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37 訓練から大会当日まで

 次の日。

 エリーを幽霊モードにして出場受付まで連れて行く。

 受付の人は半透明のエリーを見て少しギョッとしていたが、トラブルもなく無事にエントリー出来た。

 なにせエリーはニコニコ笑顔で、しかも真っ昼間だ。

 いくら幽霊でも、演出が悪ければ全く怖くない。


 それから残りの日数は、エリーが魔力を上手く使えるように修行だ。

 空飛ぶベッドで誰もいない場所に行けば、強力な魔術を使っても迷惑にならないしね。


 というわけで、いつものメンバーで荒野にやって来た。

 今日はちゃんとミミリィも起きてるぞ。


「修業を始める前にこれを見て下さい! 実は昨日、あれからミミリィさんと街に行き、こんなものを買ってきたのです!」


「じゃーん」


 アリアとミミリィは、ベッドの収納スペースから何やら衣服らしきものを取り出した。

 いつの間に入れたんだろう。


「魔力溢れるエリーさんのために、魔法少女っぽいコスチュームです!」


「三角帽子とマントもある」


 すると、エリーは嬉しそうに飛び跳ねた。


「凄い! 可愛い! これエリーのために? 二人ともありがとう!」


 思わぬプレゼントに大喜びだ。


「いえいえ。エリーさんに着せたかっただけなので。というわけで着替えましょう!」


「うん。でも今は幽霊モードだから服が素通りしちゃうわ。お兄ちゃん、実体化させて!」


「おっけー」


 それにしても、着ている服やぬいぐるみまで実体化するなんて不思議だなぁ。


「お兄ちゃん、いつまで見てるの! 脱ぐんだからあっち向いてよ!」


「あ、ごめん。気付かなかったよ」


 俺は回れ右をして、彼女らに背を向けた。

 すると後ろからアリアの叫び声が聞こえてきた。


「エリーさん、テツヤさんのことが好きなんですよね? なのに裸を見られたくないんですか!? 変です!」


 それに対して、エリーが反論する。


「アリアこそ変よ! 確かにお兄ちゃんのことは大好きだけど、裸を見られるのは恥ずかしいわ!」


「それはエリーが正しい。というか、アリアが痴女過ぎる」


 ミミリィがエリーに同意していた。俺もそう思うぞ。


「な、何をおっしゃいますかミミリィさん! 私は痴女じゃありません! ただエッチなことに興味があるお年頃なだけです!」


「そういうことを大きな声で言うあたり、とても痴女」


「痴女……アリアってそうだったんだ……」


「エリーさん、そんな蔑んだ目をしないでくださいよぅ!」


 顔は見えないけど、それぞれがどんな表情をしているかは、おおむね分かる。

 いいから早く着替えて欲しい。

 一人だけ違う方向を向いて黙っているというのは、なかなか退屈なのだ。


「お兄ちゃん、お待たせしてごめんね。もういいよ!」


 やれやれ、やっとか――と思いながら振り向くと、そこには天使がいた。

 三角帽子にマント。そして魔法少女っぽい服。星形の飾りが付いたステッキも握っている。

 なんて可憐な!


「えへへー。絵本に出てくる魔法少女みたいでしょー。どう、似合ってる?」


「に、似合いすぎて凄い!」


 コスプレ撮影会に連れて行くと、きっと怪我人が出るほど人が集まる。


「むむ。テツヤさんがメロメロになっています。少しエリーさんを可愛くし過ぎました……しかし、私としてもこれは抗えない可愛らしさ!」


「同感。この格好で大会に出たら、注目度ナンバー1」


「少し恥ずかしいかも……」


 褒められまくったエリーは、スカートを抑えてモジモジする。

 くううううう……萌え死ぬっ!


「よし! 可愛らしさと強さを合わせ持つ最強の魔法少女エリーを、モンスター大会で王都に知らしめるぞ!」


 まずは実体化解除。幽霊モードに戻す。

 すると予想どおり、魔法少女のコスチュームも半透明になった。

 便利!


「あれ? 幽霊モードになったら、お兄ちゃんとキスできないわよ?」


 むむ、確かに。

 それではいつもの、てくてく。


【幽霊にもキスできるスキルを習得しました】


 おっけー。

 ほっぺにチュ。

 さあ、修行開始だ!


「テツヤさん、私にもチュってしてくださいよー。昨日だってキスしてくれなかったじゃないですかー」


「うーん、今はエリーの修行があるから、あとでね」


「むー、エリーさんと一緒に住むようになってから、テツヤさんが何だか冷たい気がします!」


「いや、冷たくはしてないけど。まあ、エリーに構ってる時間が一番長いのは確かか。でもそれは俺だけじゃないだろ? アリアとミミリィもエリーにかかりっきりじゃないか」


「言われてみれば!」


 アリアは今更気が付いたらしく、ハッとした顔になる。


「エリーが可愛いから仕方ない」


 ミミリィは当然というふうに頷く。


「私、ちょっと前まで一人ぼっちだったのに……えへへ。幸せ!」


 エリーは笑う。

 純粋に喜びを受け入れていた。

 そんなエリーの笑顔を見ていると、こっちまで心がほんわかしてくる。


        ※


 そして、ついに大会当日。

 会場は王都にある大きなコロシアム。

 普段は剣術大会や武闘大会、あるいはサーカスや演劇など、様々なイベントに使われているらしい。


 そして、今日のモンスター大会の出場者は参加者は十六人。

 少ないような気もするが、モンスターを捕まえて手なずけるというのは、かなり難しいらしい。

 考えてみれば、俺も無理だ。

 倒すのは簡単だけど。


「ではエリーさんにテツヤさん。私とミミリィさんは観客席で見守っていますから、頑張って下さいね!」


「ふぁいと」


 そう言ってアリアとミミリィは観客席に向かう。

 なにせ控え室には、出場モンスターとその主人しか入れないのだ。

 エリーの主人には俺を登録してある。


「お兄ちゃん、控え室に行ってみましょ!」


 魔法少女姿(ただし半透明)のエリーが、マントを揺らしながら言った。


「ああ。どんなモンスターが出るのか、楽しみだな」


 控え室に行ってみると、スライムや一角ウサギ、ゴーレムなどがいた。

 やはり捕獲可能なモンスターとなれば、せいぜいこの辺だろう。

 モンスターたちのレベルを確認してみたが、どれもレベル30~50くらいだ。

 絶対に勝てる!


 もっとも、控え室にいるモンスターの主人たちは、エリーを見て「こいつになら絶対に勝てる!」という表情をしていた。

 無理もない。エリーの見た目は、半透明なことをのぞけば、可愛い女の子だから。

 しかし、俺たちの魔法幽霊少女エリーは、既にレベル200の魔力を完全にコントロール出来るようになっている。

 こんな連中、一撃必殺だ。


「ヘイ! もしかして、あんたらが俺とスラきちの一回戦の相手かい?」


「ぷるぷる、ぷるぷる」


 高さ一メートルくらいのスライムを引き連れた男が話しかけてきた。

 そういえばトーナメント表で、エリーの最初の相手はスラきちになっていた。

 スライムだからスラきち……安直すぎて逆に気が付かなかったぜ。


「どうも、そのようだな」


「はは。正直スライムで一回戦突破は厳しいかもと思っていたが、こんなに可愛らしいゴーストが相手なら勝負はこっちのものだ。な、スラきち」


「ぷるぷる!」


 スライムはぷるぷる揺れ動く。なんか美味しそう……。


「言っておくけど、うちのエリーは強いぞ」


「そうよ。エリーは強いんだから」


「へえ、そりゃ試合が楽しみだ。俺たちは第一試合だから、すぐに始まるぜ」


「ぷるぷーる!」


 スライムとそのご主人様は、勝ち誇った顔で一足先に出口に向かう。

 まあ、俺と奴のどちらが正しいかは試合で分かることだからいいとして……出場者は十六人のはずなのに、ここには俺とスラきちの主人を入れても十五人しかいないなぁ。

 遅れてくるのかな?


「お兄ちゃん、私たちも行きましょう」


「ああ。頑張れよ、エリー」


「頑張りすぎるとスラきちちゃんを殺しちゃうから、そんなには頑張らないわ」


 それもそうだね。

 一回戦で与えるレベルは100くらいにしておこう。




 と、そんなわけで一回戦がこれから始まる。

 俺はアリーナの入り口までしか着いていくことが出来ないので、そこでエリーのほっぺにキスをし、レベル100を与えた。


「よし行け!」


「行ってきまーす」


 エリーは元気よくアリーナに上がる。

 そして試合開始のゴングが鳴った。

 スラきちがいきなり体当たりしてくる。

 が、当然、エリーの体を素通りしてしまった。


「くっ、流石はゴースト! しかしスラきちは魔術も使えるんだよ!」


「ぷるぷる!」


 スラきちから小さな火の玉が発射され、エリー目がけて飛んでくる。

 しかしエリーはステッキをバットのように振り回し、火の玉を打ち返してしまう。


 幽霊モードのエリーは本来、何かを動かすことが出来ない。

 触ってもひんやりさせるだけだ。

 だから今のは、撃ち返したように見せかけて、反射のスキルを使ったのだ。

 流石はレベル100。強いぞ。


 そして、自分が出した火の玉を自分で喰らったスラきちは、場外まで吹き飛ぶ。

 そのままテンカウント。

 エリーの勝利だ。


「やったー! お兄ちゃん見てたー?」


「おう。格好良かったぞエリー」


 エリーはぴょんぴょん飛び跳ねる。

 魔法幽霊少女の可憐さに観客もやられてしまったのか、あちこちから歓声が上がった。

 そんなな中、スラきちの主人は、自分のモンスターを抱きかかえ「おぼえてろー」と捨て台詞を吐いてアリーナを後にした。

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