27 王都到着
「おーい、アリア。モフるのもそのくらいにしておこう。ミミリィ、なんか痙攣してるぞ」
「これは気持ちよすぎて震えているのです。ね、ミミリィさん」
「……」
返事がない。ただの屍のようだ。
「ミミリィさん!? 大変です、ミミリィさんが気絶しています!」
アリアは慌ててミミリィの肩を揺する。
それで目を覚ましたミミリィは、アリアを突き飛ばし、俺の背中に隠れてしまった。
「アリア、嫌い」
「な、なぜですか!」
ミミリィに嫌われたアリアは泣きそうなほどショックを受けていた。
「自分が私に何をしたのか忘れたの?」
「モフモフならテツヤさんもしたじゃないですか!」
「テツヤはやめてって言ったらやめてくれた。アリアはやめてくれなかった。だからアリアは嫌い」
「そ、そんな……次からは控えます! モフモフを控えますから許してください!」
「だめ。許さない」
いつもは簡単に許してしまうミミリィも、今日ばかりは本当に怒っているようだ。
キツイ口調で言う。
「ふえーん」
「泣いたって駄目」
「びえーん、びえーん!」
「ええ……」
アリアの泣きっぷりにミミリィはドン引きした様子。
しかし、そこはやはり優しいミミリィだ。
泣いているアリアに近づき、その頭を撫でて、よしよしする。
「泣かないで。もう怒ってないから。アリアのこと嫌いになったりしない」
「ほ、本当ですか……? これからも友達でいてくれますか……?」
「ずっと友達」
「ありがとうございます! これからはモフモフは二日に一回に控えます!」
「そ、そのくらいなら……」
二日に一回ならいいのか。
じゃあ、俺もそのくらいモフっておこう。
「仲直りしたところで二人とも。ちょっと下を見て。王都だ」
「嘔吐?」
「ミミリィ。そういうボケはいい。王都だよ」
俺が言うと、ミミリィとアリアは仲良くベッドの縁から首を伸ばし、下界を覗き込む。
そこにあるのは巨大な街だ。
「わ、ほんとに王都です! いつの間に!」
「私がモフモフされている間に……」
そのとおり。
二人がキャッキャウフフしているとき、俺は地図と睨めっこして、一人でここまでベッドを飛ばしてきたのだ。
俺もこの世界に慣れてきたなぁ。
それにしても王都は大きい。
人口は何万人くらいだろうか?
真ん中に立派な城があり、外縁部は城壁で覆われている。
攻め込むのは難しそうだ。
「王都パレナガルは人口五万人なんですよ!」
アリアが解説してくれた。
なるほど五万人かぁ。
中世っぽい世界にしてはかなり大きな街だな。
そして王都の名前はパレナガルであるという情報をさりげなく出してくれたアリアに拍手!
「テツヤ。王都に引っ越すつもりなの?」
「別に決めたわけじゃないけど。このベッドならどこに行くのもタダだし、あっという間だから、とりあえず来てみた」
「流石はテツヤさん! 何という自由度! さすテツ!」
「さすテツ! ……いや、これはさすテツ?」
素直に俺を褒め称えるアリアに対し、ミミリィは少し懐疑的だ。
まあ、ただ飛んできただけだから、特に褒められるようなことじゃないので、ミミリィが正しいような気もする。
けど、俺は褒められたいんだ!
もっとも、ミミリィに睨まれるのも好きだけど!
二人とも好き!
※
とりあえずベッドを広場に降ろしてみた。
すると、ざわめきが聞こえ、俺たちを指差している人たちもチラホラ見える。
この感覚、初めてベイルビア町に行ったときを思い出す
もうベイルビア町の人たちは空飛ぶベッドに慣れてしまったので普通に挨拶してくるが、王都の人たちは初見なので、珍しくてたまらないのだろう。
やーい、やーい。
空飛ぶベッドも知らないとか田舎者!
……駄目だ。心の中で言っただけなのに虚しくなってきた。
「テツヤさん、何を落ち込んでいるんですか?」
「何でもない……それより不動産屋を探してみよう。アリア、どこにあるか知ってるか?」
「さて……私も王都に来るのは初めてですから」
そうかぁ。
じゃあ、適当にブラブラして、見つかったら入ろう。見つからなかった帰ろう。
うわぁ、我ながら計画性がない。
これぞスローライフ!
「テツヤ。あそこに屋台が並んでる。美味しそう」
「おお、本当だ。けど人が多いな……あの通りにベッドで入っていくのは迷惑になりそうだ」
「ベッドから降りて歩けばいい話」
「……めんどくさい!」
俺がそう断言すると、ミミリィは無言で見つめてきた。
明らかに呆れている。
いいぞ、ゾクゾクする目だ!
「さすテツ! さすテツ!」
そしてアリアはやけくそ気味に俺を讃えていた。
全肯定して甘やかす会の会長も大変だなぁ。
「まあ、俺はベッドで待ってるから、二人で行ってきなよ」
「分かった。アリア、行こう」
「分かりましたミミリィさん! テツヤさんはベッド警備員を頑張ってください!」
本日付けでベッド警備員に就任したテツヤであります!
美少女二人の寝汗が染みこんだベッドを全力で警備致します!
「ここは俺に任せて、二人は楽しんできな!」
俺は二人に向けてサムズアップしてみせる。
「テツヤさん格好いいです! では行ってきます! おみやげ期待しててくださいね!」
「アリアはやく」
そうして二人は屋台が並ぶ通りに向かってパタパタと走って行った。
俺がその後ろ姿をボンヤリ眺めていると、不意に後ろから声をかけられた。
「こら、キミ。街中でベッドを飛ばすんじゃない。皆がビックリしているだろう」
驚いて振り返ると、そこには赤い髪の女騎士が立っていた。
海で出会ったロゼッタさんだ。
「どうしてロゼッタさんがここに? 今日は竜に乗らないんですか?」
「街中で竜に乗る必要はない。それに王立騎士団の私が王都にいるのは当然だろう。見回りだよ。空飛ぶベッドで徘徊する不審な三人組がいると通報があったから来てみたんだ。まあ、キミたちだろうとは思っていたが」
この世界がどのくらい広いのか知らないが、空飛ぶベッドで徘徊する三人組は確かに俺たちだけだろう。
「もしかして俺たち、逮捕とかされます?」
「いや。空飛ぶベッドで徘徊してはならんという法はないからな。しかしキミには呆れた。二人は元気に走って行ったのに、そんなにベッドから動きたくないのか?」
見られていたのか。恥ずかしい。
だが、ここは胸を張って答えるぞ。
「動きたくないです!」
するとロゼッタさんは、とても大きなため息を吐いた。
そんな全力でガッカリしなくても……。
「なぜキミはそこまでぐーたらなのに私より強いんだ……いや、私が修行不足なのだろう。そんなことより、キミたちこそなぜ王都に? 仕事か?」
「いえ、引っ越そうと思って。部屋探しをしてるんです」
「ほう。王都に住むのか。ならいっそ、王立騎士団に入らないか? キミたちなら大歓迎だ」
「いやぁ……もっと気軽な立場でいたいので」
「そうか。まあ、そんな感じだな、キミたちは」
ロゼッタさんは、肩をすくめて笑う。
熱心に誘ってこないのが、ロゼッタさんのいいところだ。
お堅いだけの人じゃない。
ところでロゼッタさんは「キミたち」と言っていたが、実は強いのは俺だけなんだよな。
アリアとミミリィは、俺のスキル『レベルリース』で一時的に強くなっただけだ。
ロゼッタさんに説明するのが面倒だから言わないけど。
「ところでロゼッタさん。不動産屋ってどこにあります?」
「そんなことも調べないで来たのか。ノープランだな」
てへぺろ。
「ここで会ったのも何かの縁だ。アリアとミミリィが帰ってきたら案内してやろう」
やはりロゼッタさんはいい人だ。
しかし、こんなにいい人でも女騎士だから、いつかはオークに捕まってしまうのだろうか。
悲しいなぁ。
「キミ。何か変なことを考えていないか?」
「いえ、別に」
流石は騎士。
するどい!