09 狐耳の村
さて。
冒険者ギルドでちょっと奇妙なクエストを受注した。
内容はゴブリンの討伐。数は三十匹ほど。
俺のゲーム的感覚でも、アリアの現地人的感覚でも、ここまでは普通だ。
しかし、報酬が安すぎるらしい。
金貨一枚。
ドラゴンの討伐が金貨百枚だったことを考えると、確かに安い。
あと、ザッと見た限り、金貨一枚は日本円にすると、一万円から二万円くらいの価値っぽい。
つまり一万円で三十匹のゴブリンを倒せというのだ。
しかも場所が、このベイルビア町から結構遠い。
徒歩だと三日くらいかかる。
つまり、とても割に合わない仕事だ。
だが、ギルドの掲示板に貼ってあった紙を見て、俺とアリアは二人とも受ける気になっていた。
依頼主は『獣人』である。
アリアいわく、獣人は基本的に貧乏らしい。
なにせ人間は、自分たちと違う身体的特徴を持った相手を、どうしても無意識の内に避けてしまうことが多い。
よって獣人は人間社会と疎遠になりがちだ。
だから種族全体が貧しい。しかも数が少ないので、成り上がるのも難しいときている。
「受けます! 幸いにも今の私はお金に余裕があるので。獣人さんを助けに行きましょう!」
「よし。俺も手伝うぞ」
「そして獣人さんの耳と尻尾を触るととても気持ちいいらしいので、モフモフさせてもらいましょう!」
あれ。そっちが本命かな?
いや、でも俺もモフモフは楽しみだ。
というわけで、空飛ぶベッドでひとっ飛び。
ばひゅーん。
一瞬で獣人さんの村に着いたぜ。
「おお、あなた方が冒険者ですか? ワシがこの村の長老です」
出迎えてくれたのは、六十歳くらいの男性だった。
ただし、頭にキツネの耳が。おしりの上あたりからはキツネの尻尾が生えている。
おじいさんなのに可愛い!
「実は半月ほど前にゴブリンが村の近くに巣を作りまして……以来、畑が荒らされ困って折るのです。何とか退治して頂けませんか……って、どうしてワシの耳を凝視しているのですか!?」
俺たちは長老の家に招かれ事情を説明されているのだが、耳が気になって仕方がない。
「いえ。お気になさらず。別にモフモフしたいとか思ってませんから」
「はい。私もそんなこと全然思ってません!」
「はあ……ワシのようなジイイの耳をモフモフするより、若い者をモフモフしたほうがいいのでは?」
「「モフモフさせてくれるんですか!?」」
俺とアリアの声がハモる。
長老は「結局触りたいのか」と小さな声で呟く。
だが、当然だろう。
こんなの、モフりたいに決まっているじゃないか。
俺とアリアの反応は至極当然。
むしろ獣人を避けている他の人間こそおかしいと俺は思う。
「ゴブリンを倒してくれた暁には、素敵な耳と尻尾が触りたい放題ですぞ。報酬が少ない代わり、そっちでサービスです!」
いかがわしい店みたいだ。
けど、素敵な耳と尻尾というのは楽しみだ。
「お二人にやる気を出して頂くため、今の内にその素敵な耳と尻尾の持ち主をお見せしましょう。おーい、ミミリィ。おいで」
ミミリィ!?
俺にモフられるために生まれてきたような名前だ!
そして家の奥から現われたのは、銀髪おかっぱの少女。
身長は一四〇センチくらいだろうか。
アリアも小柄だが、更に小さい。
もちろん、頭には狐耳。尻尾も生えてる!
「こ、この子をモフモフしていいんですか!?」
「言っておくが、ゴブリンを倒してからですぞ」
「ど、どうしましょうテツヤさん! 私、我慢できないかもしれません!」
「俺もだ! 長老、この子を隠してください。じゃないと俺たち、おかしくなってしまいます!」
俺とアリアはヨダレを流して少女を凝視する。
精神力を総動員しないと、今にも襲いかかってしまいそうだぜ。
「そうもいきません。なにせ、ミミリィには、あなたたちと共に、ゴブリンと戦ってもらうのですから」
長老は驚きの台詞を口にする。
こんな小さな子が俺たちと一緒に戦うって!?
そりゃ、俺はもうレベル200になったし、大抵の敵は一撃で倒せると思うけど……逆に威力がありすぎて巻き込んじゃうよ!
アリアの面倒を見るだけで精一杯だ。
ましてミミリィは子供じゃないか。
ゴブリン討伐どころか、ピクニックに連れて行くだけで学校の先生気分……。
いや、しかし、こういう子供が案外強かったりするかも。
ちょっとこっそり、ステータスを確認してみよう。
名前:ミミリィ
レベル:19
HP:93
MP:80
攻撃力:36
防御力:24
素早さ:45
幸運:13
おお、これは滅茶苦茶強いわけじゃないけど、冒険者として通用するステータスだ。
「長老。どうしてこんな小さくて可愛い子を戦わせるのですか! 私とテツヤさんだけで十分ですよ!」
「ですが、金貨一枚しか払わないのに、この村から誰も戦いに出さないというのは……」
「だからって、どうしてこんな子を!」
アリアは長老と口論している。
俺はそのアリアに手招きし、部屋の端に連れて行き、小声で耳打ちした。
「アリア。冷静に聞いてくれ……」
「何ですかテツヤさん。改まって」
「あの子のステータス見たんだけど……レベル19だった。アリアより強いぞ」
「ど、どひゃぁ!」
アリアは大げさに驚き飛び跳ねる。
この子、驚くときはいつも「どひゃぁ」と叫ぶんだな。
可愛い。