20 海でまったり
海の家が沢山並んでいる。
しかし巨大イカのせいで観光客がいなくなったので、どこも店を閉めている。
ようやく空いている海の家を一つ見つけた。
店員のオバチャンいわく、俺たちがイカ退治に来ると聞き、開けておいたらしい。
「それに、店を閉めたって他にやることがあるわけでもないしね」
オバチャンはうちわをパタパタやりながら、そんなことを言う。
こんな綺麗な海が目の前にあるなら泳げばいいのに……と思ったけど、巨大イカのせいで無理なんだった。
「むむむ。さっきはラーメンを食べたい気分でしたが、焼きそばも捨てがたいです!」
「私も焼きそばと言っておきながら、ラーメンが食べたくなってきた」
「いっそ、両方注文してしまいましょう!」
「私もそうする」
「じゃあ俺も」
というわけで、ラーメンと焼きそばを三つずつ注文してしまった。
成人男性である俺はともかく、小柄な少女であるアリアとミミリィは食べきれるのだろうか?
まあ、俺なんかより真面目に運動しているから、お腹が減っているのかもしれない。
というか、俺が駄目駄目すぎる。
あとで泳いで運動不足を解消しよう。
「はい、おまちどおさま」
オバチャンはあっという間に俺たちの注文を持ってきてくれた。
ラーメンは如何にもな中華そばだった。この世界に中華はないと思うけど。
そして焼きそばもまた、ソース色に染まった麺。キャベツ。タマネギ。豚肉。そして紅ショウガと、俺のよく知っている焼きそばだった。
「美味しそうです!」
「両方頼んで正解だった」
少女二人はテーブルの上に並べられたラーメンと焼きそばを見て目を輝かせる。
ちなみに、ちゃんと割り箸もある。
日本か、ここは。
「このラーメンと焼きそばってどこ発祥の料理なんだろう?」
あまりにもファンタジー世界に似つかわしくなかったので、俺はさり気なく話題に出してみた。
「国の名前までは知りませんが、東方から伝わってきたと聞きます。東方のことはテツヤさんの方が詳しいのでは?」
そういえば、俺は東方出身ってことになってたんだっけ。
きっと東方には、アジアっぽい文明があるのだろう。
だけど、いくらアジアに似ているとはいえ、俺は日本人だ。
この世界の東方について深く突っ込まれても、何も答えることが出来ない。
誤魔化さないと!
「うーん、東方と言っても広いからなぁ……」
「それもそうですね!」
誤魔化せた。良かった良かった。
安心したので、食べることに集中しよう。
アリアとミミリィは既に半分以上食べている。
凄い食欲だ。
二人とも小さい体なのに、どこに栄養を回すつもりなのか。
アリアはおっぱいに回すのかな? すくすく大きくなりなさい。
ミミリィは……耳と尻尾かな?
「ふぅ、ごちそうさまでした」
「とても満足」
「最初は凄い量だと思ったけど、意外といけるもんだなぁ」
俺たちはオバチャンに代金を払い、そして美味しかったと告げ、海の家をあとにする。
浜辺に行くと、ロゼッタさんはまだ木陰から海を監視していた。
お仕事、ご苦労様です。
そして、そんなロゼッタさんを尻目に、俺たちは泳ぐぞ!
海へ向けてダッシュ!
【レベル614になりました】
おお、今日は沢山歩いたなぁ。
更に泳いで、今までダラダラした分、運動するぞ。
そりゃ、クロールだ! 平泳ぎだ!
「わー、テツヤさん、泳ぎが達者なんですね!」
「子供の頃、水泳教室に通っていたからね!」
「流石テツヤさん! さすテツ!」
ただ泳いでいるだけなのに、アリアはいたく感心していた。
一方ミミリィは、俺に対抗意識を燃やしたらしく、海に飛び込み、猛烈な速度で追いかけてきた。
「私だって泳ぎは得意」
狐耳少女による犬かき!
可愛い!
なのに速い!
「おいついた」
「ミミリィは凄いなぁ」
「えへん」
俺に褒められたミミリィは、どうやら喜んでいるらしい。
しかし彼女の表情はいまいち分かりにくいので、断言は出来ない。
「私のドヤ顔、どうだった?」
「あ、今のドヤ顔だったんだ」
普段の無表情と違いが分からなかった……。
だが、そういうところもミミリィの面白いところだ。
撫でてあげよう。
「くすぐったい」
耳を触られたミミリィは、目を細めてトロンとした顔になる。
モフったときの表情は分かりやすい。
流石は獣耳!
「二人とも待ってくださーい。泳ぐの速すぎですよー」
だいぶ遅れたアリアが、ぱしゃぱしゃと、あまり上手ではないクロールで追いついてきた。
「ひぃ……ひぃ……疲れました……溺れてしまいそうです……」
アリアは顔を真っ赤にして、一生懸命泳ぐ。
「ここ浅いから、疲れたなら立てば?」
「……言われてみればそうですね!」
アリアは恥ずかしそうに舌を出し、海の底に足を付けた。
それから俺たちは水を掛け合ったり、アリアが上手に泳げるよう指導したりと楽しい時間を過ごした。
そして疲れたのでベッドに横になり、夕日が沈む海を見つめる。
うーむ、まるで楽園だ。
南の島に行きたい……