12 温泉を掘りに行こう
俺がこの世界に来てから三日が経った。
「俺、お風呂に入りたい」
日本人である俺は毎日風呂に入りたいのだ。
しかしアリアの部屋には風呂がない。シャワーすらない。
流石は中世っぽい世界。
アリアとミミリィは風呂に入らなくても何故かいい匂いしかしないが、普通の人間である俺は、いい加減、汗臭くなってきた。
「じゃあ、公衆浴場に行きましょうか」
アリアはベッドに寝転んだまま、そう返してくる。
ちなみにもうお昼になるというのに、俺たちは部屋から出ずにゴロゴロしている。
俺のグータラな気質が彼女らにも写ってしまったらしい。
ミミリィなど、まだ寝息をたてている。
「公衆浴場って男女別?」
「そりゃそうです」
アリアはさも当然という顔で答える。
「混浴がいいなぁ」
「テ、テツヤさんのえっち! 私とミミリィさんの前で、他の女性の裸を見たい宣言するなんて、いくらなんでも酷いですよ!」
アリアは俺をポカポカ殴ってくる。
可愛い!
そして、こんなに騒いでいるのに目を覚まさないミミリィも可愛い。
「すやぁ」
寝ている隙にモフモフしておこう。
「モフモフ」
「あ、テツヤさんだけズルいですよ。私もやります。モフモフー」
と、ひとしきりモフってから、俺はアリアの誤解を解く。
「混浴がいいと言ったのは、別に他の女性の裸が観たいからじゃないよ。アリアとミミリィと一緒に入りたかったからだ」
「え、そうだったんですか……わ、私ったら早とちりしてしまって……ごめんなさい!」
「いや、いいよ。俺がえっちなことには変わりないからね。アリアとミミリィの裸が見たいなぁ」
「テ、テツヤさんったら……もう! 他の女性にそんなこと言っちゃ駄目ですよ! 普通に逮捕されますよ!」
確かに、逮捕されそうだなぁ。
「だから、私とミミリィさんでテツヤさんの変態を受け止めますね! 世界平和のために!」
俺の変態っぷりは世界の危機なの!?
そこまでじゃないと思うんだけど。
あ、でも能力的には十分、世界を滅ぼせそうだ。
俺って割と危険人物かもしれない。
「ほら、ミミリィさん。起きてください。平和のために」
「うーん……どうしたの?」
アリアに肩を揺すられたミミリィは起き上がり、眠そうに目を擦る。
「テツヤさんが私とミミリィさんの裸を見たいらしいです。脱ぎましょう」
「いや」
即効で断られた!
「な、なぜですか? テツヤさんが言ってるんですよ!?」
「普通に恥ずかしい」
「そんな! あれだけ耳と尻尾をモフモフされて悶えていたのに、今更、裸くらいいいじゃないですか!」
「それとこれとは話が違うと思う」
ミミリィは冷静に反論してくる。
どう考えてもアリアよりミミリィのほうが正論だ。
「ミミリィさんはテツヤさんが嫌いなんですか!?」
「嫌いじゃない。むしろ、昨日の戦いっぷりを見て格好いいと思った。けど、だからって裸を見せたいとは思わない」
「どうしてですか! 私は見せたいですし、触って欲しいですよ!」
おお、アリア。頑張れ。その調子でミミリィを説得するのだ。
「……アリア。頭おかしい」
「え?」
「いくら好きになったからって、そんな大きな声で裸見せたいとか普通、言わない。女の子なんだから、もう少し、慎みを持った方がいいと思う」
「テツヤさん助けてください! 反論の余地がないド正論に私は負けそうです! これじゃ私が痴女みたいです!」
痴女かも知れない。
いや、痴女だと俺も思う。
「大丈夫だ、アリア。君が痴女でも俺は嫌いになったりしないよ」
「ありがとうございます! 安心しました!」
「安心しないで、アリア。女の子として色々と間違ってる。あとテツヤも、女の子に向かってそんなストレートに裸を見たいとか言わないで。デリカシーがない。私、せっかくテツヤのこと格好いいと思ってたのに、嫌いになるよ」
ミミリィの一言一言が胸にグサグサ刺さってくる。
不思議ちゃんかと思ったら、俺たちの中で一番の常識人だった!
びっくり!
「うぅ……分かった。一緒にお風呂に入るのは諦めるよ……おとなしく公衆浴場に行くよ……」
「テツヤさん、私もがっかりです……」
俺とアリアはシクシク泣いた。
ところが、ミミリィは首をかしげ、俺たちを不思議そうに見つめる。
「私は、一緒にお風呂入るの嫌だって言ってないよ?」
「え!?」
「バスタオルとかまいて入れば、裸じゃないから大丈夫」
なるほど。それならミミリィもOKなのか!
しかし問題は、混浴のお風呂はどこにあるのかということだ。
何かお風呂を探すのに役立ちそうなスキルはないものか。
そんな俺の欲望を満たすためだけのスキルは流石にないかもしれないが……ちょっと部屋の中を歩き回ってみよう。
もしかしたら都合よく覚えるかも知れない。
てくてく。
【レベル261になりました】
【温泉脈探知魔術を習得しました】
おお!
これで温泉掘れるんじゃないか!?
自分で掘った温泉なら当然の如く貸し切りだ。
混浴しても誰からも文句を言われない。
しかも無料!
「よーし、アリア。ミミリィ。俺たちだけの温泉を探しに出発だ!」
「え、どういうことです? 温泉なんてそんな簡単に見つかるんですか?」
「俺に任せろ! さあ、ベッドよ空を飛べ!」
俺たち三人を乗せて、ベッドはベランダから外に出る。
とりあえず町の外にいって、温泉脈探知魔術を使ってみよう!