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俺式異世界冒険譚!  作者: 明智 烏兎
最終章 ~俺式オープンエンド!~
73/80

陰陽師と忍者

「見ろ。俺様達の現在位置は……ここだ」


 リヴネイル内ミーティングルームの卓上に広げられた世界地図。

 その地図上──倭京大陸の西側の海に指を置いてテティスが言った。


「倭京は小さい大陸だ。主な都となる“倭京”、そして小さな集落である“神威かむい”の二つしか町と呼べる場所がない。神威には15神具の一つ、『鎧装剣ルミュール』が祀られているものの、それ以外に見どころはない。従ってアポカリプスがあるとすれば倭京の方になるだろう。転移装置で飛ぶなら倭京付近を俺様は勧めるが……最終的な判断はカエデ、貴様に任せるのだ」


 そう言い終えてからテティスはイスにふんぞり返り、フンと鼻を鳴らして俺を見る。

 みんなの視線が俺に集まる中、俺は少し考えた後やはりテティスの意見を採用する事にした。


「セイラのお兄さんの事もあるから結局は両方に行かなきゃなんないけど、ここはアポカリプス優先で倭京から行く事にしよう」


 俺は言いながらセイラの顔を見る。俺と目があったセイラは、ビシッと敬礼して了解の意思を表した。

 よし、これで話は決まった。

 俺達は転移装置の上に立ち、あとは転送開始を待つのみだ。

 すると最後のレバーを動かす前に、テティスが俺達に声を掛けてきた。


「き、貴様ら……無事に戻って来なければ、しょ、承知せんからなっ!」

「はは、心配してくれるのか? ありがとな、テティス船長」

「ち、ち、違うわ馬鹿者! 勘違いするなぁ! 貴様らに死なれたら、ファントナエラを倒す日が遠退いてしまうだろうが! 別にそれだけだっ!」


 テティスは恥ずかしそうに顔を真っ赤にしてそう言うと、乱暴にレバーを下ろす。

 目映い光に包まれて、俺達は最後の冒険の舞台へと赴くのだった。



 倭京大陸に降り立った俺達は、先ほど取り決めた計画通りに首都の倭京を目指していた。

 道に迷う心配はない。何せ、正面にはもう目的の場所が見えている。

 俺が今まで見てきたどの城とも違う……だが、どの城よりも身近に感じるその形。日の光を照り返す白壁と黒い瓦屋根を頂く天守はまさに、日本の城そのものと言えた。

 この城こそ、“倭京城”。俺がグランスフィアに転移してくる少し前に即位したという総領主、“アカツキ”の住まう支配の象徴だ。

 転移装置の精度が高いお陰でかなり町の近くまで来れたから、あと数時間もしない内に俺達は倭京に辿り着けるだろう。

 この国について一番詳しく知っていたテティスはリヴネイルに残っているため、今のメンバーは全員この国を歩くのは初めてという事になる。そのせいか、みんなは初めて感じる“和”の独特な雰囲気に触れ、その物珍しさにはしゃいでいるようだった。

 俺もちょっとした修学旅行気分に浸っていたが、残念な事にせっかくのその気分を台無しにする視線が向けられている事に俺は気付いていた。

 どこからなのか……しかも、視線の数は一つじゃない。複数の、射るような視線を感じる。


「……? カエデ様、どうしたんですか?」


 立ち止まって辺りを気にしていた俺にプリムが気付き、他のみんなも俺の方へ振り返る。


「気をつけろみんな、さっきから誰かに見られてる。……おい、出てきやがれ! 近くにいるのは分かってんだぞ!」


 みんなに注意を促してから、俺は姿無き監視者達に向かって怒鳴り付けた。だが、何の反応も返ってこない。もちろん気配は今も消えてはいない。くそ、舐めやがって……。

 苛立った俺が背中のソーマヴェセルに手を掛けた──その時。


「おっと、待たれよ。こちらには貴殿らと争う意思はございません」


 ふいに男の太い声が周囲に響き、正面の空間が歪んで声の主が姿を現した。

 どんな原理なのか、何もない空間から突如として現れた、恰幅のいい中年男。

 真っ白な狩衣に茶色の袴、頭に黒い烏帽子をかぶったその格好には、どこか見覚えがあった。……こいつ……陰陽師か?

 両手を広げて敵意がない事をアピールする陰陽師風の男に、俺は待ったと手をかざす。


「気配はまだ他にもある、アンタ一人だけじゃないはずだ。全員姿を見せてくれ」


 俺がそう言うと男は一瞬「ほう」と驚いたが、すぐにニッコリと笑顔を作った。そして指先で空中に五芒星を描くと、周りの空間から男と同じように無数のカラスが出現する。

 なるほど、視線の正体はこいつらだったのか。


「え……わぁ! このカラスさん達、目が三つあるよ? テティスちゃんみたいに」


 驚いて声を上げるセイラの言葉に、俺も注意深くカラスを観察する。確かにセイラの言う通り、額にも目のようなモノが光っていた。


「いやお嬢さん、これはカラスではございません。我が使い魔達……“式神しきがみ”と……我らはそう呼んでおります。賢く、従順で……何よりも優れた存在……」


 口元に微笑を浮かべて低い声で答える男。しかし、式神ねぇ……ますますもって陰陽師っぽくなってきたなぁ。


「おじさん、もしかして陰陽師だったりする?」

「ほう……我らをご存じとは……いかにも、私は陰陽師。名を“サイガ”と申します」


 小太りのオッサン……もといサイガは、俺の率直な質問にやや驚きながらも答えてくれた。

 それにしても、マジで陰陽師だったとは……もちろん日本の陰陽師とは細かい部分で違うのかもしれないけど、グランスフィアってすげーんだな……色んな意味で。


「カエデさん、陰陽師って何なンですか?」


 首を傾げてそう尋ねてくるリースに、俺自身も首を傾げて曖昧に答える。


「いや、実は俺もよく知らないんだけど……ゲームとかマンガとかの偏った知識で言うなら、陰陽五行……木・火・土・金・水、それぞれの力を使って占いとかまじないとかをする人達の事だよ」


 うわぁ、我ながら酷い説明だなぁ。だけどグランスフィアの陰陽師は、ゲームとかマンガに出てくる和風魔法使いって解釈でいいような気がする。だってグランスフィアだし。

 と、心の中で勝手に決めつけて頷いている俺に、サイガが言う。


「ところで貴殿ら……どう見てもこの国の者ではございませんね。現在この国は総領主アカツキ様の命により国を閉じている状態。にもかかわらず何故外来の者が……?」

「うっ。それは、そのぉ……」


 そういえばこの国は鎖国状態なんだっけ。俺とした事が、堂々と不法入国しといて堂々と町に入ろうとしてしまった。これじゃあ咎められるのは当然か。

 こうして陰陽師のオッサンにも見つかってしまったわけだし、今さら隠し事はできない。なら……ここは最後まで堂々とした態度を貫くのみ。


「実は俺達、あるモノを探して世界を旅してるんです」

「はっはっは! いやいや、その潔さはご立派ですな。……して、あるモノとは?」

「剣の形をした魔導器なんですけど、ご存じないですか? 名前は……降魔剣アポカリプス」

「なッ!? そっ……い、いや……それは……」


 ……来た。来た来た、ついに来たぞこの反応! 今までにないリアクション! こいつ、絶対アポカリプスを知ってる!


「知ってるんですか!?」


 喜びに満ちたその声は、全員の口から同時に発せられた。待ちに待ったこの瞬間……いよいよ到来だ!


「あぽかりぷす……? は、はて、知りませんなぁ……む! いや、知っています! もちろん知っていますとも!」


 ん? 何だコイツ……最初知らないって言い掛けて、何で後から発言を覆したんだ? ……な~んか怪しいな。


「確か、“四神忍者”という集団がアポカリプスの復活を企てようとしているはずです」

「四神忍者? どんな人達なんですか? 俺達、そいつらに会って降魔剣を取り返さなきゃならないんです」


 俺はサイガを怪しいと思いつつも、とりあえず今は話を合わせておく事にした。

 俺の質問にサイガは考え込むように低く唸ってから、もったいぶって口を開く。


「それが……我ら陰陽師にも奴らの隠れ里に関する情報は一切なく、どこに潜んでいるのか分からないのです。ただ、奴らは冷血無残、極悪非道の鬼畜共。倭京を脅かす四神忍者に、人々は夜も眠れぬ日々を過ごしております。……そうだ!」


 そこでサイガは、何か名案を思いついたようにポンと手を打つ。


「アポカリプスを追って世界を旅してきたというのなら、貴殿らはきっと一角の人物に相違ない。そこでお願いなのですが、もしよろしければ貴殿らの力で忍者共を退治してはいただけないでしょうか? 引き受けて下さるなら不法入国の件、私の権限で不問にする事も可能なのですが……」


 ぼそりと最後にそう付け加えて俺達を流し見るサイガ。なるほど……これはお願いじゃなく、取り引きってわけか。

 俺が感心していると、ルナが張り切って依頼を請負った。


「任せて下さい! アポカリプス奪還が私達の目的ですし、必然的に退治する事になりますから!」


 ルナの自信たっぷりな言葉を受け、サイガはとても満足そうだ。そしてそのまま一歩下がると、「そうそう」と俺達に忠告を残す。


「町人達の混乱が予想されますので、貴殿らには倭京への立ち入りをご遠慮願いたい。四神忍者の隠れ里は少なくとも倭京以外でしょうから、ひとまず神威を目指すのがよろしいかと。では……私はこれで失礼します」


 人差し指と中指を立てて刀印を作ったサイガは、それを横薙ぎに振るう。すると足元から光が溢れ出し、その光が消えると同時に式神諸共サイガの姿は消えていた。

 今のは陰陽術なのかな? 何にしても神出鬼没なオッサンだ。


「さてと……倭京には立ち入り禁止を喰らっちまったし、神威に行くしか道はない。よっしゃ、行こうみんな!」


 ついに手に入れたアポカリプスの手掛かり。しかし、何やらおかしな事に巻き込まれた感は否めない。

 陰陽師と四神忍者……か。やれやれ、この先どうなる事やら……。

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