7.心情変化
遅れてすみません…、、
更新超絶亀足ですが…
読んでいただけると嬉しいです…汗
先程の事に戸惑いながらも、自分の携帯を探しかけて止めた。
「…そうだ、綾那に電話…じゃなくて綾那は今日出張だった……」
今日は重大なスクープがあったらしく、ずっと張り込みだそうだ。大変。
今日帰って、晩御飯作る気力あるかな…
私は額に手を当てる。
「うーーん………」
まだ頭はぼーっとする。立つと辛いくらいに。
何故足は治ったのに熱は治らないのか…!
やっぱりあの野郎訴えようかな。
…というか、正直言って熱いのは熱だけのせいじゃない。
さっきから頭の中は抱きしめられた事でいっぱいなのだ。
キスすると好きな人じゃなくても恋するとかは聞いたことあるけど、その抱きしめられるバージョン的なアレか?
いや、やめよう。
考えても答えが出ない場合は放棄だ放棄…
「波原さん」
「うわぁぁ!」
突然背後から声がして、後ろに飛びさすった。
ビビった!マジでビビった!!
いろんな意味で心臓が持たない。
ちなみに飛びさするのに動いたら、少し眩暈がした。
「っ…」
「…大丈夫?」
「だ、大丈夫です!」
一条さんは私の方に近づこうとするが、もうこれ以上心臓が持たないので必死で止めた。
それに、もうこれ以上迷惑はかけられない。
もう手遅れかもしれないが、コート代弁償させられるかもしれないし。
私は座ったまま少し姿勢を整え、彼の方を向いた。
「あの、今日は本当にご迷惑をおかけしました…」
そして深々とお辞儀をする。
一条さんはきょとんとした顔でこちらを見ている。
ちなみにここからが本題。
「残りの5日間、最大限力を込めて仕事させて頂きますので、なにとぞコート代の弁償という形はご勘弁願いたく存じ………」
「いやいや」
顔を上げると、いつもの表情の一条さんがいた。
「そんなことしないから、安心して」
彼はいつもの笑みを浮かべて言った。
もう一条さんが天使に見え…いや、天使だ。
…いや、神だ。
「…あと、明日は1日休んで安静にした方がいい」
「ええっ?!風邪は明日までには必ず治るので大丈夫です!それに」
必死になる私を一条さんが静止する。
「いや、そうじゃなくて来客が来るんだ。しかも1日中」
来客と言われては私は何も言い返せない。
来客中に大掃除なんかしてたら殴られるもんね…
「…だから、明日は本当に大丈夫。
臨時休暇だと思って休んで明後日またお願い」
まあ、私が反論できる余地はなく…
「わ、わかりました…」
まだ意識がはっきりしない頭を縦に振るしかなかった。
というわけで、今日は途中だったコンロとかだけを片付けて早めに帰して頂く事になったのであった。
こんな神に会うなんて、きっと私は一生分の運をこの時使い果たしただろう。
そして今は、机の上に出しっぱなしだった薬品を鞄に片付け、一条さんの家を出る頃だった。
「…で、ではまた…明後日失礼します!」
そそくさと立ち去る予定だったが、ふいに一条さんが私の腕をつかんだ。
なに?!次はなに?!
「あのさ…」
振り返ると何か躊躇ってる様子の一条さんの顔が視界に入る。
「え、えーと…?」
「あのさ、専属家政婦とかはやってないの?」
予想だにしなかった質問で、私はついきょとんとしてしまった。
どんな意図を持ってこの質問なのかよく分からないが、とりあえず他の人にいつも言っている定型文で返した。
「元は専属家政婦の予定だったのですが…自分で言うのもなんですけどあまりにも依頼が来すぎちゃって。あと専属と週代わりを計算したところ今の方が羽振りがいいんです」
そう、私には何より稼ぐ方が重要…
専属の方が楽だとしても、羽振りがいい方を選ばねば…。
その他の理由としては、専属だとずっとその雇い主の家にいる事になるわけなのでどうしてもその家族にも干渉しなければならない。
私は仕事は仕事で分けたい方だから、家政婦としてそこまでの関わりは持ちたくない方なのだ。
一条さんは軽く頷いた。
「…なるほど。確かに転々とした方が収入はいいのかもね」
…ん?ってか、なんで一条さんは専属の話をしたんだ?
「…何故そんな事を?」
私は率直に聞いてみた。
「…ああ、前に家政婦が辞めちゃったって言ったよね?それで次の専属の人を探しててさ」
あ、予想通りや…
言い方的に私にやって欲しい感じがするのは気のせいかもしれないが、残念ながら私は出来ないな。
…というか、ホワロのコートダメにしたり熱出したり色々ありすぎるほどあった人とこれ以上怖くて関われないってのが本音だけど!
というかもう頭が回らん。早く帰って寝たい。
今度こそ帰ろうと私は会釈しながらドアを開けた。
「では、今日は失礼しますね…」
しかし次はドアノブを持っている私の手を払い除けて、半ば強引に開きかけたドアを閉めた。
ガチャンというドアの閉まる音と共に、一条さんは身を乗り出して私の方を見る。
そう、これこそまさに壁ドn…ドアドン?
なに?!お願い私帰りたいんだけど?!
「今の専属の相場の倍払おう」
その時の私の顔は、さぞ間抜けた顔だっただろう。
「……は?」
え、さっき出来ないって私言ったよね?
…ばい……倍……倍、、、?
…やばいやばい。倍に惑わされる所だった。
流石にお金積まれてもこれ以上この人とあまり関わりたくない思いが少しだけあった。
というか一条さん近い。
「あ、あの、近いで……」
「君がいいんだ」
私の瞳の奥を見つめて、そう彼は言った。
まるで私に、告白しているかのように。
「え」
そう言われた時、ちょっと心が動いてしまったのは秘密だ。
確かに一条さんはかっこいい。
私の立場が違う人だったら、このシチュエーションってだけで惚れるんだろうな。
ははっ!でもそんなので私がなびくと思うか!
「これ以上お世話になる訳にはいかないので…すみません。では、失礼しますね」
今度こそ私がドアノブを掴んでドアを開けようとした時。
「……7日以内に
君の返事は変わるはずだから」
「は…」
私の手を掴んで、一条さんは言った。
悔しいけど、その目に魅入られてしまった。
茶色の、澄んだ瞳。
「じゃあ、また明日」
ーー今までの私の決心を全て吹き飛ばされそうな、真剣な瞳だった。