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俺式異世界冒険譚!  作者: 明智 烏兎
第八章 ~深淵から見つめる瞳~
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開眼せし混沌 ~カエデ VS ミリー~

 黒宝眼を解放した本気ミリーとの戦いが、いよいよ始まる……始まってしまう。

 そして、俺は負けるだろう。ちなみにこれは予想じゃない、確信だ。だったら、俺は一体どう戦えばいいんだ?


「あれ? ミリーがいない……」


 ミリーから目を離した時間なんて、一秒もない。なのに、ミリーの姿が俺の視界から消えていた。

 ──やばい。そう思った次の瞬間、


 ガキィンッッ!!


 鼓膜が破れそうなほどの金属音が目の前で甲走り、俺の体は宙へと浮き上がっていた。その凄まじい衝撃で手が痺れ、思わず剣を離してしまいそうになったが、何とか握力を保つ事ができた。だが、肝心のミリーの姿が、今になっても確認できない。俺は空中で体勢を立て直し、周囲に視線を飛ばそうとしたところで、


「がはぁっ!?」


 視界が突然真っ暗になる。俺の体はいつの間にか地面に叩きつけられ、俺はハイダルの地面を彩る美しい敷石とゼロ距離で睨めっこをするハメになっていた。

 遠くからルナ達やハイダルの町人達の悲鳴が聞こえる。その時、「上です!」と叫ぶ声に反応し、俺は全身に絡みつく鈍痛を引き千切って横に転がる。直後、それまで俺と睨めっこしていた敷石が銀色のエクルオスを纏った鞭によって粉砕された。た、助かった……今の声は、ティリスか? 後でお礼を言わないと。でも、その前に……!


「そこかぁっ!」


 俺は起き上がると同時に素早く体を反転させ、鞭の伸びる方向に掌をかざす。しかしそこにミリーは存在せず、俺は撃ち出そうとしていたアガムを慌ててキャンセルする。が、その無駄な動作が致命的な隙を生み、俺は背中にとてつもない激痛を感じるとともにまた地面に転がっていた。背中に、熱い鉄の塊を押しつけられているような痛みが残っている……どうやら、あの鞭による一撃をまともに受けてしまったようだ。そのあまりの痛みに、俺は今度こそ体を動かす事ができなくなってしまった。


「うっわぁ~~お、いったそ~~っ! もう立てないよね? にゃっはは! そんじゃ、お互い本気の勝負ではウチの勝ちって事で! 約束通り、そこの女の子は頂戴していくよ」

「待……ッ、ぅぐっ! ……く、そぉ……ま……て……」


 ルナに近寄ろうとするミリーだったが、立ち上がった俺を見て足を止める。その顔は驚きと言うより、呆れた表情だった。


「しっぶといにゃぁ……ほれほれ、無理しないでさ。今回は素直に負けときなって。そんで修行し直して、お気にの子は今度取り返しにくればいいっしょ? ウチ、それが楽しみでこの子を連れていくだけだし」


 何だと……? ふざけるな。完全に遊ばれてるじゃねぇか、俺。


「か、カエデ……もういいよ。もう、やめとこ? 私は大丈夫だから……」

「だめだ……! や、やくッ……そく、だからな……ぐっ……!」


 痛みと怒りで荒くなる息を必死で抑え、俺は途切れ途切れに言う。


「あ~はいはい、カッコいいカッコいい! ……そんで? ここからどうする気? 何もできないくせに……ウチに負けた奴がいつまでも偉そうな事言ってると、もう一発やっちゃうけど? いいの?」


 苛立つミリーの気持ち、俺にも分かる。どうやっても勝てない相手に、ご都合主義の奇跡に縋って立ち向かう青臭い主人公には、正直言って反吐が出る。で、俺が今、そんな状態ってわけだ。


 俺はグランスフィアに来て、強くなったと思ってた。

 風よりも速く走れるし、数メートルもジャンプできる。五大賢者にも勝るアガムも使えるし、誰にも扱えない重い剣も使える。魔物に苦戦した事だって一度もないし、宝石眼の竜にも勝ったし、ハーピーにもディーネにも勝った。ミリーにだって二度も勝ってる。

 俺は『最強』なんだと、そう思ってたのに……ミリーが本気になった途端、このザマだ。

 前に闇の中でメイガスが言ってた事、今なら分かる。

 俺は最強なんかじゃなかった。ただ、特別だっただけ。地球から来た異世界人だから、ルオスの最大値が人より高いだけの……凡人だったんだ。


 『お前は決して“最強”なんかじゃない。ただ“特別”なだけだ。そこを履き違えると、痛い目を見る事になるぞ』


 はは……全部メイガスの言った通りになっちまった。


 『この世界じゃ特別製の化け物はゴロゴロいて、同じ特別同士でぶつかった時、お前は勝てない』


 本当にその通りだ。でもさ、だったら俺は、どうすればいい? どうすればルナを守ってやれるんだよ?


 『お前にできるのは強い奴のやり方を真似る事だけだ』


 強い奴の、真似をする……。


 『お前に真似して欲しいのは、今から見せる“コレ”だ』


 そうだ……“混沌を映す瞳”……! あれが自在に使えたら、俺は最強になれる!


 『コツとしては……脳ミソを混沌と入れ替える感じ。頭の中の想像を直接世界に放り出すような……分かるか? この微妙なニュアンス』


 あぁ、さっぱり分からねぇよ。でも、分かる必要はない。なぜなら俺は、もう見ている……最強の片鱗を。

 思い出せ。メイガスの黒いエクルオスを。闇に沈んだ、あの瞳を。その瞳が映す、混沌の世界を!


「おおおおぉぉぉぉ…………」

「ちょ、なに……あんた、何しようとしてんの!? もう勝負はついてるっしょ!? ウチの勝ち……ウチの……」


 視界が闇に染まっていく。違う……もっとだ! もっと深く! 俺の力は、黒じゃない。黒の先にある闇、闇の底にある、混沌だ!


 『最強を模倣しろ』


 その言葉が聞こえた瞬間、世界が切り替わった。闇に揺蕩う暗紫色の波……全てを内包する創生の沼、根源の泉。……理解した。これが……これこそが、


 ──混沌を映す瞳。


「何よ……何よぉ! ウチは三度も負けられない! 立ち上がるからいけないのよ……死んじゃっても、知らないからねッ!!」


 ミリーの振るった鞭が、俺に届く直前で止まる。見えない壁にぶつかったかのように、急停止したのだ。しかし、よく見ると俺と鞭との間に黒い力が波打っているのが見える。


「悪いな、ミリー。こうなっちまったら、お前じゃ俺には勝てない。ただ、これだけは言っておく。お前は現時点で、俺の次に最強だってな」


 俺は鞭を掴み、ミリーを睨み付ける。たったそれだけであのミリーがガタガタと震え出し、鞭を手放して怯えている。

 背中の傷は、とうに回復した。地面に転がっていたソーマヴェセルを拾い上げ、クルリと回転させて切っ先をミリーに突き付け、言い放つ。


「さぁて、お望み通り俺の本気を見せてやるよ……」


 身を低くしてそう宣言すると、俺は一歩踏み出した足に全体重を預けた。後ろに引いたソーマヴェセルの切っ先が地面を削って火花を散らす。


「……行くぜッ!!」

「わあああッ!! 待って待ってぇ! 無理無理無理ッ、やっぱやめ! もういいよ、ウチの負け! 降参降参!」


 走り出そうとした瞬間、ミリーはガバッと土下座してそう叫んだ。


「安心しろ、ミリー。お前は格の違いが分かる奴だと思ってたよ。降参してくれてよかった」


 俺は剣を下ろして笑い掛けると、混沌を映す瞳を解除した。


「……っはあぁぁぁ~~怖かったぁ。もう死ぬかと思ったね」


 脱力して、へなへなと地面に這いつくばるミリー。声は、まだ幾分震えていた。今回ばかりは、さすがに騙し討ちもしてこないだろう。

 ようやく安心したのか、ミリーはゆっくり立ち上がると得意顔になって語り始めた。


「いや、すごいねカエデ君は。このウチを威圧だけで圧倒するなんて、さすがはウチの認めた男! まぁ、ウチも痛い思いはしたくないからさっさと参ったしちゃったんだけど。よっし! じゃあ約束通りゼピュロスは解散するよ。別に未練とか全っ然ないし、手下どもも勝手に何とかするっしょ」

「ずいぶん適当だなぁ。大盗賊団なのに、そんなんでいいのか?」

「い~のい~の! 別に盗みは楽しいからやってただけだし。金持ちどもは自分のお宝を守るためなら必死になるからね~、そんな難しい状況でいかにして仕事を成功させるか! そのせめぎ合いにゾクゾクしちゃうわけさ」

「そんな理由で命より大切なお宝を盗まれたと知った日には、金持ちは泣いちゃうだろうな。まぁ、何にしてもこれからは真っ当に生きろよ。本当ならアスラート王の前に突き出すところを見逃してやるんだからな」


 俺は剣を鞘に収めながら言った。するとミリーは意外そうな顔で聞き返してくる。


「ありゃ、見逃すんだ。そりゃまたどーして?」

「俺はお前に三回も勝った男かもしれないけど、その三回とも全然勝った気がしてないんだよ。今回はお前に追い詰められたお陰で学んだ事もあるしな。それに……お前は仕事の時、人を傷つけないようにしてただろ? 情状酌量の余地があるって、俺が勝手にそう判断した。グランスフィアの刑法なんて知らんけど、お前を止められるのはこの世界じゃ俺だけだ。なら、お前の罪は俺が裁く。外野に文句は言わせねぇよ」


 するとミリーは自分の肩を抱くようにして縮こまり、俯いたまま動かなくなった。


「な、なんにゃ……なんにゃソレ……ちょ~~~~カッコいいじゃないのさぁぁ~~……」

「み、ミリー? どうかしたのか?」

「どうかしてしまったのにゃああ~~ッッ! ……はぁっ、はぁっ……もぉおーー決めたっ! ウチ、カエデ君にくっついてく!!」

「ええぇぇぇーーッ!?」


 とんでもない事を言い出すミリーに、俺は困惑した。だって……なぁ?


「ど、どうしよう……どうする? みんな」


 俺が目を向けると、みんなも困ったように苦笑いを浮かべる。ルナはこめかみに人差し指を当て、さんざん唸った後で俺にこう言った。


「う~~~~ん……私としては絶対反対なんだけど……まぁ、決定権はカエデにあると思うから、任せるよ。……あんまり任せたくないけど……」


 ルナのお許しが出た。俺の答えはもう決まってるけど、一応考えるフリをしてから口を開く。


「そうだな……ミリーも可愛いから、合格だ。よし! ではミリーを我がハーレム『カエデらぶらぶ団』のメンバーに加えてやろう!」

「ちょっ!? ……ちょっとカエデ! いつから私達ハーレムの一員にされてたのよ!?」

「うるさーいっ! この状態をハーレム以外の言葉で言い表せるのか?」


 激怒するルナにすかさず反論する俺に、ルナは諦めたように首を振る。


「はぁぁ……じゃあせめて、その馬鹿げたネーミングだけはやめてよね」

「分かった、真面目に考えるよ。よし、『淫欲の愛天使』」

「最低! 最悪! もっと酷くなってるじゃない! 『カエデらぶらぶ団』でいいわよ、もう……」


 そんなやり取りをしていると、ミリーが俺達を見て大笑いしていた。ミリーはひとしきり笑った後、目に涙を浮かべて腹を押さえながら言った。


「ニャッハハハッ! ……はぁ~おかし~~……あんた達、ほんっといいコンビだよね」


 ミリーにそう言われてルナは真っ赤になってそっぽを向いてしまったが、俺は悪い気はしなかった。


「何はともあれ、退屈だけはしなそうじゃん? 当分は一緒に行動していくから、カエデらぶらぶ団のみなさん、どーぞよろしくちゃん!」


 豪快に笑って締めくくるミリー。こうして俺達は新たに、元盗賊団ゼピュロス団長、ミリー・アスタッドを仲間に加えたのだった──。

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