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俺式異世界冒険譚!  作者: 明智 烏兎
第十一章 ~来る者と、去る者~
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朝起きたら二人の幼女が全裸待機していた件について

「あぁっ!! そういえばすっかり忘れてたッ!!」


 魔の呪印を目指して町を出た直後、俺はふいに重大な事を思い出して思わず叫んだ。


「わ、忘れてたって……何か町に忘れ物?」

「いやいや忘れ物じゃなくてさルナ、アポカリプスだよアポカリプス! せっかく冥界にまで来たんだから、念のため情報くらい聞いときゃよかったんだ」

「ふんふん、なんか聞きたいコト? じゃあ今聞けばいいじゃん。冥界の住人ならホラ、あなたの目の前にぃ」


 話に割って入ってきたテミスが唇に指を当て、色っぽく囁く。


「そういえばテミスがいたっ! なぁテミス、アポカリプス見てないか?」

「見てないよん。ていうかその話ならとっくにルナちゃんから聞いてたし」

「なっ……何だよっ、聞いてたんなら先に言ってくれって! ……全く、じゃああれは? 片翼のフェルマス」

「「あ」」


 ルナとセイラが揃って声を上げる。おい……まさかセイラ本人まで忘れてたのか? それにルナの奴、ちゃっかり自分の用件は聞いといてセイラの用件は聞いてやらないのかよ。


「ごっ、ごめ~んセイラちゃん! 私ばっかり聞きたいこと聞いといて……はぁぁぁ」

「あっ、あっ、大丈夫だよルナちゃん。何しろ当事者のボクも今の今まで忘れてたから」

「それは大丈夫じゃないだろ」


 これまでデゼスの事以外の全てが二の次だったから仕方ないとはいえ、散々だな。これからはもっと気を引き締めていかないと、得られるはずの情報も見過ごす事になるぞ……。


「で、テミス。翼が片方しかないフェルマスの男を最近見掛けなかった?」

「フェルマスの男……? あ! そういえば……うんいたよいたいた! 中々にイケメンだったけど性格はおっそろしく無愛想でさ~、セイラちゃんと同じで羽が片方しかないヤツ! なになに? そうやって片方の羽取っちゃうのが今流行ってんの? あたしも四枚あるし一枚くらい取ってみようかな?」

「いや流行ってないし。てか仮に流行ってたとしてもそんな簡単に取っちゃ駄目だろ、フィギュアじゃないんだから」


 またしてもビックリな天然発言をポロリさせるテミスとは裏腹、得られた情報はかつてないほどに有益そうだ。俺はミューの手綱を引いて一旦馬車を止めると、話に本腰を入れた。


「そのフェルマスってさ、多分セイラのお兄さんだと思うんだ。アスラートの秘術も無しにどうやったのか知らないけど、まさか冥界に来てるなんてな……。なぁテミス、そのフェルマスをいつどこで見掛けたか覚えてるか?」

「ん~と、見掛けたのはあたしらの集落だけど……もう一月くらい前の話だよ? その時だってもう人間界に帰るところだったみたいだから、冥界にはとっくにいないと思うね」


 と、顎に人差し指を当てて思い返すようにしながら話すテミス。


「そぉ……なんだぁ。一月前かぁ……それじゃあさすがにもう追いつけないよね……はぁ」


 せっかくの情報も後の祭りでしかなかった事を知り、セイラはガックリと肩を落とす。俺はそんなセイラの姿を見兼ね、落とされた肩に手を置いて励ましの言葉を投げ掛けた。


「おいおいセイラ、今はそんなにガッカリするところじゃないだろ? 今まではエアリアルリングから伝わる感覚だけが頼りで、お兄さんが生きてるかどうかの確証すらなかったんだ。生きてるって事に確信が持てただけでも大きな進歩じゃないか」

「そ、そうかな? ……うん、そうだよね! 生きてさえいれば、そのうちきっと会えるよね! えっへへ……ありがとぉお兄ちゃんっ!」


 曇りかけたセイラの表情に、いつもの眩しい笑顔が取り戻される。よしよし、セイラに限らず女の子は笑ってる顔が一番だ。そんでもって……俺はこの笑顔を気休めで終わらせたりはしない。

 待ってろセイラ。いつになるかは分からないけど、俺が必ず再会させてやるからな……必ず。





 冥界でのやり残しをその場で回収し、俺達は行進を再開。小1時間も馬車を走らせると目的地である魔の呪印へ到着した。

 が……ここで思わぬ問題が発生する。


「なぁ……これってどうやって帰るんだ?」

「え、えぇぇっとぉぉ~~……どうなんだろうね?」


 俺の問い掛けに特大の疑問符を浮かべるルナ。みんなの顔を順番に見ていくと、みんなはサッと視線を逸らしていく。いや、別に誰かを責めるつもりはないんだけど。

 しかし参ったな……そういえば帰りの事をすっかり忘れてた。アスラートの秘術なんて俺達には使えないし、ホントに一体どうすりゃいいんだ?


「えっとえっと……あ~そうだぁ! 待ってね、今エレミヤの書みてみるから!」


 困り果てていた俺達にとって、起死回生とも言えるコロナの一声。そ、そうか! 行きの時だってエレミヤを頼ったんだ、なら帰りだってエレミヤだよな!


「ん~~とね……あ、あった! 帰りの方法! んと……“冥界側の魔の呪印は、24時間のうち数分間だけ人間界と繋がる。繋がっている間に呪印内に立てば、アスラートの秘術で送られた者のみが人間界に送還される。ただし、冥界から新たに持ち帰る物(者)がある場合は送還者がそれをキツく所持すること”……だって!」

「なるほど。じゃあつまり、俺達は呪印が人間界に繋がるまで呪印の中で過ごしてればいいってわけか」


 分かってしまえば単純な内容に、俺達は揃って安堵の息を漏らす。ただ、気になるのは最後の部分。


「冥界から新たに持ち帰る者──。それってテミスが当てはまるよな? キツく所持しろっていうけど、具体的にはどうすればいいんだろう?」

「抱っこしてればいいんじゃないかな?」

「ずっとか? いつ繋がるか分からないのに?」

「いつ繋がるか分からないからこそ、ずっとなんじゃないかな?」

「……。その役目……俺に任せてもら」

「却下」

「はやっ! せめて言い切らせてっ!?」


 素早すぎるルナの突っ込みにより、俺のボケは発動を待たずしてシャットアウト。結局テミスの抱っこは言いだしっぺのコロナに任せ、俺達は呪印内にて待機する事になるのだった。

 だが……。


「じゃ、おやすみ~」


 ──夜も更けた頃。寝ぼけ眼の女性陣が、馬車とテントにそれぞれ分かれて眠りの床についていく。


「……こりゃ、間が悪かったな」

 

 眠たくなる時間まで待っても呪印はウンともスンとも言わず、ここにきてまさかの野営。昼前には着いてたってのにとんだ待ち惚けだ。どうやら呪印が人間界に繋がるのは、よりにもよって深夜か早朝って事らしい。


「ま、冥界に来てから戦い続きだったし、これはこれでいい休息か~……っと、おぉ、来たなリピオ! ん? なんだ今日はプリムも一緒かぁ! だよな、ご主人様はテミスに取られちゃってるし。よしよし、じゃあ今日は二匹とも一緒に寝ような!」


 俺専用の小型テントにリピオとプリムは正直きつかったけど、ぴったり寄り添うようにしてどうにか寝床につく。温かい二匹の毛皮に包まれて、俺はこれまでにないほど心地いい眠りに落ちていった──。





 そんなこんなで翌朝。覚醒前の通過儀礼、リピオのディープキスによって俺は眠りの世界から引き戻される。ただ……何だろう。今朝のそれは、いつもと微妙に感触が違っていた。


「?」


 これは……いつもの一舐めで顔全体を舐めるような感じじゃない。リピオは体もデカけりゃ舌もデカいから必然的にそうなるけど、今朝のはもっとこう……普通の人間サイズの舌で舐め回されてる感じというか……って……え? それってつまり、誰が……?

 俺は期待と不安をない交ぜにして、カッと目を見開く。すると俺の目の前には、獣耳の見知らぬ幼女が二人、ちょこんと正座をしていた。


 それも……どういうわけか、全裸で。


「あ! カエデ様、お早う御座います! どうやら寝ている間にきちんと人間界に帰還できたようですよ!」


 目を覚ました俺を見下ろし、手前にいた方の女の子──炎のように赤い、セミロングの髪の女の子が笑顔でそう言った。気付けば獣耳だけでなく尻尾もついているらしく、ブンブンと荒ぶっている。


「え、ちょ……え、ゴメン、どちら様で……?」

「はい? カエデ様ぁ、朝から意地悪です~。わたしはリピオですよ。ちなみにこっちの子はプリムさんです。カエデ様にはこの首輪とリボンで気付いて頂きたかったのですが……」

「いやいやいやいや無茶言わないでよ! キミどう見てもフェヌアスじゃん! リピオは犬だったはずだぞ?」


 俺のもっともな指摘を受け、自称リピオはプリムであるらしい青髪ショートの女の子と顔を見合わせる。そして、クスクスと可愛らしく笑って言った。


「確かに、言われてみるとフェヌアスの特徴が表れてますね。わたし達は人間になったつもりでいたので、目から鱗です」

「人間になったって……何それ? てかさ、さっき俺にディープキスかましたのってもしかしてキミなの?」

「ディープキス? それはどういったものでしょう? ペロペロしたのはわたしですが」

「なぬっ!? あ、悪いけど俺寝なおすからもう一回起こしてもらえる? ……って、んな事やってる場合じゃねぇ! こんなとこ他のみんな、特にルナに見つかったら……!」

「私に見つかったら……なに?」

「ぅげっ!?」


 テントの入り口から聞こえる震え声に目を向けると、そこには恐ろしく冷ややかな目をしたルナの姿が……。


「あいやっ、これはっ……き、今日はずいぶんと早いねルナ」

「ま、たまにはね。で? その子達は一体何なのかな? もし正直に言ってくれたら、ううんやっぱり言わなくていいや」

「まままっ、待って! そのハイスペルを唱える前にぜひ説明させて下さい!! このお二人はデスね、リピオと、プリムだそうです」

「嘘つきは焼け死ね」

「ついてないですからぁぁぁぁ!! ちょっとぉ、リピオ達もなんか言ってやってくれよっ!」

「あわわっ!? ご、御主人様ッ! お止めになって下さい、本当なんです! どなたかが『転成魔術』を使用したらしくてこの姿になっただけなんです~!」

「……転成魔術? 何それ?」


 まだ聞く耳は残っていたらしく、ルナは手元に浮かべた火球を消してリピオに説明を求める。そこへ騒ぎを聞きつけた他のメンツが次々にやってきて、ルナの肩越しにテント内を覗き込んできた。


「うむむ……こうなったら丁度いい。二度も三度も話してたら手間だし、ここはみんなを集めていっぺんに説明してもらおうか。とりあえず……何か着る物をプリーズ」



 ………………。



「……と、いう訳なんです」


 テントを出て、場所は人間界側の呪印前。ルナとコロナの替えの服を着たリピオとプリムはそのように説明を締めくくり、短く息を吐き出した。


 二人の説明によると……デゼス戦前夜にルナとコロナとテミスが使ったアガム、シャローシュカノンに三分割されたあのアガムは転成魔術といい、それは最初理性を持たなかったアガムキメラに人間の感情を与えるためメイガスが考案した特殊なアガムらしい。使うとアガムキメラは人間に転成され、再度シャローシュカノンに封印し直すと元の獣の姿に戻るのだとか。


 アガムの効果が中々表れなかったのは単に術者の力不足、三分割されている理由はシャローシュカノンの守護獣が三匹とも転成した時、その真の力を発揮できるためらしい。なお、転成後の姿が美少女なのは、メイガスの趣味なんだとか。“使い魔は美少女が正義”、か……。兄貴よ……俺はたった今、俺の最強を更新したぜ……っ!!


「転成魔術かぁ……うん、凄い! 改めてメイガスって凄い人だったんだね! アガムキメラを人間に作り変えちゃおうなんていう発想自体がもう常識離れしてるよ!」


 俺とは見る部分が大きく違うが、メイガスの偉大さを再確認したらしいルナ。その興奮のお陰でディープキスの件もあやふやになり、俺もメイガスの偉大さには敬意を表する。

 ちなみにこれは余談だけど……その後の話し合いの結果、リピオ達はしばらくのあいだ人間状態にしておく事に決まった。そうしておけば二匹と会話ができるというのがその理由だったけど、俺としてはそんな理由なんて関係なしに大賛成だ。

 デュフフ……今日から夜が楽しみだぜぇぇぇぇっ!!


「なにニヤついてんの気持ち悪い。言っとくけど、人間状態でいる間は一緒に寝かせないからね?」

「えっ? ええぇぇぇ~~…………」


 俺の邪な考えは即座にルナに見通され、あえなく撃沈。はぁ、そんなエロエロな展開はやっぱ無いよなぁ。

 ただ、一緒に寝られない事を寂しがって抗議してくれたリピオの気持ちは、正直言って嬉しかった。俺を慕ってくれてるのは何となく伝わってたけど、その思いは自惚れじゃなかったんだ。

 よしよし。邪な考えは本気で抜きにして、人目が無い時はこれまで以上にリピオを可愛がってやろう──と、俺は心に強く誓うのだった。

 第十一章、完。次章は本作のメインヒロインである“ルナ”が抱える問題にスポットを当てた話になります。

 第一章から散々引っ張ってきた伏線をやっと回収できるところまで来ました。長かったなぁ~……。

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