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俺式異世界冒険譚!  作者: 明智 烏兎
第九章 ~希望と絶望へ至る道~
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笑顔のために

 ティリスに襲われるという悪夢のような夜が明け、翌朝。出発の前に俺はみんなを部屋に集めた。

 初めは何事かと少しざわついていたみんなだったが、いつもと違う俺の真剣な雰囲気を感じ取ったのか、自然と静かになっていった。

 俺はチラリと流し目でティリスの方を見やる。俯き、手で胸の辺りを押さえるティリスの様子から、デゼスの気配は感じられない。まだ安心はできないけど、よかった……ティリスの精神が戻ってきてくれて。

 ただ、ティリスの表情はいつにも増して暗く沈んでいる。もしかすると、ティリスだけは分かっているのかもしれない……俺がこれから、話す事を。


「え~……みんな。ホント、突然な話なんで申し訳ないんだけど……」


 沈黙を破り、俺はついに話を切り出す。みんなの視線を一身に浴びて、俺は寝ずに考えて出した結論を発表した。


「俺、冥界ってとこに行くよ」

「え……め、冥界……? あっ、な~んだぁ、真剣な顔してるから何言い出すのかと思ったら、また冗談なの?」


 結構気軽な調子で出た俺の言葉に、ルナが気の抜けた表情で腰に手を当てて言う。


「いや……残念ながら本気だよ。冗談なんて言ってられる状況じゃなくなったんだ」


 首を横に振りながら言う俺に、幾分青ざめた顔でリースが質問してくる。


「ど、どうして冥界なんかに行くンですか? 本当に突然じゃないですかぁ」


 リースの言葉に俺は目を瞑り、深く息を吐く。そして再び目を開くと、俺は昨夜の出来事をみんなに話す決心をした。


「実は……昨日の夜、俺はティリスに襲われた」

「ええっ!? そ、それは性的な意味でッ!?」

「あぁ……って、ちっがーう! あのなぁリース、冗談言ってられる状況じゃなくなったって言ったろ?」

「女の子は冗談で男の子を襲ったりしません! 本気なンですっ!」

「性的に襲われたんじゃねぇって言ってんだよ! 今はシリアスな場面なの! ふぅ……じゃあ続けるぞ? 俺はティリスに性的じゃなく致命的に襲われた。ティリスはその時、俺にこう言ったんだ。……自分は冥王デゼス。この娘の体を支配した後、冥界にある自分の本当の器に戻る……ってね」

「お兄ちゃん、ティリスさんと戦ったの? じゃあ昨夜、ティリスさんがケガしてたのって……」

「あぁ、デゼスに体を乗っ取られて常人には無理な動作をかなりさせられたんだ。言うまでもないけど、俺からは一切手を出しちゃいないぜ?」


 俺の言い分に、みんなは頷いてくれた。ティリスは……自分の二の腕を指が食い込むほど強く握って唇を引き結んでいる。


「デゼスとの会話の中で入手した情報を、俺なりにまとめてみた。ティリスは骨鎌の中で眠っていた冥王デゼスの魂に取り憑かれていて、稀にその意識がティリスの精神を押し退けて表に現れる。ケイネル村を滅ぼしたのも、一緒に旅をしていた剣士を殺したのも、今回俺を襲ったのも全部デゼスの仕業だ。まぁ俺は無事だったけど……デゼスは表出する度にティリスの大切なものを奪っていく。それによってティリスの精神は衰弱していき、最終的には……精神が崩壊して、心が死んでしまう。そうなればティリスの体は完全にデゼスのものになる。そしてそれが奴の狙いだ。だから俺は、ティリスの心が死んでしまう前に冥界に行く」

「……私が……冥王デゼスの魂に取り憑かれている……? そんな……」


 ティリスの受けた衝撃は、相当なものだろう。自分がそんな得体の知れない存在に取り憑かれているというのもショックだろうけど、操られていたとはいえ、自分自身の手で大切な人々を……殺めてしまったという事実。それは本当に辛いと思う。


「ティリス……気をしっかり持ってほしい。君が絶望してしまったら、それこそデゼスの思う壺だ。今は何を言っても気休めにしかならないだろうけど、でも……」


 感情のない人形のような無表情で涙を流すティリスの肩に手を置いて、その瞳を真っ直ぐに見据えて言う。


「……大丈夫だ。俺が絶対になんとかするから」


 ティリスの涙は、止まらない。だけどその目には、少しだけ生気が戻った……気がする。

 そんな中、俺とティリスを交互に見ていたミリーが出し抜けに言った。


「な~んか、急にとんでもない事になってるねぇ~……退屈しないで済みそうなのはいーんだけど。でもさぁ、カエデ君ってば、冥界に行ってどうする気?」

「どうするも何も、用なんて一つだろ? ティリスをデゼスから解放する」

「そりゃまー、そうしたいけども。え~……と、ちなみにどうやって?」

「簡単だよ。デゼスの魂を本当の器に戻してやって、ソレを倒せばいいんだ」

「な~んだぁ、それなら簡単だね~……って……そんな簡単にいくかぁぁぁーーーーッ!!」


 俺とミリーの会話に入ってきたツッコミ役のルナが、ダンッと足を踏み鳴らして叫んだ。うむ、さすがルナ。切れのいい乗りツッコミだな。


「ああ、言うほど簡単にはいかないだろうな。だからこそ、こうして話し合ってるんだよ。俺は冥界に行く。そこで、みんなには決断してもらわなきゃならない。なぁに、そんなに選択肢は多くないよ。俺が冥界から戻るのを待つか……俺と一緒に冥界に行くか……さて、どうする?」


 俺の言葉に、静まり返る一同。だが、それも一瞬の事だった。


「私は……行くよ。カエデと一緒に、冥界に行く。だって、ティリスさんが大変な目に遭ってるんでしょ? だったら私も力になりたい」


 ためらう事なくそう言って退けるルナ。続いてセイラが、


「ボクも行く~! もしかしたらアレスお兄ちゃんがいるかもしれないし、ティリスさんも助かるし、一石二鳥だよ!」


 実にセイラらしい前向きな意見を言う。そんなセイラに負けじと、


「ウチも行ったげる! 冥王って言ったら結構強そうじゃん? 吹き荒ぶ西の風、ミリーちゃんがその実力をテストしてやろうじゃないのさ!」


 バシン、と拳を掌に打ちつけて言うミリー。そこへ不安そうな顔をしたリースが、


「あぅ、あ……ああの……わっ、私は本当は嫌なンですけどぉぉ~~……」

「……ガウッ!!」

「ひひぃんっ!? い、行きますよぅ! 行きますってばぁ……一人で待ってるなんて、そっちの方が嫌ですしぃ~~……」


 リピオに脅されるように冥界行きを決意するのだった。もちろんミューも来るだろう。聞いたって「みゅ~」と返してくるだけだろうし。


「さっきも言ったけど、簡単にはいかないぞ? それに冥界は……異世界人の俺が言うのもなんだけど、きっと危険な場所だと思う。ハッキリ言って、みんなを無事に守れる保障はない」

「そんなの、今までだってそうじゃない? それにそんな事言っても、結局カエデは守ってくれちゃいそうだけどね。……でも大丈夫! 私達だって結構強くなってるんだよ? 自分の事は自分で守れるんだから」


 当然でしょ、という感じで答えるルナ。確かに、今までの旅だって命がけだった。今さら言う事じゃなかったか。


「皆さん……私なんかのために……」

「あ~ほらほら、気にしない気にしない! みんな自分の意思で決めたんだから」


 みんなの顔を見回して言うティリスに俺は明るく語りかけたが、結局ティリスはまた泣き出してしまう。


「……っ……あ、ありがとう……ございます……っ!」


 やれやれ……女の子の泣き顔は見てると辛くなるな。……まぁ、今は嬉しくて泣いてるんだけど。

 でも……もうすぐだ。もうすぐ、泣き顔じゃなくて笑顔が見れるようになる、そのはずだ。

 俺は絶対に冥王デゼスを倒す。そして、必ずティリスの顔に笑顔を咲かせてやる。まだ一度も見た事のない、満開の笑顔を──。

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