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俺式異世界冒険譚!  作者: 明智 烏兎
第七章 ~魔の森の三姉妹~
39/80

地獄からの羽音 ~カエデ VS ディーネ~

「……っ! ……あ、れ……? 何か、変だと思いませんか?」


 森を抜けたと同時にそう呟いたのは、ティリスだった。


「変って、何が?」


 隣を歩いていたセイラが問い返す。


「音が……急に消えて……」


 神妙な顔で耳を澄ますティリス。俺はその言葉の意味が分からず、何となくふざけて言う。


「ははは、ティリスもRPGとかやった事あるの? 魔の森のBGMとかが流れてたんなら教えてくれればよかったのに。俺はミュートにしてて気付かなかった」

「あーるぴぃじい? びぃじーえむ? あ、あの、そういうのじゃなくて……風の音や、鳥のさえずり……そういったものです」


 あぁ、BGMじゃなくてSEの方か……ん? でも、言われてみれば確かに変だ。音が無い……いや……実際には聞こえているのかもしれない。でも、怖いくらいに静かだと感じるんだ。その感覚はみんなも同じのようで、それぞれが緊張に表情を引き締め、身構える。何か、よくない予感がする……。

 俺は意識を研ぎ澄まし、周りの様子を探ってみる。……その時、森の中から何かが高速で飛び出してきたかと思うと、ルナの肩を抉っていった。


「ルナッ!!」

「いっ……だ、大丈夫っ! かすっただけ! それよりもみんな、気を付けて!」


 俺がそばに駆け寄ると同時に、ルナは肩を手で押さえて地面に膝をついた。指の隙間から真っ赤な血が流れている……傷は浅くなさそうだ。


「お兄ちゃん、あれ!」


 セイラが指差す方向に目を向けると、そこには驚くべき光景が広がっていた。なんと、先ほど倒したはずのハーピー達がすぐそこまで追いかけて来ていたのだ。


「こ、こいつら……確かに倒したはずなのに……」


 ……いや……待て。俺達はこいつらを、倒してない。倒したように見えていただけだ。魔物は倒せば紫の霧になってこの世から消滅する。なのにこいつらの亡骸は、残ったままだった。


「けど、致命傷は与えてたはず……こいつらが平気でいられる理由は何だ……?」


 目の前で起こる不可解な出来事にそう呟きながら、剣を構える。だが、次のリースの言葉に俺は目を疑った。


「か、カカカカエデさんっ!? ああれ、羽ばたかずに飛んでますよ!?」


 げ、マジだ。一体どうなってる? ……ってか、やばい、怖すぎる。完全にホラーだ。羽ばたかずに飛ぶのも変だけど、奴らの目はどう見ても生者の目じゃない。一羽に至ってはそもそも頭部が無いわけで。

 ……まさか、アンデッド? そういう系の魔物って、そういえばまだ出会ってないな……そんな考えが頭をよぎった時、異変が起こった。

 三羽のハーピーから禍々しい紫色の光が発せられたかと思うと、三羽がぐにゃぐにゃと形を変え、融合していったのだ。そして光が収まる頃、そこには一体の巨大な化け物がいた。

 魔物ながらに美しかった顔と上半身はまるで鬼か悪魔のように醜悪となり、その背からは戸建て住宅を丸ごと包み込めそうなほど馬鹿でかい翼が三対。漆黒の羽毛に覆われた下半身、その脚の先には鮮血で塗装したかのような輝きを放つ鋭い鉤爪が備わっている。


「あの魔物は……“ディーネ”……! 上位種の魔物が生まれる瞬間なんて、初めて見た……まさか、下位の魔物が融合してなるなんて……」


 震える声で呟くルナ。腕の痛みと恐怖で動く事のできないルナを守るように、俺はディーネとかいう化け物の前に立つ。戦闘はもう始まっている……いや、続いている。ならやる事は一つ……死に損ないの化け物に安息をくれてやる、それだけだ。

 幸いと言うか、ここは魔の森の外だから遠慮なくアガムが使える。俺はソーマヴェセルに雷のエレメントを纏わせると、ディーネの懐に飛び込んだ。が、同時にディーネも翼を打ち下ろし、勢いよく上空へ飛び上がった。


「くそっ、また上か!」


 忌々しげにディーネを仰ぎ見て吐き捨てる。アガムで撃墜してやろうと思ったその時、ディーネの太ももに一本の矢が突き刺さり、ディーネは悲鳴を上げた。何とそれは、リースが自ら進んで放った矢だ。すごいぞリース……もうすっかり一人前の弓士じゃないか。

 俺は空中で体勢を崩すディーネに掌をかざすと、雷系のアガムをぶつけてやった。魔の森ではアガムが封じられていただけに、魔術師っぽい戦い方をするのが懐かしく感じる。しかし、アガムが使えるのはディーネも同じ、俺のアガムをリフレクトアガムで相殺するとすぐに反撃のアガムをリースに向かって発射した。


「させるかよ!」


 なす術なく立ち尽くすリースの前に駆け込んで、俺はリフレクトアガムを展開。特に苦労もなく防ぎきる事ができた。上級魔物だとかルナが言ってたからどれほどのものかと思ったけど、大した奴じゃない……そう思った時、俺はハッとした。何気なく目を向けたルナの頭上に、ディーネの放った羽が迫っていたからだ。

 やられた──そう思った時には全てが遅かった。ディーネは本能的に知っていたんだ……いや、それとも先の戦いで学習したのか。“弱い者から潰す”、それが集団を相手にする時の定石。さっき実際に俺達も使った戦法だ。ディーネの狙いは初めから、負傷して動けない状態にあったルナだったんだ。リースにアガムを放つと同時に、ナイフのように鋭い羽毛を飛ばしてルナにも同時攻撃を仕掛けていたのか。

 目前に迫り来る鋭利な羽を見つめて、呆然としているルナ。負傷したルナは、それを避ける事も弾く事もできない。


 ……ルナが……死ぬ……?


 そう思った瞬間、俺は目の前が真っ暗になった。でも、それは絶望して思考が停止したからではない。意識の底から“混沌”が湧き出してくるのを感じた時、全身を漆黒のエクルオスが包み込んでいた。


 ──『混沌を映す瞳』の発現だ。


「ルナァァァーーッッ!!」


 地面を蹴り砕きながら前へと跳び、ルナに突き刺さる寸前だった羽をソーマヴェセルで斬り払う。まさに間一髪……混沌の力が都合良く出ていなかったら、今頃ルナは……。


「……クソ……雑魚がぁっ! もう許さねぇ!!」


 ルナの無事を見届けた後は、ディーネに対する怒りのみが感情を支配していた。俺は頭の中を満たす混沌から生まれる言葉に耳を傾け、ハイスペルを詠唱する。


「咎人を打ち払う神の聖断は、消える事無き戒めとなりて愚者に黄昏をもたらすだろう。イテルの加護を受けし我がエクルオスを白きアガムへと導かん……『セレスティアル・クルス』!!」


 目映い白色の光を纏った左手を天に向かって突き上げると、ディーネの遥か上空から光の柱が照射される。その聖なる光を浴びて、地面へと落下するディーネ。俺は残る右手を強く握り込み、大地を殴りつけてディーネの真下からもう一本の光の柱を作り出す。


「っりゃあああッ!」


 光の柱に上下から挟まれて苦しみもがくディーネに、漆黒のエクルオスを纏った剣を渾身の力で振り下ろす。直後、辺りに悲痛な断末魔の叫びが響き渡り、ディーネは紫の霧となって散っていった。今度こそ完全に敵の気配が消えた事を確認し、俺はゆっくりと剣を鞘に戻す。


「はぁ~~……今回も何とかなったか」


 戦闘終了と共に消えた黒いエクルオスに感謝しながら、俺はみんなを見回した。……よかった、ルナ以外は無傷みたいだ。俺は安堵の息をつきながらセイラにルナの治療を頼むと、そこである異変に気付く。ティリスの様子が何だかおかしい。


「ん……? どうしたティリス、大丈夫か?」


 心配になり、俺はティリスに声を掛けた。だがティリスは返事もせず、無言で俯いている。その後ゆっくりと上げられた顔を見て、俺は背筋に悪寒が走った。ティリスの目が、さきほどのハーピーと同じく死んだ目をしていたからだ。


「!? ……な……ちょっと、ティリス? ど、どうかしたのか?」


 俺は驚いてティリスの肩を軽く揺する。すると、


「……? 何か?」


 ティリスはすぐに目に光を取り戻し、首を傾げて答えた。


「えっ? え~っと……大丈夫かって訊いてるんだけど……大丈夫?」


 俺がそう言うと、ティリスはなぜ自分が心配されているのか分からないといった感じで、「何が大丈夫なのですか?」と聞き返してくる始末。


「いや……ぼーっとしてたから心配でさ」

「? 私、ぼーっとしてましたか? 別に普通にしてましたけど」


 あれで普通だとしたらかなりヤバイ人な気がするけど……。まぁ、ティリス自身は何ともないって言ってるし、これ以上は心配するだけ無駄か。俺は気を取り直してみんなを馬車に乗せると、不吉な空気漂う魔の森から一刻も早く離れるために馬車を走らせた──。

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