3話 現状の説明と、報酬の交渉
説明回です。
主人公は悪人ですので、そこを踏まえてお読みください。
人によっては不快に感じるかもしれませんが、そういう作品ですので、ご了承ください
「姉上、ありがとうございます。そこから先は余が説明します」
顔を覆っている仮面の口の部分だけを開放して、用意された茶――見た目は紅茶だがハーブティーのような香りがする――を飲んでいるとアーディン王が復活してきた。
「失礼しました。
それでは、今回K殿を召喚した理由と、やって頂きたいことを説明させていただきます」
俺が頷くとアーディン王が話し始めた。
「今回、K殿を召喚したのは、他国の侵略からこの国を守る迷宮の主となっていただくためです。
現在我が国は、大陸全土を支配しようとするある国によって侵略されているところなのです。
元々、大陸中央部にあった一小国でしかなかったその国が、百年ほど前にとある力を手に入れ、その力を以って大陸中央部を支配するのに三十年ほど、その後五年ほど前まで大陸東部と西部にある大国と戦争をしておりました。
そして昨年から東の方の大国の南にあるこの国に、彼の国が攻めてきたのです」
「おいおい、攻められそう、じゃなくて既に攻められているのかよ」
「はい、しかし我が国より軍事力のあった大国を攻め滅ぼすような相手に、対抗する術などありませんので、三十年ほど前から王都の地下にあった遺跡を調査中に発見したこの地下空洞に、殆どの住人を移住させたのです」
「ちょっと待て、ここって地下なのか?」
外を見てみるが、窓の外は昼間の明るさだ。とても地下の様には見えない。
「はい。
この地下空洞は、壁面や支柱に生えている発光苔や発光茸、天井に埋まっている蓄光岩によって昼夜も分かれていますし、季節や天気すらも存在しています。
そのお蔭で地下空洞内での作物の栽培や畜産も少しずつですが、安定してきました」
「ほう……
それで、『迷宮の主』ってのを俺に頼むのは何故だ?」
「現在、我が国に防衛戦力は殆どありません。
国境と王都メロンで敵国を食い止めるために、貴族・軍・騎士団・義勇兵の大半が避難せずに外に残りました。
現在、兵や騎士は魔物に対応できる程度の戦力しか残っておりません。
そこで、防衛のために迷宮を使うことになったのです。
それというのも、彼の国の手に入れた力というのが、迷宮の中ではほぼ無力化できるようなのです」
「ほぉう。
しかしそれなら、自分達で『迷宮の主』とやらをやればいいんじゃないのか?
俺みたいな怪しい奴に頼まずに済むし、今聞いた限りなら『貴族の義務』ってのが、未だに生きているんだろぅ?」
「元はそのつもりだったのですが、地下空洞を守るために必要な規模の守護迷宮を維持するためには、迷宮核との『相性』が必要となるようなのです。
小規模のものなら問題無いのですが、ここまで大規模なものですと、『相性』の悪い者は迷宮を張ることすらできず、そこそこ良くても維持するために力を使い衰弱していき、最悪死に至ることもあるのです。
ですので我々は、神の奇跡を以って迷宮核と『相性』の良い者を召喚したのです」
「なるほど、納得した。
それで、『迷宮の主』ってのは、『迷宮核』とやらを使って迷宮を作る者、って認識で良いのか?」
「いえ、少し違います。
迷宮核が地脈からマナを吸い上げ、そのマナを使って迷宮を張り、維持していくことが『迷宮の主』の役割になります」
「ん?どう違うんだ?」
「迷宮は、無から作り出すこともできますが、殆どの場合元々ある建築物や地形を迷宮化させることで形作られます。
これを『迷宮を張る』といい、今回も王都の地下遺跡や地下空洞までの通路を迷宮化していただくことになります。
もちろん、迷宮の拡張や改装などもマナを使って行うことができますが、『迷宮を張る』事自体が今回の依頼となります」
「なるほどな。
そういうことならその話、受けてやってもいい」
「本当ですか!
それなら」
「ただし、こちらから条件を出させてもらう。
それが飲めないなら、この話を受けるわけにはいかんなぁ」
「なっ!」
アーディン王が驚いたように絶句しているが、こんな話を二つ返事で受けてもらえると、本気で思っていたのだろうか?
と思っていると、ハクタ政務卿が横から口を挟んできた。
「貴方に受けていただかなくても、新たに『相性』のいい者を召喚すれば良いだけなのですが?」
「おいおい、俺は元の世界に恋人も仕事もあるのにいきなり召喚されて、見ず知らずの人間のために働かされるんだぞ。正当な報酬を要求して何が悪い。
それに、話を聞いてやっただけ、俺はマシな方だと思うぞ。勝手に召喚されて、怒って暴れたり絶望して泣き叫んだりしてないんだからな」
「くっ……」
こいつも、そのくらいわかっていて言ってきたのだろう。
しかしこっちとしては、俺の方が有利な理由も察している。
「それにお前達、次を召喚する余裕なんて在るのか?」
「なっ!」
今度はその場の殆どが驚いている。狸メイドが驚いていないのは、そこまでわかっていないからだろう。
しかし、その反応を見ると予想は当たっていたのだろう。
「俺が召喚された聖堂、あの時の人数を見るに、かなりの人数で行わないといけない儀式なんだろうな。つまり、準備にも相応の時間がかかるだろう。
しかも、関わる人間が多いということは、それだけ外に話が漏れやすいってことだ。
召喚は成功したのに、その相手を報酬をケチったせいで逃げられたとなれば、侵略に怯える民衆はどう思うだろうなぁ?」
「くっ!」
「更に言うと、再召喚までの時間も残されてないんだろう?
さっきの話から察するに、地上の国は既に殆ど落とされていて、比較的『相性』のいい奴が『迷宮を張っ』て、入り口を隠しているってところだろう?
さぁ、そいつは何時までもつんだろうなぁ?次はいるのか?何人潰す気だ?」
畳み掛けるように言ってやると、アーディン王は顔を真っ青にしてしまった。赤くなったり青くなったり、忙しい奴だ。
こいつ等は、責任感が強く善人みたいだし、おそらく後で説明するつもりはあったのだろうが、向こうから話されるのと、言っていないことをこちらが指摘するのではどちらが有利になるかは、この状況を見れば明らかだ。
そのために、早めに『条件』の話を出したのだから、思惑通りにいって俺はかなり満足だ。
「なぁに、条件と言っても、そんなに無茶なことを言うつもりは無い。国の維持や安定のために物資は必要だろうから、最低限しか要求するつもりは無いしな。
俺から出す条件は五つだけだ。
一つ、迷宮を維持するための『労働力』の提供。
一つ、この世界を知るための『知識と情報』の提供。
一つ、この国と俺が『張る』迷宮が、対等だという『立場』の保証。
一つ、迷宮内で狩った物は、俺の物にしていいという『権利』の保証。
一つ、『美女』を五人。
ってところだ」
「なっ!
前の四つはわかるが、最後の条件、美女を五人とはどういうことだ!
どう考えても多いだろう!」
「何を言ってやがる。それこそが正当な報酬だろうが。
前の四つは、当然の要求をちゃんと言葉にしてやっただけだ。前の二つがないと『迷宮』の維持は難しいし、敵に対抗できない。あとの二つは、いいように使われないためのものだ。
金銭や財宝なんて貰っても使いようが無いし、物資や食糧なんかはそちらが必要だろうから、多く要求できないだろうが。
それなら、俺も男だから『女』を要求するのは当然だろう?
そして、俺は元の世界では恋人が二人いたからその補償、契約料として一人。残りの二人は、報酬をケチろうとしたその口止めと罰だ。
言っておくが、こっちとしてはかなり負けてやっているのだからな」
政務卿が言ってくるが、こちらもこれ以上負けてやる気は無いので、言い返してやる。
「はぁ、仕方が無いですね。前の四つはお約束しましょう。
しかし、最後の条件は即答しかねます。
国民を無理やり連れて行くわけには参りませんので。
一人だけでしたら、私が行けばいいだけでしたが」
アーディン王に譲ってからは黙っていたアーデリア内親王が、割って入ってきた。
「まぁ、そうだろうな。
俺の方はいくらでも時間があるから、待っていてやるよ。
間に合わなくなる前に決めるこったな」
言い捨てて席を立つ。
「それでは、部屋を用意いたしますので、決まるまでの間、そちらでお待ちください」
アーデリアがそういい、狸メイドに指示を出した。
しばらくすると、使用人が来て城の二階の別の部屋に案内された。
「こちらでお待ちください」
使用人の男(おそらく普通の人間)が扉を開いたので、部屋に入って待つことにした。
まぁ、それほど待つことにはならないだろうが。
誤字脱字、読み難い所などあれば報告お願いします
読んで頂き、ありがとうございます
11/26 18:30頃 起こって→怒って
よくある誤字なのにやってしまったorz