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俺式異世界冒険譚!  作者: 明智 烏兎
第六章 ~最強の片鱗~
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神速の攻防 ~カエデ VS ミリー~

「ミリー! 久し振りだな」

「げげっ、あ、あんたはあの時の……!」


 俺の姿を認めたミリーは、すっぽり被った外套のフードをバサッと払って指差してきた。


「ミリー、お前どうやって侵入してきたんだ? 障壁法陣が張ってあったはずだぞ?」

「あっははは! 目には目を、障壁法陣には障壁法陣をってね。障壁法陣を込めたアガムケイジで障壁に穴をあけてやったのさ。そしたらウチのヴォイドアガムを込めたケイジで……後はお分かり?」

「ちょ、ちょっと待って! あなた今、ウチのヴォイドアガムって言った? あなた、“大地の民フェヌアス”なのに何でアガムが使えるの!?」


 と、ここでルナが急に俺とミリーの会話に割り込んできて叫んだ。


「あ、そこ突っ込んじゃう? 突っ込んじゃうよねぇ……だってフェヌアスはエクルオスが練れない、つまりアガムが一切使えないはずの種族だもんね。だ・け・ど、ウチは普通じゃないんだな~これが! 理由はウチにも分からないんだけど、すっご~~~く調子がいい時だけ、ごく稀にアガムが使える日があるんだよね。その時にアガムをどんどんケイジに込めて、仕事の時に使ってるってワケ」

「……うそ……じゃあ、障壁法陣もあなたが!?」

「ピンポンピンポ~~~ン! まっ、あ~れくらいのアガムなんてウチには朝飯前だけど」


 蒼白となったルナに満面の笑みで答えるミリーだが、すぐさま戦闘モードに切り替わって俺に視線を移す。


「さ・て・と……そろそろやろうか? もち、今回もサシだよね?」

「ああ。でも今回は……初めから全力でいかせてもらうけどなッ!!」


 言い終えるより早く、俺は背負っていたソーマヴェセルを鞘ごとミリーに投げつけ、一気に間合いを詰める。前回の戦いで学んだ、相手を殺さないための本気の出し方だ。


「甘い甘い! 馬鹿の一つ覚えみたいな突進はもう見切ったよ!」


 ミリーは地面に口付けるかのように前傾してソーマヴェセルを潜り抜け、そのまま俺に向かって飛び掛かってきた。

 まさかミリーの方から接近してくるとは思っていなかった俺は、正面衝突を危惧して一瞬動きが鈍る。しかし、ぶつかると思った瞬間にミリーの姿が俺の視界から消え、反射的に突き出した俺の手はミリーの尻尾の先にも触れる事はなかった。

 ……速い! 前回の戦いで分かっていた事だが、単純なスピード勝負では圧倒的に俺が不利だ。


「どこ見てるの? 上だよっ!」


 降り注ぐ声に顔を上げると、ミリーが短剣を振り下ろしてくるのが見えた。俺はとっさに横へ跳び、地面を転がって体勢を立て直す。だが、起き上がった瞬間、俺の頬を短剣がかすめて飛んでいった。頬を血が伝う感覚。くっそ……完全に遊ばれてやがる!


「……てめぇ、よくもッ!」


 余裕の表情でステップを踏むミリーに向かって、俺は再度突進を敢行する。もちろん、同じ手を二度使うほど間抜けじゃない。今度は真っ直ぐには行かず、静と動、緩急、フェイントを織り交ぜた不可測の突進だ。だが、突然俺の足首に何かが絡まり体が浮き上がったかと思うと、もの凄い勢いで床に叩き付けられた。


「ぐッ……いっ……てぇ……ッ!」


 激痛に顔をしかめる俺の右足に巻きついていたのは、紐のようなモノ。それを目で追っていくと、その正体が判明する。紐の正体は、ミリーが手にした鞭だったのだ。


「にゃははっ! 今のは中々速かったけど、まだまだだね!」


 俺はよろよろと立ち上がり、痛みをこらえてミリーに問う。


「何か、前回よりずいぶん強いんじゃないか? あんた」

「んっふっふ~、そりゃあ修行したからね。ウチ、こう見えて負けず嫌いだから」


 自慢げに胸を反らして言うミリー。俺も剣の修練はしてたはずなんだけど、結局剣なんて使ってないなぁ。何だか無意味な修行をしてた事に気付いて、ちょっと恥ずかしいぞ。


「と、いうワケだから今回はカエデ君の負けって事で。さっさと諦めてくんない?」


 ヒュンヒュンと鞭を躍らせてミリーが降参を迫る。


「そいつは気が早いな。俺にはまだ奥の手があるんだ。それで駄目なら諦めるよ」

「ちょっと、マジ!? 初めから全力出すって言ってたのに、まだ本気じゃなかったてわけ?」


 俺の言葉に怒りと驚きを混ぜたような顔でミリーが言う。もちろん、ハッタリなんかじゃない。

 俺にはまだミリーに見せていない力がある。今……そいつを見せてやるぜ!


「はあああああぁぁぁぁぁ……!」


 足を肩幅に開いて脇を閉め、肘を曲げて拳を握り込む。その昔、少年漫画で見たような気合の入るポーズを取ると、俺は精神を研ぎ澄ましていく。


 俺はグランスフィアに来て、身体能力が上がった。その話をセイラに言ったら、ルナよりも具体的な回答が返ってきた。

 まず、俺のルオスは一般人の数十倍はあるらしい。RPG的な言い方をすれば、MPがほぼ無尽蔵にあるって事だ。セイラ曰く、今まで地球で暮らしてきた事がルオスの増加に繋がっているのだとか。

 地球に魔法がないのは、レティアが存在しないからだ。つまり、地球人は生まれてからずっとルオスを体内に溜め込み、それを発散できずに暮らしている。グランスフィアに来た事で、その大量のルオスがレティアと結び付き活性化した、それが俺の身体能力向上の原因だと考えられるわけだ。

 で、俺が今からやろうとしているのが……『エンハンス・アガム』。要するに身体能力強化のアガムだ。こうする事で、俺の身体能力は極限まで跳ね上がるだろう。


「うそっ!? その金色のエクルオス……アンタあんな馬鹿デカイ剣背負っといて、魔術師なの!?」

「正解! けど大正解は魔法剣士。そう、俺は……アガムフェンサーだ!!」


 エンハンスアガムの発動と同時に俺はエクルオスを右手に集め、掌をミリーに向かって突き出す。


「上手く避けないと死ぬぜ? くらえっ! 『セラフィック・レイ』ッ!!」


 掌に集めた光を、高速で射出する。もし当たっても死なないように、詠唱破棄で威力を殺したフェイントのアガムだ。ミリーは俺の期待通り、横っ跳びでアガムを回避。……が、それでチェックメイト。俺はエンハンスアガムによって極限まで引き上げられた身体能力を活かし、一気にクロスレンジまで踏み込む!


「ッ……!?」


 短い悲鳴を上げ、硬直するミリー。その喉元に俺がエクルオスを変化させて作った光の剣を突き付けたからだ。


「動くな。今回は逃がさないから覚悟しろ」

「ちちちっ、ちょっとぉぉ、勘弁してよ~……。ツイてないにゃあぁぁ~~~……」


 両手を高くあげて引きつった顔で言うミリー。観念したのかと思ったら、今度は急にいたずらっぽい笑みを浮かべて肩をすくめる。


「にゃはは~、降参降参っ! やっぱ強いなぁカエデ君は! それにしても君、さっきはめちゃくちゃカッコ良かったよ~? “俺はアガムフェンサーだ!!”ってね!」

「……何か企んでる?」

「あ~も~、つれないなぁ。つまりはぁ、惚れちゃったっていうか~~、そのぉ……キス、したくなっちゃったんだよね」

「まっ、マジで!? じゃ、じゃあ少し……じゃないっ! ば、馬鹿め、そんなのに騙されるかよ!」

「照れなくたっていいじゃな~い! はいはいっ、チュ~~~~って、ほらほらぁ」


 目を瞑り、ゆっくりと顔を近づけてくるミリー。くっ、これは間違いなく裏があるはずだ。

 しかし……あぁ……俺は煩悩の塊だ。許してくれ、みんな……。


「っっっぎゃああああッッ!?」


 全身を貫くような激痛に襲われた俺は、股間を押さえて体を丸める。って、これじゃ前回と同じじゃねーか! 何やってんだ俺は、情けない……。


「にゃっははははは! お大事にぃ~!」


 ぷるぷると震えながらうずくまる俺を見下ろして言うと、ミリーは玉座の裏にある神具に向かって走った。だが、その行く手を遮るようにルナ達が立ちはだかる。


「やっぱりこうなると思った! ミリー、私達が相手よっ!」


 ルナはそう叫びながらエゼキエルのページを開く。それを見たミリーは素早く後ろに飛び退いて、そこで再度ルナの手にした物を確認する。


「ん~? げげっ、それってエゼキエルの書ってヤツ!? あわわ、そりゃマズイ……こっ、今回は分が悪いわ、残念だけど退散するしかないってね……じゃ、そゆことでっ!!」


 言うが早いか、懐からアガムケイジを取り出してそれを地面に投げつけるミリー。瞬間、強烈な閃光が辺りを包み、視界が奪われる。そして玉座の間から光が消え去った時……ミリーの姿も綺麗さっぱり消えていた──。

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