で女性とシノトの目が確かに交差した。しかし所詮目を合わせること、相手に危害を加えることではない、それだけなら女性は確かに安全なはずだ。――――――交わしたのは視線だけのはずにも関わらず、その瞬間から女性は強烈な威圧感に冷や汗をかき始めている。女性は言おうとしていた何かも忘れ、空気に喘ぐように口を動かして、やがて押し黙ってしまった。言い知れぬ緊張感があっという間にその場を支配し、お互いの呼吸が聞こえるぐらいに自然と音もなくなっていく。その静けさが不自然に続けば、次に来るのが全てを壊す嵐であることは女性にもわかっていたが、女性は自分が何をしても結果は同じということを悟り、逡巡の末ゆっくりと目を閉じて諦めかけていた。


しかし、役に立たないと言われたものもときに重宝されるように、この場でも空気の読めないということが良点となってくれる少女が一人いた。


「戦士は王直属の精鋭達で、私達の国における兵士の頂点にあられる方々じゃないですか。そんなことも忘れるなんて、いくら若くないからって失礼ですよ?」


女性がその言葉に我に返ると、その目の前にいる少女は女性に同意を求めるようにその瞳を見上げているところだった。女性は場の空気が変わったことを知り、慌ててその言葉を肯定する。


「え、ええ。そうだったわね、うっかりしていたわ。どうも教えてくれてありがとう、お嬢ちゃん。」


「私の名前はシーラですってさっき教えたばかりじゃないですか!」


少女の言葉を半ば聞き流しながらも、女性は先程までと打って変わった雰囲気のシノトを盗み見る。そこにはもはや目だけで龍をも殺せるような男の姿はなく、子供のやんちゃに困った様子の青年の姿があった。


「みなさん、あまり騒がないようにしてくださいね。あまり大声で喋られて見つかってしまうと、俺もそれに対処せねばならなくなりますから。」


先程までの気配が嘘のように大人しく少女に注意を促すシノトに、女性は言いようのない不安を覚えた。











「おかえりなさいおじさん、その方々が?」


森の中へ入ってすぐ、体をたたんで眠り込むワイバーンとともにノスタルジアとカレジがシノトを出迎えた。シノトの後ろに並ぶ面々を見てノスタルジアがシノトの顔を伺うとシノトは頷いて、それとついでとばかりにいつの間にか手に持っていた袋をノスタルジアに手渡す。


「二人共ただいま。積もる話もあるけど、とりあえず水浴びをしてもらって、それから移動しながら自己紹介でもしようか。ノアさん、水筒とってきたから、ついでに汲んでおいてもらってもいいかな?」


「本当にとってきてくれたんですね。そんなに泥だらけになるくらい大変だったら、これは無視してもよかったのに。」


ノスタルジアは袋の中を確認すると、シノトが連れてきた四人を連れて水のある場所に案内していった。シノトはそれを見送ると、しばらく来た道から追ってがこないか目を凝らしていたが、それが杞憂だと判断すると長い溜息を吐いてカレジの横に座る。


「カレジ君、俺のいない間になにかなかった?」


「いえ、特には。・・・・・・それにしても今更ですけど、どうして街に入る危険を冒してまで助け出そうなんて言い出したんですか?しかも街の外からでは、捕まっている人達が居るかどうかもわからなかったのに。」


「まーそれは、こんなものがあるなんて知っちゃったからね。ちょっと危険だったけど、なんとかうまくいって助かったよ。」


そう言ってシノトがカレジに見せたのは、ノスタルジアがこの前川で見つけていた、シノトの似顔絵付きの紙だった。カレジに読めない文字で書かれたそれに、記憶を絞り出しながら彼はそれがなんの紙だったのかを思い出す。その努力は、ちゃんと報われたようだ。


「この前拾った手配書でしたっけ?これがなんで?」


「昔初対面の女の子がいたんだけどね。俺は向こうのこと知らなかったのに、その女の子は一発で俺のことがわかったらしいんだよ。それで変だなって思って。」


カレジは一瞬、何の話だったのかを忘れた、そう思わせるぐらいカレジにとって、その話は関連性のないものだった。だがそこは決断力と行動力で妹に勝る分、わからないなりにとりあえず話についていくことにしたようだ。


「でもそういうことってよくありませんか?自分にとっては何でもないことだったのに、相手にとっては特別に感じることって童話とかではよくある話ですけど。」


「まあそれも普通ならありえるんだけど、残念ながら俺は物覚えは悪くない方でね。見た顔と、一度でも誰かが言った名前は全部覚えられるぐらいの記憶力はあるんだ。」


「でも少し垣間見たぐらいなら流石に印象に残らないかもしれませんよ?それにお兄さんも、今まであった人たちの顔と名前を空で思い出せるほど正確ではないでしょ?そういうこともありますよ、絶対。」


多少強引な押し切り方だったが、シノトはそれで納得したようだった。空を目で追って考え、少し唸ったように唸って目を瞑ると、その次にはいつものごとくカレジに笑顔を向ける。先程までの悩むような姿はどこにもなかった。


「・・・・・・それもそうだね。話は変わるけど、泥払い手伝ってくれないかな?結構汚れちゃっててね、意外とこれが気持ちわるいんだ。」


そう言ってシノトがその場で服を脱いで見せると、朦朧と立ち込めた土煙がカレジを咳き込ませた。シノトが上着を渡し、カレジがそれを叩くとさらに土が空を舞って夜の風に流れていく。


「本当にくまなく汚れてますね。穴でも掘ったんですか?」


「察しがいいね、そのとおり。これが終わったらこのあとの進路を確認して、ノアさん達が戻ってくるのを待ってようか。」


――――――少し経ち、まだ日も昇らないうちにシノト達はその場から出発した。

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