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俺式異世界冒険譚!  作者: 明智 烏兎
第七章 ~魔の森の三姉妹~
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弓士を求めて

「“魔の森”、か……。やっかいなところに逃げ込まれたなぁ」


 ハーピーを追い掛けていったリピオの爪痕をたどり、俺達はようやくその場所に到着した。普通なら三日と半日は掛かる道程を、強行軍によって二日足らずで踏破したミューには相当な無理をさせてしまったと思う。後できちんと謝って、何かお礼をしないとな。


 やっとの事でリピオと合流できた俺達が立つこの場所は、“魔の森”と呼ばれるグランスフィアでも指折りの要注意スポットだと、俺はルナから教わった。

 この森が要注意スポットと言われる所以は、土地の特異さにある。何でも、古の大戦がもとでこの森にはレティアが全く寄り付かない。つまり……この魔の森はグランスフィアで唯一アガムが使えない場所なのだ。


「アガム無しで空を飛ぶ敵を相手にするのはキツいなぁ……」


 現に前の戦いで空に逃げられ斬撃をかわされているだけに、正直倒せる気がしない。


「ボクが飛べればいいんだけど……ごめんね、お兄ちゃん」


 セイラが、本来なら生えていたであろう右翼のあたりを見つめて申し訳なさそうに言う。


「……空……遠距離からの攻撃手段が必要ですね……」


 厳しい表情でティリスが空を見上げる。曇った夜空は、今の俺達の心情をよく表していると思う。

 でも、遠距離攻撃が必須なのはティリスの言う通りだ。つまり弓士──それもハーピー三羽を相手にできるくらいの優れた弓士が必要だ。そう考えたのはルナも同じらしく、ぽつりと小さく言った。


「確か……『ベイラム大陸』の『ラハーサ』っていう村に凄腕の弓士がいるはず。名前は……“レザイア・バーニス”……だったと思う。その人の力が借りられれば……」

「ベイラム大陸? ってどこだ?」

「ラグオスの東にある大陸。ガルツァークからラグオスに行くにはどちらにせよその大陸を経由しなきゃいけないの」

「だったら丁度いいじゃん。よし、その弓士に会いに行ってみよう」

「あ、あの、ちょっと待って下さい」


 するすると次の行動が決まったところで、突然ティリスが口を開いた。みんなの視線がティリスに向けられる。


「全員がここを離れるわけには……ハーピー達がいつ動くか分かりませんから」


 それは当然の意見だった。俺とした事がそれに思い至らないとは何たる不覚。さっそく居残り組を決めようと腕組みをしたところでリピオが急に吠え出し、ルナがそれを当たり前のように通訳し始めた。うむ、もはや突っ込み不要の謎スキルだな、それ。


「リピオがここに残るって。それに、ハーピー三羽のうちの一羽に追ってる途中でケガを負わせたから、しばらくは森から出ないだろうって」

「ふむふむ。そうなのか……ってリピオ、お前ハーピーと戦ったのか!? おいおい無茶すんなよ、反撃してきたら今頃大変な事になってたかもしれないんだぞ!」


 俺はリピオの取った大胆すぎる行動に驚き、つい大きな声を出してしまう。するとリピオは悲しそうな表情になって俯いてしまった。


「あっ……いや、別に怒ったんじゃないぞ? ただ、それでリピオにもしもの事があったらって思ってさ。リピオはエゼキエルの守護獣なわけだし、すぐにでも取り返したい気持ちも分かるけど……」


 と、そんな風に慌てて補足する俺。リピオもその辺はちゃんと分かってくれているようで、いつものように鼻声を上げて俺に擦り寄ってきた。


「よしよし。残るにしても無茶だけはするなよ。安心しろリピオ、エゼキエルは俺が絶対取り返してやるから大丈夫だぞ」


 俺はリピオの頭をガシガシと撫でてやり、馬車の中の食料をリピオのために多めに置いて行く事にした。


「お腹が空いたら食べてくれよな。できるだけ早く戻るから……よしっみんな、出発だ!」


 こうして俺達はベイラム大陸へ向けて出発したのだった。ミューにはまた苦労をかける事になるけど、仕方がない。ホント、後で絶対お礼しよう。


「……カエデってさ……何の根拠もなしに言うよね。“大丈夫だ”とか“安心しろ”とかさ……」


 御者台に座る俺の隣に来たルナが、何の脈絡もなしに言う。


「ん、そうかな? ……あ~……まぁ、そうなのかな。はは、悪い。何かそういうのって、無責任だよな」

「そう……だけど。他の人がそういうと、無責任だとか思っちゃうけどさ……カエデが言うと、何か違うよね。その……う~~ん、や、やっぱりいいや! あは、あははははっ」

「はぁ? 言いかけてやめるなよ、気になるなぁ」

「気にしない気にしない! えっへへ……」


 気になるって。……とは、あえて声に出さなかった。ルナはそれからずっと上機嫌だったから。

 気になるけど、それならそれでいい。そう、思ったんだ。





 ──魔の森を発って三日目。時々ミューと一緒になって馬車を牽いたりと色々努力した結果、俺達は港町ジャークに到着。休む間もなく船に乗り込むとベイラム大陸を目指した。

 ルナの話では、順調に航海が進んでもベイラムまで二日はかかるらしく、走り詰めだったミューを休ませてやれる事に安堵する。ただ、俺は船酔いで休息どころじゃなかった。うぅ……こればかりはどうしようもない。

 それでも俺が船酔いでダウンしている間、ルナが色々と世話をしてくれたのは嬉しかった。嬉しかったんだけど……甲斐甲斐しく尽くしてくれるルナに笑顔を向けるたびにルナはあの“怯えた表情”を見せたので、嬉しさよりも心配の方が強かったというのが本音だったりする。


 そして予定通り二日後に、俺達はベイラム大陸の地に立った。しかもそれだけじゃない。何と俺達は、船を降りた瞬間一気に目的地のラハーサ村まで辿り着いたのだ。

 ベイラム大陸は今まで北端の『ワーム』という町にしか港がなかったらしいのだが、都合のいい事にここ最近、南端のラハーサ村にも港ができたらしい。お陰で大陸縦断の旅をしなくて済んだってわけだ。


「はふぅ~~~……よ、よ~~し、急いでその弓士に、はぁ、会いに行こう……おぇ」

「お、お兄ちゃん、大丈夫?」


 相変わらず船酔いが続く俺にセイラが尋ねてきたが、今は一刻を争う事態。弱音を吐いている暇があったら、ゲロでも吐いた方がマシだ。……というわけには行かないのもまた事実。結局俺はみんなの善意で少し休ませてもらう事になり、その間に件の凄腕弓士の居所をみんなで手分けして探し出してくれた。

 話によると、その弓士は村の弓術道場で師範をしているらしい。少し体調が回復した俺は、さっそくその道場に足を運んだ。

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