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俺式異世界冒険譚!  作者: 明智 烏兎
第三章 ~片翼のフェルマス~
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新たな同行者

「ふぅ……これが、今から三年前に起こった出来事なの」


 話を終え、セイラはそっと俯く。前髪の隙間からわずかに覗く瞳が、悲しみに耐えるように揺れていた。

 そんな彼女に、俺は何も言う事ができない。俺は勝手ながらセイラに対し、とても快活な女の子だという印象を抱いていただけに、彼女にそんな悲惨な過去があったなんて思ってもみなかったから。

 それはルナもリピオも同じらしく、その場に気まずい沈黙が流れる。しかし、セイラはそんな空気を気にした風もなく、さらに続けた。


「……その後、目を覚ましたボクは祭壇に居たの。集落を襲った男の子がいなくなった後で、避難してた人達が生き残りを探して集落に戻った時、ボクを見つけてそこに運んだんだって」


「なるほど……。で……その、お兄さんは……?」

「……居なかったって。集落にあった遺体は全部翼を切り落とされた状態だったみたいで、ボクの家の前にも、左右の翼が一つずつ落ちてたって。ボクと、お兄ちゃんの翼が……」

「……ヒドい……」


 ルナが肩を震わせて言う。本当にその通りだ……俺も、やり場のない怒りが湧き上がってくる。


「……うん。でもね、ボク思ったんだ。お兄ちゃんの遺体は見つからなかった。なら、きっとどこかで生きてるんだって」


 ほんの少しだけ表情からかげりが薄れたセイラが、自分に言い聞かせるように言った。それに賛同するようにルナも明るい調子で、


「そうだよ! お兄さんも絶対どこかで生きてて、セイラちゃんの事探してるよ! うん!」


 と、励ましの言葉を投げかけた。


「ありがとぉ。ええっとぉ、ルナちゃん、だっけ?」

「うん、ルナ。ルナ・ルーラントだよ。こっちはリピオ。よろしくね」


 お互い改めて自己紹介をして、両手で握手を交わす二人。同年代っぽい二人は、早くも親睦を深めたようだ。


「でもね、お兄ちゃんが生きてるかもしれないって事、ちゃんと確信があるんだよ?」


 にっこりと笑みを浮かべ、セイラがそう切り出す。その意味をはかりかねた俺達は、揃って首を傾げた。セイラは、自分に残された左の翼をそっと撫でながら言う。


「三年前のあの出来事から今までの間、ボクはお兄ちゃんの剣のお師匠さんの下で槍術とアガムを習ってたの。どこかで生きてるだろうお兄ちゃんを探して、いつか一人で旅ができるくらい強くなるために。でもケガを癒しながらの修行だったし、片翼だとバランスが取れないのもあって、中々上達しなくて……」


 才能の問題かもしれないけど、と苦い笑顔で付け加え、頬を掻くセイラ。だがすぐに気を取り直し、続ける。


「でもね! ……十日くらい前に、突然コレが光りだしたの」

  

 言って、セイラは左手を胸の前に掲げる。細い、白魚のような指。その薬指にはめられたエアリアルリングの蒼い宝玉が、今も淡い光を灯していた。


「これを見たらボク、いてもたってもいられなくなっちゃって……。だってこのリングは、ボクとお兄ちゃんとを結ぶ最後の“絆”だから……だから、きっとお兄ちゃんと再会させてくれる。そう思ったんだ。でも、集落から一番近いこの町に来るだけでもすごく疲れちゃって、お馬さんが欲しいなって思ってたら、さっきみたいな事に……」


 言い終えたセイラが、ムスッと渋い表情を作って肩をすくめる。


 なるほど。さっきの争いの経緯、そしてセイラが旅をする事情。その全てを、俺は今理解した。生き別れの兄を探す旅……か。


 ──他人事だとは、思えなかった。兄と離れ離れになる気持ちが、俺にはよく分かるから。

 この子の力に、なれないかな? と、俺は考える。だが、次に聞こえたルナの声に、俺の思考は容易く止められてしまった。


「でも、馬ならさっきの三人組が買って行っちゃったみたいよ?」


 その衝撃に、声も出ない。


「ええっ!? い、いつ?」

「今さっき、私たちが話してる間に。意外と早く目が覚めたんだね」


 セイラの問いに、事も無げにルナが答えた。


「そんな~……最後の一頭だったのに……」

「嘘っ!? そ、そうだったの?」


 セイラはガックリと肩を落として頷き、ルナは困惑した。

 馬を求めてわざわざ、しかも不利な状況で争う理由……それは、馬が一頭しかいないからだという事は少し考えれば容易に察しがつくはずだ。だが、どうやらルナはそこまで考えが至らなかったようだ。博識なクセに、どこか抜けてる……まぁ、そこがルナの可愛いところでもあるんだけど。


「肝心の馬が売り切れって……あの~、馬屋のおじさん。この近くに別の馬屋はないですかね?」


 馬屋の店主に、俺が尋ねる。


「いや~あるにはあるけどね、どこも馬は残ってないと思うねぇ。昨日大規模なキャラバンがやってきてさ、“馬が全部盗まれた”とかで買い占めてったから。ウチに一頭残ってたのは奇跡だよ」


 店主の答えは、俺の望むものではなかった。世の中、そんなに甘くないって事か。どうしたものかと頭を抱えていると、ふいに思い掛けない言葉が店主からもたらされた。


「……お客さん、馬は残ってないと言ったけどね、代わりならあるよ」


 店主は一旦裏へと引っ込み、奥から一頭の馬……のような生物を引っ張ってきた。

 その生物──全体のシルエットは馬のそれと酷似しているが、決定的に馬とは違う。全身を純白の体毛で包み、四足歩行。ここまではいい。


 だが足はゾウのようにずんぐりと太く短く、とても速くは走れそうにない。また、それにどんな意味と機能があるかは分からないが、頭には兎のような耳が二対。そしてフサフサの尻尾が二本、ゆらゆらと左右に揺れていた。

 さらに言えば、鼻がない。何というか、不気味……いやいや、とってもユニークなお姿をしていらっしゃる。おまけにその鳴き声は……、


「ミュ~」

「「きゃぁ~~! 可愛過ぎだよぉ~~~っ!!」」


 俺の両隣から綺麗なステレオで黄色い声が上がる。女性陣には大層気に入られたようだ。引き換え、悲しそうな瞳で主の背をみつめる哀れな使い魔を、俺はガシガシと撫でてやる。……よしよし。俺はリピオの味方だからな。


「この前、近くの森で偶然見つけたんだよ。魔物なんだろうけどすごく大人しいし、馬車を引く力もある。それにこう見えて意外と速いんだよ。もしこれでもいいってんなら売るけど、どうする?」

「買う、買う!! むしろこの子がいい!!」


 店主の言葉に鼻息を荒くして即答するセイラ。こ、こんな得体の知れない生き物で本当にいいのか……?


「はい、じゃあ5000グラン……と言いたいところだけど、馬ってわけじゃないから3000グランでいいよ」

「……ぇ……?」


 途端に元気をなくすセイラ。ゆっくりと、無言でポケットをまさぐっているが、結局出てきたのはわずか600グランと、


「……あうぅぅ~~……」


 情けない呻き声だけだった。


 ……え~……ちなみに“グラン”とはグランスフィアの通貨の単位の事だ。形状・サイズとしては日本の一円玉をイメージしてもらっても問題ないだろう。

 ただ、見た目はレンズのように透けていて、様々な色がある。そしてその色によって価値が決まるんだとか。

 大星樹ユグドーラが世界にレティアを産み出す際に生じる副産物であるという事以外は、この世界の人間にもよく分かっていないらしい。


 ……さて、現実逃避はこれくらいにしておこう。あまりセイラを放っておくのも可哀想だ。俺はうなだれるセイラの頭をポンと撫で、馬屋の店主に話し掛ける。


「あの、馬車も一緒に買いますから、あと500グラン負けてもらえませんか?」

「半額か……まぁ、大人しいといっても魔物だしなぁ……分かった、負けるよ」


 よし! 俺はガナッシュさんからこっそり貰っていたへそくりを確認し、頷く。でも、その前に……。


「セイラ。ちょっと確認したいんだけどいいかな?」

「うん? いいよ~」

「じゃあ一つ目。セイラの旅の目的は、生き別れた兄を探す事……そうだよね?」


 俺の問いに、こくりと頷くセイラ。お金が足りなくて泣きそうな表情は今も変わらない。でも、俺は気にせず話を続ける。


「もう一つ。セイラは旅を始めたばかりで、兄の手掛かりはまだ掴めていない」


 こくこく、と今度は二度頷くセイラ。さて、ここで改めて状況を整理しておこう。


 ──セイラ、そして俺達の旅のカタチは、酷似している。

 互いの旅に、目的はあっても“目的地”はない事。

 互いの旅は、まだ始めて間もない事。

 互いの旅で、目的への手掛かりはまだ何も得ていない事。


 そうだ。ここまで分かっているのなら……俺のとるべき行動は、やはり一つだ。


「ねぇセイラ。俺達と一緒に……旅をする気はないかな?」


 その言葉により生まれる、一瞬の静寂。

 俺自身、その言葉に込められた本当の意味は分からない。この子の境遇を、今の俺と重ねたからか。純粋に、彼女に惹かれているのか。その姿が……単なる空元気に見えたからなのか。


 分かる事は、ただ一つ。

 一秒先の俺が、後悔しないために。投げ掛けたその言葉が、最善の選択肢であったと──俺は信じたい。


「……えと……いい、の?」


 戸惑い、躊躇い、様々な感情が入り乱れた複雑な顔をして言うセイラ。俺は頷き、ルナとリピオを見る。反対など、あるはずもなかった。


「……ほ、ホントに、ホントに……? やったぁ! ありがとぉ、嬉しいよっ!!」


 セイラが、本当に嬉しそうに飛び跳ねて喜びを表現する。


「よかった。うん、だってそうだもんな。女の子が一人で旅だなんて、危なくて見てられないよ。その……敵は魔物だけとは限らないわけだし……」


 腕組して言う俺に対し、セイラは首を傾げたが、ルナはジロっと睨み付けてきて言った。


「……一番最初に敵に回りそうな奴の言うセリフじゃないと思う」


 ぐっ……さすがはルナ。その歯に衣着せぬ強烈なツッコミ、実に手痛い。だけど、これで話はまとまった。俺は早速、名状しがたい馬のような生物及び、そいつに牽かせる幌馬車を購入する。


 まだこの街での捜索が、全て終わったわけじゃない。明日には互いの、もしくはどちらかの目的が果たされるかもしれない。でも……たとえどう転んでも、この購入は無駄にはならない。


 “俺自身”の目的が、まだ残っている。


 元の世界に帰る方法を探すという、その目的が──。

 第三章、完。四章でも新キャラが登場、バトルもあります。ご期待下さい!

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