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狂ったリクツの絶対正義  作者: 狂える
二章 狂人は新しい夢を見た
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第二十七話

タニシールの仕事場へ続く通路に、二つの人影があった。先頭を歩くのは若い金人タニシール、後ろの人間に脅され地下へと続く通路を先導している。そしてもう一人、タニシールを脅し彼に道を案内させているのは、絶賛手配中のある意味有名人であるシノトだった。


「いやー、大人しくしてくれて助かります。話しぶりから手荒なことしなくちゃいけないか悩んでいたんですが、どうやら杞憂だったようですね。」


言葉は軽かったが、シノトは相手が年上であることを知っていたためか、態度だけは敬意を払っていた。とはいえ、それでもここに来るまでのシノトの所業はタニシールにとって容認できるものではなく、それ以前に罪人であるシノトをよく思っているわけがないが、タニシールは自分と相手の力量差を分かっているためか、素直にその言葉に従っていた。


「・・・・・・このさきが私の仕事場だ。」


「あれだけ出し渋ってた割に、案外扉は普通の作りなんですね。開けていいんですよね?」


足を止めた二人は、通路を隙間なくしっかりと塞ぐような扉の前に来ていた。シノトがタニシールの頷きを目にすると、シノトは扉に手をかける。軽い木で出来ていたはずの扉だが、両開きの扉はまるでシノトを拒むように開くのにすこし抵抗し、扉の間からシノトの顔に風が吹く。少し入ってシノトに分かったことだったが、扉の向こうは底が抜けるような闇の中――――――シノトにはうっすらと見えていたが、他の者が見ればまさにそう呼ぶにふさわしい場所だった。


シノトがそこで振り返ろうとしたとき、唯一その場を照らしていたタニシールの持つランプの灯りが消えた。それが両開きの扉に光がさえぎられたためとシノトが気づいたとき、ちょうどその扉の向こうで何か石のようなものがいくつも落ちる音が響く。シノトはそれで察したのか、扉を開けるのではなく拳でその扉をぶち抜いた。拳は扉の向こうまで貫通したが、案の定その先でもシノトの手は岩肌のようなザラザラとした感触を味わう。つまり、それは扉の向こうが完全に塞がれていることを意味していた。


「閉じ込められたか。まあもともと入ってきたように出て行く気はなかったし、あまり計画に影響はしないと思うけど・・・・・・それよりも先に人を集めないと。」


シノトはとりあえず先に進むことにしたようだ。もともと入ってきたところから出て行く気がなかったためか、そもそも進める道が一方だけだったかはともかく、明かりのない地下の道でシノトの目はすぐそこにある一つの扉を既に映し出していた。












闇の中でシノトが五感に感じるのは、冷たい地下の空気、石の敷き詰められた明かりのない空間、そして聴く者によってその好感度がかなり左右される音と、微かに漂う嗅いだことのない何かの匂いだった。特に少なくともシノトにとってあまり好ましくない音は、シノトから渋い顔を引き出す。


「すんごい音だな。俺が言うのもなんだけど、これは確かに他人に見せられるものではないよ。いや、聞かせれるものか?どっちでもいい話か。」


闇の中、手近な扉はシノトのすぐそばにあった。闇の中で延々と思われるほど響く音は、その扉から漏れたものだ。シノトはあまりその音に関することに関わりを持とうとは思わないのだが、それはそれでシノトがここに来た意味がなくなるのでシノトは仕方なく扉に手をかけた。


「この中か。さあ、最初の人はどんな人かな?」


開けられた扉からは、まず妙に湿った空気が流れ込んできた。そしてその奥、扉の向こうを写すシノトの瞳には―――――――鎖に繋がれた少女が写っている。小さいその体躯は少女の顔も相まって少女がまだ年若いことを示していたが、シノトに真に衝撃を与えたのは、小さな貫頭衣をまとったその少女がシノトに向けた、その無邪気な顔で放った一言だった。


「ワン、ワン!」


「・・・・・・最初っから重症だなあ。これは先が思いやられそうだ、―――――――とりあえず外に出すか。」


変な匂いに顔を顰めながらも、シノトは慎重になって少女と壁を繋ぐ鎖をちぎると少女を部屋の外へと運び出す。少女は突然現れたシノトを警戒するでもなく、そのおかげでシノトはすぐに少女を扉の外へと運び出すことができた。もはや人の言葉をしゃべっていない少女だが、シノトは安心させるために頭を撫でて、できるだけ優しく話しかける。


「とりあえずここで待ってね?すぐに戻るから。」


「ワン!」


「言葉はわかるのか。救いがないのやらあるのやら、いやこんなのないに決まってるよな。」


少女を残して、シノトは次に一つ目の扉の先にあった、ほかの扉に手をかける。こちらからも音が漏れているのだが、おそらく先ほどの部屋でも何もなかったところから、音は全ての部屋から発生しているのだろうとシノトは推測していた。それだからか、シノトが扉を開ける動作は先程と違って一切躊躇がなくなっている。


「お願いします、ここから出してください!なんでもしますから!」


扉を開けると、そこには音を聞いて誰か来たのがわかったのか、シノトに向かって叫ぶ少女がいた。先ほどの少女と同じく彼女も鎖に繋がれていたが、こちらは普通に会話ができるようでシノトに向かって助けを求めている。


「落ち着いてよ、俺の目とこの髪の色。わかった?」


「助けに来てくれたんですね、ありがとうございます!」


シノトは自分の髪の色を見せて、自分が少女の味方だと証明しようとしていたが、それが見えていない少女にそんなことが分かるわけがない。だから実際、少女はシノトがここに自分を運んだ人以外の声だったため味方だと判断していたが、この際そんなことはどうでもいい話だろう。


「とりあえず部屋を出ようか。この部屋音がすごいことになってるし、なんだか変なにおいもするよ。」


先程と同じようにシノトは少女を解放すると、先ほどと同じように担ぎ上げ先に見つけた少女のところに運んだ。シノトが次に少女を下ろすと、その時少女は間近にいたもう一人の存在に気づき、声を上げる。


「まあ、キューじゃない!あなたも無事だったのね!」


「ワン!」


少女は、傍らに座る少女の顔を間近に見て途端に表情を和らげたが、次にその口から出た言葉にひどく顔を歪めていた。それを見てなぜか罪悪感を抱いたのか、シノトは弁明するように少女に話しかける。


「見つけた時には既にこうでさ。彼女の以前を知っているみたいだけど、前はこうじゃなかったんでしょ?」


「当たり前じゃない、こんな、こんな!」


「ワン?」


少女がきつくだきしめた理由がわからなかったのか、キューと呼ばれた少女は目をぱちくりさせていた。キューの肩ごしに見える少女の表情が痛ましく、シノトも黙ってそれを見守った。


「もういいの、この悪魔のような場所ももうすぐでおさらばよ。だから元に戻って帰りましょ?私たちの村はもうないけど、とにかく帰るの。ね?」


慰めるような少女の言葉は、どこか自分にも言い聞かせているようにも聞こえるものだった。とにもかくにも、その場はもう少女に任せて大丈夫だろうと判断したシノトは、まだ見つかっていない者を探すことにする。


「じゃあここで待ってて、他の人も呼びに行くから。」


「待って、私たちは今すぐにここをでたいの。ここにもう少しでもいたらおかしくなりそうだわ、外で待ってもいいでしょう?」


少女の懇願にも似た言葉だったが、シノトは闇の中でその言葉にいい顔をしなかった。それも当然のことで、この場所に入ったシノトに少なくとも援軍が来る予定はない。ならば、塞がった通路の向こうに敵が集まっていることも容易に想像できることだろう。


「・・・・・・あまりおすすめしないよ?多分扉の向こうは瓦礫で埋まっているし、もしそこを掘り返してもそこは俺達が出てくるのを今か今かと待ち構えて、罠まで貼って待っている兵士たちで埋め尽くされていると思うし。」


「瓦礫?罠?一体何のこと?国軍が助けに来てくれたわけじゃないの?」


「助けに来たのは俺だけだけど。」


シノトがそう言うと、急に力が抜けたのか少女はその場に倒れふしてしまった。キューと呼ばれた少女が支えてくれていたが、このままではらちがあかないと思ったのかシノトは今度こそその場を離れることにする。


「じゃあキューさん、彼女を宜しくね?」


「ワン!」


先程まで抱きすくめられていた少女が、今度は逆に介抱をしている。言葉はもともとこうではなかったと言われていたところからなにか他に不自由しそうではあったが、案外ほかはまとものままのようだ。


「前途多難だよ、もうほんと。」


思ったよりもひどかった惨状に頭を抱えそうになりながら、シノトはまだ次の扉へと足を運んだ。












「まあわかってたけど、この声の人はこの部屋にいるよね。俺がここに閉じ込められたところから他に金人はいないと察しはつくけど、さて。」


扉越しに聴こえてくる音は、これまでの二部屋と比べて明らかにはっきりとしたものだった。まあどういう音かは・・・・・・ご想像におまかせしよう。とにかく、音の発生源がここであるということをシノトはほぼ確信していた。


「はあ・・・俺こういうこと苦手というか知識だけというか・・・まあいいや。さっさと終わらせるべきだな。時間がどれだけあるのかもわからないし。」


シノトはいっそのことここは放置してもいいのではという考えが頭をよぎったが、それも後味が悪いと判断したのか、苦い顔をしながらも意を決して扉を開け放った。そして目標を素早く発見すると、急いでそこへと近づく。


「すみませんが、あなたにはついてきてもらいます。」


「何、今度は男の相手?まあ構わないけど・・・・・・あら、もしかしたら助けに来てくれたの?見苦しいとこ見せちゃったわね。」


中にいた女性を担ぎ、鎖を握りつぶして急いで部屋を出ると、扉を後ろ手に閉めたシノトはまるで何かに急かされるようにその場を離れ、女性を先に開放した二人のもとへと連れて行く。女性を二人のそばに下ろして、そこでようやくシノトは女性からの質問に答える気になったようだ。


「・・・・・助けに来たのは確かですけど、俺一人なので今すぐには出られません。少し待ってくださいね。」


「少し待ったら外から援軍が来てくれるの?」


女性のゆったりとした口調に、シノトは静かに首を振った。その女性は先の少女に比べ、このくらい中でもものが見えるらしくシノトのそんな仕草を見たが、特段表情を変える様子もない。そんな時、女性に人懐っこそうに擦り寄る影があった。


「ワン、ワワン!」


「あら、完全に壊れちゃってるわね。かわいそうに、誇りを捨てきれなかったのかしら。」


女性は擦り寄ってくるキューの様子に始めは驚いていたが、すぐに慣れたのか頭を撫で始めていた。その手に頭をこすりつけるキューはとても気持ちよさそうで、シノトは深いため息をつくとさっき別の少女に言ったような事を言う。


「ここで待っててください、他の人を連れてきますんで。」


「この二人と私がここにいるのを考えれば、残りは一人だけよ。私がいた部屋の隣にいるわ。」


「それはどうも、じゃあ最後の一人を連れてくるので、ここで待っていてくださいね。」


シノトがそう言って暗闇の向こうに消えると、女性はしばらくそちらを見つめた後可笑しそうに口元を歪めた。他二人の少女に比べ、余裕のあるその表情は見る者が見れば違和感を感じざるを得ないものだったが、いま女性のそんな様子に気づけるものはこの場にいない。


「ここに連れてこられたときはどうなることかと思ったけど、思ったよりも楽しいことになりそうね?」


「ワン!」


キューの言葉は、地下の空間にはやけに響いて聞こえた。












「これは・・・・・・一段と臭いがひどいな。臭いの元は床に落ちてるのが原因か?でも嗅いだことのない匂いだけど。」


最後の一人の部屋は、それまでの三つの部屋と比べてもことさら匂いが強かった。さらに加えて、床のあちこちになにか泥のようなものがあるのも、ほかの部屋にはない特徴だ。シノトの鼻はそれが臭いの元だとシノトに伝えていたが、シノトにとってそんなことよりも、その部屋で繋がれている少女の容態の方が気がかりであった。


「あまり元気があるようには見えないね。まだ子供なのに、全く――――――。」


というかなぜ皆女の子なのだ、という言葉を飲み込み、シノトは今までと同様少女を抱え上げるとその部屋を出た。少女は気分でも悪いのか抱え上げられた時も身じろぎひとつ取らなく、そのことがさらにシノトに少女を心配させることになるのだが、ひとまず合流することが先決と考えたシノトは、他三人のところまで行って少女を下ろす。


「お待たせいたしました。じゃあ早速ここから出ることにしましょう。」


シノトがそう言うと、シノトがいない間に意識を取り戻した、二番目に助け出した少女が首をかしげた。今は落ち着いているようで、もう先程のようなことはないといっていいだろうとシノトは思う。


「でも扉は塞がれて、その向こうには敵がわんさか待ち構えているんでしょう?ここに一人で来るぐらいだし腕に自信はあるんでしょうけど、いくらなんでもそれは無理がない?」


「あらシーラちゃん、この人はとってもお強いのよ?やろうと思えばこの街のみんな皆殺しだわ。」


シノトはその思いがけない言葉に一瞬硬直したが、もちろんそれは冗談のつもりだったのだろう。実際にその言葉で幾分か空気は和んだ気がした。シノトは唯一、その言葉の真意を探るために女性を凝視したが、女性はさして気にしていないのか相変わらず腕の中のキューの頭を撫でていた。


「・・・・・・まあともかく、相手も余計な被害を出したくないなら、まず正面からかかってくることはないでしょう。くわえて少し外で暴れています、こちらの力もある程度分かっているでしょうし。となれば相手は交代で俺たちが出てくるところを見張っているでしょうね、今頃はせっせと罠を作っているところだと思いますよ。」


「でも出口はあそこだけよ、ほかにここから出る場所はないわ。出る方法が一つなら、思い切ってそこから出てみてはどう?このままここに長居してみんな元の地下生活に戻るなら、少しの犠牲がでてもそっちのほうがまだましとは思わない?」


女性の意見は至極最もだった。時間を無駄にかけるだけかければ、上での待ち伏せは用意周到になるだろうし、こちらは地下なので飲食は愚か、呼吸すらいずれ困難になるだろう。


だがシノトは、その言葉に首を振ると背後の壁を叩いた。その場の皆がその行動の意味が分からず、言葉の続きを待っているとシノトは少し照れたように言葉を続ける。


「ここって、街の中心からはかなり離れているんですよね。というかほぼ壁際です。たぶんですけど、街の真ん中に近い場所にこんなものを作るほど、常識はずれではなかったんでしょうね。」


まだ話の先がわからないのか、皆視線で話の先を催促する。シノトもこの反応は予想外だったのか、もはや困ったかのように投げやりに説明した。


「まあつまり、こっち側に穴を掘って外に出ようというわけです。崩落とか危険はあると思いますが、まあとにかく頑張ってみましょう。」


もちろん、反対の声が上がった。

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