1話 召喚された
初めて書いた作品ですので、粗い点があるかと思いますが、楽しんでいただければ幸いです。
目が覚めると、見覚えのない天井が目に入った。社員寮の自室のものでも、社内の道場や医務室のものでもないし、もちろん研究室のものでもなかった。社員寮の天井ははっきりと木目が見えるし、道場や医務室ならコンクリートが剥き出し、研究室なら用途不明の機械が多数天井からぶら下がっているはずだ。
しかし今、俺の目に映る天井はおそらく石造りで、しかも派手な文様や、神話のものと思しき絵が描かれている。
他に気になるといえば、今、自分の周りを30人近くの気配が取り囲んでいることだろうか?
職業柄、よくある状況なのだが、その際に感じる敵意や恐怖といった気配は感じず、どちらかといえば、期待や希望といった、自分に向けられたことのないもののような気がする。
「何だ、この状況は。異世界にでも召喚されたか?」
体を起こしながら、小さく呟くと、
「おぉ!そこまで把握していただけているのでしたら、話が早いですね」
……返事が返ってくると思っていなかったのだが、女の美声が返ってきた。
声のした方に目を向けてみると、何人もの男女の前に、声の主であろう美女がこちらに歩いてきていた。
「アンタは?」
「私はここの総巫女長で、人族エルフ種ハイエルフ種族のファエリア・アーキンと申します。救世主様」
「救世主ぅ?」
「詳しい話はこの国の王がいたしますので、こちらへどうぞ」
ファエリアと名乗った美女が案内しようとするが、そこで俺は今いる部屋……というか大広間を見回してみる。
ファエリアが総巫女長と名乗ったことから予想したように、ここは宗教施設――おそらくは聖堂とでも呼ぶべき場所なのだろう。岩肌が剥き出しの場所ながら、神聖な雰囲気のある壁画や模様が天井と同じように描かれている。足元には、魔方陣としか言いようのないモノが描かれているが、これも神聖な雰囲気を放っている。
そして、周りを囲んでいる者たちは男女共に同じようなデザインの白い服を着ている。何人か少し豪華なデザインの服を着ている者は立場が上の者なのだろう。当然、最も豪華な服を着ているのはファエリアなのだが、それでも一番簡素なものとの差は殆どないようだ。
……というか、聖衣と呼ぶのが妥当なのだろうが、それを纏っている者の中に、どう見ても悪魔の様な外見の者や、ファンタジー物の漫画や小説に出てくるゴブリンやオークの様な者が混ざっているのだが?いや、殆どは普通の人間のように見えるのだが……。
「どうされましたか?救世主様」
「いや、色んな種族がいるんだな?」
「はい、この国では妖魔種も国民として認められていますので。」
「いや、そういうことじゃなくてな。
俺のいた世界じゃ、人間以外の知的生物なんて、殆どいないからな」
話しつつ、ファエリアに促されて聖堂を出ると、目の前に石積みの砦の様な物が見えた。
「こちらが、我が国の王城になります」
「これが王城ぅ?前線の砦とかじゃ無ぇのか?
よっぽど小せぇ国なのか?」
「とある事情がありまして。それにつきましても、王からお聞きになって下さい。」
どうやらファエリアは何も説明する気がないようだ。
外から見た感じでは王城は三階建てで、広さも大したことはなさそうだ。
「総巫女長のファエリアだ。救世主様をお連れした」
王城の入り口の前に立っている二人の衛兵(門番か?)にファエリアが言うと、入り口の大扉が開いた。目の前の二人が何かをしたようには見えなかったが、他に大扉を操作している者がいるのだろうか?
中に入ると、外観と違い豪華ということも無く、広めで天井の高い廊下も石造りだった。左右に部屋があるのだろう、いくつかの扉が見える。
大扉の横にある小部屋から、外にいた衛兵と同じ鎧を纏った若い男が出てきて
「ご案内いたします」
と、先導しだした。
外の衛兵は兜を被っていたが、案内の男は被っていないのは、案内という役割だからだろう。
しかしよく見てみると、男の鎧はそれほど質の高い物ではなさそうだ。手入れはされているようだが、古い物なのか、くすんで見える。
廊下を直進し、突き当たりを右に曲がると、やはり石造りの階段があった。二人分ほどの幅のその階段を上り、一階と同じような廊下を歩いていくと、突き当たりに他の部屋の扉よりは幾分立派な扉があり、その前にはやはり衛兵が一人立っていた。
「総巫女長ファエリア様と、救世主様をお連れしました」
案内の兵が言うと、
「入れ」
若い男の声が返ってきた。
案内の兵が扉を開き、俺とファエリアが中に入ると、案内の兵は外に出て扉を閉めた。
所謂、謁見の間にでも通されるのかと思ったが、そこはおそらく執務室とでもいう部屋なのだろう。立派な執務机と応接セットがある部屋だった。
中にいたのは四人、若い男が一人と若い女が二人、そして中年の男が一人。
女の一人はクラシックタイプのメイド服を着ており、普通にメイドだろう。栗色の髪の頭の上に丸い獣耳が生え、腰の辺りから尻尾が生えているが地味な感じだ。俺たちが入ってきたのとは別の扉の横に立っている。
もう一人の女は薄青い髪で仕立てのいい服を着ている。ドレスとまではいわないが、中々良い物だろう。執務机とメイドの間に立っている。
男二人は似たような服を纏っているが、若い方が良さそうな物で、執務机から立ったところであることを見ると、この部屋の主はこの若い男なのだろう。メイドでない方の女のものより濃い青の髪をしている。
中年の男は姿勢良くメイドと反対側に立っているが、かなりの異貌だ。褐色の肌で髪と長い顎鬚は白く、額に三つ目の目があり、額の左右から牛の様な角が生えている。
「お掛け下さい」
若い男が応接机の方に歩きながら、向かいの席を示したのでそちらに座ると、ほぼ同時に俺の向かいに若い男が座った。
男の左に青髪の女が、俺の左にファエリアが座ると、男が口を開いた。
「突然の召喚で驚かれたかと思います。申し訳ありませんでした。
余は、この国の王で、人族人種のアーディン・ウィル・メローネンといいます。
救世主様のお名前を聞いても良いですか?」
国王というと、おっさんか爺さんをイメージしていたが、この若い男が国王だったらしい。高位の文官か王子なんだとばかり思っていた。
向こうから名乗ってきたんだし、こちらも名乗ったほうが良いんだろう。
「俺は、秘密結社『幻影帝国ファントム』所属の戦闘員Kだ」
誤字脱字等指摘歓迎です。
こんなタグをつけたほうがいい。
ってのがあれば、教えてください。
11/3 22:10頃 主人公の所属組織名を、『幻想帝国』→『幻影帝国』に変更
台詞の最後の句点の打ち忘れを修正
11/4 19:20頃 ご指摘により、台詞の最後の句点を削除
11/10 3:40頃 種族の名乗りを「○種○族○種族」→「○族○種○種族」に変更




