私は一夜
私の名前は姫方一夜。
知る人は知っている、所謂有名人だ。
ただし、ある一部限定で!
それというのも分野が限られているからであるが、一般人とはかなり違う。
好きなモノはビールとだけ言っておこう。
お金で買えるものに興味は無いが、ビールだけは別格だ。あの喉に与える刺激は、色々な経験をした今でも毎日、新鮮な心地良さを運んでくれる。
ちなみに、軽く自己紹介をしてやるが、全てのスペックは当然の如く揃っているから、野暮な事は聞くんじゃない。好きなモノは、ビールと姉、ついでに自由。
それに天使の様に可愛い男の子だ。
特技は札束はりせん。たまに小切手帳を代用することもあるが、やはり札束の方が好みだ。
叩かれる側の奴らが恍惚とした表情になる姿は嫌いでは無い。
しかし、付け加えるなら私はSではない。
……と自分では思っている。
あんな紙切れの束に大の大人が土下座でひれ伏す姿は、有名な時代劇のクライマックスを見ている様でいい気分になってしまう。
しかし、私は時代劇はあまり好きではない。
その理由は、『甘い』の一言だ!
殺れよ!
殺っちまえ!!
おまえら、何でそんなに簡単に赦すのか?
余罪を洗うのは基本中の基本だろ。
思考回路がショートしているとしか思えない。
悪人は全てばっさりというのが自論だからね。
甘いことは大嫌い。
まっ、自分のことになると別なんだけどね。
……文句があるなら、直接言って来な!
生きて帰さないけどね。
さてさて、私の自己紹介はこれぐらいにする。
物語を読む方が良く分かるからね。
「ああ、毎日がつまらない」
それが口癖だった。
それがぴたりと止んだのは、一人の天使のおかげと思う。私が気づかなかった自分に出会うキッカケになる出来事は人生の大きな転機となった。
咲夜姉様の長男、さくちゃんという生き物。
ガキは基本的に嫌いなのだが、大好きな姉の子供は眼の中に入れても痛く無い。
姉は昔から身体が弱く、学校にもたまにしか通えないが、私にはとても優しかった。
色白で、華奢な身体を労わりながらの生活には私の存在が欠かせなかったし、頼られることも嬉しかった。
顔の造りは、私を少しだけ大人にした感じだが、女性らしさは完全に負けていた。
そう、私が唯一負けを認める人なのだ。
その姉が妊娠した時には、家中の誰もが驚いた。
最初は、じじい(父親)の仕業と皆んなが思い込み、じじいを一週間の間、逆さ貼り付けにしたが全く吐かないので姉の口から聞いてみると、じじいでは無いとのことだった。
じじいは元々の素行が悪いから自業自得なので、謝る気は更々ない。母様の賛同を得ていたことも強気に出れる要因だったと思うが、積年の恨みを晴らすにはいいチャンスだった。
今では、あと少し何かしてやれば良かったと思い起こす程に迷惑な奴なのだ。
私は、父親から毎日のようにセクハラされていたので、護身用に2つのスタンガンをいつも手元から離さない。
以前、じじいから胸を触られた時にスタンガンを高出力にして撥ね退けようとしたが、全然効かなかった。
だから、今のやつ(スタンガン)は二本とも市販品の電圧を3倍に改造してある。
それでやっと撃退出来るのだ。
変態な親を持つと苦労するよ。
しかし、そんなじじいでも姉には手を出さなかったらしい。ショツク死する危険があるからに他ならない。
私が高校生になってから姉が亡くなったのを契機に、私が一人暮らしを決心したのもじじいの存在が大きかったと言っておこう。
当時、母が持っていた土地を譲ってもらい、そこに一戸建てを建てたのだが、簡単にはいかず人知れぬ苦労があったことを述べさせてもらいたい。
まずは、雑居ビルの住人には出て行ってもらったが、その手段を教えるつもりはない。
まあ、その道のプロとだけ言っておこう。
それで十分な筈だ。
それでも分からないなら、現代人の中でかなり幸せな人生を送っていると断言しよう。
まっ、私とは真反対の人間とも言えるがな。
銀座のビルが隣接している一等地に、普通の住宅を建てる何てやはり無茶だったのだが、そこは邪の路はなんとやら。普通は蛇の字が正解だろうが、「よこしま」の方が私を表わすには適切だから、あえてこう書いたので、馬鹿にはするんじゃないっ!
両親が全ての政党に多額の献金をしているから、私も強気だった。無論、都知事と愉快な仲間達も同じ穴のなんとやらで、私の言い分はすぐにとおることになった。残地で陽当たりが悪くならない様に、家の北側に高層マンションを建てたのも私の自己資金からなのだ。
前の都知事に別の依頼をしたところ、自身が来ずに副知事が私の前にやって来やがった。その後は言うまでもないが一月後に都知事選が行われたのは、そんな理由だったとは関係者だけしか知らない事実だ。
今は少しだけ丸くなったと自覚があるので、そこ迄の我儘はする気は無い。今の私には色々としなければならないことがかなり有る。