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狂ったリクツの絶対正義  作者: 狂える
一章 城の庭にいた狂人
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第十一話

「君とは、一度話してみたいと思っていたんです。こんな形ですが、あえてとても嬉しいですよ。」


そういってシノトの前を歩く男は、名をテクノバーンと名乗りシノトをとある場所まで案内している。シノトは一目見たときになぜか彼の顔をどこかで見たような気がしていたシノトだが、最初は言いようのない悪寒を感じて警戒していた。しかしそれもつかの間、思ったよりも人当たりが良かったのか、二人はこの短い時間ですっかり打ち解けるほどになっている。よほど城の中のことに詳しいのか、迷わずに複雑な道を進むテクノバーンにシノトはどこか申し訳なさそうに頭を掻いた。


「初対面だと思うんですが・・・すみません、一度でもあった覚えのある人の顔と名前は全て覚えているつもりだったんですが、もしかして一度会ったことがありましたっけ?」


「いや、君の記憶は正しい。ただ僕が一方的に君を知っているだけでしてね、勇者殿。ああでも、君からは見えていなかったかもしれませんが、君がこちらに呼び出されたとき、僕もあの場にいましたね。もしかしたらあの時僕の顔を覚えたのかもしれないです。」


テクノバーンの言葉にシノトが納得したとき、ちょうど計ったように二人は目的地だった屋内訓練場についていた。明かりは夜空から射す光だけだが、広い場所にも関わらずあちらこちらの壁から光が差し込んで、光源には困らない設計になっているようだ。


「ところで話を続けますが、一度でも会った事のあるといったものにはやはりあれも含まれるのですか?過去に自分が手にかけた、今は亡き亡者たちとか。」


その言葉が予想外だったのかシノトは思わず足を止めていた。静かな夜に響きすぎる足音は突然止まり、思わずシノトがテクノバーンを見ると、テクノバーンも同様にシノトを見返している。――――――またしても口火を切ったのはテクノバーンの方だった。


「君が夜な夜な歌を歌っているのは知っていますよ。それも、どうやって知ったか知らない、己がかつて殺した者達の名前を連ねた歌を。自作にしては上手でしたね?」


「・・・確かに俺はもう長い間眠ってません。夜には歌を歌うようにしていましたが、名前の件はどうしてそんな話になるのか理解しかねます。」


「隠さなくていいですよ、勇者殿。僕はこの話を聞いたとき、ひどく感動しましたから。まさかこんな人間が、この世にもうひとりいるなんて思っても見てなかったのでね。まさに僕らは、この世でお互いを理解できる唯一の存在ですよ。」


テクノバーンをよく見れば、その体は歓喜に震えていた。ただそれだけであれば、シノトもなにも感じることなくむしろシノトも理解者ができたと喜べたであろうが、あいにくとシノトはその喜び方に違和感しか感じることはなく警戒を解くことはない。しかしそんなシノトの様子も気にせずテクノバーンは話を続けた。


「夜な夜な歌う君は、かつて殺した人間の顔を思い出し、その名を口に刻み、そして思い出しているんでしょう?――――――人に死を与えたとき、その時に味わえる快感を。」


はたして、シノトの予感は当たったようだった。表情のないシノトの顔は、今のテクノバーンの言葉をシノトがどう思っているかを雄弁に語っていたが、テクノバーンはそんなことは気にしない。しかし皮肉にも、そんなテクノバーンの話しぶりはどこかシノトに通じるものがあった。


「僕はね、この世で大体のことは許せるけど一つだけ許せないことがあります。それは眉ひとつ動かさず、感情を抱くことなく生き物を殺すことですよ。黒人も大概ですが、奴らのようなやつは人を名乗ることも憚られますからね。」


テクノバーンの言葉は、まるで歌でも歌うかのように淀みなくスラスラとその口から溢れ出る。よほど日頃鬱憤を溜めていたからなのか、どこか話している時の彼の顔は晴れやかにも見えるほどだった。しかし一方でシノトは険しい顔をしたまま、テクノバーンを睨み続けている。


「その点君というのは素晴らしいです。目をつぶれば、いつでも目に浮かぶのでしょう?いま名前を呼んだあの男は、その鉄すら貫く右腕で心臓を潰したのかな?今顔を浮かべた少年は、大木すらなぎ倒す左手で首をちぎってやったのかな?どうなんです、なんせ君は何万と殺してます、さずかし素晴らしい体験を思い出せるのではないですか?」


「・・・・・・それ以上は彼らへの侮辱になります。控えていただきたい。」


「それが建前というやつですか?でも内心は賛同できるのでしょう?隠さなくたっていいですよ、なんせ僕らは同士ですから!何も憚るようなことはない!」


テクノバーンが夜の訓練場にその言葉を響かせると、話にならないと言いたげにシノトは首を振った。


「本題をお願いします。早いところ終わらせましょう。」


うんざりしたシノトのその口調にテクノバーンはそれ以上の会話を諦めたのか、残念そうに顔を曇らせるとくるりと回って腰に下げていた剣をを引き抜いた。抜かれた剣は、まっすぐシノトにむかって向けられる。


「国王陛下からの命は二つ、一つは後でも出来るから今はいいとして、もう一つは今この場で僕と戦うことです。何、心配は必要ありません。ここはいくら壊しても構わないですし、僕の場合も同様です。」


「・・・・・・組手、ということでいいですか?」


「どうだって構わないですよ、でも僕は殺しに行きますから、そのつもりでね。」


テクノバーンが持つ剣は、夜の光を浴びて鋭い光を放っていた。











シノトとテクノバーンはお互いに向き合いながらも、動こうとはせずただ時間だけが消費されていった。シノトが動こうとしないのを確認して少し顔をほころばせたテクノバーンは、少しずつだがシノトとの距離を縮めている。


「ここに最初に呼ばれたとき、君は実力を試すために相手をした全身装備の騎士を、素手で再起不能にしたとか。その時使った摩訶不思議な技は、どんな体制であっても相手の体の一部分でもつかめば投げ飛ばしてしまう技だったそうですね。殺しには向かないが、実に素晴らしい技術です。でもこっちが間合いの外から攻撃すれば――――――」


テクノバーンの言葉は途中で途切れる。目の前から自分の剣先が消えてなくなった時、今しがたテクノバーンの目の前で廻し蹴りをした本人は相手の胸に手のひらを当てて止まっていた。そのあまりの速さに、テクノバーンは内心舌を巻いていたが、最後の行動には渋い顔をする。


「・・・・・・なんで止めたのですか?」


「当たればただじゃ済みませんので。」


顔こそ見えないが、シノトがそれを本気で言っていると理解したのかテクノバーンはため息をつく。ほぼ自分の思惑通りに相手が動いてくれたとはいえ、最後の一つが一番欲しかったのだがとテクノバーンはぼやいた。


「舐めてもらったら困りますね。僕は殺す気でやるって言ったじゃないですか。」


テクノバーンが言ったその瞬間、破壊音とともに何かが壁を打ち抜いた。弾丸のように弾かれた誰かはそのまま崩れた石の下敷きになったが、すぐに這い出てくる。だが、その結果が予想外だったのかシノトのその表情には驚きが含まれていた。それでもすぐに、表面上は面倒くさそうにすることを保つ。


「・・・・・・これっていつまでやるんですか?」


「それはもちろん、どちらかが死ぬまでですよ。」


シノトは一瞬、何かの聞き間違いかと耳を疑った。というのも、シノトはこの世界に来てしばらく経っているが、その間に殺し合い、魔物との死闘、果ては戦争までを経験している。その中で自分の体のことをよく知るのだが、あるときは龍種の深緑の炎に焼かれ、あるときは目眩がしそうなくらい高い場所から落とされ、またあるときは数え切れぬ程の数の騎士から剣で滅多刺しにされたが、それを経てもなお服など装飾品が消えることはあっても、血を流すことなど一度もなかった。正直なところ、自害するならともかく誰かに害を負わされることは今後ないだろうと思っていたほどだ。


「あなたはともかく、俺が死ぬまで?」


シノトが何を思っているのかその言葉で分かったのか、テクノバーンは可笑しそうに笑った。折れた剣をフラフラと揺らすと、肩にそれをかける。ふとその時、シノトは部屋に射す光に反射したテクノバーンの剣に、紫色の光が交じるのを目にした。


「君の身体検査に意味がなかったわけないじゃないですか。君のその体の秘密は包み隠さず、全て調べ終わってありますよ。」


シノトはふと自分の足を見た。慣れぬ感覚があることに今気づいたようだ。長く、久しく感じていなかったそれは怪我というものだった。思いもよなかったそれにシノトが目を見開くと、それを見ていたテクノバーンはしぶしぶと、ため息混じりに言う。


「ここらが潮時ですかね・・・・・・。国王陛下の命で君に言伝を届けに来ました。『お前は用無しだ』――――――言っていること、わかりますよね。」


その言葉が合図だったかのごとく、訓練場は衝撃に揺れた。

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