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狂ったリクツの絶対正義  作者: 狂える
二章 狂人は新しい夢を見た
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第十七話

だだっ広い平原の中に佇む巨大な壁、その前で列をなしていた人たちのその最後尾に、フードを目深にかぶったシノトはゆっくりと近づいていった。


「そこのお方、少し質問があるのですが。この列は街へ入るためのものですか?」


「ああそうだよ。お前さんは検問のある街に入るのは始めてかい?」


シノトの言葉に応えたのは、列の最後尾に並んだ商人風の髭を蓄えた男だった。シノトの頭からつま先まで一瞬で見回した男は、特に警戒心を持つでもなく素直に答える。


「検問というのは、なにか必要なものがあったりしますかね?」


「身分を証明するものか、なくても顔と持ち物の確認と、質問をいくつか、あとは通行料を払えば問題はないぞ。通行料は何度も通るのであればそこそこ痛い支出だが、お前さんのような旅行者ならせいぜい宿の質をひとつ落とすぐらいで済むだろう。」


そう言って列の最後尾に並ぶよう促した男だったが、その言葉にシノトは首を振った。肩から下げている袋を見せると、そこに何も入っていないことを教える。


「ご丁寧にどうも。でも俺はお金がないので、この街は回っていきますね。教えてくれてありがとうございます。」


シノトはそういってその場を後にしようとした。だが何を思ったのか、男はそんなシノトの肩を握って引き止める。その行動に一瞬身構えたシノトだったが、男の行動はシノトにとって予想外のものだった。


「金がないってことはお前さん、食べ物もないんだろ?顔を隠しているあたりワケアリのようだが、これでも持っていけ。」


そう言って男が手渡したのは、保存食として旅には必需品と呼ばれる干し肉だった。シノトは一瞬素直に貰うかどうか考えたが、男の笑顔を見て諦めたのか会釈してその干し肉を受け取る。


「ありがとうございます、大事にしますね。」


男の前で袋にそれを入れたシノトはもう一度男に礼を言うと、町に入る方法を探すべくその場を後にした。











「ここらへんだと思うけど・・・・・・うん、間違いなさそうだ。」


男と別れたあと、シノトはそびえる壁のとある場所までやってきていた。遠くからこの街を眺めていたシノトは、その時に壁の上にいる衛兵の位置を把握している。その結果、いまシノトがいる場所付近には衛兵の姿が確認できなかった。


「さて、遠くからはここらへんに見回りがいないように見えたけど、実際はどうかな?」


そう言うとシノトは、少しのタメを作ったあと、目の前にそびえるおよそ十メートルの壁に向かって跳び上がった。高さギリギリまで飛び上がったシノトはヘリに手をかけ、少しだけ頭を出して壁の上の様子を確認する。が、誰もいないのを確認すると手に力を込めて壁の上に登りきった。だが誰もいないと思ったその場所で声がしたときは、シノトも飛び上がりそうなほどに驚くものだ。


「う〜ん?お前どうやってその壁を越えてきたんだ?もしかしてまた俺は酔っちまっているのか?」


いそいでシノトが声のした方を振り向くと、そこには壁にもたれかかってシノトを見ている衛兵がいた。衛兵の位置はちょうどシノトが二度確認したところから視覚になっているところで、それが原因でシノトは衛兵の存在を見抜けなかったようだ。手に持ったその酒瓶と赤く染まった衛兵の頬、そしてあの独特の匂いで理解したのか、シノトは天を仰ぎ見る。まだ空は青く、日は登り続けている最中だった。


「そ・・・・・・そうですね。確かに酔っています。」


シノトはそっとその場を後にしようとした。幸いなことか衛兵は酔っ払っているようだ、仲間を呼ばれることはないだろうとシノトは思ったようだ。だが、後ずさりしていくシノトの足に、衛兵は釘を刺す。


「お前俺の夢なのに勝手にどっかに行くなよ!この侵入者!大声で他のやつらを呼んでしまってもいいのかな~?」


こんな時ほど、シノトのげんなりした顔を見ることはできないだろう。まだ酒を飲んだことがないシノトは酒の味を知らないが、強く漂う酒の匂いを嗅いで将来酒を飲まないことを強く心に決めた。男はそんなシノトの心中を察してか、近寄るとその肩を強くたたく。


「まあ聞いてくれよ。うちの嫁がよ、俺が戦争から生きて帰ったってのにあんまり喜んでなかったんだよ。なんでかって思ってたら浮気なんかしてやがって。」


「はあ、そうですか。」


シノトの返事は適当だったが、衛兵は気分がいいのかどんどんと喋る。その怒涛の勢いに、シノトの顔の引きつりはどんどんとひどくなっていった。


「まあ俺も向こうで同じような事したし、確かにお相子なのかもしれないでどよ、男と女ではその意味も違うに決まっているし全面的にあいつの方が悪いよな、お前もそう思うだろ?」


微妙にどもっている衛兵の言葉に、シノトは頭を抱えそうになったが、目の前の男に思うところがあったのかその眉をひそめる。通路から別の衛兵が来ないことを確認しながらも、衛兵を一瞥した。


「・・・・・・あなたが悪いかはともかく、不誠実さで吐き気がしますね。酒の匂いのせいかもしれませんが。」


「そうだよな、不誠実だよなお前もそう思うか。まったく、そう言っているのにあいつは全く聞かなくてな。せっかく一夫多妻制になったってのに、女が変わらねえと男はつらいなあ。」


「・・・・・・・・・」


その後も男の愚痴は永遠と続いた。脈絡のない話は隣人の迷惑、昨日食べた料理の話、はては戦争での金払いと多岐にわたったが、聞いたふりをしながら周囲の衛兵が見当たらなくなったのを確認したシノトはその場を立ち去るべく腰を上げる。


「あの、もうそろそろ俺はお暇しますんで。」


「そうか。あ、そうだお前にひとつ言っておくことがある。」


その言葉に疑問符を浮かべたシノトの前で、老兵は大きく息を吸った。それが何の意味を持っているのか、いつの間にか老人の頬から赤みが抜けているのに気づいたシノトは遅れながら理解する。


「侵入者だ!誰かこいつを捕まえろ!」


シノトは外套をはためかせながら、壁の上から街に飛び降りていった。











シノトが壁の上から跳び降りてからしばらくして。普段人気のない路地がにぎやかになったかと思ったら、二つの影が路地を駆けていた。まだ小さい影はなにかから逃げるように、必死で路地の隙間を縫っていく。ぺちぺちと裸足の足音が路地に響いていた。


「お兄ちゃん、もう無理だよ。」


「諦めるな、隙を突いてなんとか逃げ出せたんだ。見つかったけどきっと撒けるはずさ。」


二つの影――――――少年と少女は、ふとその足を止めた。少女は諦めの言葉を吐いていたが、少年はそんな少女を励ましている。前と後ろから迫る足音を聞きながら、抜け道はないかと周りを見渡した少年は、積まれた箱の向こうに人がはいれそうな暗闇があるのを見つけた。


「こっちだ、この隙間に入るんだ。早くしろ。」


「で、でもお兄ちゃん・・・・・・」


「いいから早く。」


少女は入ろうとして、そこで少年になにか言おうと後ろを向いたが少年は構わずに少女を闇に押し込めて、自分もその中に入った。しばらくして金属の合わさる音が二箇所から集まって、次の捜索場所をお互いに確認するとまたそれぞれ散っていく。音が完全に聞こえなくなったとき少年は緊張を解いて大きく息を吐いたが、少女に袖を引っ張られ何かと振り向いたところ、闇の中に佇むフードをかぶった人物が居るのに気づいた。


「あはは、どうも。」


少年は叫びそうになるのをグッとこらえると、いそいで少女の手をとってそこから出ようと引っ張った。だが少女は逆に少年をそこで引き止め、フードの人物に質問した。


「待って、お兄ちゃん。フードのおじさん、なんでこんなところにいるの?」


「君たちと同じかな?ちょっと見つかってね、やり過ごそうとここにいたんだ。」


フードを取った男は、先ほど壁を越えて街に入ったシノトだった。その顔を見た少女は何故か難しそうな顔をしたが、少年は真剣な表情でシノトに提案を出してくる。


「一緒に行動しませんか?この町を出ることができれば、あとはもう迷惑をかけませんので。」


「それは構わないけど、君らはどうしてここに?」


シノトの了解の言葉を聞いた少年は、その先の言葉も聞かずにそこから飛び出していた。先に出た少年は道に人がいないか確認したあと、シノト達についてくるように手で合図する。


「さあ行こう、追っ手は今向こうに行ってる。今なら出られるはずだ。」


「待ってよお兄ちゃん。」


少年に続き、少女も飛び出していったためシノトはそこに一人となる。シノトは少し息を吐いたが、黙って二人についていった。











「クソ、こっちも行き止まりだ。前の角まで戻ろう。」


何度目の言葉か、少年はそう言うと道を先頭切って引き返す。シノトは先程から黙って付いてきていたが、とうとう少年にこんな質問をした。


「道を知っているわけじゃないのかい?」


「僕らは檻から出たのも今日が初めてですよ。この街の道のことなんてわかるわけがない。」


少年の吐き捨てるような言葉に彼らの境遇を理解したのか、シノトは沈鬱な顔で黙りこんだ。だがそれで状況が好転する訳もなく、少年はどんどんと狭い通路へ入っていく。


「まずい、向こう側から足音が。こっち側からも。」


思えば、少なくともシノト達を追っているのはシノト達よりもこの街をよく知っているはずだった。捜索範囲を狭めながら、袋小路に誘い込むのは容易なことだろう。シノトがそんなことに気づいたのは、目の前にそびえ立つ行き止まりを見上げた時だった。


「しまった、行き止まりだ。」


「見つかったぞ!追え!」


前は壁、後ろは迫る鎧の兵士達。だが、なぜか兄妹はまだ諦めていないようで、抜け穴はないかと隙間に手を突っ込んだりといろいろやっている。やがて兵士達が見える位置まで近づいたとき、少年はシノトにすがりつくように言った。


「僕が隙を作ります、ですから妹を連れて逃げてください。」


「お兄ちゃんだけでも逃がしてください!お願いします!」


すがりつく兄妹は、その手が震えているにも関わらずお互いのことを第一に考えていた。シノトはじっと二人を見ていたが、迫る兵士達の足音を聞いて顔を上げる。兵士達がジリジリと近づいてきているのを目の当たりにしたシノトは、ぼんやりとその光景を眺め――――――ボソリと独り言をこぼしていた。


「君たちはすごいね。」


兄妹がその言葉に顔を上げるよりも早く、シノトは二人を小脇に抱えあげていた。誰かが叫ぶ間も与えずにそのまま跳躍すると、五メートルほどの高さにあった壁のわずかなヘリに足をかける。次にシノトが跳ぶと、その視界に一気に青空が広がった。遠くからこちらを指をさす兵士が見える場所で、多くの建物を眼下に見たシノトは兄妹に笑顔を見せる。


「上手く張り出しがあってよかったね。」


建物の上には、心地よい風が吹いていた。











「すごいです、見かけによらず力持ちなんですね!僕驚きましたよ!」


兵士達を無事撒くことができたシノト達は、人気のない家の部屋で一旦腰を落ち着けていた。兄妹の兄、カレジと名乗った少年は先ほどシノトが成したことに興奮しっぱなしだ。一方で妹、ノスタルジアは早速これからのことを考えていた。


「ところでどうしましょうか。街の外に出るにも高い壁がありますし、衛兵さんも見張りについていることだと思います。なんとか見つからずに抜け出せる道はないでしょうか?」


そこまで言って、ノスタルジアはシノトが兄妹から目を離さないようにしていることに気づいた。なんだか難しい顔をしたシノトは、兄妹をまじまじと見つめていたが兄妹が顔を見合わせたところでやっと口を開く。


「君たちって年の割にしっかりしてるけど、抜けてるところもあるよね。」


「それはお兄さんよりも年下ですから。ところでお兄さん、身なりがしっかりしていますけど奴隷じゃなかったんですか?」


「あ、そういえばそうですね。もしかしてスパイかなにかですか?」


興味津々といった感じで聞いてくる兄妹にシノトは少し考えたが、結局自分が誰なのかは教えないつもりのようだ。その視線はあさっての方向を向いていた。


「・・・・・・ガルバレイ共和国に行くところなんだ。この街に入ったのは理由があったんだけど、もう達成できたみたいだし俺は行くよ、両親のところまで連れて行こうか、それとも二人だけで家に帰りたい?」


シノトが差し出した手の意味を兄妹は最初理解していなかった。やがて兄妹たちは最初はおずおずと、次にしっかりと握り締める。ようやく兄妹が年相応の表情になったためか、シノトも顔をほころばせた。


「よろしくお願いします、フードのおじさん!」


少女の元気な言葉に、シノトは小さく苦笑していた。











「あとフードのおじさん、なんでそんなものをかぶっているんですか?」


「ああ、いつの間に外套が真っ黒に!」

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