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狂ったリクツの絶対正義  作者: 狂える
二章 狂人は新しい夢を見た
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第二十一話

とある湖の辺に、闇に紛れるようにして小さな小屋が建っていた。小ささとその森に溶け込むような雰囲気が印象的なその小屋からは、窓に反射する月明かりの他にもう一つ、中からほのかにこぼれる灯りがその小屋への唯一の道しるべとして夜の中を照らしている。


「・・・・・・ふざけるな、お前わかっているのか!お前のやっていることは国王様の定めた法に反したことだぞ!」


小屋の中から声がする。男の声だ。男のセリフは威勢を張ってこそいたが、隠せない怯えが明確に表れるようにその声には悲鳴が含まれていた。


「ふざけてるのはどっちだと思う?あなたのせいで私は全てを失ったのよ、あなたが私を裏切ったせいで。私は私の人生を失ったわ、この悲しみがあなたに分かって?」


今度は女の声だ。まだ年若そうな高い声は、男とは対照的にこれから来るであろう喜びに満ち溢れていた。しかし聴く者が聞けば、その言葉には悪寒を走らせずにはいられないものでもある。


「お前の人生など知ったことか!俺は俺の人生を生きているのだ、そんなもの気にもかけんわ!第一俺はもともとお前を騙すつもりで近づいたんだ、裏切られたなどと錯覚してもらってもはた迷惑でしかないわ!」


男がそのセリフを言い終わった直後、小屋の外まで男の叫び声が響き渡った。光と声だけが漏れる小屋の外では何が起こっているのかなどてんでわからないだろうが、誰がそれを聞いてもあまりよろしくないことが起こっているであろうことは想像できそうだ。


「あなたは!私を!私の人生を!奪った!奪った!奪った!裏切った!裏切った!裏切った!」


「や、やめ――――――」


女の声が断続的に響くたびに、男の悲鳴が明滅して夜の森に響く。小屋の外からでは何も伺えない、情報として提示されるのは女の奇声と男の叫び声、そして変わらず漏れ続けるほのかな光だけである。いや、まだあったか。それは男が悲鳴を上げるたびに・・・・・・いや、その音が鳴るから男が悲鳴を上げているのであろう、ハンバーグを練るときのような音が断続的に聞こえる。その一連のことはかれこれ長く続き、この深い夜のように延々と続くものとばかり思われていた。


ふと、音が止んだ。森は一旦静けさを取り戻し、小屋から漏れるものも光以外に男のものと思われるかすれ声のようなものだけとなった。先程までが夢だったかのごとく突然そう変化したが、小屋から漏れる光が大きくなったとき小屋の中に新しい誰かの声が増える。


「・・・・・・ああ、とりあえず子供には見せられない光景だな。とんだ場所に出くわしたもんだ。」


「――――――黒人。」


小屋の中にいた女性は、どこか夢心地気味に男の容姿を見てそうつぶやく。黒い髪、黒い目を備えた少年は、その言葉には直接答えることなく小屋の外に何か言うと、小屋の中へ入ってその戸を閉じてしまった。











時は少し前まで遡る。シノトがカレジ達兄妹に出会ってから既に数日が経った頃、シノトは眠れる二人の兄妹をワイバーンの背中に乗せて夜の道を歩いていた。


「今日はえらく静かだなあ。こんな眠りやすそうな日にはこの子達にもゆっくりと布団で寝てもらいたいものだけど。」


シノトはしみじみとそうつぶやくと、隣を歩くワイバーンの背中を見た。シノトの半分を少し過ぎたほどの歳を持つ二人は、深い眠りに誘われているとは言えここ数日まともな寝床で寝ていない。この世界に来てしばらく経つとは言え、野宿の経験がほとんどなく、まして地面の上に直接寝ることなどしたこともないシノトにとって、二人のそのような睡眠状況は非常に芳しくないものだった。


「どこかでちゃんと寝られる場所があればいいんだけどね。いっそのことベット作るか・・・・・・いや、旅する上であの二人がちゃんと眠れそうなものなんて持って歩いたらかさばるなんてもんじゃないしなあ。」


シノトのボヤキに反応してか、ワイバーンも鼻を鳴らす。ああだこうだシノトがいっている間にも歩き続けた一人と一匹は、気づけばいつの間にか見える範囲に湖が見える場所まで来ていた。するとどうだろうか、湖に反射しているためか夜にも関わらず僅かな光が見えている。


「生き物の光には見えないけど、たしかこの湖の近くには何もないって地図に載ってたはずだけど・・・・・・まあいいか、行こう。もしかしたら休める場所があるかもしれない。」


シノトはそう言うと、一応周りに警戒しながらも小屋へと歩を進めた。金人の国の中だからそこに明かりがあれば金人は十中八九いるのでは、などということはシノトも承知の上での行動だし、誰が止めようが結果は変わらない。ただ唯一その場でシノト以外に意思を持っていたワイバーンは、何も言わずシノトについて歩いていくだけだった。












シノトがその光景を見たとき、一番最初に感じたとこは『ただただ赤い』という単純なものだった。木を組み立てて作られた、シノトが以前住んでいた小屋とほぼ同じ作りのそこは天井、壁、床、所々に真っ赤な何かが飛び散っている。無論ペンキなら、なおかつそれが芸術だというのなら、シノトも眉をひそめるようなことはしない。だが、小屋の中を満たす匂いはシノトも昔よく嗅いだ匂いで、その匂いがなんの匂いだか知っているシノトは自然とその赤がなんなのかを理解していた。シノトは小屋の中、ほぼそこの中心にいた女性に声をかける。


「・・・・・・誰が何をしようというのは自由かもしれないけど、まさかこれはあなたの血じゃ――――――」


シノトが全て言い終わる前に、シノトをじっと見ているだけだった女性はシノトに刃を立てようと襲い掛かっていた。本来ならそのなんの変哲もない刃物にシノトを傷つけることはできず、シノトもそれを知っているからこそわざと刃を当てさせて戦意を落とそうとするのだが、シノトは自分でも知らずうちにその女性が持つ刃物の突進を寸前で受け止める。思いのほか強かったのか、シノトに握られた女性の手首は嫌な音を立て、その痛みに女性がうずくまったことでシノトはやっと自分が何をしたのかを理解した。


「あ、あのすみません。でもさすがに初対面で刃物を突きつけるのはどうかと思うのですが?」


「そこの黒髪、俺を助けろ!報酬ならなんでも出すぞ、だから俺を殺すのは寄せ!そこの女はどうでもいい、だが俺はマスタル家当主のグリアースというものだ、俺を活かしておけばいいことは必ずあるぞ!」


シノトは女性を見ようとかがみ込んで、そこで別の声がするのでそちらを向くと初めはその光景に意味が分からず、だが明らかに生きており、そしてそこで磔にされている男を見て戦慄した。


「こ、これは一体・・・・・・」


「黒人でもこの光景には驚くのね。でもあの男はこれだけのことをされてもおかしくないことをしたのよ。報いというものだわ。」


「その女の口車に乗せられるなよ!」


男はわめきたて、女はさざ波のように静かに囁く。シノトはとりあえず女性がなぜかもう敵意を抱いていないことを確認しつつも、呆れるように呆然とつぶやいた。


「一体、なんでこんなことを?」


シノトの言葉に、女性はいつかの若くまぶしい時を思い出すような顔で、ポツリポツリとある男女のお話を話し始めていた。


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