40 お母さんも実体化
大会が終わったあと、コロシアムの外でミミリィの両親と改めて顔を合わせる。
「ところでミミリィ。あなたはどうして王都にいるの? 観光?」
「違う。お母さんとお父さんがなかなか帰ってこないから、探すために村から出た。このテツヤとアリアは冒険者仲間」
「アリアです! ミミリィさんのお友達です!」
「テツヤです。俺もまあ、ミミリィの友達です」
「これはご丁寧に。そしてエリーちゃん。さっきはくすぐって、ごめんなさい。あんまり可愛くて、ちょっと虐めたくなったのよ」
ミミリィのお母さんはエリーを向き、うふふと笑う。
「勝負だったから何をされても文句は言わないけど……そう言えば、どうして私の名前を知ってるんですか? まだ名乗ってないのに」
「トーナメント表に書いてあるわよ」
「あ、なるほど……」
「私からも質問なんだけど。エリーちゃん、試合中は私と同じく半透明だったのに、今は普通よね? どうなってるの?」
「ああ、これはね。お兄ちゃんのおかげなの!」
エリーは、俺に幽霊を実体化させたり、また半透明にしたりするスキルがあると説明する。
それを聞いたミミリィの両親は目を輝かせる。
「すると、こいつを実体化させることも出来るのか!?」
「もう一度生身になれたら、またイチャイチャできるわねー」
「バ、バカ! 子供の前だぞ、なに言ってる!」
ミミリィのお父さんは赤くなる。
「ほんと、いい歳して何やってるの……」
そしてミミリィは呆れたようにため息をつく。
「実体化くらい、簡単ですよ。ほら」
俺は「ミミリィのお母さん、実体化しろ!」と念じる。
すると実体化した。
ね、簡単でしょ?
「あらあら、凄いわ! ねえ、私、ちゃんと実体化してるよね?」
「しているぞ! ちゃんと体温も伝わってくる!」
「あなた!」
「おまえ!」
そして二人は抱きしめ合った。
熱い!
そんな感じでしばらくイチャイチャしていた二人は、やがて俺の手を握り、やたらと感謝してくる。
「ありがとうテツヤさん。あなたのお陰で、元に戻れたわ!」
「本当にありがとう……妻が幽霊になってしまい、色々と不便だったんだ」
奥さんが死んだのに不便で済んでいたというのも妙な話だが、とにかく喜んでくれたようだ。
「また幽霊モードになりたくなったら、いつでも言ってください。簡単に切り替えできるので」
自分で言ってて、バカみたいなスキルだなと改めて感心する。
これもしかして、普通の人間も半透明にしたり出来るのかな?
【ちょっとそれは無理ですね】
あ、無理なんだ。いや、使い道ないからいいけど。
【ちなみに半透明じゃなく、テツヤ様が完全に透明になるスキルなら既に覚えていますよ】
マジで?
あんまりスキルが多すぎて気付かなかった。
【お風呂、覗きたい放題ですよ】
なるほど!
けど透明にならなくても、アリアは普通に見せてくれるし、エリーとミミリィも熱心に頼めば、最後は見せてくれる気がする。
【それもそうですね】
……だんだんメニュー画面と会話するのも慣れてきたなぁ。
「さてと。私たちは一度、村に帰るけど、ミミリィはどうする? 一緒に来る? それともテツヤさんたちと残る?」
「えっと……どうしよう」
問われたミミリィは、母親の顔と俺の顔を交互に見る。
「ミミリィ。帰りたいなら送っていくぞ。というか、皆で行くか」
「いいの?」
「いいに決まってるだろ。だって暇人だし」
「それもそうだった」
合点がいったという顔でミミリィは頷く。
自分で言い出したことだけど、そんなに納得されるとショックだな。
俺だって、いつも暇というわけじゃないんだぞ。
たとえば……うーん、思いつかない。
「……とりあえず。カムヒア空飛ぶベッド!」
俺の呼び声に答え、空飛ぶベッドがぎゅーんと飛んでくる。
「あら凄い。どうなってるのこれ?」
「ふっふっふ。説明しましょう! テツヤさんの空飛ぶベッドは空を飛ぶことが出来るのです!」
「まあ! 空飛ぶベッドが空を飛ぶなんて珍しいわ!」
そうかな?
珍しいのは『空飛ぶベッド』そのものであって、『空飛ぶベッドが空を飛ぶ』のは普通のような……俺もこんがらがってきたぞ。
とにかく、皆を乗せて一っ飛びだ。
この人数だと流石に狭いけど……何とか離陸!
「あ、そういえば私、死んだのにまだ葬式してないじゃないの。今夜は私の葬式パーティーね」
お母さん、それはどうかと思いますよ。
「そうだ。俺も聞きたいことがあったんでした。ミミリィのお母さん、滅茶苦茶強いですよね。生涯を武に捧げてもレベル100がやっとと言いますが……明らかにレベル250くらいの強さでしたよね」
「まあ、テツヤさん。随分と見る目があるのね。そうよ、私は丁度レベル250」
「幽霊になったせいですか?」
「いいえ。人間だったときからよ。なぜなら私、天才だから」
自分で天才とか言い出したぞ、この人。
けど、レベル100が限界の世界でレベル250なのだから、天才で間違いないのだろうけど。
「ちなみに、お父さんは普通の人だからレベル68」
「い、言っておくけどな! レベル68でもかなり凄いんだぞ!」
国家騎士のロゼッタさんとほとんど同じだから凄いのは確かだ。
けれど、お父さん。そんな半べそで言わなくても……。