横合いから殴りつけられる勢いで
私は今年で三十路になるアラサーだ。
そして、腐女子でもある。
しかも節操が無い。
逆カプだろうが、性別変わろうが、死のうが、グロかろうが気にしない。
ああ、BLの話だから、これ。
なお彼氏いない歴は年齢と同じである。
大いに笑ってくれ。
殴ってストレス晴らすから。
というのは嘘だ。
陰口言われようが、はぶられようが、机の上が落書きでめちゃくちゃになっていようが。
手は出さなかった学生時代。
しょうもない、そう思ってやり返さなかったのが私の矜持。
唯一の自慢だ。
「いってきます」
そう仏壇に手を合わせて私は今日も会社へと出かけた。
仏壇には遺影が三枚。
両親と、中学生ぐらいの時に死んじゃった犬が並んで立てられている。
友達もいない私にとって、天涯孤独という四文字熟語が良く似合う。
またぞろ犬でも飼おうと思ったけれど、もうこれ以上、家族が減った時のことを考えると、とてもじゃないがペットショップに入ろうという気にならない。
会社近くにある店舗に飾られた子犬たちの姿に癒されつつ、今日も私は戦場へと向かう。
「ようやく会えた」
くたくたになって家に帰ると、玄関戸の前に一人の中学生が立っていた。
可愛らしい、と男らしいの中間点に位置する中性的な印象を受ける。
目元は大きく、柔らかい目じりが少年の人となりを表しているようで、優し気に感じた。
部活帰りなのか、ほんのりと赤らんだ頬が初々しい。
柔らかな癖っ毛は綿あめのようにふわついていて、食めばきっと甘く感じるんだろうと、そんな錯覚を覚えた。
私よりもほんの少し身長が低いけれど、肩幅は男のそれで、逞しい感じもする。
誰だろうか。
私の家に訪れる人など、両親が亡くなってからはとんといなかったのに。
ようやく会えた?
まさか両親に隠し子が居て、実はぼくは弟なんです姉さん的な展開か?
もしもそうならば、萌える熱い展開なんだけれど。
なんて。
はは。
あるか、そんなこと。
しかし、次に続く言葉はそれよりもずっと非現実的で、衝撃的で、暴力的。
横合いから殴り倒されんばかりのパンチ力を伴ったその言葉に、私の口は延々と開かれたままだった。
「ぼくと結婚を前提にお付き合いしてください。あなたが好きなんです。三葉さん」