39 決勝戦
エリーは順調に勝ち抜き、そして、いよいよ決勝戦だ。
アリーナの上にはゴーストが二人。
エリーとミミリィのお母さんである。
「負けないわよ、ミミリィのお母さん!」
「あらまあ。お手柔らかにね」
そして試合開始のゴングが鳴る。
真っ先に攻撃したのはエリーだった。
先手必勝とばかりに、エリーは手から炎を出す。
「エリーインフェルノ!」
説明しよう、エリーインフェルノとは。
普通の炎系魔術スキルだが、エリーが勝手に別の名前をつけたものである。
エリーインフェルノは恐るべき熱量でミミリィのお母さんに襲いかかった。
が、それは見えない壁に防がれてしまう。
流石はレベル250。防御結界もお手の物だ。
「ふふ、今度はこっちから行くわよ。えーい」
ミミリィのお母さんから突風が吹き荒れ、エリーインフェルノが押し返された。
エリーは自分で作った炎に包まれる。
「あちち!」
説明しよう。
物理攻撃を全て無効化する幽霊でも、魔力で作られた炎や雷ではダメージを受けるのである。
「やるわね、ミミリィのお母さん! じゃあ、これならどう? エリーウルトラインパクト!」
説明しよう、エリーウルトラインパクトとは。
拳に魔力を集めて放つ、凄い威力のパンチである。
「てやぁっ!」
エリーは飛び跳ね、空中からミミリィのお母さんに向かってエリーウルトラインパクトを放った。
その衝撃にアリーナの床に大きな亀裂が走る。
しかしミミリィのお母さんは軽やかなステップで回避し、擦りもしなかった。
「ふふ、あなた、エリーちゃんだったかしら? 凄い魔力ね。けれど、動きが駄目ねぇ。お手本を見せてあげるわ」
ミミリィのお母さんは不敵に笑い、そして――残像を残して消えてしまった。
「えッ!?」
エリーは目を見開いて驚くが、もっと驚いているのは俺だ。
相手の死角に潜り込んで消えたのではなく、本当に消えてしまったのだから。
透明化のスキルを使ったのなら、まだ話は分かる。
だが、違うのだ。
消えたといっても、俺の動体視力はかすかに彼女を捕えている。
独特の歩行と、信じがたいほどの移動速度。
その組み合わせで、あたかもそこに居ないかのように振る舞っているのだ。
超人じみた技術である。
逆に言えば、見えないだけで、そこにいるのは確か。
「エリー、範囲攻撃だ! アリーナをまとめて吹っ飛ばせ!」
「わ、分かったわ! エリーアイスアルティメット!」
説明しよう、エリーアイスアルティメットとは。
アルティメットな感じの氷で広範囲を覆い尽くすスキルである。
そのアルティメットな感じのアレにより、アリーナ全体が凍てつく氷に閉ざされた。
しかし、それでもミミリィのお母さんはは止まらない。
盛り上がった氷の山を砕きながら、エリーに突進していく。
「エリー、後ろだ!」
「――ッ!」
エリーは慌てて振り向こうとする。
だが間に合わない。
容易く押し倒され、そして……。
「こしょこしょこしょ」
脇の下をくすぐられてしまった。
普通ならゴーストをくすぐるなど不可能なのだが……なにせ相手もゴーストだ。これは回避できない。
「あひゃひゃひゃひゃ! や、やめてぇ……ッ!」
「ふふ、エリーちゃんは、くすぐったがり屋さんね。じゃあこっちはどうかしら?」
「脇腹もやめて! 太股もだめぇ!」
エリーは必死に逃げようとするが、体に力が入らないらしく、「あひゃひゃ」と笑いながら涙を流す。
「ギブギブ! ギブアップ! 私の負けでいいからもうやめてぇぇ!」
かくして俺たちの魔法幽霊少女エリーの成績は、準優勝に終わった。
しかし、この大会を通してエリーは多くのことを学んだはずだ。
頑張れエリー。負けるなエリー。
世界は再び魔法幽霊少女が立ち上がる日を待っている!
と、いい話っぽく締めておこう。
あと、ミミリィのお母さんとお父さんに、改めて挨拶しておかなきゃ。




