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狂ったリクツの絶対正義  作者: 狂える
一章 城の庭にいた狂人
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第二話

俺たちは、一体何のために生きているのだろうか?


進歩するため?子を残すため?名を刻むため?それとも、いつか立派な墓に眠るため?


もちろん、皆答えをもう持っているだろう。そうでなければ、まだ模索している段階のはずだ。そうやって、いつか自分の答えを見つけて、自分の道を進み始める。そうやって多くは、自分の生涯を終える。


普通は・・・そうなのだろう。


だが俺には、どうにもわからない、自分がここにいる意味が、その必要が全くわからなかった。少なくとも自分では、どれだけかけても見つけることは不可能に感じていた。


だからたとえ、この世界よりもはるかに地獄だったとしても。


その世界で俺に意味があるものだとしたら、俺はどんな世界であろうと、受け入れるだろう。


どれだけ孤独であっても、到底不可能な試練があっても、身を切るような選択であったとしても、俺は全てをかけて、それを乗り越える。生きた理由を全うしてみせる。


それこそが、俺が唯一望んだことなのだから。











月に照らされたその髪は、漆のように深く艶やかに光を返す。その髪のようにまた黒い大きな瞳は、見える範囲全てに敵意を放つようにらんらんと輝いている。そしてその小さな口は、搾り出すように言葉を囁いていた。


「・・・・・・殺してください。」


「ダメ。というかまあ落ち着いて、まずは自己紹介でも始めようか。」


少女の前に立つ男のその言葉に、少女は後ろ手に縛られた手をきつく握り締める。しかし何かしらの感情からか震えていたその拳は、男からは死角だったためか男はさして反応もせずに話を続けた。


「名前はシノトリクツ。多分年齢は、今はもう十八歳ぐらいかな?見ての通り黒髪黒目、黒人というやつだよ。以上!よろしく!」


「・・・なにか要求があるみたいですね。先に言っておきますが、私は何も言いませんよ。」


平静を装った少女は、シノトリクツと名乗った男に目線を固定したまま、自分を拘束する縄から脱出しようと試みていた。少女を拘束する場所は三ヶ所、背もたれの後ろで組まれた両腕の間、そして椅子の足と少女の両足だ。暗器も全て取り上げられていたため縄を切ることはできず、少女が縄を抜けるためにはバレないように身をよじらせるしかなかった。


「まあ、そんなこと言われたって警戒するのが当たり前だよね。なんせおそらくは君の国と、俺の今いるこの国は戦争をしていたから。しかもこっちの国が勝ったんだ、警戒しないほうがおかしいよ。」


「・・・一応私のほうが侵入者なのですが、あなたが警戒しないのはおかしなことではないのですか?」


「いやいや、むしろ渡りに船と思ったくらいさ。」


響かないようにとの配慮のためなのか、やけに声を潜めた声だったが、少女はそこににじみ出ていた喜色に疑問を感じざるをえなかった。一瞬の間の後、少女は声に少し感情を含ませながら、それでも手は冷静に縄を解こうと動かし続ける。


「それはどういうことですか?」


「いやね、もう少しで頼んだものもできるってことだけど、もう随分と長かったからね。ほら、俺髪の毛と目の色が君らと同じで黒いだろ?この国ではそれで結構煙たがられててね、普通に話せる人が欲しかったところなんだよ。」


「おかしな話ですね。あなたはそんな扱いを受けてなお、この国に助力したのですか?・・・まあ、そんな話はいまさらですね。ですがこれだけはいっておきます、この国でも、たとえあの尊大なソーン国でも、あなたと話したがるどころか関わりたがる人はいません。」


「はっきりと断言しちゃって、冗談が少しきつくないかい?」


眉をハの字にして、それでも笑顔は崩さず明るい声色を出すシノト。月の明りが明るく部屋を照らす中、少女は表情のない顔で、笑い続けるシノトをじっと見ていた。目の奥に暗いものがチラホラと見え隠れしながらも、少女は冷静さを保とうとする。


「さ・・・あなたの功績は、広く知れ渡っているところです。単身でソーン国の戦略の要であった砦に侵入、同砦にいた兵士たちを惨殺し、ニイド国の勝利に大きく貢献した黒人。その髪と目が汚い金色に染まっていたら、国の英雄として今頃迎えられていたでしょうね。」


「うーん、言い方に棘がある気がするのは気のせいかな?」


笑顔を絶やさず首をかしげるシノト。少女はそんな彼を無視して、静かに視線を床に落としながら会話を続ける。


「あなたは人を殺しすぎた、しかもこれ以上にないくらいそのことが広まってしまった。黒人の国であるソーン国なら受け入れられたかもしれませんが、今ではそれすらかなわないでしょう。さあ聞きたいことは聞けたはずです、早く殺してください。」


そう言って少女は静かに目を閉じ、首を切りやすいようにシノトの前に頭をたれた。しかし、夜の静寂と月明かりとともにこの場を支配していたシノトは、今日この場で初めて少女の行いを見て顔を曇らせる。まるでそのこと自体が不満であるかのようなシノトの表情は、頭を下げた少女の瞳には映らない。


「・・・なんでそんなに死にたがるんだ?君には、俺に何度も頼むほど死にたがる理由があるのか?」


「捕まれば、ひどい拷問を受けるのは今も昔も変わらないことです。ことにここは残虐極まりない金人が集まるニイド国、どんな拷問が待っているかなんて、考えただけでも恐ろしい。」


「それなら俺に言ってもどうしようもないと思うんだけどな。俺が君のことをほかの人に話したりしてたら、もうそろそろ拷問する人が来ることだろうし。」


「いいえ、それはまずないでしょう。第一に、金人の国であるこの国で、よっぽどあなたに頼らざるを得なくなる、または相当な汚れ役以外で、あなたがなにか役割を持たされることはありません。見張り役などもってのほかでしょうね。そして第二にですが、この拘束の仕方は素人のものです。」


そう言って拘束が解けた両手を見せた少女は、意表をついて勢いよくシノトに飛びかかった。一瞬でシノトを地面に組み伏せた少女は、間髪入れずにシノトの首を絞め始める。少女の勢いで椅子の倒れる音が響いたあと、再び響いた声の主は、首を絞められているにも関わらず、全く平静と変わらない声で話し続けた。


「・・・君の目的は、最初っからこれだったよね。これでもう満足かい?」


返事はない。少女はただ懸命に、目の前の一人の男を殺すために、その両手に全体重を乗せていく。未成熟とは言え、人一人の重さ。しかもそれなりに訓練を積んできた人間だ、抵抗しなければただでは済まない。だが、シノトは全く何をする素振りも見せず、少女の暴力に付き従っていた。そして沈黙がしばらく支配した後、ゆっくりとシノトの首から手を離した少女は、震える手を抑えつつ後ずさる。青ざめた彼女の顔は、今だに平気な顔をして生きているシノトと実に対照的だった。


「君さ、俺の従者になってくれないかな?そうすれば俺も、君がもしそれを断った場合に腹いせとして、ソーン国に出向かなくても良くなるからさ。」


シノトのその言葉がどんな意味を持つのか、それを瞬時に理解した少女は奥歯を噛み締める。だが、鋭くなる目つきとは対象に、未だに手は震えたままだった。


「私とソーン国は関係ありません。そのような脅しをする意味、理解しかねますね。」


「なら断るかい?」


「・・・無関係な人の死は、私の望むところではありません。」


後の言葉は言うまでもなかった。シノトはまた笑顔を作ると、どうしていいのかわからないのか、変な顔をした少女の前で立ち上がる。その顔がしてやったりといった顔に見えたのか、少女は少し険しい顔をしたがシノトは気づく素振りも見せない。


「じゃあよろしく、暗殺者くん。きっと俺たち、いい友達になれると思うよ。」


「暗殺者ではありません。私の名前は、ちゆのといいます。・・・よろしくお願いします。」


こうやって二人は、一緒に暮らすこととなった。


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