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俺式異世界冒険譚!  作者: 明智 烏兎
第十二章 ~彼女の笑顔に満月を~
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戦闘船リヴネイルにて

 ──気付くと、見知らぬ部屋の天井が視界を占領した。そこにゆらゆらと、鳥籠のような形をした照明器具が揺れている。どうやらベッドの上で仰向けになっているらしい。

 それにしても、さっき見た夢……一体なんだったんだ? どうして俺はルナの過去を垣間見る事ができたんだろう。

 考えられる要因があるとすれば、やはりロストスペルの影響か……それとも、じ、人工呼吸の影響か……はたまたその両方が作用しているか。真相は判然としないが、少なくとも俺にとってプラスの経験になったと思う。

 まだ少しクラクラする重い頭を手で押さえながら、俺はゆっくりと体を起こし辺りを見回す。すると、ベッドの隣にはイスに座ったまま眠るセイラの姿があった。きっと、気を失った俺を心配して付きっきりで介抱してくれたんだろう。


「……ありがとう」


 眠るセイラに、俺は心から感謝した。と、その時。俺の枕元からのっそりと奇妙な物体が現れた事に気付く。

 それは体長三十センチくらいの、ウサギに似た動物。だが、長い耳が二対あり、ウサギとは明らかに違う長い尻尾も二本生えている。水色と灰色が混ざったような不思議な色の体毛に身を包み、背中には二対の翼のようなものも見える。

 ただ、ぬいぐるみのように愛らしい外見とは不釣り合いな黒い眼帯を右目に付け、海賊帽子までかぶっているのはコイツの趣味なんだろうか。

 その海賊ウサギは眠たそうに前脚で目をこすると、ずり落ちた帽子をかぶり直してパタパタと空を飛び、器用に扉を開けて部屋から出て行った。


「何だったんだ? アレは……」


 その時、扉の開閉音で目を覚ましたセイラが俺の顔を見て声を上げた。


「ああ~~っ! お兄ちゃん目が覚めたんだね! よかったぁ~っ!」

「はは、おはようセイラ。介抱してくれてありがとな」

「うんっ、どういたしまして!」


 言いながらイスから立ち上がると、セイラは大きく背伸びをする。きっと疲れているんだろう。早く休ませてあげたいけど、いくつか聞きたい事がある。


「なぁセイラ。あれからルナはどうなった? 無事なんだよな?」

「もぉ~お兄ちゃんったらぁ……自分がどうなったのかより先にルナちゃんの事聞くなんて……やっぱりお兄ちゃんはお兄ちゃんだね」


 な、なんだそりゃ?

 呆れたようなセイラの言い方に首を傾げていると、セイラは少し笑って教えてくれた。


「ルナちゃんなら大丈夫だよ。コロナちゃんとリピオちゃんとプリムちゃんが三人で見てるし」

「そっか、安心したよ。……で、ここはどこ? 見たところ、船の中みたいだけど……」


 俺が次の質問を投げかけた時だった。

 バンッ! と勢いよく部屋の扉が開き、精一杯ドスを利かせた可愛らしい声が部屋に響く。


「質問する相手が違うぞ馬鹿者! ここは俺様の船の一室だ。本来なら貴様のような男は乗せんところだが……状況が状況だったのでな」


 声のした方を見ると、そこにはいつぞやの海賊少女がしかめっ面で立っていた。そして、その隣には先ほどの海賊ウサギも……。


「“ファントナエラ”の反応を追ってきてみれば一般の船が襲われているし、あの嵐の海にムボーにも飛び込んだ馬鹿者がいるし……貴様だ貴様! 全く、俺様の到着があと少し遅かったら今頃どうなっていたか。お陰でリヴァイアサンの手を煩わせてしまうし……一生感謝しろ。反論は許さんぞ」

「あぁ……そっか、君がこの船の船長さんか……。悪い、迷惑かけたみたいで。ところで、ファントナエラって……もしかしてあの馬鹿デカイお化けクジラの事か?」


 俺は話の流れからそう推理して質問してみる。


「クジラなど、ファントナエラにしてみればオキアミのようなものだ。一緒にするな馬鹿者」

「ちょ、クジラがオキアミって、どんだけデカイんだよ……なぁ、アレは一体何なんだ? それにこの船も……あと、リヴァイアサンって俺の事を助けてくれた水龍の事だよな? あれって味方なのか? それと君の名前は」

「だぁぁぁーーっウルサイッ! いっぺんに聞くな! ……ええと、まずファントナエラだが……あいつはこの世界全ての海洋生物を脅かす忌むべき存在だ。リヴァイアサンはそれを倒そうとする幻獣で、利害の一致から俺様も力を貸しているのだ。この船は俺様とルカヌスが共同で造ったグランスフィア最強の戦闘船『リヴネイル』。そして俺様が船長の“テティス・G・ラスティアン”だ」


 いっぺんに聞くなと言った割には、いっぺんに答えてくれたな。


「そっか……とにかく、まずはお礼を言っておくよ。助けてくれてありがとな、テティスちゃん」

「ちゃんはやめろ! こう見えて俺様はこの世でただ一人、火神ルカヌスの神技を継ぎし者。舐めてもらっては困るのだ」


 神技の継承者!? こんなに小さな女の子が!? はぁ……なるほどね。こういうのが特別な天才っていうやつか。


「分かった。じゃあテティスって呼び捨てにしてもいい?」

「い、いきなり馴れ馴れしい奴だな。テティス船長とか、呼び方は他にも色々あっただろ?」

「じゃあテティス船長」

「だぁぁーっもういい! 最初に呼び捨てで呼んだのならそれで構わん! 今さら船長なんて呼ばれたら、強要したみたいで逆に恥ずかしいわ!」


 怒らせてしまった……わけじゃなさそうだな。まぁ、呼び捨てで済むんならそれでいいか。


「じゃあ改めて、助けてくれてありがとな。テティスが偶然通りかかってくれなきゃ、俺は今頃ヤバかったと思う」

「偶然ではないぞ馬鹿者。我がリヴネイルには『スキャルフリード』という超高性能レーダーが搭載されていて、それを使って常にファントナエラを探しているのだ。最近は全く反応が無かったのだが、今日になって唐突に反応があってな、来てみたらあの有り様というわけだ」


 なるほど。この船はファントナエラの反応を追って必然的にこの海域へとやってきたのか。そして、“今日”という言葉からも分かる通り、どうやら俺が気を失っていた時間はそう長くはなかったらしい。


「そうか、大体状況は飲み込めたよ。あぁ、あと俺の名前は“馬鹿者”じゃなくて“カエデ”ね。……それはそうとさ、何で俺達の乗った船がファントナエラに襲われたんだ? 船旅は何回もしてるけど、あんな事は今まで一度もなかったのに」

「ふむ……それは俺様に言わせれば、今までが無駄に幸運だっただけだ。なぜなら奴は船を襲ったのではない。カエデ、貴様を襲ったのだからな」

「えっ!? ど、どうして俺をピンポイントで襲うんだ? あんな化け物から恨みを買った覚えはないぞ?」

「ところがあるのだ。貴様……自分がどういった存在か忘れたわけではなかろう? 奴は貴様が気に入らんのだ。貴様という存在、その匂い、その気配、その次元のねじれがな。異界の者よ」


 淡々と告げるテティスの言葉に、俺は驚きを隠せなかった。この子、俺が異世界の人間だって事を知っている……?


「貴様の驚きは手に取るように分かるぞ。いいだろう、特別に見せてやる」


 そう言って海賊帽子を脱ぐテティス。するとオレンジ色の長髪がさらりと背中に落ちてきた。テティスはそのまま無造作に前髪をかき上げると、額を俺に見せてくる。そこには、横一文字に傷跡のような線が走っていた。


「何だ、これ……?」


 そんな風に呟く俺。そしてその時、俺の見ている目の前でそれは起こった。なんと、その傷跡がいきなりパカッと上下に開いたのだ。


「うわ!? 怖っ!!」


 額にあった傷跡のような線……それは“目”だった。額にある第三の目……グランスフィアには、こんな種族も存在するのか。


「ふふん、いいリアクションだな。そう、俺様はグランスフィアでも希少な三眼種族トリアス! この目で見極められないモノはほとんどない。貴様がグランスフィアの人間でない事も、一目で分かったわ」


 ギラリと光を放つ瞳。人間で言う白目の部分が黒く塗りつぶされ、黒目の部分が鮮やかな赤い色をしている。確かに、こんな目で見られたら何でも見透かされてしまいそうだ。

 息を呑んでその目を見つめ返していると、なぜかテティスは顔を赤らめて三眼を閉じてしまう。


「あ、あまりじっくりと見るな! これだって、額にこそあるが目に変わりはない。は、恥ずかしいではないかッ!」


 怒ったようにそう言うと、すぐに帽子をかぶってしまった。


「ウミュ~~~ッ!」


 その時、海賊ウサギが突然奇声を上げた。それを聞いたテティスは怒った表情から一転して優しげな表情になり、海賊ウサギに語りかける。


「お~、どうしたどうした? あ、そうだ、貴様にもこの子を紹介せねばな。この子の名は“ノア”。どうだ、愛くるしいであろう? わははは!」

「確かに可愛いけど、何となくどこかで見覚えがあるような……なぁ、そのノアってのはどういった生き物なんだ?」

「ふん、貴様のような奴にもノアの可愛さは理解できるようだな。ノアは元々“シードラゴン”という魔物なのだが、悪さが過ぎて水神ケアノスにこの姿に変えられてしまったのだ。昔、海賊稼業の一環として富豪の船を襲った事があってな、そこに捕まっていたところを助けてやったら俺様に懐いてきたのだ。俺様とお揃いの海賊スタイルが似合っているだろう?」


 テティスの奴、ずいぶんとノアの事を気に入ってるみたいだな。それはそうと、ノアはさっきから何かを訴えているみたいだけど……。


「ウミュ~、ウミュ~!」

「お~そうかそうか、よく教えてくれたな。おい、カエデ。貴様の他にもう一人気を失っていた奴がいただろう? 今そいつが目を覚ましたようだぞ」

「何! ホントか!? ちょっと俺、そっち行ってくる!」


 言うが早いか、部屋を飛び出す俺。


「馬鹿者! 左だ左ッ、すぐ隣の部屋だぞ!」


 部屋を飛び出して直感的に右に行こうとした俺の背に、テティスから声が掛かる。


「す、すまん、助かった! サンキュな!」


 俺はお礼を言いながらすぐに左へ向きを変え、隣の部屋へと飛び込んだ……いや、飛び込もうとしたところで、足が止まった。その部屋から、丁度コロナ達が出てきたからだ。


「あっ、カエデちゃん! よかったぁ、目が覚めたんだね! ルナお姉ちゃんも今起きたところなの」

「はは、心配掛けてごめんな。じゃ、俺ちょっとルナのところ行ってくるから」


 そう言ってドアノブに手を掛けると、リピオが俺の手を握って首を横に振る。


「カエデ様……ちょっと待って下さい。さっきから気になっていたのですが……もしかして……」


 あ……あ~……さすがはリピオ、もう俺の異変に気付いたか。

 ……いや、リピオじゃなくても気付くよな。そりゃそうだ。俺が今回ロストスペルによって失ったのは、そういうモノだから。俺の異変に気付いたら、きっとルナは自分を責めるだろう。

 だったら……このままルナと何の用意もなく会うのは得策じゃない。

 俺は一旦テティスのところへ戻り、俺の荷物を受け取った。そして、荷物の中から小さな箱を一つ持ってルナの部屋へと向かう。

 “コレ”が役に立ってくれればいいんだけど……な。

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