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21 晩ご飯は海の幸

 ホテルの部屋には当然、備え付けのベッドがある。

 しかし俺の空飛ぶベッドの方が何倍も上等なベッドだ。

 なのでホテルの人に言って、もともとあったベッドを撤去してもらい、代わりにベランダから俺のベッドを入れる。

 変な客だと思われたかもしれないが、ベッドは大切だ。

 ここは譲れない。


「テツヤさん。ホテルのレストランに行きましょう。ディナーは海の幸です! プリプリのエビとかあるらしいですよ!」


「私はカニ食べたい」


 昼間あれだけ食べたのに、アリアとミミリィはエビだのカニだのと食いしん坊なことを言う。

 まったく、女の子としての慎みが足りないぞ。

 ちなみに俺はウニが食べたいね!


「よーし、レストランに行くぞ。二人とも、ベッドに乗り込め!」


「テツヤさん、歩いて行きましょうよ……」


 アリアが呆れた顔になった。


「えー、今日は遊びすぎて疲れたから、もう動きたくないなぁ……」


「テツヤさん! 私はテツヤさんを全肯定したいので、そういう肯定しにくい発言はやめてください!」


 怒られちゃった。

 悲しい。

 しくしく。


「ああ、泣かないでくださいテツヤさん。ごめんなさい、私、言い過ぎました。よしよし」


 アリアは俺を抱きしめ、おっぱいで包んでくれた。

 そして頭を撫でてくれる。

 本当に天使みたいな子だ。

 大好き!


「……だいぶ慣れたつもりだったけど、これには流石の私もドン引き」


 なにやら狐耳少女が軽蔑するような目を向けてくるが、アリアのおっぱいに包まれた今の俺は無敵だ。

 まったく効かないぜ。


「しかしテツヤさん。ベッドだと部屋のドアから出るのは無理ですよ? どうするんですか?」


「一度ベランダから外に出て、ホテルの入り口からレストランに向かえばいいんじゃないかな?」


「なるほど、すでに移動ルートを考えていたのですね。グータラもここまで真剣にやれば大したものです!」


 これ褒められたんだよね?

 実は貶されていたとしても、褒められたということにしておこう!


「さて、行きましょうか。ほら、ミミリィさんもベッドに乗ってください」


「……仕方がないから付き合ってあげる」


 意気揚々とベッドに乗るアリアと、渋々という顔をしながらも何だかんだで付いてきてくれるミミリィ。

 どちらも素敵な少女だ。

 彼女らに出会えただけでも、この世界に来た甲斐があると言える。


 そして空飛ぶベッドはベランダから一度外に出て、ホテルの玄関から再度侵入し、廊下を進む。

 冷静に考えると、かなり恥ずかしい行為だが、他の客がいないから大丈夫。


「ここがレストランか」


 辿り着いた先は、レストランというより食堂という雰囲気だった。

 もっとも、ここは安いホテルなので、贅沢は言えない。

 それに貸し切りだし……と思いきや、俺たち以外にも客がいた。

 王立騎士団のロゼッタさんだ。


「ん? 何だ、キミたちもこのホテルに泊まっていたのか。まあ、他のホテルは営業休止中だから、当然か」


 ロゼッタさんは円形のテーブルに一人で座り、茹でたエビを食べていた。

 ロブスターみたいに大きなエビだ。

 流石は海辺の村。

 けど、巨大イカ騒ぎのせいで、まともに漁をしていないはずだ。

 前に捕ったのを冷凍保存していたとか?

 あるいはどこかから仕入れてきた?

 まあ、美味しければなんでもいいか。


「しかし……そのベッド。空を飛ぶとは大したマジックアイテムだが、ホテルの中までそれで移動することはないだろうに」


 ロゼッタさんに呆れられてしまった。

 しくしく。


「よしよし」


 アリアが撫でてくれた!

 元気百倍!


「エビ……美味しそう」


 ミミリィはロゼッタさんのエビを見つめ、じゅるりとヨダレを垂らす。

 はしたないぞ!


「同じものを注文すればいいだろう」


「ごもっともな意見」


 ミミリィはコクコクと頷き、ベッドからぴょんと飛び降りると、ロゼッタさんと同じテーブルに座った。


「あ、ミミリィさん。そんな勝手に相席しちゃ駄目ですよ」


「別に構わないぞ。一人で食べるよりも、大勢のほうが賑やかでいい」


「そうですか。ではテツヤさん、私たちもお言葉に甘えて、ロゼッタさんと一緒に食べましょう」


「うん、そうしようか」


 旅先で出会った人と仲良くなるというのも、人生の輝ける一ページだ。

 ただ旅行は移動が疲れるという問題がある。

 しかし俺には空飛ぶベッドがあるのだ。

 寝たまま旅行できるという寝具。いや神具!

 この調子で見聞を広げれば、俺の人生はとても有意義なものになるだろう。


「テツヤさん。いつまでベッドの上にいるんですか?」


 先に着席したアリアが、首を傾げながら俺を見る。


「いや。出来るだけ少ない歩数で椅子に辿り着く方法を考えていたんだ」


「……それ、逆にめんどくさいじゃないですか!」


「俺もそう思ったところ」


 観念した俺は、普通に椅子まで歩いて行った。


【レベル808になりました】

【空中浮遊を習得しました】


 なに、空中浮遊だって!?

 グータラが捗る!

 あとで試してみよう!


 いや、しかし。

 前、アリアに「生涯を武に捧げてもレベル100に到れるか否か」という話を聞いたけど。

 俺、その八倍になってしまった。

 この強さ、何に使おう?

 というか、強敵が出てこないから、いまいち強くなった気がしない。

 まあ、楽ちんでいいけどね。


「店員さん。これと同じエビください」


 ミミリィが早速ウエイターを呼びつけ、ロゼッタさんの皿を指差して注文する。


「では、私はカニを!」


「皆、注文決めるの早いなぁ。俺は何にしよう」


 ウニが食べたいのだが、今は五月。季節外れだ。

 ここはオシャレに決めよう。


「タコのガーリックカルパッチョと、サーモンのマリネをください」


「テツヤさん、何か格好いいものを注文してます! 私も見習って白身魚のレモンクリーム煮というのを追加します!」


「私はエビをひたすら食べたい」


 アリアは意識高い系な一面を見せた。

 ミミリィは欲望に忠実だ。


「キミたちは随分と元気だな。しかしいくら元気でも、海で遊ぶのはやはり感心しないぞ。明日は控えてくれ。私の心臓が保たない」


 ロゼッタさんは深刻そうに言った。

 この人もしかして、俺たちのことをずっと見守ってくれていたのかな?

 やはり優しい人だ。


「テツヤさん。明日は海に入らず、砂浜で遊ぶことにしましょう」


 アリアもロゼッタの優しさを察したらしく、そう提案してきた。

 海に入らなくても、砂遊びとかビーチバレーとか、いくらでも楽しむ方法はある。

 あと昼寝とか。

 ロゼッタさんのために、明日は一生懸命グータラしよう。

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