03 死んだドラゴンを生き返らせてまた殺す
「私はアリア・アストリーと申します。もしよろしければ、あなた様の名前をお聞かせ願えないでしょうか?」
アリアを名乗る金髪の少女は立ち上がり、キラキラした目差しで俺を見つめる。
年齢は十四歳くらいだ。身長は平均的日本人の俺より頭一つ分小さい。
長い髪をポニーテールにまとめており、活動的な印象だ。
しかし、いくら活動的だと言っても、ドラゴンと戦うのはお転婆すぎる。
これがゲームなら冒険者とか、そんな感じなんだろうけど。
「えっと……俺は山田鉄也っていうんだけど」
「ヤマダ・テツヤ様! 見たところ東方系のようですが、テツヤが名で、ヤマダが姓でしょうか?」
「うん、そうだね。じゃあテツヤ・ヤマダって名乗った方がよかったかな?」
「私はどちらでも構いませんが、名を先にした方が、誤解が少ないと思われます!」
アリアは妙に一生懸命な顔で俺と会話している。
可愛い。
「ところでアリアさんは、どうしてこんな森の中でドラゴンと戦ってたの?」
「はい。実は私、こう見えても冒険者なのです! そしてドラゴン討伐のクエストを受けたのですが……」
「どう見ても、手に余る感じだったね」
「うう……分かっていたことなのですが……借金を返すためには仕方がなかったのです」
「借金?」
「はい。私の両親は雑貨屋をやっていたのですが、商売に失敗し、多額の借金を作り……それを返すために働き過ぎて、二年前に二人とも死んでしまいました。私は残った借金を返さなければならないのですが、体が丈夫な以外、取り柄がありません。そこで冒険者になったのですが……身の丈にあったクエストでは、利子を返すのが精一杯で……」
「一発逆転を狙って、ドラゴンに挑んだってことかぁ」
「はい……自分で言うのも何ですが、自暴自棄になっていまして……ほとんど自殺するつもりで挑んだのですが、やはり、いざドラゴンを前にすると死ぬのが怖くなってしまって」
なるほど。
確かにアリアの戦いっぷりは死にもの狂いだった。
死にたがっている人間の動きじゃなかった。
アリアは別に、生きるのが嫌になったのではない。借金が膨大すぎてどうしていいのか分からなくなったのだ。
なら、その借金を返してしまえば一件落着。
「ところで、ドラゴンは俺が倒しちゃったけど。これでもクエストを達成したことになるの?」
「いいえ。クエストを受注した者がトドメを刺さないと、達成したことにはなりません」
「へえ。ちなみに、それはどうやって判別されるの?」
「冒険者ギルドに登録した者は、手に紋章が刻まれます。倒したモンスターの情報は全て、ここに記録されます。偽造に成功した者はいないと聞きます」
アリアは左の手の甲を俺に見せる。
するとそこに光り輝く模様が浮かび上がった。
これが紋章らしい。
入れ墨のようにずっと見えているわけではなく、任意で出したり消したり出来るようだ。
「じゃあ、借金はまだ返せないんだね……」
「そうなります……しかし、生きていれば、いつかきっと!」
アリアは気合いの入った顔で決意を新たにする。
なんて立派な子だろうか。
俺は会社に行きたくない一心でゴロゴロしていたのに。
この子の役に立ちたい。
「あ、そうだ。さっき蘇生魔術とかいうのを覚えたんだ。あれでドラゴンを生き返らせてから、アリアさんがトドメをさせば、クエスト達成なんじゃない?」
「蘇生魔術!? そんな高等魔術を使えるなんて……テツヤさん、本当に何者なのですか! あ、私、テツヤさんなんて馴れ馴れしく……申し訳ありませんヤマダさん!」
アリアはペコペコ頭を下げてきた。
「いや、別にテツヤでいいよ」
こんな可愛い子に名前で呼んでもらえるなんて、ご褒美でしかない。
「本当ですか!? ではお言葉に甘えて。テツヤさんは、私をアリアと呼び捨てにしてください!」
「そう? じゃあアリア。君も俺をテツヤと呼び捨てに……」
「いえ。流石に年上の男性を呼び捨てというのはちょっと気まずいです……」
ああ、うん。そうかも知れない。
じゃあテツヤさんでいいよ。
「よし。それじゃ、俺がドラゴンに蘇生魔術をかけてから、死なない程度に攻撃するから、そのあとアリアがトドメを刺すんだ」
「分かりました!」
俺は転がっているドラゴンの死体に走っていく。
【レベル121になりました】
えっと、蘇生魔術ってどうやって使えばいいんだろう?
ゲームっぽくメニュー画面から選べばいいのかな?
適当に念じてみると、視界に半透明のウインドウが広がった。
そこには三十個ほどのスキルが表示されていた。
その中から蘇生魔術を選び、ドラゴンに手の平を向ける。
「蘇生魔術!」
ドラゴンの体が光に包まれる。
そして次の瞬間、ぎゃおーんと声を上げ立ち上がった。
よし。せっかくだから、スキルを使ってみよう。
「ファイヤーボール!」
俺の手の平から火球が飛び出し、ドラゴンに命中。爆発。
肉が焦げる臭いがしてくる。
しかし、流石に一発じゃ駄目か。割と低いレベルで覚えたっぽいスキルだからなぁ。
「じゃあ次はアイスアロー!」
今度は氷の矢が飛び出し、ファイヤーボールで抉れたドラゴンの体に突き刺さる。
「うぎゃおぉぉぉお!」
ドラゴンは絶叫して倒れ、ビクビクと痙攣する。
もう放っておいても死にそうだ。
「今だアリア!」
「はい!」
アリアは走り、見事な突きをドラゴンの頭部に見舞う。
それがトドメになり、ドラゴンは絶命した。
「やったー! これでクエスト達成です! テツヤさん、ありがとうございました!」
そう言ってぴょんぴょん飛び跳ねるアリアの左手がピカピカ光っていた。
それがクエスト達成の証なのだろう。
良かった良かった。
俺も可愛い女の子の役にたてて、幸せだよ。