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狂ったリクツの絶対正義  作者: 狂える
二章 狂人は新しい夢を見た
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第二十話

水平線の向こうから日が差すとともに、シノトの歌も終わりを迎えた。夜明けの光は真っ直ぐにシノト達に降り注ぎ、シノトは朝の訪れを感じるとその場で立ち上がる。シノト達が今いる場所は平原と森のちょうど境目のところで、シノトは目の前に広がる広大な大地と青空をその目に焼き付けていた。


「・・・・・・ふえ、おじさん?」


ふいに、少女の声がした。シノトがそちらを振り向くと、ノスタルジアは起きたばかりなのか目をこすって口を大きく開いている。どうやらまだ眠そうだが、目の前に広がる景色を見て眠気も吹き飛んだようだ。


「ここ、こんなに綺麗な場所だったんですね。」


「ホントだよ、おかげで朝からいい気分だ。」


さわさわと吹く向かい風は程よく、向こうから登る朝日は大地の壮大さを彷彿とさせる。だがそんな景色を眺めていると、視界の端に見えたものが気になってシノトは横を振り向く。そこには緑の地面に明らかな違和感を持つ、赤の小山が鎮座していた。シノトは今までも何度か見た光景だったが、ノスタルジアにとってこの生き物が寝ているのを見るのは初めてらしい。


「あれって、昨日私たちを乗せてくれたワイバーンですか?思ったよりも大きいんですね。」


「大事に育てられてたからね。ノスタルジアさんも、優しく接してあげてね?」


シノトがノスタルジアを見下ろしながらそう言うと、なぜかノスタルジアは急に振り向いてシノトと目を合わせていた。その目に映る自分を見ながら、シノトは何かあるのかと思い尋ねてみる。


「どうしたの?」


「ノスタルジアさんって長くはありませんか?よろしければ、ノアって呼んでくれて構いませんよ。私もよくそう呼ばれていたので慣れてますし。」


思いがけない提案だったが、シノトはその申し出をありがたく受けることにした。シノトは名前の長さにに呼びにくさは感じていなくても、とっさの時が来たときに対応力が勝るほうを選んだようだ。


「気を使わせて悪かったね。じゃあお言葉に甘えて、よろしく頼むよノアさん。」











「それで、どうやって食べ物を見つけるの?」


日が昇って少し経ち、シノトはカレジのあとに続いて森の中に入っていた。手入れもされていないためか、どこかしこに生える草をかき分けるカレジは、手を動かしながらもそう言われて、何本か草を引っこ抜くとシノトの方に放る。シノトは慌ててそれを受け取り、手のひらを覗くとそこには毒々しい見た目の草が何本か握られていた。どうやらこれを食べる気らしい。


「僕は森で食べれるものを知っているので、それを取っていくだけです。」


シノトは手に持った食べる気らしいこれをみてカレジを止めようか迷い始めた。確かに食べ物の確保は大事かもしれないが、命はもっと大事だ。食べ物だって僅かにだが、干し肉は一応二人が食べる分はある。だがカレジが自信有りげにそういった以上、それを疑うわけにはいかないと思ったシノトは信じるしかなかった。


シノトはこの世界に来てほぼ二年経つが、何度も言うようにこの世界の物事をあまり知っていない。故に食べれる物の見分けが付かないシノトがここにいるわけは、カレジの身辺警護のためだ。だが生き物の気配はするのに小鳥一匹見当たらないような森の中では、シノトも周りを注意してはいるもののやることがなく、カレジの作業を後ろから眺めていれば、時たまする不自然な動きに気づくのも当然のことであった。


「珍しい植物が多いの?随分と熱心に見入るね。」


「いえ、随分と見たことない植物が多いなあって。珍しいのかもしれませんね。」


カレジはそう言うと、また見つけた食べれる植物をシノトがもっていた袋に詰める作業に戻っていた。見つけたらしい珍しい植物も持っていくのかとシノトは思ったが、それは別にして脇に積まれているあたり持って行く気はないようだ。


しばらくして、袋を半分ほど膨らませた袋を下げてカレジとシノトは、何かに襲われることもなく帰路に着いていた。道はシノトが覚えていたので前をシノトが歩いていたのだが、それまでほとんど話さなかったカレジの一言に思わず後ろを振り返る。


「あ、そうだ。お兄さん戻ったら、僕に剣の使い方を教えてくれませんか?」


その一言で、シノトは忘れかけていた頭痛を再び呼び覚ましていた。思わずわずかに頭を抑えようとシノトは手を挙げかけていたが、頭を振って誤魔化すと唸るように呟く。


「・・・・・・君も猟がしたいとか?」


「僕はまあその、猟はあまり好きではないんです。覚悟が足りないとか言われればそれまでなんですけど・・・・・・すみません。」


シノトにそう言われて、気まずそうにそう言ったカレジは急にひとまわり小さく見えた。その反応が意外だったのか、シノトは一瞬だけどうしたらいいか迷っていたが、とりあえず誤解を解くことにしたようだ。


「謝ることはないよ、怒るつもりで言ったわけじゃないんだ。俺こそごめんよ。でも意外だね、ノアさんはそういうのが好きって昨日言ってたんだけど、君はそうじゃないんだ。」


「あいつが普通なんです。僕だけじゃない、村にいたみんなは大人はもちろん子供まで、生き物を殺すことに抵抗を覚えたのは僕だけでした。見かねた母さんが、僕でも食べ物を探せるように植物について教えてくれたんです。」


そういうカレジは寂しそうにしていた。小さな村で一人だけ異端な子供、その生活がどうだったかは、なんとなくだがカレジの顔から読み取ることができている。


「・・・・・・嫌なことを思い出させちゃったみたいだね。実際に使えるかはわからないけど、剣の扱いは俺なりに教えさせてもらうよ。」


シノトがそう言うと、カレジはさっきまでが嘘のようにその顔に笑顔を咲かせる。それを見てやはり子供はこうでないとと思いながらも、シノトは先導してノスタルジアのところへと帰っていった。











「そう、そうもって。ええと、ここはこういう感じで、そうそう、いい感じだよ。もっと力が抜ければなおよしかな。」


食料を取ってきたあと、少しの時間を割いてシノトは早速カレジの願いを聞き入れていた。適当な長さの木の棒を持ってきたシノトは、まずはその持ち方を教えるべく自分も木の棒を持って手本を示している。


「・・・・・・おじさんって剣が使えたんですね。てっきり持ってないから、使えないものかと思ってました。なんで使わないんですか?」


木陰で二人の様子を見ていたノスタルジアは、不思議そうにシノトの立ち姿を眺めている。シノトはカレジに続きを教えたかったが、カレジはまだ持ち方がしっくりこないのか手元で微妙に調整を続けていた。ノスタルジアが聞きたそうによこす視線に少し視線を彷徨わせたが、結局話すことにしたようだ。


「俺は昔、剣と似たようなものの扱いについて師事してもらったことがあったけど、教えてもらう前にひとつ約束事をしてね。俺が教えてもらったことを使っていいのは、誰かを傷つける以外の目的でしかやってはダメなんだ。」


「アハハ、おかしい!それじゃあ何のために教えてもらったんですか!」


「俺の故郷じゃそういうものなんだ。現に、俺が教わったものでそういうことを約束しなかったのは柔道ぐらいだし。まああれも、俺が小さかったからかな。」


そう言うと、シノトは懐かしそうに手に持つ木の棒を握り直した。木の棒に注がれているはずの視線は、どこか別の場所を見るかのように視線が定まっていない。だが、きっとまだ幼い頃のことを思い出しているであろうシノトを、カレジの一言が一瞬で現代へ引き戻した。


「お兄さん、次は何をすればいいでしょうか?」


シノトがそちらを見やると、それでしっくりきたのか先程とほぼ変わらない構えでシノトに木の棒を向けているカレジがいた。その姿を見て、なにか不安に思ったのかシノトは念を押すようにもう一度確認する。


「本当に俺が教わった通りでいいのかい?変な癖がつくと後でちゃんとした人に教えてもらう時に苦労するよ?」


「そんな時が来るなら、そのときはたっぷり時間をかけて教わります。」


「お兄ちゃんの言うとおり、おじさんは何も心配しなくていいよ?」


カレジに続きノスタルジアも元気な声で答える。いつの間にか手に木の棒を持ったノスタルジアは、カレジの隣に立ってシノトの指示を待っていた。棒の持ち方についてはノスタルジアも聞いていたので出来るのもうなずけるのだが、シノトはノスタルジアがこれをすることに関しては正直気が進まないようだ。


「・・・・・・それならそれでいいけど、ノアさんもやるの?」


「もちろんです!」


元気いっぱいな声に、だれかのため息が漏れた。











少しだけシノトが二人に指導したあと、荷物・・・・・・といってもシノトの鞄だけだが、それらをまとめるとシノト達は丸くなっていたワイバーンのそばまで歩いて行った。シノトが近づいたことに気づいたのか、ワイバーンは目を覚ますと両翼を広げて伸びをしたが、それで余計に傷が見えやすくなる。傷が治りきるのは、当分先のことになりそうだ。


「追っ手は来てないみたいだけど、こいつも飛ぶには体が治りきってないしなあ。」


「おいていくわけにはいかないんですか?」


ノスタルジアの言葉にシノトは首を振る。シノトをじっと見るワイバーンの目に微塵も疑いの色が写っていないのを感じてなのか、シノトは一緒に行くことを選択したいようだった。


「俺のために飛んできてくれたわけだし、裏切るような真似はしたくないよ。」


「しかしいつまでもここにいるわけにはいきませんよ。お兄さんも同じですよね。」


カレジの同意を求める声にも、シノトは唸るだけだ。何かいい方法があればいいが・・・・・・とシノトは考えたが、思いがけないところから解決法は出された。


「なるほど、でもそれでいいのか?」


シノトが見上げる先、ワイバーンはその巨体を二本足で支えて立っていた。主張するように翼を広げるワイバーンの言いたいことがわかったのかシノトが頷くと、ワイバーンもそれに答える。


「なんて言ってるんですか?」


「言ってるかどうかはわからないけど、要は歩くことなら出来るってことみたいだ。」


シノトがそう言うと、それを肯定するかのようにワイバーンは地面を二度踏み鳴らす。実に頼もしい地面の揺れ方だった。シノトは後ろに居た二人の方を見る。


「よし、じゃあ行こうか。二人共、歩くのは平気?」


「僕は大丈夫です。」


「疲れたら、ワイバーンの背中に乗ってもいいですよね!」


前の言葉はカレジ、後ろの言葉はノスタルジアのものだ。シノトはいざという時はワイバーンに乗せればいいかと思いつつも、こうして三人と一匹の旅は始まった。


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