表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灰色の薔薇  作者: 白夜琉音
6/22

6.迷惑千万



「ーーーそれで、もし家に奥さんがいた場合は?」


「いや、それは無いはずだ。

木村の妻は今友人と旅行に行っているらしい」


「へぇ〜夫が与党と戦ってるってのに、奥さんだいぶ呑気ですね」


「ははっ、たしかにな」


「…それじゃ、第一段階はさっきの方針で。

続きはまた後で話しましょう」


「ああ。じゃあまた」


テレビ通話を切る。


首相に頼まれた、不正暴露の件についてだ。

実行は明後日なので、早めに後輩と計画を練らなければならない。


だが、テレビ通話より直接会った方が速い。


本部(アジト)に行くか……」


ということは、昼は向こうで食べることになる。


「…残念だけど、仕方ないか」


それを伝えに行くために、下に降りた。


…それにしても、今日の彼女はピンピンしていた。


気を失うほど殴られたのに、平気だったのだろうか…?

いや、それか暗かったから見えなかったが本当はそこまで殴られていなかったのか?


詳細を聞きたい衝動にかられるが聞いてはいけない。


俺があの時、彼女を助けた事がバレてはいけないのだから。


「波原さん」


彼女は、換気扇の掃除をしているようだった。


フィルターやファンが漬け置かれている。


「今日の昼飯はーーー」


「一条さん、今掃除中なので来ないでください!」


何やら彼女は焦っているようだった。

俺はただ昼はいらないという事を伝えたいだけなのだが…。


「いや、それは大丈夫なんだけどーーー」


…それより、彼女の様子がおかしい。


僅かだが足元がふらついている気がする。

…まさか、あの時の水がーーーー



「波原さん、もしかして熱が……」


そしてその時、彼女の足元がふらついて倒れそうになった。


「ーーーっ波原さん!」


「あ、一条さーーーーー」


俺は持てる力の限りの速さで彼女の近くに駆け寄った。

本当はこの驚異的な速さは驚かれるので表の中で使ってはいけないが、今は別だ。


なんとか間に合い、前かがみになって倒れる彼女を抱きとめた。


「波原さん!」


急いで彼女を見ると、虚ろな目で僅かにこちらを見たがやがて気を失った。


彼女の額に手をあてると、自分の体温より遥かに高い熱があった。


「やっぱりか……」


俺はため息をついてから、後輩に電話をかけた。


「…ごめん、今日は行けそうにない。

テレビ通話だけでいけるか?」


「え?まぁ、大丈夫ですけど…」


「恩に着るよ」


手短に電話を切る。


「……さてと」


彼女の足元には風邪薬の箱が落ちていた。


ということは、薬は飲んだのだろう。


病院に運んでもいいが、彼女が気にするし俺もあまり公の施設に出るとまずい。


とりあえず、寝かせるのが先決だ。






彼女を俺のベッドへ寝かせた頃には、彼女は少し苦しそうな顔をしながらも寝息をたてて寝ていた。



冷水に濡らしたタオルを絞り、彼女の頭の上にのせる。

後は彼女次第だ。



だがどうして、こんな目に…。

俺は彼女を見て考える。



しかし、答えはすぐに出た。


「…全て…」


俺の、せいだ。


全ては俺が彼女を助けた事から始まったのだ。


もしあの時俺が止めなければ、彼女は水を被るだけで済んだと思う。


俺が奴を止めたから、彼女は殴られるハメになったのだ。


「…………ごめん、」


寝ている彼女に、詫びた。






「………ん……?」


またしても目覚めると、知らない天井があった。


額の上には、少しぬるくなったタオルが置かれていた。

手と足を動かすと、質感の良い羽毛布団の感触。


ちょっと待て。じゃあここはまさか……



「うわあぁあ!!!」


叫びながら飛び起きた。


わ、私はなんてことを…!

倒れて一条さんの部屋のベッドで寝かせてもらうなんてええええ!!!


頭が混乱していると、横から人の気配がした。


「あ、起きた?」


「あ、あああの」


な、何から話せばいいかわからない!!


すると、一条さんの右手が私の額に触れてきた。


気持ちの良い冷たい温度にうっとりしつつ、真面目な表情でこちらを見てくる彼に少しドキッとする。


「…うーん、まだ熱はあるか」


「あああの、本当にすみませんでした!」


彼の右手から離れて、ベッドの上で土下座をしようとするも彼に制された。


いやほんとに、土下座ぐらいじゃすまされないのに。


「え、ちょっと何やってるの。

まだ熱あるんだから寝てて」


そう言って私を布団の中に促した。


「い、いやいやこれ以上お世話になるわけにはいきません!

ただでさえあなたに自己中…いや春日さんから助けて貰ったのにここまで迷惑かけると本当に恩すら返す余裕が無いです…」


自分でもよく分からないことを言ってるけどとりあえず申し訳ないと思ってることは伝えたい。


「それだったら余計気にしないでくれ」


「…え?」


「もし俺があの時助けなかったら君はこんな目に合わなかったかもしれないんだ」


「え、それはどういうーーーー」


突然、抱きしめられた。


え、…え?!

彼の柔らかい黒髪が頬に当たる。


え、私抱きしめられ……え?!


突然すぎて、心拍数が凄い。


とりあえずもう色々混乱しすぎて、よくわからなくなってきた。


「…………ごめん」


そうして彼は離れた。

何故か少し、名残惜しく感じる。


「え、あーーーー」


「…水とってくるね」


そう言って、一条さんは下へ降りていってしまった。


え…私、今何が起こったの?


混乱しすぎてもう訳がわからない。



そして、無駄に心臓の音がうるさい。



誰か…だれかこの意味を説明してくれ!!!!






「なぜあんなことを……」


透明なグラスに水を注ぎながら考える。


…確かに、彼女を怪我させたのは俺が事の発端かもしれない。

しかし、なぜそれを詫びるために俺は彼女を抱きしめたのか?


自分でした事なのに、自分のした行動が理解出来なかった。



…つまり、先程は感情的に動いたということ。


今までは迷う事なく理性的に動いて来たのに、どうしてだろうか。



人間には諸説あるが6つの感情がある。


喜、怒、哀、楽、憎、愛……………


俺の中では言葉では示せないような謎の感情があった。



「…一体、何なんだ……」


彼女と関わってから、何かが変わってしまった気がした。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ