15 いい湯だなぁ
「いやー、温泉ってやっぱり最高だなぁ」
俺は腰にタオルを巻いて温泉に浸かる。
正直、俺は全裸でもいいと思う。
思うのだけど、すっぽんぽんで湯に入ろうとしたら、アリアにキャーキャー言われ、ミミリィに汚物を見るような目で睨まれたので、仕方なく隠した。
そんな少女二人は、ちゃんと胸元までバスタオルで隠している。
アリアはともかく、ミミリィは隠す必要があるのだろうか――なんてことを言うと、殴られるかも知れないので黙っていよう。
「私、屋根のないお風呂に入ったのは初めてですよ! これが噂の露天風呂なのですね!」
「そうだよ。開放感があって気持ちいいだろ」
「はい、最高です」
アリアはトロンとした顔で呟く。
温泉の魅力にやられ、溶けそうになっている。
俺も今だけはエロいことを考えず、リラックスしたい。
「テツヤ。温泉は体にいい成分が入っていると聞いたことがある。本当?」
「そうだね。この温泉にどんな成分が入ってるのか知らないけど、基本的に温泉は体にいいはずだ」
「じゃあ、私の身長が伸びたり、おっぱいが大きくなったりするの?」
ミミリィは期待の目差しで俺を見てくる。
「……そうなるといいね」
「大きくなりたい。ふやけるまで浸かってる」
温泉に浸かったから大きくなったという話は聞いたことないけど……希望を持つのはいいことだ。
「頑張れミミリィ」
「ん。頑張る」
ミミリィは口まで湯に浸かり、ブクブクと息を吐いた。
「それにしてもテツヤさん。凄い勢いでお湯が噴き出してますね! 私の身長の十倍くらいの高さまで上がってますよ!」
アリアはそう言って首を上げる。
その視線の先には、温泉の噴水があった。
本当に凄い量だ。
落ちてくる飛沫が雨のようになり、虹も出ている。
いっそ、ここに温泉宿でも作ったら儲かるかもしれないなぁ。
なんてことを考えていると、俺たち三人の誰でもない、知らない人の声が背後から聞こえてきた。
「あのぅ……」
驚いて振り向くと、見知らぬ三十歳くらいの男性が立ち、温泉を覗き込んでいた。
はて。こんな荒野の真ん中で、何のようだろう?
「はい、何でしょうか」
俺は普通に応対しようとしたのだが、女子二人は悲鳴を上げた。
「きゃー、痴漢です! 荒野の痴漢です!」
「えっち、えっち!」
アリアとミミリィはお湯をバシャバシャ、男性にぶっかける。
「わ、わ! 何をするんですか、ああ、いや、私が悪いのか。すみません、すみません。痴漢とかそういうんじゃないんです。ただ、私たちの村にこのお湯を分けてもらえないかと思っただけなんです」
男性は両腕で顔を覆い、お湯から逃げた。
しかし二人は鎮まらず、荒れ狂っている。
「ちょっとアリア、ミミリィ。この人、悪い人じゃなさそうだから、話だけでも聞いてあげようよ」
「むむ……テツヤさんがそう言うのであれば……」
「弁解の時間をあげる」
少女二人の許可を得た男性は、詳しい事情を語り始める。
「私の村はこの近くにあるのですが……この半年ほど、ほとんど雨が降らなくなってしまったのです。井戸も涸れ、川の水も少なくなり、農作物が枯れ、それどころか飲み水にも困る始末です。そうしたら、ここに噴水が上がっているのが村から見えたのです。あなた方が一体どうやって掘り当てたのか知りませんが、このお湯を私たちの村で使ってもいいですか?」
「ははぁ、そういう事情ですか。俺らはここにずっといるわけじゃないので、ご自由にどうぞ。この温泉は見た限り、あまり成分が濃くないと思うので、生活用水に使っても大丈夫だと思います」
「そ、そうですか……いやぁ、ありがとうございます。これで村が助かります!」
男性はペコペコと頭を下げ、村に帰っていった。
それからしばらく俺たちは温泉を楽しみ、夕方になる頃、ベッドに乗って町に帰った。
とある貧乏な村の近くで温泉が湧き、腰痛に効くということで大変繁盛しているという噂が聞こえてくるのは、しばらく先の話である。