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狂ったリクツの絶対正義  作者: 狂える
一章 城の庭にいた狂人
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第十二話

何処か遠くから聞こえる爆発音と、それに伴っていたであろう少しの振動。夜空の光に照らされていた寝床で、猫のようにようなくるまっていたちゆのはそれで目が覚めると、窓の外に広がる空に目を移していた。


「・・・・・・・。」


ちゆのはまるで拒否するかのように少ししてまた頭から丸くなったが、それを非難するかのようにまた二度、三度と揺れを感じると、渋々といったふうに起き上がった。部屋に隠されていた暗器、そして食べ物を保存していた場所からあらかじめ作っておいた何かを取り出すと、ちゆのは今一度自分に気合を入れる。深く息を吸って、吐いて、自分の準備が出来たと確認したちゆのは急ぎ小屋を出ようとしたが、ふとなにか思い出したかのように部屋を振り返った。


「・・・・・・一応、持っていきますか。」


ちゆのは逡巡こそしたが、最終的にはシノトが自分に見せたことのある黒髪のかつらを手に取ると、小屋のドアを閉めていった。











それは一瞬の判断だった。


シノトはテクノバーンの言葉をしっかりと聴きながらも、その視線が自分の後ろに向けられていたことを見逃さなかった。シノトは急に襲ってきた悪寒に強ばろうとする体を無理やり動かし、自分の体を横に転がす。すると間髪入れずに全身を打つような衝撃と、一緒に震えるような爆音が鳴り響く。


シノトは、さっきまで自分がいた場所を中心にカーペットのように巻き上がった地面を見て、自分の判断が間違いではなかったことを悟った。


「先輩、お願いします!」


「あいよ!」


聞こえてくる高い声と、それに応えた低い声から次の攻撃を察知したシノトは、急いで体勢を立て直そうと顔を上げて――――――目の前に剣が迫るのを目にした。


「っ!」


紫色の残光を残して弧を描くそれは、シノトが逸らした頭の目の前ギリギリを通り過ぎる。しかしそれで終わるわけがなく、一度離れた光はゆらりと揺れるとまた鋭さを取り戻してシノトに迫っていた。


体制を少し崩されながらもシノトは追撃をかわすが、幾重にも重なって見えるそれをかわし続けることは困難だと悟ったのかもう一度横に、今度はめいいっぱい飛んで距離をとる。光はシノトを警戒してか、一旦距離をとったシノトを追いかけては来なかった。


「あーあ、逃げられちゃったじゃないですか!言いましたよね、お願いしますって!」


「それはあんまりじゃないか嬢ちゃん、俺だって本気だったんだ、大目に見てくれよ。それにあのオリジナルだって、どうやら特異な体にかまけていた訳じゃないみたいだぜ、今の動き見たか?あれができるなら体がそこら一般人と何ら変わらかったとしても、相当優秀な兵士として名を馳せただろうよ。」


シノトが視線をやる先では、金髪をポニーテールにした少女と、中年くらいであろういかにも戦争上がりといった出で立ちの男が言葉を交わしていた。言うまでもなく二人共金人のようだが、少女が持つ、自身の身の丈以上はありそうな紫色の巨大なハンマーと、男が持つ一本のこれも紫色に発光した剣がシノトの目を引いている。男の方はシノトの方を向いているが、少女の方が話をしているためか男のほうを向いているあたり、二人の戦いの経験の差が浮き彫りになって見えているようだった。シノトはとりあえずせめてくる気配がなくなった二人から視線を外すと、再びテクノバーンを見る。


「テクノバーンさん、さっきの話は本当ですか?」


「ホントもホントですよ。勇者殿の代わりもこうやってほら、ここにいますし?なんなら感想でも聞いてあげますが、死ぬ前になにか一言ありますか?」


「・・・年端も行かぬ少女に戦いを強いるというのは、道徳的にどうなんでしょうかね。」


「僕らが道徳を語りますか、勇者殿。兵士は、年齢ではなく腕でその質が決まるものですよ。いくら若くても、戦える上に意志があれば、僕らに止める道理はないでしょう?」


テクノバーンの口調は実に勝ち誇ったようだったが、シノトはまだどこか納得がいかないようだった。おそらく反論するためであろうシノトが再び口を開こうとしたとき、テクノバーンの後方より現れた紫色の光がシノトめがけて飛んで行き、爆発する。もうもうと訓練場に土煙が立つが、男と少女はわかってたのか大した反応を示さない。唯一テクノバーンだけは不満そうに顔をしかめていた。


「おいおい話の途中でしょ?狙撃は後にしてくださいよ。」


テクノバーンが後ろに放った言葉は、少ししてその返事が返ってくる。意識してなのか妙に機械的なその声は、あまり大きな声ではないにも関わらず訓練場に程よく響いていた。


「隊長は話が長すぎます。ユーサとの戦いぶりから見て、接近戦はこちらに損害が出る確率があります。このまま距離を取って攻めきります。」


「俺もライズの意見に賛成だぜ隊長。聞けば奴さん、魔法が使えないって言うじゃないか。ここは堅実に遠くから狙撃してもらおうぜ。」


テクノバーンは二人の意見を聞く間、ずっと土煙から目を逸らさなかった。時間が経ち、土煙が晴れ始めたときテクノバーンはそれを見て自然とほくそ笑む。煙が晴れた場所にいたシノトは、左手に持った紫色の塊に自分の血を滴らせながらも、その立ち姿はテクノバーン達と相対することを前面に出していた。


「俺は、この世界に死にに来たわけではありません。その命令は、受諾しかねますね。」


「勇者殿が受諾するかしないかは関係ないですね。杖が折れたら、新しい杖を揃えるだけ。常識なら、みんなそうするものですよね?」


テクノバーンがそう言うと、その仲間たちも皆頷く。シノトはその言葉に渋い顔をしたが、何も言うつもりはないのか口を開こうとはしない。テクノバーンはシノトを見ると、愉悦に歪めた顔で囁くように開戦を宣言する。


「さあ、化物退治の始まりです。」


それは、夜の静かな訓練場での出来事。観客の少ないこの戦いは、こうして火蓋が切られることとなった。











始めに動いたのはシノトだった。足を少し後ろに下げたかと思うと、そのまま一気に振り向いて逃げ出そうとする。だが、そんなシノトの後頭部に紫色の物体が飛来した。


「やった!」


勝利を確信した少女の声が響いたが、それは瞬時に覆された。シノトはそれが当たろうとする瞬間反転しそれをかわすと、テクノバーン達の方へと向かっていく。意表をつかれたのか驚く少女の横で、男はテクノバーンを少し見ると頭を掻いた。


「ありゃあ隊長、もしかして外で待ち伏せている奴らはバレてますかねえ。」


「わからないですが、でも僕らがやることは変わらない。」


シノトの接近に合わせて、少女がハンマーを大きく振りかぶる。シノトはそれを見ていたにも関わらず、少女の間合いに飛び込んだ。少女の列波の気合とともに、紫の軌跡はシノトめがけて降り注ぐ。


「とった!・・・・・・え?」


シノトを捉えたかに見えた一撃は、撃った本人でさえも手応えを感じた。だが、ハンマーの下を滑りこんでその一撃をかわしていたシノトは、すでに少女の懐に飛び込んでいる。呆けた少女めがけてシノトが手を伸ばすが、その手は間に入った二つの剣によって阻まれた。


「チクキー殿は下がって!」


「嬢ちゃんにこの相手はまだ早いぜ!」


折れた剣と紫の剣、二つの閃光が複雑にシノトを襲う。絡まるようなその軌道にたまらなくなったのか、シノトは再び大きく距離をとった。テクノバーンはこれを好機と見たのか、シノトを逃さんと距離を詰めようとする。


「オイ隊長、深追いはするな!ライズたちの次の一撃を待ったほうがいい!」


男が慌てて引き止めようとしたが、テクノバーンは意に関する様子を微塵も見せず、シノトを追撃にかかった。折れた剣であるためそれこそ間合いはあまり広くないが、その踊るような動きはシノトをまるで寄せ付けない。その姿を見た少女は慌ててテクノバーンの後に続こうとしたが、その肩を男は掴むと首を横に振った。


「さっきも言っただろ、嬢ちゃん。やつとの戦いは嬢ちゃんには荷が重すぎる。腕力も脚力もほぼ変わらないだろうが、相性がいいとは言えまだ使い始めて日が浅いそのでかいのであれを捉えるのは無理がある。いっそのこと、外の二人と合流したほうがいいぐらいだ。」


少女は最初、男に何を言われていたのか理解できなかったようだった。やがて、時間が彼女にそれを理解させると、みるみる内にその目を吊り上げ始めた少女は真っ赤になって逆上する。


「偉大なるチクキー家の跡取りである私が黒人に劣ると?!馬鹿も休み休み言いなさい!」


少女は男の制止も振り切り、テクノバーンの方へ向かった。男はたっぷりと呆れたのか、ため息をつきながら肩を落とす。


「はあ・・・・・・これだから街育ちは手に負えないんだ。仕方ねえなあ。」


男も遅れながら、二人のあとに続いていった。










「あー、僕もあの戦闘に加わりたいなー。ねーライズさん、なんで僕の分の武器はないんですかー?」


テクノバーンとシノト達が死闘を繰り広げている頃、訓練場の端の高い場所ではおかっぱ頭の少年が退屈しのぎに、そばにいる眼帯をつけた若者に話しかけていた。おかっぱ頭の少年とは違い、テクノバーン達の戦いから一瞬でも目を離すまいと目を凝らしている眼帯の男は、ライズという言葉に反応するとおかっぱ頭の少年を一瞥し、またテクノバーンたちの方に目を凝らす。どうやら彼がライズと呼ばれているようだ。


「・・・・・・お前あの武器の説明聞いてないだろ。あれは城の中にあった骨董品だよ、そうじゃなきゃ加工法もわからねえモール鉱石で、あんなものが作れるわけがないだろうが。」


「あー、あれ。魔力食いだったんですねー。どーりで今まで見たことがないかとー。」


納得したように頷く少年にライズはため息をつくと、それきりで二人とも何も喋らなくなった。ライズは相変わらず事の行方を見守り、隙あればモール鉱石を打ち出さんと常に構えている。一方で、オカッパの少年は見るのも飽きたのかなにかの一人遊びを始めていた。しばらくそんな状況が続いたが、怒りが頂点に達したのかライズが鬼の形相でおかっぱ頭の少年を睨みつける。


「オイガキ、今まで黙ってたが俺は別にここに子守をしに来たわけじゃねえし、てめえも遊びに来たわけじゃねえだろうが。あの死神の前でぐらいはきちんとしろ。」


「あ、見てみてライズさん。なんかみんな動いてないよ。」


「話をそらそうとするんじゃ、って本当か!」


おかっぱ頭の少年の言葉にライズが慌てると、確かにテクノバーン達とシノトは距離を保ち、お互い睨み合いの状況になっていた。途中見てないために、ライズはこれがどうしてそうなっているのかわからなかったが、好機とばかりにモール鉱石を打ち出そうと構える。


「ライズさーん、今度は頑張って当ててねー。」


おかっぱ頭の少年の無邪気な声とは真逆、破壊の凶弾がシノトに向かって打ち出された。


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