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狂ったリクツの絶対正義  作者: 狂える
二章 狂人は新しい夢を見た
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第十五話

リントと名乗った男がにこやかに手を挙げると、シノトは思わず後退りをしていた。その行動を見たリントは、挙げた手を見て一旦下ろし、反対の手で頬を掻く。その表情には、戸惑いの色が見て取れていた。


「あ、あれ?今のってそんなに怖がられる言葉だったかな?」


「いえ、さっき同じような事を言ってきた人が、後で襲いかかってきたので少し警戒したのですが・・・・・・まさか違いますよね?」


確認するように尋ねるシノトに、リントは当然のように頷く。しかしそれを見てもなお、警戒心を解かないシノトに対しリントは自分の前の場所を叩いた。


「まあでも僕から逃げたって、君はここがどこだかまるでわからないでしょ?それも今から説明してあげるから、まずはほら、ここに座りなよ。」


シノトは一瞬だけためらったが、観念したのかしぶしぶとリントの指定した場所に座った。あぐらをかくシノトの前、リントはそれを見て小さく咳払いをする。


「さっきは名前を教えたけど、もう一度。僕の名前はリントといいます。君のお名前は?」


「・・・・・・シノト リクツです。あの、俺は気づいたらここにいたんですがここは一体どこですか?」


そう言ってシノトは改めて周りを見回した。シノト達が座る場所を中心として一定範囲芝生となっている場所は、その先からは森となっている。森は鬱蒼と茂っており、夏を彷彿とさせる緑の多さなのに、虫の鳴き声が聞こえないせいかそこは不気味に佇むばかりだ。しかも木々の間から除くその奥が恐ろしく暗いことに、シノトは言いようのない不安を覚えていた。一方で、シノトの声は明るい。


「簡単に言うと、魔法で作り出した僕の心の中の世界かな。今回は君をここに招き入れて、こうやって話をしようというわけだけど・・・・・・」


「すいません、なにかしなきゃならないことがあるような気がして、胸騒ぎがするのです。あなたが俺をここに入れたというのなら、俺をここから出してくれませんか?」


シノトの言葉には、行き場のない切迫感が含まれていた。真剣な眼差しを向けるシノトにリントはしばらく考え込んでいたが、やがてリントは静かに首を振る。


「君がそう願うなら助けてやりたいのは山々なんだけど、残念ながらそれは今できることじゃない。外のことは安心していいと思うよ、ここの時間の流れは外よりもうんと早いからね。僕も君に話すことがあってここにいるんだ、用が終わればすぐに君を外に出すよ、わかってくれたかい?」


諭すようにリントがそう言うと、シノトは頷いて了解の意を示した。リントはまず、指をひとつ立ててみせる。


「じゃあまず一つ目、君の体のことなんだけどね。随分とぼろぼろだったけどとりあえず全快させておいたよ。」


「それは、危ないところを助けていただきありがとうございます。」


「かなり危なかったと思うよ?なんせ肉体の損傷だけじゃなく魔力の流れもずたずただったしね。まあ治ったからいいけど。・・・・・・そういえば、直している時に気付いたけど君、勇者なんだ?」


突然の質問に、シノトは戸惑いながらも頷く。


「俺が勇者だってわかるんですね。」


「それは、ここの勇者には特徴があるからね。勇者の体は――――――」











「―――――――普通の人間と体を流れる魔力の、その流れ方が違う。勇者の体のその特異さは、その体を流れる魔力の形が原因だったんだ。」


ニイド国の一角、とある魔術研究施設。そこでそんなことを仲間に説明していたのは、眼帯をつけたあの男――――――ライズだった。ライズはその目の前にいる、おかっぱ頭の少年が付けたベルトに向かって器具を動かしている最中だ。立ったままで飽きたのか、おかっぱ頭の少年はそわそわと体を動かそうとする。


「そんなことはいいからさー、このあと用事があるんだけどー。」


「黙っとけ!ああ、動くな、じっとしておけ!いざという時に誤作動を起こしてもいいのか!」


ライズにすかさず怒られると、まだ顔には不満の色が残っていたが少年は大人しくなっていた。それを見ていた中年の男――――――リザルトは、ライズがしていた話の後を取る。


「・・・・・・つまり、俺たちが付けているこの腰巻は、俺たちの魔力の流れを変えて勇者の体に近づけるための装置だってことか?」


「まあそうだな。ただし、もちろんのことだが俺たちはオリジナルとは体格も背丈も、性別だって違う奴もいる。全く一緒ってわけでもないだろう。」


「ちょっとまて、それならその、オリジナルに似た背丈のやつとか、そう言うのにこれつけさせればもっと効率よくこいつが使えるんじゃないのか?」


そう言って二人の会話に割り込んだのは、荒れた髪に褐色の肌を持つ女性だった。鎧姿のその女性は飲み物を持ってきていたらしく、両手に持っていたコップの内片方をリザルトに手渡すと、自分はその横に座る。ライズはその女性の言葉を聞いて、全くだと言わんばかりに頷いていた。


「それが完成した時は、確かに俺たちもそう思っていたさ。だが、実際にその条件で試した奴らは軒並みこれといった変化をしなかった。その時はさすがに焦ったな、なんせ勇者の体の仕組みは確かに解析できたはずだったんだ。それでもうかなり予算も使ってたし、やけになって片っ端から人を変えて試していって――――――」


「――――――そうして私たちが選ばれた。ふん、よかったじゃないか?首が飛ばずに済んで。」


挑発するように女性が言うと、ライズが女性を睨む。女性の方も気に食わないのか睨み返していたが、どちらもそこからは何も言わずに結局リザルトがこう言うまでそのにらみ合いは続いた。


「しっかし国王様、なんであんなにソーン国を憎んでいるんだ?嘘の工作で議会を騙してまで優先するべきことには見えねえんだが。」


「えー、リザルトさん本気で言ってますかー?」


その高い声にリザルトが思わずそちらを向くと、おかっぱ頭の少年はライズから解放されて卓にあった果物をかじっているところだった。意外そうな顔をしたリザルトだが、すぐに興味ありげな顔になると少年をじっと見てその反応を観察する。


「・・・・・・ブルータルとか言ったな?坊主にはどう見えているんだ?」


「どう?どうってなんですかー?」


そう言うとブルータルと呼ばれた少年は声高く笑った。思惑が外れたのかリザルトが降参とでも言うかのように両手を挙げると、先程から壁際に立って本を読んでいた少女、チクキーが声を上げる。


「先輩は反対なのですか?」


「いや、俺は仕事だ。食っていくためなら、何万人だって殺してみせる。そういうところは、あのオリジナルと似てるかもしれんが。」


チクキーはその言葉に納得したのか頷くと、今度は女性の方を見た。目のあった女性は空になったコップを片手にチクキーに豪快に笑ってみせる。


「あたしは騎士なんでね。忠誠を誓った相手に従うのは当然だろ。」


女性がそういい、チクキーが本に目を戻そうとした時、ちょうど良く部屋に入ってくるものがいた。部屋に入ってきた男――――――テクノバーンは、部屋を一通り眺めたあと道具を直していたライズに声をかける。


「みんな揃ってますか。ライズ、みんなの体に異常は?」


「大丈夫みたいです。ベルトの方も故障した点は見られないです。オリジナルを倒せたんです、実践での使用はもう大丈夫だと断言していいです。」


「・・・・・・あいかわらず敬語が苦手ですね。無理して使わなくていいのに。」


ライズがいきなり機械的な口調になったことに笑いながらも、その言葉にテクノバーンは頼もしげに頷いた。次にひとりひとりの顔を見て、その表情に陰りがないのを確認すると全員に聞こえるように声を張る。


「これから軍議がありますが、おそらく出立は七日後でしょう。みんな、それぞれしっかりと休養を取ってその日に備えてください。」


その言葉にその場の全員が了解する。そこにいた誰の顔にも、気力という気力が満ち溢れていた。











「――――――とまあ、君の体の能力が向上したのはそういうわけだよ。もちろん、魔力の繰り方が上手ければたとえ他の人でも眠る必要が無くなったり、何日も何も口にしなくても動けたり、排出行為がなくなる以外のことはできるようになると思うけどね。」


たっぷり長い説明に疲れたのか、リントはそこで一息つくかのように息を吐いていた。しかしそんなことはおかまいないシノトは、疑問に思ったことを口にする。


「なぜそれらは変わらないんですか?」


「・・・・・・二枚剣は最初、人間を完全な存在として作ったらしくてね。でもそれは間違いだった、人間は自分たち以外の生き物を滅ぼすと、自分達も滅んで世界を一つ終わらせてしまった。」


「えっと、何の話ですか?」


シノトが戸惑うようにそう言うと、はっと気がついたリントが驚くようにシノトを見た。その行動にシノトは驚いていたが、そんな姿を見たためかリントはすぐに柔和な表情になる。


「要するに、君は特別製だってことだよ。」


その表情が何を物語っているのかはシノトには理解できなかった。しばらく謎の沈黙が有り、リントは自然と話を再開させる。


「話を戻そうか。二つ目に、君のこれからの行動のことだけど君は何をしたいんだい?」


「俺は・・・・・・」


リントの言葉にシノトは国王からの願い事、指示された時に指示された場所の人を殺す、ということを思い出していた。だがそれを思い出すと同時に、テクノバーンに用なしと言われたことも思い出す。次にシノトが思い出したのは、背中の冷たい感触とともに思い出された、少女の言葉だった。


「・・・・・・人の世に平和をもたらします。」


「君はそれでいいのかい?その願いが、君のこれからの全てをかけるに足るものだと本当に思っているのかい?」


リントの言葉に、シノトは黙って頷いた。にべもなく言葉もいらないと思ったシノトは何も言わない。その姿を見て、視線を中に彷徨わせたリントは読み物を掻い摘むように話を続ける。


「なら君に助言をしよう。君を発見した時、川に流れていた君が傷だらけだったことから、君は一度その願いに敗れたんだね?」


シノトは一瞬本当の事を言うべきかと思ったが、結局黙って頷いていた。本当のことは言わなくていいと思ったのか、そういった態度をとったシノトの嘘をリントは見抜けていない。


「一人では勝てないのなら仲間を探してご覧?もしくは、君の協力者か。僕が手伝いたいんだけど、こっちに回せる時間がなくてね、ごめんよ?」


そう言って申し訳なさそうに謝るリントを見て、シノトもなんだか申し訳なくなってきた。話すべきか、でも話したところで何が変わるのかと自分の中で押し問答している間に、リントの話はどんどんと続いていく。


「さて、最後にこれはここまで話を聞いてくれた君へのお礼なんだけど、質問に一つだけなんでも答えて見せよう。あ、でも未来が見えるわけじゃないからね僕は。そこらへんはよく考えて?」


リントの言葉を聞いて、シノトは自分の知らないことを順に並べていく。これからをどうするか、ニイド国にまだいるであろうテクノバーン達はどうやって自分と同じ力を手に入れたのか、聞きたいことはやまやまだ。だから、思わず自然とその質問が口から出た時には自分でも驚いていた。


「・・・・・・あなたは一体何ものですか?」


「これはまた、随分とありふれたセリフだね。」


肩をすくめるリントを見て、今からでもこの質問を変えようかと考えるシノトだったが、その答えを見つける前にリントは答えを言い出していた。


「それを聞かれるのは予想外だったけど、まあいいや。――――――「死神少年」は知ってるかな?」


唐突な質問に、シノトは知らないと首を振った。だが、リントの次の言葉にシノトは耳を疑う。


「ああ、もちろんこの世界じゃない、君の生まれた世界でだよ。都市伝説、っていうのかな?」


それがどういうことなのか、結局リントがなにものなのかはその場では分からなかった。シノトが詳しく聞き出そうと身を乗り出したとき、同時に急激にリントの体が透けていったからだ。半透明になったリントは、己の姿を見て驚いているようだった。


「おおっと、もう時間だったか、余計なことをしゃべりすぎたね。君の質問、答えられなくてごめん。来た道を引き返せば帰れるから、くれぐれも道中で飲まれないように気を・・・・・・。」


リントの言葉は途中で途切れ、そこにシノトただひとりの空間になってしまった。シノトはリントがもしかして戻ってくるかも、という淡い期待を抱いてしばらく残ったが、結局は諦めて来た道を引き返していた。だが、シノトにはリントの最後の言葉が耳に残っている。


「飲まれるって、一体何だろ?」


考えてもわからないその答えは、結局ここを出たと思われるその瞬間まで分かることはなかった。











それは、本当に唐突だった。一歩踏み出した途端、何かがシノトの体を稲妻のように駆け巡る。痙攣するかのごとく震える体を支えきれなくなりシノトが倒れこむと、頭の中に見覚えのない映像が流れ込む。


――――――燃える家、家族を失った少年。交通事故、強盗、土石流、病気、事故死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、数え切れない程の死。少年はただ、その死にまみれた人生でずっと泣いていた。


「命が大切なんて、そんなわかりきった嘘を!ずっと、ずっと信じてたんだ!お前らに分かるか?そんなくだらないことを信じた奴が、ほかでもないそんなことを信じ込ませたお前らの作ったものを見て、どんなことをおもったかなんて!」


どこかで聞こえた涙声は、燃え盛る怒りと悲しみにまみれていた。頭の打たれるようなその衝撃にシノトは意識を保つことができなくなり、別のどこかへと飛んでいくような感覚に見舞われた。


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