24 レベルリース発動!
俺たちが砂浜でじゃれ合っていると、「巨大イカだ!」という村人の叫び声が聞こえてきた。
慌てて海に視線を向けると、もの凄い水しぶきが上がっていた。
その中心には巨大な影があった。
こちらに近づいている。
「あれがイカ!?」
「水中なので、いまいち姿が分かりにくいですねぇ」
と、俺たちは呑気にしていたのだが。
そのイカは不意に立ち上がった。
バシャーンと海を叩き割るようにして姿を現わしたイカは、思っていたより遥かに大きかった。
二十……いや三十メートルはあるかもしれない。
でかい!
これもう怪獣じゃん!
こりゃ確かに普通の冒険者には無理だ。
というか、こんな大きなイカがいたのに、よくこの村、今まで無事だったな!?
「ど、どういうことだ! 情報よりも更に大きいぞ!」
ロゼッタさんが叫ぶ。
ああ、今まではそんなに大きくなかったのね。
どういうことだろう?
海にいる生き物を食べまくって大きくなり、そして食べる物がなくなったから陸に上がってきたのか?
ということは、あのイカは今、お腹を減らしている!
「キミたちは早く逃げろ! あれと戦うのは騎士である私の役目だ!」
ロゼッタさんは竜にまたがり、空を飛ぶ。
そして剣を抜いて、そこに魔力を溜め込んだ。
「くらえ!」
巨大イカの触手が竜に迫る! しかし、すれ違いざまにロゼッタさんの剣がそれを切断してしまう。
刃渡りとほとんど変わらない太さの触手だというのに。
ロゼッタさんの腕が凄いのか、剣が凄いのか。
多分、両方だろう。
しかし、イカも凄い。
何と斬られた断面から、新しい触手がすぐに生えてきた。
どうもイカのくせに回復魔術を使っているらしい。
そして、新しい触手でロゼッタさんを竜ごと叩き落す。
「なっ!?」
流石のロゼッタさんも、こんなに早く触手が生えてくるとは思っていなかったようだ。
防御も回避も間に合わず、海に落ちてしまう。
それにしても、レベル70のロゼッタさんを翻弄するなんて、あのイカどのくらいの強さなんだ?
調べてみよう。
名前:巨大イカ
レベル:141
HP:49060
MP:2511
攻撃力:650
防御力:737
素早さ:344
幸運:289
こりゃ凄い!
レベル100オーバーということは、俺が森で倒したドラゴンより強いってことだ!
しかもHPが滅茶苦茶高い。
ボスキャラの風格があるぞ。
けれど大丈夫。
なにせ、今の俺はレベル900を超えている。
そのステータスはこれだ!
レベル:905
HP:71165
MP:69101
攻撃力:3432
防御力:2464
素早さ:2010
幸運:2799
確信して言える。
絶対、俺が勝つ。
「た、大変です! ロゼッタさんを助けに行きましょう!」
「私を小さいと言ったことを撤回させるため、助ける」
アリアとミミリィまで張りきっている。
けれど、この二人は無理だ。
巨大イカに一撃でやられてしまう。
ロゼッタさんを助けたいという思いは分かるけど、今度ばかりは大人しくしているべきだ。
あ、いや、待てよ。
昨日覚えたスキル。
レベルリースというのが気になる。
なにせリースといえば貸賃契約のことだ。
もしかして、俺のレベルを他の人に貸したり出来るのか?
と思って説明文を読むと、
【キスをすることにより、十分間だけ自分のレベルを望むだけ相手に貸し出すことが出来る。ただし、その相手はあなたと相思相愛でなければいけない】
と、書かれてある。
ふむふむ、なるほど……ってキスっ?
しかも相思相愛じゃないと駄目だって!?
それはハードルが高い。
けれど、確実にレベルリースが使えそうな女子がここに一人いる。
「アリア! 君は俺のことが好きか!?」
「ふぇっ! きゅ、急に何ですか! 好きに決まってますよ!」
「よかった! 実はレベルリースというスキルを覚えて、それを使うと、キスした相手に俺のレベルを十分間だけ貸すことが出来るらしい! アリア、俺とキスしてくれるか!?」
「は、はい! 喜んで!」
なんてスピーディな展開だ。
流石はアリア。さすアリ。
「テツヤ……私もキスする……」
「え、ミミリィも!?」
「ロゼッタを助けたい」
「けど、相思相愛じゃないと駄目なんだよ! 俺はミミリィのこと好きだけど……」
「私も……実は好き」
チョロインだった!
万歳!
よーし、ベロチューしちゃうぞ。
ちゅ、ちゅぱ、んちゅ、ぺろぺろ、ちゅ……んちゅ!(かける2)
「ふぁぁ……これがキスの味……」
アリアは恍惚とした顔になる。
「……ここまでペロペロする必要あったの?」
ミミリィもトロンとした顔になって呟いた。
ペロペロする必要、ないと思う。
これは俺の気持ちの問題だ!
君たちだって抵抗しなかったでしょ!
キスのおかげで少女二人はレベル25から一気にレベル225だ!
代わりに俺は400ダウンでレベル505になった。
しかし十分強い。
俺たちがキスしている間、ロゼッタさんは再び竜を飛ばして、果敢に戦っている。
流石は騎士団だ。
しかしレベル70とレベル141では、どんなに戦術を練ったところで、勝負は覆らないだろう。
「よーし、ロゼッタさんを助けるぞ!」
「今の私ならドラゴンだって一撃です!」
「今夜眠れそうもないほど力が沸いてくる」
「ミミリィ、今夜眠れないのはキスが忘れられないからじゃないかい?」
「……は、恥ずかしいこと言わないで」
「それを言うなら、私だって眠れそうもありません! あ、いや、そんなことを言っている場合ではありませんよ!」
確かにアリアの言うとおりだ。
ロゼッタさんを助けるため、巨大イカに突撃だ!