11 狐耳少女ゲットだぜ
「開幕。フレア・ファランクス!」
スキルを発動すると、三十本を超える炎の槍が俺の眼前に現われた。
そして発射。
迫り来るゴブリンの群れに突き刺さり、一瞬で蒸発させてしまう。
「終わった、な」
「流石はテツヤさん。さすテツ!」
アリアはぴょんぴょん飛び跳ねて喜ぶ。
しかしミミリィはちょっと不満そうだ。
「私の出番がなかった。悲しい」
「ふふん。甘いですよミミリィさん。見せ場が欲しかったら、先に言っておかないとテツヤさんが一撃で倒してしまうのです。私もドラゴンを倒されてしまい、ちょっと苦労しました」
アリアはなぜか、俺のことを我が事のように自慢げに語る。
「しかしミミリィ。出番が欲しかったってことは、腕に自信があるのか?」
俺が聞くとミミリィはコクリと頷く。
「そこそこ。ゴブリンが近くに巣を作ったのに村がまだ無事なのは、主に私の頑張りによるもの」
それは凄い。
流石、アリアよりちょっと強いだけのことはある。
「ミミリィさんはどんな戦闘スタイルなんですか? ちなみに私は剣術を使います!」
「私は獣人たから腕力にものをいわせて拳で殴る。あと魔術もちょっとだけ使える」
「魔術も使えるんですか! 凄いです! 見たいです!」
「……ライトニングアロー」
アリアにせがまれたミミリィは、光の矢を出し、村と反対側の方向へ放った。
それは夜の闇に軌跡を描き、そして地面に衝突して激しい閃光を放つ。
「ライトニングアローは貫通力が高い上、当たると凄い光を出すから、モンスターをビックリさせることが出来る。あと、私もたまに自分でビックリする」
「か、格好いいです!」
「照れる」
アリアに褒められたミミリィは、恥ずかしそうに頬を指先でかいた。
なんだか、この二人、すっかり仲良しさんだ。
「それにしても、拳と魔術を組み合わせるなんて、テツヤさんに似てますね!」
「言われてみればそうかもなぁ」
俺は剣も槍も持っていないから、ドラゴンを力任せに殴って倒した。
それから魔術も沢山覚えている。あんまり覚えすぎて、ほとんど使ったことがないものばかりだ。
「つまり、私とテツヤはキャラが被っている?」
ミミリィは何を考えているのか分からない顔で、小首を傾げた。
「……キャラは被ってないと思うなぁ」
「安心した。キャラ被りはよくない」
そんなに気にすることだろうか?
どうもこの子の考えていることがよく分からない。
最初は無口すぎて会話してくれなかったら分からなかったのは当然として、こうして普通に話すようになったら……ますます分からなくなった。
不思議ちゃんである。
「ところでミミリィさん。ゴブリンを倒したのですから……約束どおりモフモフさせてください!」
「おお、そうだ! それを楽しみでゴブリンを瞬殺したんだ。さあミミリィ。耳と尻尾を差し出すんだ!」
「ちょっと待って……二人とも目が血走ってる……落ち着いて。モフモフは明日にしよう?」
ミミリィは無表情をキープしているが、体はスススと後ずさっている。
俺たちの剣幕に恐れをなしているようだ。
けれど、怖がることはないんだよ。
優しくモフモフしてあげるからね!
「逃げてはいけません! 観念するのです!」
「いや」
ミミリィは約束を破り、ばきゅんと走り去った。
「な、何という足の速さ。流石は獣人です! しかし私だって負けませんよ。鍛えていますからね!」
アリアも即座にあとを追った。
しかし、アリアの素早さは31。対するミミリィは45だ。
どうやっても追いつけないだろう。
ここは俺がミミリィを取り押さえるしかない。
そう思って足を踏み出した途端。
【レベル220になりました】
【重力魔術を習得しました】
おお、なんか凄そうなのを覚えてしまった。
さっそく使ってミミリィの足を止めよう。
「重力魔術!」
本気で放つと地面が陥没しそうなので、手加減に手加減を重ね、範囲もミミリィの周囲だけに限定する。
多分、重力五倍くらいかな?
「か、体が重い……!」
突然、体重が五倍になってしまったミミリィは、コテンと転び、土に頭をつっこんだ。
可哀想なので重力魔術を解除だ。
その瞬間、追いついたアリアがミミリィの背中に覆い被さった。
「ふふふ……もう逃げられませんよミミリィさん。モフモフさせるのです!」
「待って……心の準備が……」
「待ちませーん!」
「ひゃ!」
アリアにモフモフされたミミリィは悲鳴を上げる。
当然、俺もそこに混じった。
そして二時間ほど、ミミリィの耳と尻尾を触りまくり、撫でまくり、顔を埋め、モフりまくった。
俺たちが満足した頃、ミミリィは息も絶え絶えになり、失神寸前だった。
うーん、やり過ぎたかも……?
△
ゴブリンを退治し、ミミリィをモフり、そして朝になった。
「長老さんから報酬もらったし、帰るか」
「はい。帰りましょう!」
俺とアリアは空飛ぶベッドに潜り込む。
さーて。
ベイルビア町までイチャイチャしながら帰るぞー。
「二人とも待って」
俺がアリアの太股に触ろうとしていると、ミミリィがやってきた。
「どうしたんだミミリィ」
「私も連れて行って」
そう言ってミミリィはベッドに乗り込み、布団の上で正座する。
「いや、連れて行ってと言われても。俺たち帰るんだけど?
「知ってる。大丈夫。おじいちゃんの許可もらった」
「おじいちゃん?」
「長老」
なんと。ミミリィは長老のお孫さんだったのか。
「付いてくるのはいいけど……どうするの?」
「テツヤのお嫁さんになる」
はい?
お嫁さん?
「ちょ、ちょっとミミリィさん! 何を言い出すんですか! 昨日出会ったばかりなのに……お嫁さんだなんて!」
「お嫁さんというのは冗談」
「冗談でしたか……安心しました!」
俺も安心した。
「テツヤとアリアは冒険者。だから二人についていけば、いつかお父さんとお母さんに会えるかも知れない」
「なるほど、そういうことか。まあ、長老さんの許可があるならいいけど……でも、あの部屋はアリアのだから」
俺は部屋の持ち主であるアリアに目を向ける。
「大丈夫です。ミミリィさんなら大歓迎です! さあ遠慮なくどうぞ!」
「よかったなミミリィ。ほらベッドの真ん中に」
「ありがとう」
俺はミミリィを真ん中に寝転がせ、そしてアリアと協力して左右から挟んだ。
「ところで、どうして外でベッドに寝転がるの?」
今更な疑問だなぁ。
「このベッド、実は飛ぶんだよ」
俺が念じると、ベッドはふわりと浮かび上がる。
「す、凄い……!」
基本的に無表情なミミリィが、ギョッとした顔になった。
可愛い。
「ところでミミリィ。俺らと同じベッドに寝転がるってことは当然、覚悟は出来ているんだろうな?」
「町までモフモフタイムですよ!」
「あ」
ミミリィは気付いていなかったらしい。
「私は走って行く」
慌てた彼女は、飛んでいるベッドから飛び降りようとした。
が、俺とアリアで引っ張り、元の位置に戻す。
「さーて。私は耳をモフモフさせて頂きます!」
「じゃあ、俺は尻尾だ!」
「た、助けて……」
町に着くまでの約三十分。
ミミリィを二回失神させてやった。