34 雲の上のピクニック
風呂から上がった俺は、庭に放置していたベッドを家の中に入れようと頑張る。
縦にすればギリギリ玄関から入れそうだ……よし、おっけー!
どの部屋を寝室にしようかなぁ。
「ねー、お兄ちゃん。このベッド、空を飛ぶんでしょ? 私を乗せて飛んで見せてよ」
廊下でベッドをふわふわさせていると、そこにエリーがやってきて飛び乗った。
「うーん……せっかく苦労して家に入れたのに……」
「大丈夫よ、バルコニーの窓は大きいから、簡単に出られるわ」
「え……そんな大きな窓があったんだ……先に教えてくれたら楽できたのに」
「だって聞かれなかったし」
それもそうか。
「お出かけですか? 私たちも行きますよ!」
「お腹減った。ご飯食べたい」
アリアとミミリィが髪を拭きながらやってきた。
「ご飯かぁ……お昼にはちょっと早いけど。街で何か買って、見晴らしのいいところまで持っていって食べるか」
「ナイスアイデアです、テツヤさん。ピクニックですね!」
「ピクニック! エリー、ピクニックに行くの初めて!」
そっかー。ピクニックもしないまま死んじゃったのか。
けれど、これからは俺がどこにでも連れて行ってやるぞ。
「よし。じゃあ皆、ベッドに乗ってくれ」
そして空飛ぶベッドは俺と三人の少女を乗せ、バルコニーから飛び出した。
街で水筒を買い、水を入れる。
サンドイッチと果物も買う。
ベッドで移動していると、やはり皆が見てくるが、それもエリーは楽しいらしい。
「今までは皆、エリーを見た途端に怖がって逃げちゃったけど……逃げないわね!」
たったそれだけのことが嬉しくてたまらないという顔だ。
そんなエリーを乗せて、ベッドは空高く舞い上がる。
「すっごーい! あっという間に街が小さくなっちゃった!」
「エリーさんは幽霊なんですから、自分の力でも飛べるのでは?」
「こんなに速くは飛べないわ。それに怖くて高くまで上がれなかったし……けど、このベッドなら安心ね。どうしてかしら? 全然揺れないし、風も感じないから……?」
このベッドは風の結界で守られているから、どんなに速度を出しても風圧で飛ばされたりしない。
そのおかげで、俺たちは平然としていられるのだ。
「ところで、どこに行くの? ここも十分、見晴らしがいいけど」
ミミリィはお腹をさすりながら呟く。
一刻も早くご飯を食べたいようだ。
しかし、ミミリィの言うことも一里ある。
見晴らしという意味では、空の上ほど素晴らしい場所はそうそうない。
「じゃあ、空飛びながら食べるか」
「だったら、お兄ちゃん。雲の上まで行きましょうよ」
「あ、それいいですね! 雲に乗って食べるご飯はきっと格別です!」
エリーのアイデアにアリアも賛成する。
ベッドを雲の高さまで持っていき、同じ速度で漂えば、雲に乗っかった気分になれるだろう。
「エリー。どの雲がいい?」
「えっと……あのまん丸な雲!」
エリーが指差した雲に向けてベッドを飛ばす。
高さは二千メートルくらい。
かなり遠くまで見える。
王都の全てはもちろん、そこから伸びる街道も、遠くにある村や森も。
少女三人はその光景に大喜びで、ベッドのふちから首を伸ばして見つめる。
俺はそのあいだに、ベッドを雲のはしに乗せ、そして速度を雲に合わせた。
これで流れる雲にのっかってピクニックしている気分になれるだろう。
「さあ、みんな。景色を見ながら食べようぜ。ベッドから落ちないように気をつけて」
「仮にも冒険者です! こんな大きなベッドから落ちるほどドジではありません!」
「けど、お兄ちゃんのベッドって本当に大きいわね。四人も乗ってるのに余裕があるもの。ジョーイをいれると五人だわ」
そう言ってエリーは、抱きしめていたクマのぬいぐるみをベッドの上に降ろした。
それでもまだ広い。
なにせキングサイズだからね。
一人で思う存分ゴロゴロするためだけに買ったんだけど、まさか女の子を三人も乗せる日が来るとは思ってもいなかった。しかも全員が美少女。
ある意味、異世界に来て空を飛んでいることよりも驚きだ!




