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俺式異世界冒険譚!  作者: 明智 烏兎
第三章 ~片翼のフェルマス~
18/80

アポカリプスの鍵

 ──翌日。

 結局露店では何の成果も得られないまま、ガイルロードを訪れて初めての夜明けを迎えた。もはや恒例となったリピオのディープキスで爽やかに目覚めた俺は、今日の予定を頭の中に思い描く。そうそう、今日は武器屋を中心に聞き込みをして回るんだったな。


 相変わらず寝起きの悪いルナを叩き起こして朝食をとると、無闇に豪勢で宿代の高かったホテルを俺達は早々にチェックアウトした。


 昨日と変わらず人で溢れかえった表通りを抜け、俺達は商店街へとやってきた。道具屋、食材屋、武器・防具屋……。様々な店が、様々な人が、様々な物を売買する。こういう光景はRPGで慣れっこだったし、現にレイドポートでも経験済みのはずなのに、やっぱり王都っていうのは伊達じゃない。たくさんの人の群れに囲まれ、俺はただただ圧倒させられるばかりだった。

 人波を掻き分け辿り着いた武器屋で、俺達は早速アポカリプスについてを尋ねてみた。


「あの、すみません。ちょっと訊きたいんですけど、刀身が赤くて、反り返った感じの剣を持った人を最近見ませんでしたか?」

「ん? ん~……赤い曲剣ねぇ……悪いけど見てないよ、うん」

「そうですか……。あ、どうもありがとうございました」

「お? 何か買ってかないのかい? おじさん、寂しいねぇ……」

「す、すみません、買い物ってわけじゃなくて……あ~、じゃあこの投げナイフ買いますよ」


 俺は小振りの投げナイフを手にとって言った。絶対必要ってわけじゃないけど、旅する中でいつか必要になる場面が来るかもしれないし、別に買っておいて損じゃない。

 ……と、無理やりにでも理由を付けて納得しておく。俺は一番安い三本セットを買い、その店を後にした。


「カエデ~……別に買ってやる事なんてなかったのに」


 店を出るや否や、ルナが非難の声を俺に向ける。う……言われると思った。俺は一つ溜め息をつく。


「いや~、何ていうかさ……俺、百貨店みたいにデカイ店ならともかく、ああいう個人経営の小さい店に入って何も買わずに出るのって、何か気が引けるっていうか、店の人に悪い気がして嫌なんだよ。だってさ、店に入るのって普通何かを買うためだろ? それにこれは無駄遣いってわけじゃないし」

「それで、次の店でも同じ物買って出てくるの? カエデ、お客側のくせに卑屈過ぎだよ」


 俺の苦し紛れの言い訳に、ルナが同じく溜め息と共に返してくる。

 むぅ……確かにそういわれると反論のしようがない。というか、まず反論するところじゃない。


 ふと、グランスフィアに来たばかりの頃に思った言葉が頭をよぎった。


 ──俺はこの世界で変わる事ができるだろうか。


 そうだ。俺は今、ここにいる。それは俺の意思じゃなかったかもしれない。でも、心のどこかで願っていた事だ……その、はずだ。

 大袈裟かもしれないけど、ここが一つのターニングポイントと言えなくもない。なら後悔なんてできないし、したくない。俺は変わる。いきなりは無理かもしれないけど、こういう小さな事から変わるんだ。


「ルナの言う通りだ。俺……卑屈な自分に後悔してる。次からは気をつけるよ」


 そう声にしただけで、少しだけ変われたような気がする。言霊、か……案外、使い道はアガムだけじゃないのかもしれないな。素直でよろしい、と微笑むルナに頭を掻いて応えると、俺達は次の店へと向かった。


 ガイルロードの街は、とても分かり易く整備されている。住居は居住区、商店は商店街といった具合に。そのお陰で、俺達は午前中だけで四軒もの武器屋を回る事ができた。これがすごい事なのかは分からないけど、少なくともレイドポートでは出せなかった数字だ。いや……そもそもレイドポートには四軒も武器屋はなかったか。

 それにしてもガイルロードには一体いくつの武器屋があるんだろう? まぁ、武器屋に限った事じゃないけど。


 ともあれ、俺達は午前の捜索を、やはりというか成果無しで終え、適当な店で昼食をとる事になった。入った店は手軽な雰囲気で、まるでファーストフード店といった感じだ。注文の仕方も日本のものと大差はない。まあ、その方が面倒が無くて助かるからいいんだけどね。俺はハンバーガーのような食べ物に噛り付きながら、シェイクのような物を吸っているルナに尋ねた。


「ねえルナ。アポカリプスってさ、降魔剣っていうだけあってやっぱ武器としても使えるの?」

「もちろんだよ。だからこそ危険なんじゃない」


 ちなみに、聞き込みの際アポカリプスの名を出さないのはガナッシュさんからの頼み事だからなんだけど……果たしてそんな悠長に構えていて大丈夫なんだろうか?


「降魔剣のすごいところはね、剣に認められた真の使い手なら自分のルオスを消費して、封じられた幻獣の力の一部を瞬間的に使う事ができるの。つまりは、召喚ね。それを『サモンアガム』っていうの」


 説明を終えると、またシェイクのストローをくわえるルナ。


 幻獣を封印する、魔導器。魔導器に認められた真の使い手であれば、瞬間的に幻獣を召喚できる。つまり……封印を、解除できる……? え……ちょっと、待った。それは──、


 ──それは、マズイんじゃないのか?

 もし、万が一。何かの間違いで。

 そう、たとえるなら奇跡でも起きたなら、封印が完全に解けてしまう事もあるんじゃないか?


「それは、有り得ないよ」

「……へっ?」


 不安が顔に出ていたのか、まるで俺の考えを読んだように絶対の自信を含んだ声色でルナが言った。俺は思わず呆けた声を返してしまう。


「封印が解けるなんて事はない。そう言ってるの」

「え……何でそう言い切れるんだ?」


 ルナの態度があまりにも自信に満ちていたので、俺はついつっかかる感じで尋ねてしまう。ルナは当然とでも言うように、胸を張って答える。そこについ目がいってしまうのは、男の本能のようなものなので許して欲しい。


「だって、前例がないもの」

「…………は?」


 その答えに、俺は絶句してしまう。

 それは、記録だろう? 文献から得た知識だろう? その知識ってヤツに頼ったせいで、赤宝眼の竜の時もひどい目に遭ったんじゃないか。いや、まぁそれは別にいいんだけど。

 でも、これだけは言わずにはいられない。


「──じゃあ聞くけどさ。異世界の人間の転移も……前例がない事なんだよな?」

「っ!! えっと……そ、れは……」


 俺の質問に、ルナはうろたえながら頷く。これでルナも分かったろう。


 ──前例が無い事は、例外が無い事じゃない、ってな。


 でもそうなると……このままの探し方では見つからない気がする。

 仮にだ。もしアポカリプスの封印解除を望む者が盗み出したんだとしたら、それは“単なる”盗賊の仕業ではあり得ない。たとえば私利私欲のためにそれを店に高く売りつけるというような、そんな甘い考えなんて持ち合わせちゃいないはずだから。

 裏付けってわけじゃないけど、現に今までだって何の収穫も得られてないわけで。


「ん~……探し方、変えた方がいいかなぁ?」


 ふいにルナが呟くように漏らした。ルナも俺と同じ考えだったらしい。だが、その別の探し方が思いつかない、そんな感じだった。

 グランスフィアの人間じゃない俺が言うのも変な話だけど、こういうパターンはルナよりむしろ俺の方が“場慣れ”していると思う。なぜなら、RPGや小説ではよくある事例だからだ。こういう場合、犯人は正規のルートは通らないと相場が決まっている。……つまりは、裏ルート。


「基本通り、酒場で情報収集が一番かもな。そこで裏ルートを探ろう。解印が目的でなくとも、ブラックマーケット狙いって可能性もあるし」

「そっか、そうだね。何だ、カエデも結構頼りになるじゃない」

「いやぁそれほどでも。さて、じゃあ急いで……?」


 言いながら席を立とうとする俺を、ルナがそっと引き止めて言った。


「とりあえず慌てる事はないと思うよ? 仮にその盗賊がアポカリプス解印のために盗み出したんなら、今頃とっくに解印されてるはずだし。考えてみれば、もう盗み出されてから結構経ってるからね」

「んん? じゃあ、解印が目的じゃないって事か?」

「ん~、それも考えられるけど私が言いたいのは、盗賊はまだ“解印の方法が分からない”んじゃないかって事だよ。前例がないって事は、少なくとも簡単な事じゃない。そういう事でしょ?」

「なるほど……でも、もしかしたら明日にでも分かっちゃうなんて事も……」

「それもないよ。犯人は、気付いてないだけ。今頃必死で解印方法を探し回ってるんだろうな~。この……エゼキエルにその鍵があるとは知らずにね」


 ルナは荷物の中からエゼキエルの書を取り出して開く。開いたページには、何やら解読不能な文字の羅列と共に、ある剣の絵が描いてあった。これが……降魔剣アポカリプス……なのか?


「裏ルートより何より、アポカリプスを解印させたいならエゼキエルを見るのが一番手っ取り早いの。そして、エゼキエルは私達の手の内ってわけ」


 ニヤニヤと、ルナは得意げな笑みを浮かべて言う。……全く。前例云々以前に、そういう事は先に言って欲しい。


 つまりはこういう事だろう。

 盗賊がどんな目的でアポカリプスを盗み出したにせよ、とりあえず解印はできない。店に売られたら、事情を言って返してもらうか買い戻すなりすれば済む。そしてもし俺達が盗賊に追いついたなら、そこで奪還すればいい、と。……何だ、単純な話じゃないか。


「ま、単純なだけで簡単にってわけにはいかないんだろうけどな」


 俺は誰にも聞こえないような小声でそう呟き、残りのハンバーガーを一気に口の中へ放り込んだ。

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