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俺式異世界冒険譚!  作者: 明智 烏兎
最終章 ~俺式オープンエンド!~
75/80

お姫様体質、ルナ

 どこをどう歩いたかは、よく覚えていない。むしろ、覚えられないような歩き方をシオンが意図的にしたのかもしれないな。

 青々と茂る天然自然の迷宮をシオンに連れられて歩く事一時間。

 恐らく俺達以外に知る者はいないであろう四神忍者の隠れ里が、俺達の前に姿を現した。

 通ってきた森には『四神結界』と呼ばれる特殊な結界が張られていて、決められた手順を踏まなければ隠れ里に辿り着く事はできないそうだ。


 隠れ里は、俺が想像していた以上に小さく、そして寂しげだった。

 そこはもう集落というより、単なる広場と言ってもいい。申し訳程度に手入れされた畑と、小さな牛小屋・鶏小屋があり、それ以外には質素な民家が四軒。そして……、


「着きましてござる。ささ、どうぞ中へ」


 シオンが指差す、小さいながらも荘厳さを感じさせる屋敷。どうやらここが頭領の住む屋敷らしいな。

 和式の建物だし履物を脱いだ方がいいのかな……と考えあぐねていると、シオンがすたすたと土足のまま上がっていった。あ、土足オーケーなんだ。

 狭い廊下を進んでいくと、正面に大きなふすまが立ち塞がった。そのふすまには、青竜・白虎・朱雀・玄武、そして黄竜の絵が描かれている。中々上手じゃないか……玄武以外。


「あ、このふすまの戯画は我ら忍者が絵師を務め申した。拙者の玄武以外はみな未熟故、お恥ずかしい限りでござる」

「えっと……あはは、シオンさんって冗談とか言う人だったんだね」


 セイラの言葉に首を傾げるシオンの仕草は、今の発言が本気であった事を意味している。シオン……恐ろしい子!

 ふすまの先は、この屋敷の大半を占めているのではないかと思うほどの広間に繋がっていた。そこの一番奥には一段高い座敷があり、艶やかな和服を着た女性が一人、正座している。

 その女性の口から、落ち着きのある美声が奏でられた。


「よくぞ参られました、異国の方々。それがしは黄竜、四神忍者の頭領です」

「どうも、カエデです。よくぞ参られたって事は、俺達歓迎されてると思ってもいいんですか?」

「無論。あなた方の事は玄武の忍亀を通じて存じております」

「ゲンブ? あぁ、シオンの事か」


 俺がそう呟くと、黄竜とは違う女性の声が広間に響いた。


「こら玄武! 本名は隠せといつも言ってるのにこの子ったら……もし陰陽師共に知られたら呪を掛けられてしまうのよ? 気を付けなさいな」


 声のした方に目を向けると、シオンと同じ忍装束を着た美少女が三人、いつの間にか集結していた。と言っても、装束の色がそれぞれ違う。青と赤と白……恐らく他の四神を司る忍者なのだろう。

 それにしても、四神忍者って全員女の子なのか~……やっぱ俺、陰陽師よりこっちを信じたいなぁ。


「め、面目ない……」


 四神忍者の中でも、シオンは一番のおっちょこちょいなんだろうか。


「さて、あなた方はアポカリプスを追っているそうですね。単刀直入に申しまして、我らの隠れ里にそれらしい物はございません」

「ふふん、口で言うだけなら簡単ってね。泥棒はみ~んなそう言うの」


 元泥棒のお前が言うと説得力あるなぁ、ミリー。


「確かに、我々が犯人でないという証拠はございません。ですが、それは陰陽師も同じ事では?」

「そりゃあまぁ、その通りだよな。どっちの言い分が正しいかは置いといて、仮に陰陽師が嘘をついていた場合……俺達と忍者を争わせようという意図が見える。それが陰陽師の狙いだとしたら……」


 目の前にいるのが美人となると、どうしても忍者の肩を持つような発言をしてしまう。そんな俺に黄竜は頷いて続ける。


「その推測は十中八九間違いではないでしょう。奴らは我らをずいぶんと煙たがっていますから。我ら四神忍者と陰陽師は、元は同じ四神の信仰者でした。ですが、己が法力を過信し四神の教えを破った陰陽師は、いつからか我らと敵対するようになったのです。そして最近、奴らは特に不審な動きを見せるようになった。そう、新領主アカツキの即位を境に……」


 領主の即位を境に? アポカリプス紛失の時期に重なるな……。


「倭京大陸の鎖国もその時期です。もしかするとアカツキは、陰陽師と共謀して何かよからぬ事を行おうとしているか……あるいは、すでに陰陽師に操られて傀儡と成り果てたか……ちょうど、神威の町人のように」

「! 神威の人達が外国人である俺らを見てもノーリアクションだったのは、やっぱり操られてたせいなんだな……」

「そうでした、あなた方は異国の……今この国は鎖国状態。いかなる外来船の入港も許可されていません。今さらなのですが……あなた方はいかにしてこの倭京へと侵入を?」


 不思議そうに尋ねてくる黄竜に俺はどう答えようか少し迷ったが、分かり易さを重視してシンプルに説明した。


「え~っと……簡単な話、飛んできたと思って下さい」

「ふむふむ……では、先頃参られた片翼の男と同じでござるなぁ」

「えッ!?」


 事もなげに言ったシオンの言葉に、セイラが短く驚きの声を発する。と同時に、シオンの肩を掴んで激しく揺さぶった。


「いつ!? それいつの話!? 今はどこに行ったの!? ボクのお兄ちゃんなんだよぉ!」

「おろろろ、左様にござったか……い、今頃はもう倭京にはいないでござるよ」


 ガクガクと揺れながら答えるシオン。俺はセイラを落ち着かせ、詳しい話を聞き出した。

 何でも、今から二週間くらい前に突然やってきた片翼の男は、神威に祀られている神具を見た後、風のように消えたらしい。

 二週間前か……ラグナートに寄り道しなければ追いつけたかもしれないな……くそっ。


「うう~~っ、お兄ちゃん一体何してるんだろぉ……どこに行っちゃったのかな……」

「行き先でござるか? それならば精霊界でござるよ。そのように申されていた故」


 次の行き先が……!? この展開は初めてだ。今すぐ急いで追いかければ、追いつけるかもしれない。

 しかし……今一番近いのはアポカリプスだ。どうすれば……。


「いいよ、お兄ちゃん。ボクの事は気にしないで」

「せ、セイラ……でも……」


 悩む俺に穏やかな声を掛けたのは他でもない、セイラ本人だった。


「アレスお兄ちゃんには確実に近づけてる。今はそれだけで十分! ここまで追いつけたのは、みんなとアポカリプスを探して旅をしたお陰だもん。だったら、アポカリプスを見つけようよ。そうすればお兄ちゃんもきっと見つかるから!」


 そう言って俺を見上げるセイラの瞳には、強い意志が宿っていた。その瞳の輝きに応えるように、俺は黄竜に向き直る。


「黄竜様、俺達は一刻も早くアポカリプスを取り返さなくてはなりません。陰陽師ともう一度話がしたいので、俺達は」

「その必要はありませんぞ。貴殿らが探す陰陽師は……すでにここにいるのですから」


 その時、俺の言葉に割り込んで男の声が響いた。この声は……!


「サイガかッ!」


 俺が叫ぶと同時に辺りの空間が一瞬割れたようになり、サイガと多くの式神、そして見知らぬもう一人の陰陽師が広間に姿を現した。


「き……貴様、“シンキ”! 何故この隠れ里に……まさかっ! 玄武、つけられましたね!?」


 サイガとは違う金色の袴を履いた陰陽師、シンキ。威圧的な隅取りを施した、見るからにボスって感じのする男だ。


「くっ……不覚! 拙者とした事が、このような……」


 悔しそうに唇を噛むシオンを、他の四神忍者が責めるように睨み付ける。その様を見下ろし、サイガが下卑た笑いを浮かべて言った。


「おやおや仲間割れですか。これは良い、負の念が満ち満ちておる。それにしても異人共、中々の仕事ぶりでしたぞ? 忍者を潰そうにも隠れ里が分かりませんので、貴殿らを餌に泳がせてみたのですが……くくくっ、まんまと食い付きおったわ」

「てめぇ……俺達を利用しやがったのか!」

「利用したとは異な事を……“これから利用する”のですよ。シンキ様、例の娘を」

「うむ。ルーラントの娘よ……我と共に来い!」


 純白の狩衣をひるがえし、シンキが突き出した指先が妖しく光る。その瞬間、ルナの目から生気が失われ、体からも力が抜けた。

 だが倒れる事はなく、そのまま見えない糸で吊られているように宙へと昇り、同じく宙に浮いたシンキの腕に抱かれた。


「ルナ!? てめぇ……一体ルナに何しやがったぁッ!!」


 俺は頭髪が怒りで逆立つのを感じながらシンキに吠えかかる。しかしシンキは俺に一瞥をくれるとそのままサイガに視線を移し、


「後は任せた。抜かるなよ」


 低く響く声でそう言い残すと強い光と共に消え去った。

 マジかよ……ルナが、さらわれちまった……!


 ──ドゴンッ!!


 その刹那、巨大な爆発音が辺りに轟いた。俺を含むその場の全員がその方向を見やる。

 そこには……全身にドレスのような火炎を纏ったリピオの姿があった。


「御主人様……ドコニヤッタ……オマエ、コロス……」

「なッ……何ですかこの小娘は……ふ、ふん、教えるわけないでしょう? 貴殿らはここで死ぬのです……行け! 式神共!!」


 リピオの迫力に一瞬たじろいだサイガだったが、すぐに平静を取り戻して有りっ丈の式神を放ってきた。

 それを咆哮と共に灼熱の息で吹き飛ばすリピオだったが、砂糖に群がるアリの如く襲い来る式神には体力の浪費でしかなかった。

 ルナを救いたいという想いが焦りとなり、それが正常な判断を狂わせている……。


「……口寄せ~、『青竜神』」


 その時、間延びした静かな叫びが辺りに木霊し、リピオとは別の咆哮が生まれた。

 長くしなやかな体躯を蒼穹の如き鱗で覆った竜……これが東方の神獣、偉大なる四神の一つ……青竜神か!


「異国の方々~……ここは我らにお任せあ~れ~。そなたらはシンキを追って下さい~。玄武、あなたもお行きなさい。尾行された失態、ここで挽回せねば~……殺すよ?」

「しょ、承知してござる! カエデご一行、こちらに! 近道をゆきまする故」


 青竜の言葉にシオンが力強く返し、俺達は屋敷の広間を駆け出した。


「くっ、逃がしたか……忍び風情が生意気な。私を足留めできると本気で思っているのですか?」

「サイガ……調子に乗らない事ですね。我ら四神忍者が、悪しき陰陽師に天誅を下して差し上げましょう! 行きますよ、青竜、朱雀、白虎!」


 新たに生まれる三つの咆哮が、屋敷の屋根を吹き飛ばす。黄竜神、青竜神、朱雀神、白虎神……天地を貫くその力が、四神の里を揺るがした──。

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