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灰色の薔薇  作者: 白夜琉音
5/22

5,距離変化

今回の話は割と具体的な掃除のスキルが書かれてますのでよければご参考に…笑



俺は彼女に作ってもらったカレーをよそっていた。


「カレーか…」


定番中の定番だな、と思った。


今まで雇った家政婦は、何故かムダに凄いものを作ろうとして疲れて長く続かなかった。


俺はとりあえず何か作ってくれればいいと言ったのだが、その人達は何故か凄いものを作らねばならないという謎の使命感に囚われたらしい。


だが、彼女は家庭の味・カレーときたか。

益々面白いな、彼女。


そんな事を考えてると、ふとボスの声が頭をよぎった。


『この前、カフェでひと騒動あったらしいな』


その後、奴の家庭は崩壊しているとか。


父親は議員を辞め(させられ)て無職。

母親はそれに失望して金を求めて浮気。


…そして息子は、この近くの不良と絡んで荒れているとか。



俺は手を止めた。


「…この近く?」


今は夜だ。

この時間帯にうろついていてもおかしくはない。


ーーー何故か、嫌な予感がした。


俺は立ち上がって、再び黒いコートを羽織って外に出た。





鈍い音をたてて、何かが私の足を蹴った。


「っ……!」


私はバランスを崩し、尻の方から地面に倒れてしまった。


水に濡れて寒いうえに足を蹴られて痛い。

最悪かよ。


「ちょっと、何するのよ!」


もうこの際敬語なんかいい。

コイツはもう雇い主でも何でもないんだから。


「うるせぇよ!全てお前のせいだ!お前の!」


と言い、第二撃を蹴ってきた。


「いっ……」


痛い。

ってか、なんで私こんな目に会わなきゃいけないの…?


私何も悪くないのに…。


もういい、知らない。とりあえずコイツになにか言わないと気が済まない!!


「私はただ契約内容に従っただけよ!

お母さんもとんだ迷惑じゃない、あんたがたかが私との契約にいちゃもんつけただけで大変になったんだから。

…あなたは、あなたのその自分勝手な行動でお母さんを苦しめたのよ!」


…それに、これだけは言える。


「あなたは今まで何も失って来なかった。

だから、その大切さが分からないのよ!」


兄と母を、失ってわかった事だ。

居るのが普通、じゃない。


失ってから、2人の大切さが分かったんだ。



「ーーーー黙れ!!!」


「…っ!!!」


思いっきり、足で頭を蹴られた。


時間差で痛みが広がり、目の前の景色が薄れ始めた。


聞こえたのは、電車が通る音ぐらいだったかなーーー


私の意識はそこで途切れた。





「…あれはーーーー」


俺は足を止めた。


路地の裏道に人影があった。


そして聞こえてくる声。


「おい、目ぇ開けろよ。

まだ恨み晴らしきれねーんだけど」


「…おいおい、流石にまずいんじゃないか?

殴りすぎると傷が出来るし…それに一応、女だし…」


ーーーー女?


「んなもんどうでもいいんだよ。

どうせ警察来て逮捕だろ?どうせ捕まるんだ」


「おい、輝弘…」


ーーーー輝弘?


間違いない、この前の奴だ。


俺は声の方向へ足を向ける。


そして、今にも消えそうな街灯が照らしたのはーーーー


気を失って倒れている波原さんーー彼女だった。


瞬時にこみ上げたのは、怒り。


そして、俺は落ちている空き缶にその怒りを込めて思いっきり奴の足へ投げ飛ばした。


「ぐぁっ…!!!!


…っ!…お、お前は……あの時の…!」



投げた缶は通常の用途とは違い、凶器となって奴の足に当たり形を変えていた。


…この()が本気で投げたから、相当の威力はあっただろう。

奴は足を押さえ、動けずにいる。


「…ああ、すまない」


俺は顔を少し伏せ、奴らの方へ一歩ずつ歩み寄る。



そして春日を見下ろすように、言った。



「……少し、手が滑ったんだ」


あくまでも声は、穏やかに。


…しかし、放つオーラは凍える程冷たく、言い放った。


「っ……。お、お前ら、コイツをどうにかしろ!」


そこからは秒殺だった。


後ろの2人が同時に蹴りを入れて来たので軽くかわし、2人のみぞおち付近をこちらが蹴り込む。


2人はあっけなく倒れ、動けなくなった。


その様子を、春日は呆然と見ていた。


「う、ウソだろ……」


「…さぁ、どうする?あとはお前しかいない。

今立ち去るなら、これ以上は何もしない」


奴は慌てて足を引きずりながら後ずさった。


「わ、わわかった。

…わかったからこれ以上近づくな!」


「……その代わりーーーー」


俺は先程より遥かに怖い眼差しで、言った。



「…彼女の前に、二度と現れるな」



奴と残りの2人は、逃げるように去っていった。


それを見届けたあと、すぐさま彼女の元に駆け寄る。


何故か彼女のコートは濡れていて、足は腫れていた。

すかさず羽織っていたコートを脱ぎ、彼女に被せた。


とりあえず、頬を軽く叩いて呼んでみる。


「波原さん」


呼んだが返事はない。


だが、俺はふと考えた。


…俺がここにいるのは彼女にバレない方がいいかもしれない。


ボスにも言われているし、存在はバレない方が良い。



不本意だが、コートのポケットを漁らせて貰うと携帯電話があった。


メールの文字を打っている途中だったらしく、幸いロックはかかっていない。


「宛先・三浦 綾那…友人か?」


どうやらこの宛先の人物とは親しいらしい。

前後の内容を見るとどうやら同居しているらしいので、彼女に送ればきっと来るだろう。


俺はそのメールに「助けて」と打ち、位置情報を添付して送信した。


「これで、おそらくーーーー」



10分後、宛先の彼女と思われる人物が到着した。


彼女が来る前に、被せていたコートは回収した。


「七葉!…七葉!!!」


彼女は駆け寄り、名前を呼び続けていた。


すると偶然路地に人が通り、波原さんをタクシーへ運ぶのを手伝ってくれていた。


本当は、俺が手を貸すべきだが…それは出来ない。


でもとりあえずは、彼女の無事は確認された。


俺は1人、タクシーが走り去るのを見届けてから路地を後にした。





目が覚めると、見知らぬ天井が視界に入った。


そして同時に、綾那の泣きそうな顔も入った。


「っ、七葉!!よかった…!」


急に綾那が抱きついてきた。きもい。


「…え?ちょ、どうし…」


言いかけて、思い出した。

昨日急に水をかけられて、なんか色々殴られたっけ…。


「メール来た時、ほんとにびっくりしたんだから!それで行ったら倒れてるし!!」


「メール?何のこと?」


「えぇ忘れたの?ヘルプって位置情報付きのメール送ってきたじゃん!」


「そんなの送ってないけど…?」


確かにメールは打つ途中だったけど、送ってもないし位置情報すらオンにした覚えもない。


もしかして無意識に押してたのか…?


まあいいや。


「軽い捻挫だったからまだ良かった。

…いやいや、怪我すること自体良くないわ!

まだピチピチの七葉を蹴るなんて殺してやりたい」


ちょっとちょっと。


「ちょ、物騒だから」



ちなみにここは病院だった。


あの後私はタクシーで連れていかれたらしく、検査を受けたところ骨折までは至ってなかった。


しかも正直言って歩いてもちょっと痛いくらいで、あまり支障は無かった。


ちなみに今は夜の9時。

お互い晩御飯も食べてない。

本当は今日2人で外食に行くはずだったのに…。


とりあえず、綾那にこうなった原因は伝えた。


「…ごめんね、綾那。迷惑かけた」


「いいのよ、ってかそれより重要なのはその春日って奴よ。さっさと警察にぶち込みましょ」


綾那がちょっと怖い。

ショートボブの彼女は普通にしてれば可愛いのに、たまに大胆な発言をしてくる。


「いや、それはやめて」


「え、なんで?」


「流石にこれ以上事を荒立てたくないし…。

もし春日のお父さん復活しちゃったらまた報復しかねないじゃん?」


「…わかった。

凄く不本意だけど、一番大事なのは七葉の安否だし…。でも、次何かされたら警察ぶち込むわよ」


「は、はい」


綾那こわい。



………ってか、


…明日、仕事行けるかな……







結論から言うと、


…全然仕事行けました!


走れば流石に痛いけど、お医者さんの応急処置が神だったからか歩いても痛くなくなった。



よかった〜…これで一条さんのコート弁償代分また働ける…泣


私は一条さんの家のインターホンを押した。


ピンポーンという音が2回ほどなってから、ドアは開いた。


「…あ、おはようございます」


とりあえず挨拶。


「……………?!」


顔を上げると、一条さんはとんでもなく驚いている顔だった。


こんな人も驚いた顔をするのか。

…ってかなんで驚いてるんだ?


「…え、あの一条さん…?」


すると、突然ガッと肩を掴まれた。


「…具合、悪くないのか?」


「ぜ、絶好調ですけどどうかしましたか…?」


か、顔が近い!


彼の顔には焦りの表情が見えていた。

どうしたのだろうか。


もしかして昨日の夜の事ーーーいやいや、彼は知らないはず。


私はその発想を瞬時に打ち消す。


「…そう、…じゃあ、あがって」


「は、はい………」


私は家におじゃました。


家に入るとやっぱり豪邸。

何度見ても凄いなぁ…。



…さて、今日はどこを掃除しようか。


私はあたりを見回していて違和感に気づいた。


「一条さん」


「ん?」


「この部屋…寒くないですか?」


「そう?じゃあ温度を…」


「あ、いやいや!何か寒い気がしたので一条さんは寒くないのかなって思っただけなので大丈夫です!」


これ以上私のせいで出費を増やしてはダメだ。


…いやでも、普通に寒くないか?


さっちきも、お天気お姉さんが「今日はぽかぽかと暖かいでしょう」とか呑気なこと言ってたから薄着で行ったら外寒かったし…


とりあえず寒いと思ってるのは私だけらしいから、動きにくいけどコート着たままやるしかないか…。


私は一条さんがこっそり温度を上げてくれたのには気付かず、洗面所をお借りして準備をしに行った。


「今日はコンロと換気扇らへんかな…」


私は自前の掃除薬品を取り出して、霧吹きの中へ移した。


やっぱり市販の薬品だと家によって家具が傷ついたり汚れが落ちにくかったりするので、基本私は薬品の調合を自分で行っている。


今回使うのはアルカリ性が高い「水」。


大体キッチンなどに使う薬品はアルコールなどだと思うが、実はこのアルカリ性の水の方が汚れが落ちやすい。


水を電気分解させてアルカリ性を高めることによって、剥離しやすくなって油などの汚れが取りやすくなるのだ。


家でやると危険な時もあるので、大体は母校の大学の施設をちょーっと拝借してやらせて頂いている。


というわけで、掃除開始!



一条さんは3階にいるので、2階にあるキッチンで掃除をしても迷惑にはならないはずだ。


「うーん、まずは上からか…」


換気扇から掃除を始めることにした。


いくら豪邸と言えど、そんな毎日換気扇まで掃除はしないからそれなりに汚れている。


まあ、汚れている方が断然やる気上がるけどね!


私は換気扇のフィルターを取り、さっきのアルカリ性の水に漬ける。


これで1時間くらい待つと油は綺麗に取れる。


「…で、問題なのはその奥だよな……」


フィルターを取ると、その奥に待ち構えるのはファン。

これもまた汚れが酷い。


まあ、何十個の換気扇を掃除してきた私の敵じゃないけどね。


これも、漬け置きで汚れを取る。


タオルを敷いた上に同じ「水」が入ったビニール袋を置く。

その中にファンを入れて、これは10~20分くらい放置する。


あとここで重要なのは温度。


油の性質は温かくなると溶け、冷めると固まる。

だから、温かいほうがより汚れを落としやすいのだ。


「よし、次はーーーーー」



その時、何故か視界が揺らいだ。


「………っ?!」


急に、体の奥全体が熱くなる。

先程までの寒さが、嘘みたいに。


「ま、まさか………」


これは、もしかしなくても…………



「熱…………………?」


ど、どうしよう。

ここで倒れるわけにはいかない…!


と、とにかく根性で頑張れ!波原七葉!!!


私は自分にそう言い聞かせるも、体が徐々に重くなる。


…原因はひとつしか思い当たらない。


絶対に昨日かけられた、水だ。


あの野郎…やっぱ訴えたろか!



でもマジで本当に、倒れるわけにはいかないのだ。


私は急いで鞄から風邪薬を取り出して飲んだ。


「波原さん」


一条さんが上から降りてきた。


ストップ!来ないでくれ!


風邪移しちゃうし熱あるのバレるし今掃除中だし!!!!


「今日の昼飯はーーー」


「い、一条さん今掃除中なので来ないで下さい!」


「いや、それは大丈夫なんだけどーー」


こっちが盛大に困るんです!!いろいろと!!


「いやあの、今漂白中なのであまり近づかない方がーーーーー」


私は焦って一条さんの方へ近づいた。


…と同時に、急に熱が頭に上る。


「………っ!」


私はよろめきそうになるのを必死で耐えて、平静を装う。


一条さんは私を見てはっとした。


彼には、見透かされてしまったようだ。


「波原さん、もしかして熱が……」


「…あ、一条さーーーー」


…熱に、負けた。


私は不覚にも彼に助けを求めて、意識を失った。

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