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22 酒乱アリア

「ところで、キミたちの名前を聞いていなかったな」


 ロゼッタさんは赤ワインを飲みながら、そう言った。

 確かに俺たちは、ロゼッタさんに名乗らせたくせに、自分たちの名前を告げていなかった。

 昼間はそういう流れではなかったというのもあるが……我ながら無礼だなぁ。


「これは失礼しました。俺の名前はテツヤ・ヤマダといいます」


「私はアリア・アストリーです!」


「ミミリィ・ミミングス」


 俺たちが自己紹介を終えると、ロゼッタさんは、ふむふむと頷く。


「テツヤにアリアにミミリィか。よし覚えた。ところでキミたち……失礼だが、妙な組み合わせだな。東方人に少女に獣人。とくにミミリィ。キミはまだそんなに幼いのに、なぜ冒険者などを?」


 ロゼッタさんは興味深そうにミミリィを見つめる。

 するとミミリィはプクーと頬を膨らませた。


「私、もう十五歳」


「な……! あ、いや、これは失敬。そうか十五歳か……」


 ロゼッタさんは慌ててミミリィに頭を下げる。

 それからシゲシゲと見つめ、三度瞬きをし――


「本当に……?」


 と、首を傾げた。


 ああ、ロゼッタさん。

 気持ちは分かるけど、その質問はちょっと酷い。

 ミミリィの逆鱗に触れてしまう。


「たったいま、ロゼッタのことが嫌いになった」


「す、済まない! 謝る!」


「今回だけは許してあげる」


 騎士様がプライドを捨ててペコペコすると、ミミリィの怒りが静まった。

 そこまでしなくてもミミリィは許してくれたと思うけど。

 やっぱりロゼッタさんはいい人だ。というか、人がいい。

 そのうち、身を挺して人々を守ったあげく、オークに捕まって襲われそう。


「ところでロゼッタさん。その赤ワイン、ちょっともらっていいですか? 久しぶりに酒が飲みたくなりました」


「ん? いいぞ。さほど高いワインでもないしな」


 ロゼッタさんはそう言ってグラスの中のワインをクルリと回す。

 ふわっとブドウの香りがしてきた。


「いい匂いです。私も飲んでみたいです!」


「アリア。君はまだ十四歳だろう。お酒を飲むのはまだ早いよ」


 俺はアリアに注意する。


「そんなことはありません。十四歳は立派な大人です。そしてお酒を飲むことによって、完全な大人になるのです!」


 別に酒が飲めるからって大人とは限らないと思うけど。


「いいではないか。十四歳なら、立派な大人かどうかは微妙だが、子供ではない。少しくらい飲んでも平気だろう」


 ロゼッタさん、お堅いイメージだったのに、意外とフランクなことを言い出すなぁ。

 この世界には、二十歳にならないとお酒を飲んではいけないという法律はないのだろうか。


「ミミリィさんも飲みますか?」


「私はいらない。エビがあれば幸せ」


 ミミリィは赤ワインに微塵も興味を示さず、一心不乱にエビをモグモグする。

 うむ。やはり子供は沢山食べて大きくなるべきだ。

 お酒なんて飲んではいけないのだ。


「ではグラスを二つ追加だな」


 ウエイターさんを呼び、グラスを二つもらう。

 ロゼッタさんはそれにワインを注いでくれた。


 俺はまず香りを楽しむ。

 ワインの知識なんて皆無だから、うんちくは語れないが……いい香りだ。

 そして一口。

 うん、美味い。


「アリア。初めて飲んだワインはどうだ?」


「ふぇぇ……美味しいれす……ひっく」


 ん? しゃっくり?

 ちょっと待て。そんな一口か二口飲んだだけで、酔っ払ったのか!?


「体が何だか熱いれすよぉ……」


 アリアの顔は耳までピンク色に染まり、声も呂律が回っていない。

 これは……危険だ。


「お、おい……大丈夫か、キミ! 酒に弱いにも程があるぞ!」


「ふぁい……大丈夫れす……美味しいれす……」


 アリアは更にワインを飲もうとしたので、ロゼッタさんは大慌てでそれをひったくった。


「一欠片も大丈夫じゃないな……まさかこうなってしまうとは。飲ませた私の失態だ」


「いや。こうなるとは誰も予想できないんで。ロゼッタさんのせいじゃないですよ」


「ううむ……しかし、どうしたものか」


「どうしたもんですかね」


 酔っ払ったアリアは、ふにゃふにゃと呟きながら上半身を揺らしている。

 夢見心地な表情はとても幸せそうだが、見ているこっちは気が気でない。


「とりあえずアリア。水を飲め」


 俺はアリアの前に水が入ったコップを差し出した。

 アリアはそれを受け取ると……何と自分の頭にぶっかけた。


「なっ!?」


「わぁ……冷たくて気持ちがいいですぅ……」


「風邪を引くぞっ?」


「だって……体が熱いのでしゅぅ……脱ぎましゅぅ……」


 などと言ってアリアはブラウスのボタンを外していく。

 大きなおっぱいの谷間が顕わに!


「こら! 人前で胸をさらけ出すなど、乙女のすることか!」


 ロゼッタさんは怒鳴りながらアリアの腕を取る。

 しかしアリアはまだふにゃふにゃしており、怒られていることに気付かない。


「ふぁぁ……なんですかロゼッタさん。私の胸がどうしたんれすか……あ、さては嫉妬してますね。私の胸は大きいのれしゅ……ロゼッタさんのは小さいのれしゅ……はにゃぁ……」


「な、何て侮辱だ……!」


 ロゼッタさんの肩がプルプル震えだした。

 かなり本気で怒っている。

 眉がつり上がっていて、思わず財布を差し出したくなるほどの憤怒が浮かんでいた。


「お、押さえてくださいロゼッタさん! しょせんは酔っ払いの戯言ですから! というか、別にロゼッタさんの胸は小さくないですよ。アリアのが特別大きいだけです!」


「そうか? 本当にそうか? 男の目から見てもそうか?」


「は、はい! 心配いりません。ロゼッタさんのは普通です!」


 正直なところ、ちょっぴり平均よりは小ぶりな感じだが、今それを言うと話がこじれるので絶対に言わない。


「分かった……テツヤ、キミに免じてこの場は我慢しよう。しかし……アリアの酒癖の悪さはとんでもないな。二度と酒を飲ませてはいかんぞ」


「はい。それはもう肝に銘じました」


「ふにゃふにゃ……眠くなりました……お休みなさい……」


 そして騒動の張本人であるアリアは、テーブルに突っ伏して眠ってしまった。

 こっちの気苦労もしならいで。


「もぐもぐ。エビ美味しい」


 そしてこっちの狐耳少女は我関せずという顔でエビを口いっぱいに詰め込んでいる。

 ほんと、君たち幸せな少女だね!

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