19 いい人っぽい
「如何にも。私はニヴレア王立騎士団のロゼッタ・ホーリーランスだ。陛下より、この村に現われた巨大イカを討伐する命を受けて来たのだ。冒険者の出る幕ではない」
ロゼッタさんは威圧的な口調で言った。
それに気圧されたアリアとミミリィが俺の背中に隠れてしまう。
しかしロゼッタさんは俺たちの身を案じて言っているのだ。
悪い人ではないはず。
余計なお節介ではあるけど。
「そう言われても……俺たちも仕事ですから」
「キミたちへの依頼は、キャンセルするように村長に言っておこう」
そりゃ騎士様が無料でイカ退治してくれると言うなら、村長は喜んで俺たちへの依頼をキャンセルするだろう。
「いや、しかし……そうすると報酬がもらえないじゃないですか」
「いくらの報酬でクエストを引き受けたのだ?」
「金貨四十枚ですけど」
「たったそれだけの金貨と命。どちらが大切か、考えるまでもないだろう」
そりゃそうだ。
けど、俺は巨大イカと戦っても死なないと思う。
「いいか。目撃情報から考えて、この海に現われた巨大イカは、他国の海で人を襲って食っていたイカである可能性が高い。その国では討伐隊を編成し、イカ退治をしようとしたのだが……逃げられてしまったらしい。そして、この村にそっくりな巨大イカが現われた。同一の個体と考えるの自然だろう」
なるほど。
一国が討伐隊を編成しても仕留めきれなかったイカだ。
その辺の冒険者には無理だという理屈はよーく分かった。
「けど、そんなに強いイカなら、どうしてロゼッタさん一人だけが派遣されてきたんです?」
「ふふ。ニヴレア王立騎士団の練度を舐めるなよ。私は若輩だが、それでもレベル70だ。一人で十分。というか、私クラスの騎士が何人も暴れたら、こんな村など消し飛んでしまうだろう」
凄い自信だ。
いや、この若さでレベル70というのは実際に凄いんだろうけど。
「テツヤさん、どうするんですか……? イカ退治はロゼッタさんに任せるんですか?」
アリアは遠慮がちに呟く。
「うーん……報酬がもらえないのは残念だけど。王立騎士団に逆らってもいいことなさそうだし。そんなにお金に困っているわけでもないし。巨大イカはロゼッタさんに任せて、俺たちは遊んじゃうか」
「分かってもらえたようでありがたい。しかし遊ぶのはいいが、海には入るなよ」
「巨大イカが出たらすぐ逃げられるよう、波打ち際だけで遊ぶから大丈夫ですよ」
俺がそう答えると、ロゼッタさんは呆れたようにため息を吐いた。
「言っておくが、キミたちが死んでも、私は責任をとらないぞ」
ロゼッタさんはそう言うが、いざピンチになったら全力で守ってくれそうな雰囲気がある。
かなりお姉さん気質な感じだ。
アリアもいいけど、こういう大人の女性にも甘えたい!
「テツヤ。私、お腹が減った」
今までの流れをぶったぎるようにして、ミミリィがそんなことを呟いた。
流石は不思議ちゃん。
しかし、確かにそろそろお昼だ。
俺もお腹が減ってきた。
「じゃあ、俺たちは御飯食べに行きます。ロゼッタさんはどうするんですか?」
「私はここで海を見張っている。キミたちは私に構わず、大人しくしているといい。間違っても巨大イカと戦おうなどと思わないことだ」
「はーい」
こんな熱い日射しの下で服を着たままずっと待機しているなんて、騎士ってのは根性があるんだなぁ。
と俺が感心していると、ロゼッタさんは竜を走らせ、木陰に退避した。
うーむ。裏切られた気分だ。
いや、俺の勝手な期待のために、熱中症になられても困るけど。
「さて。閑古鳥の鳴いている観光地に、少しでもお金を落とすか。アリア、ミミリィ。何か食べたいものある?」
「それはもちろん、ラーメンでしょう! 海に来たら、ちょっと伸びたラーメンを食べるのが通だと聞いたことがあります!」
「私は焼きそばだと思う」
どっちも海っぽい!
というか、この世界はラーメンとか焼きそばがあるのか。
一体、どういう歴史を辿ってきたんだろう。
しかし、慣れ親しんだものを食べることが出来るというのは安心感がある。
この世界のことがますます好きになりそうだ。