05 空飛ぶベッドで町の中を進むのはちょっと恥ずかしい
「はい、皆さん、ごめんなさい。ちょっと通りますよ」
俺とアリアを乗せたベッドは、町の大通りを進む(アリアいわく、ベイルビアという町らしい)。
もっと高度を上げれば人をかき分けなくても進めるのだが、俺がこの世界の町を近くから見たかったので、こうして低空飛行しているのだ。
「テ、テツヤさん……これはちょっと恥ずかしいですよぅ」
空飛ぶベッドに寝そべって町を移動するのが初めてなのだろう。
アリアは真っ赤になって訴えてくる。
まあ、俺も初めてなんだけど!
「大丈夫、大丈夫。馬車みたいなものだと思えば」
「かなり違うと思います……」
ところで町の風景は、中世ヨーロッパ的な感じだった。
俺が見ているこの夢は、ファンタジー系らしい。
まあ、ドラゴンや冒険者がいる時点で察していたけど。
そしてアリアの案内で、冒険者ギルドの前に着いた。
中に入ると屈強な男たちが沢山いた。
しかしアリアのような女の子も一応いる。
どうやら少女が冒険者をするというのは、そこまで珍しいことではないらしい。
アリアは受付に行って、ドラゴンを倒したと宣言する。
「え! アリアさん、ドラゴン倒せたんですか!? てっきり逃げ帰ってくるかと思っていました!」
受付の女性はギョッとした顔になる。
「ふふ、私を見直しましたか! と言いたいところですが、あそこにいるテツヤさんに助けて頂いたのです!」
そう言ってアリアは俺を指差す。
ちなみに俺は、ベッドごと冒険者ギルドに入り込んでいる。
入り口が大きくて助かった。
なにせベッドでゴロゴロするのは至福の時間。
可能な限りベッドから出たくない。
「テツヤさん……? 何者なの? 空飛ぶベッドごと建物に入ってきた時点で、只者じゃないのはわかるけど……」
うーむ。
やはり、かなり変な人に見えるか。
「俺はただの通りすがりです。お気になさらず」
「気になるわ。だってトドメを刺したのはアリアさんでも、実質アナタがドラゴンを倒したんでしょ? 登録がまだなら、是非とも冒険者ギルドに登録して欲しいわ。登録した状態でドラゴンを倒せば、『ドラゴンスレイヤー』の称号が手に入るのよ? 一流冒険者として、どこに行っても一目置かれるわ」
登録は無料らしい。
特に損することもなさそうなので、俺は登録することにした。
水晶玉の上に左の手を乗せて、三秒ほどで登録は完了する。
アリアみたいに、ギルドの紋章を出せるようになった。
ちょっとオシャレ。
あと、登録のために少し歩いたらまたレベルが上がった。
【レベル135になりました】
他の人のレベルはどのくらいなんだろう?
というか、俺以外にもレベルという概念はあるのかな?
あとでアリアに聞いてみよう。
「ふふ。これで借金を返せますよ! テツヤさん、本当にありがとうございました。もう、何とお礼をしていいものやら……」
「お礼かぁ……別にお礼なんていいよ。そんな大したことしてないし」
本当。テクテク歩くだけでレベル上がるから、何の努力もしていない。
適当に殴ったりスキルを使っただけ。
頑張り度なら、アリアのほうが圧倒的に上だ。
「いいえ。ここまでして頂いてお礼をしないなんて、アリア・アストリーの名が廃ります! 何か、私にして欲しいことを考えてください!」
うーん。そうはいっても目が覚めたらお別れだからなぁ。
「何なら……お、おっぱい揉み放題でもいいですよ!?」
いいね、それ!
真剣に考えてみよう!
ひとまず俺たちはベッドに乗り、借金を返しに行った。
金貸し屋の扉を叩くと、なにかこう、ヤクザっぽい人が出てきた。
こ、怖いよー。
「おいアリア! 今週の利子持ってきたのかコラ!」
「ふふん。利子どころか全部返します。ここに金貨百枚ありますからね!」
アリアはさっきギルドでもらった、金貨がつまった革袋を自慢げに掲げた。
するとヤクザっぽい人は、革袋ごとひったくる。
「わっ! 何をするんですか、返してください!」
「あん? 何を言ってやがる。お前は金を返しにきたんだろうが」
「私の借金は利子をいれても金貨五十枚のはずです! 半分は私のものです!」
「今まで待たせた詫び料だ。むしろ金貨百枚で済んでありがたく思えよ。ほら、帰れ帰れ」
これは酷い。
横から見ていてムカついてきた。
なので俺はヤクザっぽい人にベッドごと体当たりする。
「とりゃあ!」
「ぐべしっ! てめぇ何しやがる!」
「アリアに金貨五十枚返してくれませんかね?」
「フザケンナコラ!」
俺の誠意が伝わらない。
仕方がないので、スキルを使おう。
「フレアアロー」
ヤクザっぽい人の喉元に、炎の矢を突き立てる。
あと一センチでも進むと、彼の喉はじゅっと灼ける。うわぁ熱そう!
「な、何だこりゃ! 魔術か……くそ、てめぇ何者だ!」
「通りすがりの新米冒険者です。新米なので手が滑って、このままあなたを焼き尽くしてしまうかもしれないので、早く金貨五十枚返してくださいよ」
「くそ……アリア、てめぇ、こんな用心棒を雇いやがって! 魔術師なんてどこで見つけて来やがった!」
なんて言いながら、ちゃんと金貨五十枚を返してくれた。
良かった良かった。
「さて、アリア。君の家まで送っていくから、ベッドに乗って」
「はい。ところでテツヤさん。今日、泊まる場所、決まっていますか? もし決まっていないのでしたら……私の部屋に泊まってください!」
そんな。女の子が男を簡単に泊めちゃ駄目だと思うよ。
けど、これは俺の夢だから、まあいいか!
それ行け空飛ぶベッド。
女の子の部屋にレッツゴー!