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狂ったリクツの絶対正義  作者: 狂える
二章 狂人は新しい夢を見た
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第十八話

「ところで、フードのおじさんはどうやってこの街に入ったのですか?」


シノト達は目的も確認したところで、どうやってこの街を出るか相談し合っていた。とはいえカレジもノスタルジアもこの街でのほとんどを檻の中で過ごしてきたし、街を囲む壁もその外のことも全く知らない。必然的に計画は、シノトの話を聞きながら組み立てることになる。


「おじさんかあ・・・・・・俺もこっちに来てから多分二年経つから、十八歳かなあ。」


「十八歳はおじさんではないのですか?」


「いや、まあそうだね。ここから出ることに関しては問題ないと思うよ?さっきみたいに俺が抱えて飛んじゃえば済む話だしさ。」


ノスタルジアの言葉から立ち直ったシノトは、あっけらかんとそんなことを言った。実際シノトはこの町に入るときも、したことは見張りの薄そうな壁をよじ登ったことだけだ。それだけで簡単に入ることはできたのだ、出ることだってシノトにとってはそう難しいことではないだろう。だがそんな提案にもノスタルジアは首を振る。


「それはいいのですが、その場合見つからないようにというのが難しくなります。この街の外は平原と言われましたが、おじさんは森に着くまで私達を抱えて馬から逃げられますか?」


ノスタルジアの言葉に素直に頷こうとして、そこでシノトはふと何を思ったのか急に黙り込んだ。それを見て不思議に思っている兄妹のうち、カレジとシノトの視線が交差した。


「・・・・・・話が突然変わるけど、俺と会った時の逃走計画立てたの、あれカレジ君?」


「そうですよ。でもそうですよね、ノスタルジアにもちゃんと計画を話しておくべきでした。おかげでノスタルジアも危ない目に合わせてしまいましたし。」


シノトは薄々わかっていたことがある。まだ付き合いの短い二人だが、どうやらカレジの方は決断力と行動力はあるが後先をあまり考えない性格らしい。一方でノスタルジアの方は計画性はあるのだが、積極性の方はあまりないみたいだ。


「まあこういうのはノスタルジアさんの方が得意みたいだし、カレジ君もよくノスタルジアさんの意見を聞いたほうがいいかもね。」


「もう、お兄ちゃん!おじさんも話をそらさないの!」


じれたノスタルジアが、話を元に戻そうとする。話をそらしたのはシノトの方だったのだが、シノトと一緒に怒られているカレジを見てシノトはこれが兄妹なのかと思わず感心していた。シノトはカレジに内心謝りつつも、本題について自分が思ったことを口にする。


「真剣な話だけど、俺は二人を守りながらここから出る自信があるよ。手段を選ばないなら・・・・・・というのはやめておこうか。」


「何か言いかけましたか?」


シノトはうっかり乱暴な言葉を使おうとして、そこでその視界に無垢な兄妹の瞳を移した時に思いとどまり考えた。シノトの目の前にいるのは、年端もいかない子供だ。シノトは、何もいま最終手段のことを言わなくてもいいような気がしてきていた。シノトのような人間が今更ではあるが、わがままを言うなら彼らにはまだ夢を見てもらいたいようだ。


「出る方法はともかくさ、ここから出た後二人は食べ物はどうするの?一応この袋には干し肉が入っているけど、せいぜい二人が食べるとして一日分しかないよ?」


露骨な話のそらしかただったが、心配そうにシノトを覗き込んでいたためか兄妹は対して怪しむことはなかった。シノトが干し肉を取り出そうと袋に突っ込んだ手をカレジは掴んで首を振る。


「その干し肉はお兄さんが食べてください。僕らはそこまでお世話になるわけにはいきません、道すがら木の実などをとって食いつなぎます。」


「道すがらって・・・・・・そんなに簡単に食べ物は手に入るの?」


「見つからなくても、数日なら水だけでも生きてはいけるのでどちらかというと水の確保が大事ですかね。川でも流れていればいいのですが。」


ノスタルジアがその言葉に頷いている間、シノトは二人の様子を不安そうに眺めていた。











日は沈み、街には夜の帳が降りていた。暗くなった街のあちこちに点々と明かりがある中で、この時に行動するために今まで寝ていたカレジ兄妹は目を覚ます。


「ふああ、おはようございますおじさん。それにお兄ちゃんも。」


あくびをしたノスタルジアは、最初こそ大きなものだったが・・・・・・いや、まだ目が半開きであるところから眠り足りないのだろう。一方でカレジの方はシノトに起こされるとすぐに起き上がり、シノトと一緒に外の様子を伺っていた。緊張で眠れなかったのかもとシノトは一瞬心配したが、それも無用なことのようだ。


「見張りありがとうございます、上手く暗くなってくれましたね。ところで本当に寝なくていいんですか?」


「俺の心配は無用だよ。さあ、行こうか。」


星明かりも少ない中、シノト達は行動を開始する。あらかじめ決められたルートというより、ただ最寄りの壁への最短ルートをたどっていったのだが、この暗い中では見回りの兵士がかざす明かりは遠くからでもよく見え、三人は無事に壁の前までやって来ることができた。


「すみません、結局お兄さんに全部任せることになってしまって。」


壁を目の前にして、改めて目測を図っていたシノトに向かってカレジは申し訳なさそうだった。シノトは見上げた視線をそらさずに、その言葉に肩をすくめる。


「いいよそんなこと。それよりも、よく今夜中に出ることを決断したね。」


「この街は金人で溢れていますし、食べ物を盗むにしても隠れ場所を探すにしても長くは持ちません。中にまだ私たちを探している兵士を割いている今なら、まだなんとかなるかもと思いまして。」


ノスタルジアがそう言っている間にシノトも目測を終えたようで、これはあらかじめ決めていた通りシノトと兄妹が向かい合わせで立つ。シノトが二人に目配せすると、もう一度天を仰ぐ。


「それじゃあ二人共抱えるよ、後ろの見張りはよろしく。」


そういうとシノトは頭が後ろに出るように二人を脇に抱えた。間髪入れずに少し膝を曲げ、そこから一気に上に飛び上がった。目指すのは壁の上、ついさっき松明が通り過ぎた場所だ。


「だれだ!」


壁の上にいた衛兵は少しの音に敏感に反応し、金属音とともにすぐさま振り向いた。だが音のした場所には何もなく、吹く風は相変わらず衛兵の持つ松明を揺らしている。











シノトが壁を越えるのに要した歩数は、たったの二歩だった。まず一歩目は壁を越えるための跳躍、もう一歩は壁のヘリから壁の向こう側へ飛ぶための一歩。壁の向こうへ降り立ったシノトは、見つかったかどうかを確認することなく目の前の闇へと走り出していた。


「どう、上手く逃げ切れそう?」


「火矢が来ます!お兄さん、右に避けて!」


シノト達が街から出たことはなぜかすぐにバレたようで、夜の空には既に何本かの火矢が舞っていた。カレジはすぐに避けるように言ったが、その言葉は明らかに間に合っていない。結果、何本かの矢はシノトの足に突き当たった。


「きゃあ!」


「お兄さん大丈夫ですか!」


ノスタルジアがその光景に叫び、カレジはシノトの身を案じた。だが彼らの視界の中でシノトの足に当たったはずの火矢が弾かれ、空を舞っているのを見て今度は絶句する。


「君らに当たらなかっただけ良かったよ。外套も袋になおして正解だったね。」


何事もなかったかのように言うシノトだが、危機は去ったわけではなかったようだ。火矢が効かなかったためか、それとも最初からそうするつもりだったのか、壁の方から新たな危機がシノト達めがけて放たれる。


「松明が近づいてきます!」


ノスタルジアの言葉通り、闇に光るいくつもの松明は徐々にシノト達に近づきつつあった。シノトも常人離れした速さで走っているが、それに追いつかんとする速さとやけに高い位置にある松明は、追ってが馬に乗っていることを示唆している。


「うーん、馬に勝てないのか。しかたないか。」


ノスタルジアの言葉を聞いたシノトは唸ったあと、その足を止めていた。必然的にその背後から迫る松明はさらに急速に接近していくが、特に慌てた様子もなくシノトは抱えていた二人を下ろす。シノトの予定外の行動に戸惑う兄妹だったが、シノトが松明から二人を庇うようにして立ったことでその意味を悟ったようだ。


「ここで足止めしておくから、二人はなるべく遠くまで走るんだよ。あとで合流するから。」


有無を言わせぬその口調に、兄妹は一瞬抵抗したがすぐにその言葉に従って夜の闇に消えていった。シノトが振り向かず、近づいてくる松明のほうを向いて立っていると、やがて近づいてきた騎馬兵たちはシノトを取り囲むように、その周りを回り始める。


「死ね!」


突然そう叫んで騎馬兵の一人がすれ違いざま、シノトに剣を振り下ろした。シノトの背後からの攻撃だったが、シノトは見もしないでそれを避けると逆にその騎馬兵を馬の上から引きずり下ろしていた。それが合図だったかのように周囲の騎馬兵が一斉にシノトに襲いかかる。シノトは時に剣をかわし、時に騎馬兵を引きずり下ろしながら一人つぶやく。


「ほんとに口が悪いな。学校はあるって聞いたんだけど。」


ただいまのままなら、シノトは誰も殺す必要がなさそうだった。











星明かりも少ない夜の平原、シノトとその追っ手である兵士達が接触してからしばらく経つ。シノトがついに追っ手の半分程を引きずり倒したところで、追っ手の兵士たちにも焦りが出始めていた。


「く・・・・・・ちょこまかと逃げやがって!」


「応援の笛を吹け!援軍の要請だ!」


兵士達が叫び声を上げるが、今更になってこんなことを言い始めたのは、とにかくシノトが時間稼ぎに徹していたからだった。主にシノトがとったのは回避行動で、大きな隙があれば怪しまれない程度に相手を引きずり倒す、その繰り返しだ。だが兵士達の声を聞いてシノトも退路を模索し始めていた。


「あの子達ももうそろそろ逃げ切れたかな?援軍とやらが来る前に逃げたいんだけど。」


つぶやく間にも、騎馬兵たちはシノトに剣を突き立てんと馬がシノトのそばを走っていく。シノトに剣は効かないが、シノトが散々かわし続けているために兵士達はそのこともわかっていない。だが、もっとも有効な手段は既に見つけていたようだ。


「うげ、いつの間に。」


シノトの視線の先では、シノトも気づかぬ間に先へ行っていたらしい騎馬兵二人が、それぞれカレジとノスタルジアを抱えて闇の中から現れていた。気絶しているのか、身じろぎ一つ取らない彼らを抱えた兵士はシノトによく見えるようにシノトの周りを回る。


「おとなしくしろ!こいつらが死ぬ事になるぞ!」


シノトは兄妹に剣を向けている兵士に視線を固定したまま、じっと動かなかった。もちろん二人を取り返すこともシノトには距離的にできることではあるが、取り返す過程で兄妹が命を落とす可能性がないわけでもない。おまけにもし二人を取り返せたとしてもまた二人を守りながら逃げなければならず、シノトだけならともかくほかの二人を守れる自信はシノトにはなかった。


兵士はシノトが動かなくなったことにニヤリと笑うと、顎で他の兵士たちに彼を捕獲するように指示をした。指示をされて三人ほど兵士達が馬を降り、シノトを捉えるためにそろりそろりと近づいていく。シノトが捕まるのも時間の問題かと思えた――――――シノトがいきなり、夜の空に響く口笛を吹くまでは。そのあまりに予想外の行動に、今度は兵士達が一斉に動きを止めていた。一方でシノトは、そんな兵士達に目もくれることなく夜の空に目を向けている。


「いやあ、聞こえてたんだね。無茶させたみたいだ。」


「バカが!目の前でなくてもそんなでかい音聴き取れる・・・・・・」


兵士の言葉は、その途中で馬が突然立ち上がったことで途切れてしまった。その兵士達だけではない、その場にいた馬すべてが、突如現れた飛行生物に驚いて混乱に陥っている。


「ワ、ワイバーン?!なぜここに!」


兵士の一人が、その翼の生えた生き物を見て声を上げた。風が巻き荒れ、その場の声が消し飛んでいく中。シノトは素早く、兵士に手放されていた兄妹を抱えると、そのまま着地したばかりのワイバーンに飛び乗った。


「ほら、行って!」


シノトの言葉に答えるように、ワイバーンはすぐさま翼を羽ばたかせ始める。兵士達も逃すまいと飛びかかろうとするが、ワイバーンの羽ばたきがそれを邪魔させ、その風が兵士達の視界を奪う。・・・・・・結局数瞬後のその場には、羽ばたくワイバーンの後ろ姿を眺める兵士だけが残っていた。

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